Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.411 ドイツにおけるエネルギー転換の一例と感じたこと

2024年2月22日
専修大学ネットワーク情報学部准教授 河野敏鑑

 本年度は在外研究の機会をいただき、現在、ドイツのライプチヒに滞在している。せっかくの機会なので、ドイツ国内の様々な都市・地方に出かけてエネルギー転換の先進事例をいろいろ見学している。そこで感じたのは日本でも同様の事例はあり技術的な差はほとんどない一方で、ドイツでは大規模に展開されているが、日本では未だ小規模な取り組みに過ぎないケースが多いということである。

 いったい、このような違いが生じる理由はどこにあるのであろうか。筆者の専門分野から外れる話になるので素人の感想になってしまうかもしれないが、私が訪問した事例を紹介しつつ、考えてみたい。

 昨年10 月下旬、ライプチヒ南火力発電所でオープニングイベントがあるというので、家族で訪れた。新しく建てた発電所は天然ガスを燃やして発電する発電所だが、水素を燃やして発電することも可能な設備になっており、電力だけでなく市内に熱を供給する役割も併せて担っているという。むしろエネルギーとしては後者の方が大きく、設備的にも火力発電所の煙突よりも高い、巨大な魔法瓶のような貯熱槽が大きな存在感を放っていた。



写真1:オープニングイベントの当日の様子。貯熱槽の高さが火力発電所の煙突とほぼ同じ高さなのが分かる。
出典:Leipziger Stadtwerke 公式ホームページより
https://zukunft-fernwaerme.de/der-bau-des-neuen-heizkraftwerks-leipzig-sued/



写真2:後日撮影した貯熱槽。オープニングイベントのテントが撤去されており、手前にあるショベルカーと比べると貯熱槽がいかに大きいかよく分かる。(筆者撮影)


 サッカーコート1 つ分はあろうかという大きなメイン会場のテントではいくつかの屋台が出店して1 人4 食分までは無料で軽食や飲み物が配られた他、舞台では主要部を製造したシーメンスエネルギーの上級副社⾧やライプチヒ市⾧、ザクセン州の環境大臣も加わった関係者のトークショーが行われた。私達が帰宅した後の夜にはライブも行われたそうだ。

 来場者は私が事前に思っていたよりは多く、テントの下の座席とテーブルはほぼ埋まっていた。これ以外にも発電所内を比較的自由に見学できたが、メインの建屋にもガスを圧縮する装置のある建屋にもかなりの人がおり、シーメンスエネルギーが出していた水素社会のブースには黒山の人だかりができていた。これら以外にも発電所の歴史の展示があり、以前は横を通っている鉄道で石炭を運んで発電をしていたことなどが紹介されていた他、小さな子ども向けのブースもあり、3 歳の息子は空気で膨らませた滑り台で遊んだり、スタッフの女性と一緒に風車を作ったりして楽しげな様子だった。平日ということもあり、当初は高齢者が多かったが、時間が経つにつれ若い世代の参加も増えていた。

 今回の来場者数は5000 人を超えたとのことである。過去の例を紹介すると、ライプチヒの北西隣にあるハレ市近くのシュコーパウ火力発電所が1996 年にオープンしたときには約1万人の参加者があったという。発電所内で見た記録映像によれば当時のコール首相も参加したようである。

 日本で広く一般の市民も参加できる形で火力発電所のオープニングイベントが行われたことがあるのかどうか私は知らないが、行われたとして果たしてこれほどの人数が集まるのだろうかと感じた。ドイツと日本両国間にどのような差があるのかと言われると前述したように技術的な面ではそれほどの差があるとはあまり思えない。だとすると、一般の人々の環境問題やエネルギー問題に対する関心の差があるのだろうか。あるいは政治家の差も感じずにはいられなかった。日本で政治家をこのような場所に呼んだら原稿を読むだけにならないか、悪くすると失言するのではないかと心配するのは私だけだろうか。

 さらに一歩進んで考えると公共の出来事に対する人々の関心度合いや政治家の選び方に対する彼我の差もあるのかもしれない。ドイツでの生活も残り1ヶ月ほどでこの疑問に対する私なりの答えをみつけることは難しそうに思うが、ドイツ国内を少しでも巡って手がかりのようなものを掴むことができたらと考えている。

(キーワード:市民参加、環境問題に対する関心、熱供給)