Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.409 洋上風力発電に対する国民の選好:選択型実験を用いた実証研究

2024年2月8日
京都大学経済研究所 研究員 岩田 健吾
総合地球環境学研究所 研究員 京井 尋佑
北九州市立大学 経済学部 教授 牛房 義明

キーワード:洋上風車,社会的受容性,混合ロジットモデル

2015年のパリ協定は,よりクリーンなエネルギー源への移行が世界的に急務であることを強調しました。これを受けて,風力発電を含めた再生可能エネルギーの普及の必要性が世界的なコンセンサスとなっています。ヨーロッパ諸国が陸上風力発電プロジェクトを主導してきた一方で,今日では,洋上風力発電への取り組みが活況を呈しています。特に,イギリス,ドイツ,デンマークは,欧州の洋上風力発電容量の大半を占めています。

日本政府は,2050年までにカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を掲げ,「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表し,洋上風力発電を含む14の主要分野の行動計画をまとめました。ここでは,2030年までに1,000万kW,2040年までに3,000万kWから4,500万kWの洋上風力発電を導入することを目標としています。

このように,洋上風力は温室効果ガス(GHG)を排出しない新たな電力源として大きく期待されています。しかし,わが国における洋上風力発電の普及は,特に景観や海洋生態系への影響という点で,課題をもたらす可能性があります。住民や漁業者など地元の利害関係者が懸念を表明し,反対運動に発展する可能性もあります。このような状況は,陸上を含む風力発電事業計画の75%が中止された経験を持つ英国など,他国でも生じています。

社会的受容性を把握するためには,洋上風力発電に対する人々の選好(価値観)を理解することが重要です。そこで,我々の研究では,洋上風力発電に対する国民の選好と経済的評価について,選択型実験を含めたインターネット調査を行いました。研究では,距離(distance),風車の数(n_turbin),生物種への影響(species),CO2削減(co2_red),雇用創出(labor)を含む6つの属性を考慮しました。

推定の結果,表1に示すように,距離(distance)とCO2削減(co2_red)の係数 (Coef. Mean)がそれぞれ0.122および0.092となり,正に統計的に有意な結果となりました。これは,一般市民が風車の海岸からの距離とCO2削減への影響を高く評価していることを示唆しています。このことは,社会的受容性を決定する上で「距離」が重要な決定要因であるため,政策立案者が建設プロジェクトを計画しゾーニングする際には,沿岸からの洋上風車の距離を考慮すべきであると言えます。

表1 選択型実験の推定結果(Iwata et al. (2023)より引用)



 結論として,この研究は,わが国における洋上風力発電の選好と経済評価について包括的なエビデンスを提供するものです。この研究結果は,洋上風力発電事業に対する国民の意識を理解する上で不足している部分を補うものであり,政策立案者や事業者に貴重な洞察を提供するものです。本研究は,わが国が野心的な再生可能エネルギー目標の達成に向けて努力する中で,洋上風力発電プロジェクトを社会的に受け入れられるようにするために,国民の選好を考慮することの重要性を強調しています。

※本コラム原稿は,以下の査読付き論文を日本語に要約したものです。open accessですので,詳細は論文をご参照ください。

Iwata, Kengo, Shinsuke Kyoi, and Yoshiaki Ushifusa. 2023. “Public Attitudes of Offshore Wind Energy in Japan: An Empirical Study Using Choice Experiments.” Cleaner Energy Systems 4 (April): 100052. https://doi.org/10.1016/j.cles.2023.100052