Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2021年10月25日(月)の部門A研究会 議事録

2021年10月25日
於:Zoom会議室(オンライン)

10月25日(月)16時から特別講演、17時から20時まで、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会がオンラインで開催されました。特別講演では、竹内敬二先生(京都大学)より「日本の原子力政策の行方」について、部門A研究会では、杉本康太氏(東京財団政策研究所)より「間接オークションは何をもたらしたのか?電力市場と連系線の実証分析」、内藤克彦先生(京都大学)より「実潮流に基づく送電系統運用を行った場合の2030年の電源構成に関わる分析結果報告(暫定版)」についての講演を頂き、その後参加者との議論が行われました。

特別講演

「日本の原子力政策の行方 ~ 自民党総裁選を踏まえて」

竹内敬二

 自民党総裁選では「脱原子力(サイクル)」論争があった。河野氏は2点主張。(1)カーボンニュートラルの達成で、そのために省エネ、再エネの最優先導入で不足分は原発を再稼働する。(2)再処理をしてプルトニウムが出ても今は使い道がないため、核燃サイクルの手じまいを考える。河野氏の提起により原子力界で緊張感が生まれたが、河野敗戦で議論は沈静化し、新内閣は原発支持派が多いと言われている。

 世界の原子力の傾向を見ると、原発は415基が操業中で出力は3.67億kW。基数のピークは2001年の438。2001~20年、世界で95基が運転開始(うち中国が47)、98基が閉鎖された(中国の閉鎖ゼロ)。2020年に中国の原発発電量がフランスを抜いた。世界での発電シェアは1996年のピーク時(17.5%)から20年の10.1%と減少。建設中の原発数の推移をみると、現在の工事中の多くが中国。1970-80年代が建設ブームで今は下火。世界の原子力の数は横ばいで老齢化。

 日本の原子力の状況は、福島事故前は54基で約30%を発電。事故後は24基が廃炉、稼働中は10基(うち1基は停止中)、発電は約6%(2019年)。エネルギー基本計画(以後、エネ基)案で2030年の原発による発電は20-22%という目標が維持されたが、新増設の記載は無い。

 日本の原子力(プルトニウム)政策に関し、1995年、電源開発(Jパワー)が青森県に計画していた新型転換炉(ATR)実証炉について、電事連が突然建設中止を公表した。代わりに大間にプルトニウムを大量に焼死する「フルMOX原発」を建設することにしたが、今は苦労している。2016年にFBRもんじゅの廃炉が決定され、これはサイクル実現放棄のメッセージでもある。だが、過去の歴史を振り返ると、脱サイクルの試みは2回程あったが、空振りに終わった。

 日本は原発政策を変えられない国だが、英国サセックス大の研究者らが英独の原発政策を決める要因を比較した。分析した要因は、電力市場の自由度等、様々なものを検討し、複数の結論を導き出した。軍事核の有無、民主主義の質の違いの英独の原子力政策の違いに大きく影響している。独の脱原発の歴史を振り返ると、1980年に緑の党が結成され、2011年の福島事故で決着したとみるのが正しいと思われる。

 日本で脱原発議論は生まれるか。原子力利用は数十年かけて技術と資本を蓄積した社会システムで、大抵の大国の原子力政策はなかなか変わらない。従い、どの国でも「核燃サイクル政策」は失敗し、困っている。新エネルギーとして再エネが急伸している。日本の原発政策変更に必要な議論の順序は(1)「当面、サイクルの実現は目指さない」と変える、(2)その線で青森、福井と協議し地元の経済対策を立てる、(3)原発の使用済み燃料の処分政策を決める(直接処分の追加)、(4)原発をどうするかを決める(寿命で終わるか)。

 日本独特の難しさはある。かつて政治的にも強い原子力委員会が存在し、「原子力長期計画」を策定したが、今、同委員会は弱く、政策を変える主体がない。自民党内での議論がなく、大手電力の弱体化とともに大手電力と経産省の二人三脚の一体性、パワーが弱まっている。日本の大きな政策を変えるのは人柱(公害の犠牲者など)と外圧。今後の鍵は原発新設を目指すかどうか。

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部門A研究会

間接オークションは何をもたらしたのか?電力市場と連系線の実証分析

杉本康太

 連系線の価値とは(1)災害や事故に対する電力の安定供給、(2)日本全体での広域メリットオーダー実現など色々あるが、自分の研究は(2)に焦点を当てる。広域メリットオーダーとは限界費用の安い順に電源が稼働している状況を指す。間接オークション(市場統合)とは原則全ての連系線空き容量を一日前市場の約定結果で同時に・全て配分する制度。それ以前は連系線容量は一日前市場より前に配分されていた。例えば先着優先ルール(前日10時の空き容量の範囲内でのみ前日スポット市場に活用)だ。

 市場を用いない先着優先ルールの問題点は(1)競争上の問題(既存事業者のみが半永久的に連系線を使用でき、戦略的にエネルギーの差し替えを行え、新規参入者が不利)と(2)広域メリットオーダーの実現を保証しない(安い電源順ではなく申込順)の2点。連系線が混雑しなければ、安いエリアから高いエリアへ市場価格が等しくなるまで電気が輸出入される。この時、広域メリットオーダーを考えると、安い電気を稼働せずに、他地域からの安い電気を輸入することが可能になる。但し連系線が混雑すると、連系線容量を最大限使用するが、エリア間の市場価格は等しくならない。

 学術的には電力市場設計における連系線の混雑管理の問題と言える。混雑管理方法には(1)ゾーンプライシング(欧日)と(2)ノーダルプライシング(米)のやり方がある。2020年の研究で直接オークションも広域メリットオーダーの実現を保証しないことが明らかにされた。連系線の利用率が100%にならない問題点があるため、欧州は間接オークションを使うようになった経緯がある。

 日本の間接オークションが上手くいったかを分析する。その結果、間接オークション導入後、(1)(前日17時頃の)連系線の利用率が増加し、(2)エリア間の値差は縮小せず、(3)ピーク時の昼頃のエリアプライスは下がった、という結論になった。

 (1)連系線の利用率増加のデータで見ると、3つの連系線が2016年頃から相当混雑していた。連系線の容量の種類と定義として、運用容量、マージン、計画潮流を把握する必要がある。北本連系線の容量配分実績をみると、マージンの特徴は東北から北海道に大きく取ってある。北向きマージンが50万kW。前半の時期は北向きが多かった。FC連系線の容量配分実績は事業者が使えるマージンは約60万kW。関門連系線は北本とFCと異なり、マージンがない。負の値(九州から関西に流れる連系線)が大きく取られている。

 北海道-東北間の値差と北本連系線利用率を図(スライドp.21)でみる。2018年10月の間接オークション導入後の2つの図を見ると、赤い線(欧州でみた理想的な連系線の使われ方)に黒い点が集中しており、理想的な連系線の使われ方をしている。左2つの図は、北海道の方がどちらの図にも黒い塊があり、先着優先のデメリットがあると言える。先着優先ルールの時期、前日12時に空き容量が増加し、17時頃、連系線利用率が100%未満に低下していた。

 東京-中部間の値差とFC連系線利用率を図(スライドp.23)でみる。間接オークションが導入後は理想的な利用がなされているが、左半分の黒い塊は赤い点線上に乗っていない。1番左の図の右下を見ると、東京の市場価格が高い時なので、FCは中部から東京に電気を送るべきなのに利用率は100%になっていない。この現象を國松氏が2016年に発見し、かなりの時間帯で連系線利用計画がキャンセルされたとみた。

 次に関西-九州の値差と関門連系線利用率を図で見る(スライドp.27)。先着優先の時代の2つの図は関西の方が九州より高いのに利用率が100%になっていない。「空おさえの禁止」の制度として「変更賦課金」制度があった。この賦課金の対象となる電力量及び額は非常に小さかった。但し、間接オークション導入後は、既存事業者も一日前市場で約定しなければ連系線容量を獲得できなくなり、連系線利用をキャンセルするといった戦略的行動はできなくなった。

 (2)値差の分析。エリア間値差と北本連系線の計画潮流を見ると、間接オークション導入前後と北本増強後に減少している。エリア間値差とFC連系線の計画潮流は、北本増強後もあまり変化がない。エリア間値差と関門連系線の計画潮流は九州から関西にずっと流れている。以上3つのエリア間値差の大きさの比率を見ると、北本の場合、値差が縮んだのは間接オークション導入後ではなく、北本増強後で、FCの場合、間接オークション後、混雑が増え、関門は8割以上、値差がほぼ変化がない。重回帰分析を行ったが、間接オークション後、値差が縮小した結果は出なかった。縮小効果がなかった理由は、一日前市場の買い入札の推移のグラフを見ると、旧一電は間接オークション後に買い入札量を増やしている。既存の相対契約分と経過措置による値差補填のためか。次に、一日前市場の売り入札の推移のグラフを見ると、「新電力その他」は間接オークション後に売り入札量を増やしている。それまで相対契約で連係線を使っていたIPPが主因と言えるか。一日前市場での買い・売り入札量の増加が起こったと言える。北海道電力・東北電力の従来電源発電量(月別)とエリアプライスのグラフで、間接オークション導入前後を比較すると、東北と北海道で値差が広がっており、石炭火力が増えているため、広域メリットオーダーが効いていない。

 (3)ピーク需要時間帯のエリアプライスへの影響をみる。ピーク電源である石油が稼働するのは、需要のピークの時間帯だけ。間接オークションはピーク時間帯にだけは、ピーク・ミドル電源の稼働を抑制し、エリアプライスを下げる効果があるのではないか。これを検証するためパネルデータ固定効果モデルを定義し、分析の結果、間接オークション導入後、ピーク需要時のエリアプライスは、オフピーク時と比べて平均で0.8-1.2円/kWh低下した。ピーク時間帯(8~20時)の内、朝・夕方のプライスは間接オークション後に増加、昼時のプライスは減少している。昼頃だけは先着優先で連係線を流れていた限界費用の高いガス・石油火力が、太陽光発電に置換されたからではないか。

pdf資料(4.54MB)

実潮流に基づく送電系統運用を行った場合の2030年の電源構成に関わる分析結果報告(暫定版)

内藤克彦

 前回、東日本を対象にした分析を行い、上手くいったため、今回は対象を全国に広げ、シミュレーションを行うことにした。本研究での分析目的は、2030年を想定し、上位2系統の送電線を実潮流に基づく送電系統運用シミュレーションを行い、(1)電力部門からのCO2排出量、(2)風力・太陽光の出力抑制量や需給バランス、(3)リプレース・新設火力の使用状況、(4)原子力発電の使用状況、(5)地域間連系線、上位2系統の地内送電線の使用状況の指標を分析する。

 シミュレーションを行うシナリオ設定は、A)エネルギー基本計画に示される2030年の再エネ導入量や原子力発電の稼働状況を前提としたシナリオ、B)エネ導入量、原子力発電の稼働状況、電力需要量の想定が変化したシナリオ、C)上記のシナリオにEVの調整力を活用することを想定したシナリオの3つ。

 本分析で想定する系統運用は、以下の条件を想定した「実潮流による送電系統運用」を想定する。条件1)メリットオーダーによって電源のディスパッチが最適化される、条件2)フローベースによって、1時間ごとの送電線利用の最適化がなされる、条件3)再エネの出力が正確に予測されることで、電源の最適な運用ができる。

 先行する電源モデルと比較した際の、本分析の特徴は、電力系統に特化していることから地理的解像度(ノード数:全国で449、送電線数:全国で609、発電設備は:全国合計1,862、蓄電に関する設備も含む)、時間解像度(1時間ごと、8,760時間)が高い、日立ABBパワーグリッド社のPROMODを利用していることから、第三者による再現が容易である。

 分析シナリオを作成するに際し、参照したものは以下の通り。エネ基において、GHG排出量2013年比46%削減目標における電力部門の各種想定値を適用した。再エネ増加シナリオは、太陽光発電協会や日本風力発電協会等のデータを参照して、我々が想定したが、設備利用率はエネ基を利用した。分析シナリオは、エネ基の想定通りにいかない事態に備えて、どのような代替案があり得るのか分析を行う目的で5つのシナリオ、(1)エネ基案同量再エネ、(2)原発低位+再エネ増加、(3)原発ゼロ+再エネ増加、(4)需要5%低下+原発低位+再エネ増加、(5)需要5%低下+原発ゼロ+再エネ増加を設定した。

 分析の結果をまとめる。エネ基素案シナリオに関しては、2030年までの現時点で計画されている送電線増強だけでも、風力・太陽光発電の出力抑制が日本全体で3%以内に収まる。出力抑制が高い地域があるが、電源配置の想定を変更することで改善される可能性が考えられる。電源の運用がメリットオーダーでなされることで、本分析が想定する燃料価格の下ではCO2排出量が190MtCO2と計算され、エネ基が想定する220MtCO2よりも低い値となった。リプレース・新規の石炭火力、ガス火力の設備利用率が60%を下回る火力が存在する。メリットオーダーの下で再エネが原子力発電よりも競争力がある場合、北海道や九州など再エネが多い地域では原発の設備利用率が下がる可能性が示唆される。

 次に、シナリオ共通事項や特記事項については、全シナリオにおいて、5か所の地域間連系線の設備利用率が高くなっており、設備容量の上限まで使用する時間帯が多い。全シナリオにおいて地内系統で設備利用率が80%以上の送電線は限定的。さらに、再エネ比率が高い時間帯の電力需給構造が出力抑制は、送電制約ではなく電力需要以上に風力・太陽光の電力が供給されることが理由と考えられる。EVが電力需給バランスの改善に貢献する場合、1-2%程度の出力抑制率が改善されることが確認された。原子力発電の稼働がない場合でも、再エネ増加、需要の削減、EVによる需給調整と言った方策を使うことで、電力部門からのCO2排出量を220MtCO2に近い水準までCO2排出量を抑制できる可能性が示された。

 今後の課題としては、分析目的に応じたシナリオの精緻化、風力・太陽光の発電パターンの精緻化、電力需要が変化したシナリオ構築に向けたデータ整備である。

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