Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.405 COP28参加記
〜By nameでの存在感を高めたい〜

2023年12月21日
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
サステイナビリティ統合センター プログラムディレクター
藤野純一

 私が国連気候変動枠組第28回締約国会議(以下、この記事では「COP28」と略す)はじめ国連系の国際会議の議論を速報的に知るニュース媒体として頼りにしているのが、国際持続可能な開発研究所(IISD)(https://enb.iisd.org/)がまとめる英文記事だ。



写真 COP28開会式の様子、登壇しているのはIPCC議長のJim Skeaさん(筆者撮影)

 COP28は2023年11月30日から始まり、当初は12月12日までだったが、会期を1日延長して12月13日まで行われた。IISDは交渉がお休みの7日および当初の最終日12日、延長された実際の最終日13日を除き、交渉やその周辺を要約したDaily Reportを翌日に公表した。会合終了後の翌週月曜日18日には30ページに及ぶ総まとめを発行した。他にも主要登壇者や会場の様子を写真で紹介するHighlights and Images、主要なイベントの要約など、充実した内容になっているので、是非ご覧頂きたい(https://enb.iisd.org/united-arab-emirates-climate-change-conference-cop28)。

 本稿では、Daily ReportsでJapanがどのように報道されているか、抜き出してみた(見逃しあればご容赦頂きたい)。

  • 総まとめ記事(2回):①他国と共にSantiagoネットワークへの資金拠出をありがとう、②最後のコメント(手を挙げればどの国もコメントが可能)で、「次のNDC(国別目標、2025年のCOPで提出予定)ですべての国が最大限の野心を見せることを求める。パリ協定6条(=市場メカニズム)は1.5℃達成に欠かせない」と発言
  • 12月10日の日報(3回):COP28議長主導のMajlis(砕けた雰囲気での資金拠出追加について話し合う非公式な会合)の記事で2回、他にも実施手段の資金に関するコメント
  • 12月9日(1回):CDM(クリーン開発メカニズム)の共同議長として小圷一久さん(IGES研究員)の名前が記載
  • 12月2日(2回):他国と共にパリ協定の6.4条へのコメント、他にも他国と共にコメント
  • 12月1日(1回):初めてのGSTについて他国と共にコメント
  • 11月30日(1回):ロスダメ基金への1000万ドル拠出

 また、Highlights and Imagesを見たところ、12月1日に岸田総理、12月9日にIGES小圷さんの写真が載っているだけで、あとはピカチューぐらいしか見当たらなかった。

 気候変動の国連交渉会議は、初日にCOP議長がアジェンダを諮り、議題ごとに基本的に先進国と途上国から1人ずつ共同議長を任命して1週目には主に事務方で議論をまとめ、2週目に大臣級の議論が始まり最終日に採択に至る、というプロセスをとっている。

 ここで私が気になったのは、主要な議題の合意内容と共同議長名が記載されているIISDの30ページまとめレポートには、日本人の名前が一人も載っていないことだ。G7からイタリア2名、カナダ3名、フランス2名、米国3名、英国2名、ドイツ4名、BRICsからブラジル2名、中国2名、南アフリカ5名、インド・ロシアはなし。

 私自身は2005年にモントリオールで開催されたCOP11から毎回参加しているものの、交渉に直接携わっていないため日本がどのようにして主体的な役割を演じているのか内部事情を知る立場にないが、このレポートを見ても、Japanの存在感は大変残念ながら、ますます低下しているように見える。共同議長ができる人材は、よほど意識して育成しないと、偶然を頼りに継続的に輩出できるような類のものではない。国家としての戦略が問われる。

 そのように感じたのは、気候変動COPの近年のもう一つの傾向の、COP自体が非政府主体の様々なリーダーやアクターが集まるメッカになってきたこと、意欲に溢れる様々なイニシャティブを持ち寄り生み出す場になってきたこと、さらに気候ビジネスの商談の場になってきたこと、つまりCOPがExpo化する中でも、日本の存在感が乏しいことだ。特に、今回は本会場(国連に登録された参加者だけが入れるブルーゾーン)を取り囲むように設置された巨大なグリーンゾーンにおいて、日本の企業・団体とわかるものは、経済産業省が出展支援した5社のスタートアップ企業のブースぐらいで、私は訪問できなかったがあとはJAXAのブースぐらいしかなかったと聞く。

 ブルーゾーン内のジャパンパビリオンの中の非常に狭いスペースに、日本の名だたる企業の展示が肩を寄せ合いながら設置されている状況を見るに、なぜ複数の企業が協力してグリーンゾーンなどにもっと広々としたパビリオンスペースを設置して日本らしさを存分にアピールし、そこを基点にトップセールスを行うことで日本のclimate diplomacyの一躍を担うことができないのか、残念に思った。



写真 ジャパンパビリオンで開催したIGES主催のCOP28サイドイベント「自治体が主導するレジリエントなゼロカーボン・持続可能な社会への移行(https://www.iges.or.jp/jp/events/20231201-1)」の会場(ヘッドフォンをしているのは葛飾区 青木克德区長)から向こう側に見える企業展示コーナーの様子(筆者撮影)

 その中で一つ良かった出来事は、博報堂DYホールディングスの戦略事業組織 kyuが12月3?7日にかけてドバイの旧倉庫街を改修したオシャレなファッション街のAlserkal Avenueにて、kyu傘下の先進性と専門性を持つ企業による特別展を行っていたことだ(https://kyu.house/)。繭をイメージした柔らかな空間でdesignやcreativityなどをキーワードにclimate solutionsについて議論していた。



写真 kyu Houseで登壇するSWiTCHの佐座マナさん(右から2番目)とEarth hacksの関根澄人さん(左から2番目)(筆者撮影)

 他人事のような文章を書いてしまい、自分自身にも反省すべき点は多々ある中で、COPに行くとつくづく個人と個人のつながり(by name)が大事だと思う。2006年から2008年まで私自身もかなり頑張って取り組んだ低炭素社会の日英共同研究プロジェクト(https://2050.nies.go.jp/japan-uk/3rd/index.html)の共同議長(当時)で、現在のIPCC議長のJim Skeaさんに話しかけたとき、向こうからJunichiと名前で呼んでくれて嬉しかったし、他にも多くの再会があった。そのためには自分(や日本)の宣伝/売らんかなを超えて、世界共通の課題への貢献/一緒に問題解決する姿勢が大切だと再認識し、自分自身もますます精進しなければと思った。

 日本の中でつぶし合うのではなく、世界で”by name”で活躍できるユニークな人(私は勝手に敬愛をこめて「変態〇〇」(=transformを起こせる人、〇〇は例えば公務員や研究者など)と名称している)を増やしていき、特にユースでそうなりたい人の支援を続けていきたい。

(キーワード:国際記事の中のJapan、Expo化するCOP、名前で勝負できる人材)