Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年3月28日(月)部門C研究会 議事録

2022年03月28日(月)
於:Zoomオンライン会議

 2022年03月28日(月)17時〜20時、再生可能エネルギー経済学講座部門C研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。今回は、地球環境戦略研究機関の金振様、京都府立大学の川勝健志先生よりご報告いただきました。

中国再生可能エネルギー戦略の現状と展望

金 振 様

 本報告は、世界脱炭素の現状と中国脱炭素の動きを紹介した上で、中国再生可能エネルギー(再エネ)戦略の実現可能性を探ることを目的とした。

 まずは背景として現時点にネットゼロ目標を表明した国・地域の参加程度と二酸化炭素のカバー率について紹介されて、北東アジアにおけるカーボンプライシング仕組みの導入拡大および「カーボン経済」の拡大というトレンドが指摘された。加えて、日中韓に含まる北東アジアの脱炭素目標、動き、国際協力戦略について詳説した。

 次に、中国脱炭素発展戦略の狙いところが紹介された。中国の2060年ネットゼロ目標の本質は国の長期成長戦略だと指摘された。脱炭素社会への移行は既存の発展モデルを見直しなければならず、GDP中心主義(質より量)から3060目標(量より質)への調整は非常に重要だと強調した。高質な経済発展モデルへ転換する取り組みの一環として、「三新経済」(新しい産業、新しい業種、新しいビジネスモデル)という概念をGDP統計制度に導入された。しかし、発展途上国の中国にとって、すぐに削減幅を拡大すると経済発展への影響は大きくなるかもしれない。したがって、早期に脱炭素社会へ移行できれば「削減目標の段階的な引き上げ」というメリットがあると指摘された。また、中国は低・脱炭素国際仕組みの最大受益者だと示された。2020年まで中国のCDMプロジェクトのシェアが世界全体の45.9%を占めて、風力・太陽光プロジェクトの占有率が比較的高い。その理由より、再エネ導入量と関連雇用は世界一になり、発電量も激しく増加していると指摘された。

 そして、中国再エネ戦略の実現可能性を詳しく議論した。実現可能の要件として、①需要と実装のペース、②グリーンファンドの規模、③再エネ(特に風力、太陽光)発電のポテンシャル、④発電・送電技術の4つの視点から評価された。結論として、現段階では再エネ発電における既存の導入量とグリーンファンドの規模は足りないが、北西部に風力・太陽光資源が豊富にあるから、特有の特高圧送電網技術を用いて、南東部の需要エリアへ送電できて、今後再エネ戦略の実現可能性があることは明らかにした。

 最後に、エネルギー分野における北東アジアの国際分業の未来計画も言及して終わりとした。

pdf資料(金)(6.02MB)

カナダの連邦・州協調型カーボンプライシング

川勝 健志 先生

 本報告は、カナダの温暖化ガス排出規制の概要と課題を紹介し、日本でカナダのような国・地方の垂直的協調のカーボンプライシング(CP)の枠組みを構築できるかについて議論することが目的であった。

 まずはカナダの連邦による全国的なCPの各提案について説明した。パリ協定の加盟国であるカナダでは、2016年の「バンクーター宣言」と「Pan-Canadian Framework」などの提案を経て、2018年より連邦法Greenhouse Gas Pollution Pricing Act(連邦法GGPPA)が実施されており、国家レベルでの気候変動に対する具体的政策が示された。連邦法GGPPAは一般の国民に対して連邦炭素税を課税し、産業界に対してはOutput-Based Pricing Systemを用い、国家レベルの化石燃料の需要を減らすための行動変化を促す仕組みとなると解説された。

 次に、カナダ各州にCPの導入状況を紹介した。現段階では、連邦が提案したGGPPAは全ての州に完全に受け入れられてはいないと指摘された。化石燃料への依存度が低く、水力発電比率が高い各州は独自の州法を採用し、温室効果ガスの排出量が多く、連邦法GGPPAに反対する各州はハイブリッド制度を選択したことがわかった。

 続いて、連邦政府と一部の州政府の軋轢とその理由について解説した。連邦法GGPPAの適用範囲はカナダ全土であるが、カナダには連邦政府と州政府という二層の政府があり、環境に関する所管は明記されておらず、両方が共同で管轄することとなっていることが紹介された。連邦政府が「連邦法GGPPAは国家の懸念事項である排出抑制効果を担保できる不可欠な対策」と主張する一方、一部の州(オンタリオ州、アルベータ州、サスカチュワン州など)は「連邦法GGPPAは州境の権限に対する侵害行為」と主張し、大きな紛争と発展したことが示された。

 最後に、全ての自治体が国の基準に基づいて独自のCPを導入し国・地方の垂直的協調という枠組みが日本でも構築できるかを検討した。日本とカナダの国情の違いや、日本でのこれまでの政策実施事例を踏まえて、国・地方の垂直的協調CPを導入するためには、国のイニシアティブが欠かせないと強調した。