Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2021年12月20日(月)部門C研究会 議事録

2021年12月20日(月)
於:Zoomオンライン会議

 2021年12月20日(月)16時〜20時、再生可能エネルギー経済学講座部門Cの研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。今回は、京都大学の荒川忠一先生、研究者のJoseph Dellatte様、京都大学のSven Rudolph先生よりご報告いただきました。

洋上風力発電のカーボンニュートラルにおける役割

荒川 忠一 先生

 本講演は、洋上風力発電の現状、既存プロジェクト、既存技術を紹介しながら、日本における洋上風力発電の将来展望について考察することを目的とした。まず、世界と日本の洋上風力発電の現状について言及された。2020年末までに、世界の風力発電の設備容量は744GWとなり、中国、米国、ドイツが設備容量と新設量の面で世界をリードすることになる。一方、日本は2020年には風力発電の設備容量は4.4GWだけで、世界のわずかの0.6%に占めた。成長はしているものの伸びは小さいと示した。次に、ホーンズ・レフ、ロンドン・アレイ、Hornsea Oneなどの既存の洋上風力発電プロジェクトを紹介した。また、世界と比較して日本の風力発電価格が相対的に高いことも指摘された。続いて、着床式と浮体式洋上風力発電の既存技術を説明した。主にモノパイル、ジャケット、重力の3つの基本形がある。現在はモノパイルという着床式は中心だが、将来日本において浮体式の賦存量は着床式の5倍、あるいは10倍になるかもしれないと言われた。浮体式市場が確立すると、日本の風力発電価格の低減が期待できる。最後に、日本の将来の再生可能エネルギー計画における風力発電の割合が少ないことに触れた上で、洋上風力発電、さらに浮体式洋上風力発電の開発を提唱し、地域との連携、地産地消、コミュニティーパワー、バナキュラーなどのデザインなど、地域振興、共発展に期待を寄せた。

pdf資料(荒川)(6.75MB)

COP26: from Paris’s promises to concrete actions?

Joseph Dellatte 様

 本報告は、気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の内容を要約した上で、その合意事項と欠点を考察することが目的であった。

 まずはCOPの枠組や、COP26に至るまでの背景と進捗状況について紹介された。

 次に、COP26において直面した5つの重要課題が示された。課題は主に①気温上昇を1.5°C以内に抑える明確な道筋を定めること、②透明性に関する規則(パリ議定第13条)、③新しく堅実な気候資金パッケージの合意、④技術的ブレークスルー、⑤パリ議定第6条規則の確定をまとめられる。

 続いて、これらの5つの重要課題について、詳細な議論が行われた。

 最後に、COP26の合意事項と欠点をまとめて発表した。合意事項につきまして、①石炭の段階的減少、②2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を45%削減すること、2025年までに途上国への適応支援を2019年の水準から倍増すること、野心的な気候変動対策を締約国に要求すること、ロス&ダメージについて議論すること、③パリ議定第6条規則の実施指針を採択すること、④自国が決定する貢献(NDC)が5年毎に国連に通報すること、⑤初めてメタン排出への取り組みの必要性に言及すること、⑥パリ議定後初めての米中共同宣言という6つの重要点を強調した。一方、欠点につきまして、①石炭の段階的廃止に合意できないこと、②先進国のコミットメントはまだ弱く、適応と緩和のために途上国に十分な資金を提供できなく、気候資金に関する南北格差は依然として存在すること、③パリ議定第6条のルールブックに弱点があること、④NDCに関して5年という時間枠は必須ではないこと、⑤島嶼国と最脆弱国は必要な資金を得られないこと、⑥野心的な気候変動対策はまだ十分ではないことを提示して終わりとした。

pdf資料(Dellatte)(3.21MB)

Fit for 55 – A sustainable approach to European climate policy?

Sven Rudolph 先生

 本報告は、欧州連合(EU)の「Fit for 55」政策パッケージが欧州の気候政策をより持続可能なものにできるかどうかを議論することが目的とした。

 まず、研究のステップと研究方法について説明した。

 次に、現在地球環境が直面している課題を紹介した。各国の排出削減目標を考慮すると、2030年までに気温上昇を1.5°Cに抑えることは不可能だと指摘された。そのため、気候政策はより持続可能なものにする必要がある。排出量取引制度が有効な気候政策ツールとして実施されて、パリ議定でも支持されて、世界の各地域に拡大しつつある。排出量取引制度が効果的で受け入れられるためには、持続可能な方法で設計されなければならず、SMR分析を通じて達成できると述べた。

 続いて、EUの温室効果ガスの推移、二酸化炭素排出の推移、温室効果ガス部門別のシェアと推移、ETSとESD政策下での排出量の推移と排出削減量、キャップ、炭素価格などを分析することで、現在までEUは大きな排出量削減を実現したものの、十分とは言えない(運輸部門は依然としてEUの気候変動対策におけるアキレス腱など)と結論つけている。

 そして、EUにおける「Fit for 55」のような新しい気候変動政策が言及された。「Fit for 55」政策パッケージの「排出量取引制度に関する改革」、「炭素国境調整メカニズム」、「社会気候基金」の3つの措置を中心として詳説した。また、ドイツ排出量取引制度(暖房及び運送用燃料のため)も例をとして紹介された。

 最後に、①EUは大幅な排出量削減を達成したが、十分ではない野心、運輸部門の排出量、炭素リーケージ、有害な分配効果などの問題はまだ大きな課題として残す、②「Fit for 55」政策パッケージはEUの気候政策をより持続可能なものにする可能性を持つ(特に排出量取引制度)、③EU加盟国のドイツは気候変動対策に対する野心を大幅に強化しほぼ十分に近づいたが、有害な社会的影響という問題は十分にターゲットされていないという結論が得たれた。

pdf資料(Rudolph)(4.06MB)