Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2021年11月29日(月)の部門B研究会 議事録

2021年11月29日(月)16:00-20:00
於:Zoom会議室(オンライン)

 2021年11月29日(月)に再生可能エネルギー経済学講座部門B研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。特別講演では、永田哲朗先生(京都大学)から、研究会では、稲垣憲治氏(一般社団法人ローカルグッド創成支援機構)、白石智宙先生(立教大学)、山東晃大氏(京都大学)からご報告をいただきました。また、ラウパッハ スミヤ ヨーク先生(立命館大学)及び小川祐貴氏(株式会社イーコンザル)からコメントをいただきました。

ESG投資のパフォーマンス評価
~リスクとリターンをめぐる金融実務・理論・政策上の論点~

永田哲朗先生

 本講演では、まず世界におけるESG投資の背景・歴史や急拡大するESG投資の状況、日本のESG投資拡大に向けた制度・枠組み整備の背景・経緯が紹介された。また、ESG投資手法は地域ごとに差異があることや、その背景として、ESG投資に対する欧・米間の認識ギャップがあることなどが解説された。また、商品市場・金融市場ともにグリーンウォッシングが蔓延していることや、ESG評価に関する評価機関相互の関連性・信頼性が脆弱であること、具体的にはGPIFが採用した評価機関による同一の日本上場企業に対するESG評価には大きなバラツキ(ほぼ無相関)があることなどが指摘された。ESG評価基準に対する反応として、非財務情報の開示が不十分とする機関投資家と、データ収集コスト等が膨大になるため不満を募らせる投資先企業側との軋轢についても紹介された。まとめとして、金融理論上、実務上、経済政策上の論点が整理され、グリーン投資拡大に向けての課題が提起された。

pdf資料(永田)(2.37MB)

自治体新電力の現状課題と内発的発展に向けた検討

稲垣憲治氏

 本報告では、74自治体新電力について、設立数の推移、参入経緯・目的、自治体出資、従業員数、販売電力量、排出係数等の観点からの分析結果が報告された。調査結果として、①自治体の人口規模によって自治体新電力設立の目的が異なる傾向があること、②自治体新電力に対し出資する地域企業数は多いものの少額出資に留まっており経営に関与していないこと、③地域外企業は1社あたりの出資額が大きく経営に関与する意向が強いこと、④1/3超を「単独で」出資する地域企業がいる自治体新電力では業務の内製化が進むこと、⑤自治体新電力の発展(雇用、販売電力量拡大)には地域企業の主体的な経営への参画が重要な要素であることなどが指摘された。

 また、これまでのまちづくり事業や再エネ開発での失敗を自治体新電力で繰り返さないため、地域主体での実施の重要性が指摘されるとともに、自治体新電力の事例紹介や意義の整理が行われた。加えて、足元の自治体新電力の試練(市場高騰等)が紹介された。

pdf資料(稲垣)(2.27MB)

日本版シュタットベルケの財政学的検討
~体系化への貢献を目指して

白石智宙先生

 本報告では、はじめにドイツのシュタトベルケに関する先行研究が整理された。続いて、日本版シュタットベルケとは何かの議論のため、ドイツのシュタットベルケの構成要件が整理された。具体的なシュタトベルケの構成要件として、①複数の公益的サービス供給事業の連合体であるという点、②自治体出資の観点、③自治体財政への貢献の3要件が示された。

 特に②自治体出資については、日本シュタットベルケのガバナンスの点も検討され、過半以上の自治体出資は経営への積極的関与が意図されていると考えられるが、それを遂行するための監査機能が備わっているかも含めて評価する必要があることなどが指摘された。

 本研究は、シュタットベルケ研究に不足している財政学的検討を行い、日本版シュタットベルケの構成要件と、それらに関わる財政学的論点を抽出し、今後の研究課題の提示を試みたものとなっており、今後、日本版シュタットベルケのケーススタディから、出資自治体にとっての日本版シュタットベルケの事業に対する評価、特にその自治体財政への影響をどのように位置づけているのか(いないのか)を明らかにし、第 3の構成要件に関わる実践的課題に取り組むとされた。

シュタットベルケを活用した「自治体GX」の可能性

山東晃大氏

 本報告では、まず、自治体新電力に関する問題意識として、①自治体新電力事業を実施する上で、最低限の体制が整っていないこと、②自治体新電力を維持運営していく上での専門人材は役所から出向も多く、地方自治体によって人的・手続き的コストが大きいことなどが指摘された。また、自治体における課題として、①地方自治体が地域脱炭素に取り組む上で、部署が分散されていることが多いこと(産業、生活、農漁業等)、②自治体には、自治体GX(地方自治体による脱炭素化の取組)専門人材が不足している上、3年程度で異動になることで職員のノウハウが蓄積されないことが指摘された。

 今後の研究の方向・目的として、①地域脱炭素の取り組み案の⼀つとしてシュタットベルケの活用を全国自治体に提案する、②自治体GXによるRVA効果の比較のために、自治体GXによる影響と効果を測定する分析ツールの作成、③行政・企業など単体GXを促進することで、少しずつ脱炭素社会の実現に近づけていくことに貢献することなどが紹介された。

pdf資料(山東)(595.96KB)