Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年8月29日(月)部門B研究会 議事録

2022年8月29日
於:三井住友銀行ホール(京都大学 法経東館)とオンライン(Zoom)のハイブリッド形式

 8月29日(月)10:30から20:00まで,再生可能エネルギー経済学講座部門B研究会がオンラインで開催されました。

 今回の研究会では,UC Berkeley/国立ローレンス・バークレー研究所の白石賢司先生から特別講演を頂いた後,エネルギー戦略研究所株式会社の末松広行氏,株式会社百森の田畑直氏,株式会社マウンテンビューの定山剛士氏からそれぞれご発表頂きました。

日本の電力部門の脱炭素化加速に向けたシナリオと政策

白石賢司 先生
(UC Berkeley /国立ローレンス・バークレー研究所)

 再エネや原発等によるゼロエミッションという2050年のGoalに向け,グリーンなだけでなく太陽光・風力・蓄電の価格が安くなっている。また一方で,燃料価格の高騰も起きている。2035レポートは日本だけでなく,アメリカなどが起点となっており,例えばバイデンは,若者の支持という側面を意識してこれをそのまま取り入れ,当選するなどした。私は日本における2035レポートのリードオーサーであり,また韓国の共著者をつとめている。本報告では「日本の電力部門の脱炭素化加速に向けたシナリオと政策」と題し,電力市場のモデリング及びシミュレーションを行った。その研究内容を中心に報告する。

 本研究で使用したモデルについては,PLEXOSというモデルを用いている。長期的なタームのコストとスペックに関心があり,ソーラー・On Shoreについて,35年分のデータからSAMを用いてシミュレーションを行った。最適化の対象は発電,蓄電,送電への投資とその運用である。2030年まではNDCターゲットの達成を想定し,その後はグリーン性の向上か,経済性の向上か,その二通りを考えている。また2020年までの安定的価格を前提とし,原発は既にあるものは再稼働することを前提とした。オンショアについては,日本は北米のコストを二倍とした。規模による違いや設備費は下がるが,建設費等はかわらずとした。将来的には,コスト面は世界的な水準へ収斂していくだろう。燃料について,現実は,今は2,3倍の費用とし,それも分析に加味した。

 2030年ゴールの石炭19パーセントは実現することを制約条件とした。2030年以降はそれを外して想定。石炭は一番安いので減り切らない。洋上風力は浮体式・陸上併せて40GWとした。Clean Case,Climate Policy Case,バルクシステム,これら全てのコストが降下した。CO2は後者では減らず,前者では九割減となった。様々なレベルの需給一致も重要である。特に重要なものとして,時間/日/季節。蓄電・送電・LNGキャパシティでこれらは調整可能であり,10%は天然ガスが使える。太陽光発電量は昼に多く夜に少なく,夏は多く冬は少ない。風力は逆に夏に少なく冬に多い。ソーラーと風力をうまく組み合わせると,シーズナルな部分で調整可能となる。日本のDemandピークは八月ごろで,そこは天然ガス等も使って対処する。

 やはり重要なのは燃料費であり,再エネ賦課金の比ではなく固定費中心のものへ転換することが重要。価格高騰のリスクもなくなっていく。年3兆から4兆の投資で,脱炭素へと向かえるだろう。容量市場に関しても再エネ寄与分を含めて検討することが重要であった。炭素課税の計算については,リニアに増やして(単位当たり)40ドルくらい入れていくと脱炭素目標へ向かえる。燃料は2035年まで今のままとして再エネが断然安くなっていく。許認可,投資といったNoneconomic variableの観点から再エネ導入が決まっていく。これらが早く対処されることが重要である。

木質バイオマス発電の現状と課題

末松広行(エネルギー戦略研究所株式会社)

 長年国(農林水産省)で森林政策に関わる仕事をしてきた。本報告では,木質バイオマスの現状と課題点について概観したい。再生可能エネルギー(再エネ)資源は主に農山漁村に賦存している。太陽光も風力(陸上,洋上)もバイオマスも,地域の農山漁村にある資源を利用していると言って良い。そのバイオマスには,木質バイオマス,メタン発酵,その他バイオマス(農業残渣・鶏糞等)に類型される。本報告では木質バイオマスを採り上げる。

 我が国は世界有数の森林国で,国土の約3分の2が森林である。森林資源は人工林を中心に蓄積が増加し,近年は毎年約6,000万㎥ずつ増加している。人工林の半数が51年生以上となり,主伐期を迎えつつある中,「伐って,使って,植える」という持続可能な森林経営のサイクルを構築することが重要である。加えて,我が国の木材供給量は8,000万㎥程度で,うち国産材は3,000万㎥程度である。また木材自給率は,2002年の18.8%を底に10年連続上昇傾向で推移し,2020年は41.8%となっている。つまり,これからは,元気な森と農山村を育てるため,木質バイオマス発電を含め,木を積極的に使っていく必要があると言える。 

 それでは,木材のどこで発電するのか。木材はその質に応じてA~D材まである。製材用に使用されるのはA材,合板用に使用されるのはB材,主に製紙用に使用されるのはC材であり,D材が主に燃料として使用される。FIT/FIP価格については,未利用材が2,000kW未満は40円,2,000kW以上が32円の買取価格である。また一般木材の買取価格は24円(10,000kW未満)である。国産木材・輸入木材等の割合については,令和2年に国内消費された燃料材は2,572万m3であり,そのうち,国産の森林由来の燃料は 892万m3(約35%),輸入由来の燃料が388万m3(約15%)である。

 木質バイオマス利用の現状を見てみよう。木質バイオマスのうち,製材工場等残材と建設発生木材は,製紙原料などとしてほぼ利用済みである。他方で,間伐材等の林地残材の利用率は低いため,木質バイオマスのエネルギー利用を進めるためには,林地残材の活用が不可欠であると言える。令和4年3月末現在,FITの計画認定を受けた木質バイオマス発電施設は443か所の認定が有効であり,このうち183か所で稼働している。主に未利用木材を使用する木質バイオマス発電施設は243か所の認定が有効であり,このうち105か所で稼働している。木質バイオマス発電の効率化には何か必要だろうか。木質バイオマスの効率的かつ低コストの収集・運搬のため,路網の整備と高性能林業機械を適切に組み合わせた作業システムの普及・定着を図るなどにより,林業全体の生産性を高めていく必要がある。そのためには,具体的な施業を想定しつつ,緩傾斜・中傾斜地には車両系,急傾斜地では架線系を主体とする作業システムの導入を図る。

 最後に,北海道下川町の事例を採り上げ,熱利用の重要性に関しても付言しておきたい。北海道下川町では町が主体となり,熱需要の大きな公共施設に木質バイオマスボイラーを積極的に導入している。このことで,11 基の木質バイオマスボイラーから 30 の公共施設に熱(温水)を供給し,公共施設全体の熱エネルギー需要量の約6割を木質バイオマスにより確保している。

pdf発表資料(末松)(2.84MB)

西粟倉の取り組みと森林資源利用の難しさ

田畑直(株式会社百森)

 株式会社百森(以下,百森)は岡山県の西粟倉村で,主に山林管理や山林活用の事業を進めている。山と関わることで人の暮らしが豊かになり,人が関わることで山もまた豊かな場所となるよう,水先案内人ならぬ「森先案内人」を目指している。本報告では西粟倉村及び我々百森の取り組みについて概説する。

 西粟倉村の人口は 1,373人(2022年8月現在)であり,移住者150人以上,10年間で40社以上が起業している。その中心にあるのが「百年の森林事業」である。百年の森林事業は山林管理の事業であり,西粟倉村が目指す「上質な田舎づくり」に向けて,村内の山林を管理する。

 戦後に植林した木は,現在樹齢50-60年となっており,伐採期を迎えている。そうした山林をしっかり管理するには間伐などが必要であるが,適切な手入れを行うためには,山林をまとめ,路網を整備することが不可欠である。そこで,山林を集約化することで,効率よく安全な路網が設計可能となる。具体的には,百年の森林事業で村が集約化し,山林の所有者が西粟倉村に対し施業管理の委託契約を結ぶ。これは森林・林業白書でも取り上げられた先進的なモデルである。

 また間伐作業は費用が売り上げを上回りがちである,というもう一つの課題がある。しかし,百年の森林事業では伐採経費を村が負担することにより,山林所有者は伐採経費の負担が全く不要であるため,赤字が出ることはない。加えて,百年の森林事業は村内での経済循環を重視している。ただ木を伐採するだけでなく,村内全体の経済を回すからこそ,伐採費用を村が負担することができる。

 次に,百年の森林事業の実行体制について説明する。百森は西粟倉村から山林の管理委託を受け,設計・管理を行う。西粟倉は多くの場所で10年間の契約を締結済みである。施業は百森から村内に発注しており,その見積もりは百森の開催する安全講習や百年の森林づくりの使用説明会の参加が必須となっている。 施業の結果,得られた丸太は「森の学校」など,村内で活用しており,薪ボイラー,地域熱供給,ガス化発電などにも使用されている。現在百森では2,585ヘクタールの管理面積を有しており,村有林が1,080ヘクタールで,1,500ヘクタールほどが未契約である。年間の搬出量と間伐面積は,搬出量が6,221m3であり,間伐面積は52.55ヘクタールである。

 最後に,百森のこれからの展開については,百年の森林事業の推進,素材生産外の森林活用,森林全体の見直し,森林環境の悪化に対する対策,事業地・研究フィールドとしての解放,関係人口を増やし,定住人口以上のサスティナビリティを生む地域社会の創造,などを想定している。

シュタットベルケとWEB3共創

定山剛士(株式会社マウンテンビュー)

 当社(株式会社マウンテンビュー)は,環境保護と経済成長を両立した長期戦略・グリーントランスメーションを基本に,森林管理技術DXを駆使し,森林環境保全とのバランスを保ち,地域のバイオマス資源を活用した木質マテリアル活用を実行している。本報告では,我々の活動を紹介させていただく。

 まず,シュタットベルケとは,私は,太陽光・風力・バイオマス発電・水力発電・蓄電池等を活用し,地域再生エネルギー産業を中心とした自治体と民間団体が連携した地域活性化手法であると捉えている。これがうまく機能することで,脱炭素・ 地域レジリエンス強化・雇用創出・地域内循環経済を活性化すると考えている。

 森林資源の活用が期待される地域木質マテリアル活用であるが,その一方,課題が山積し効果的な活用とは程遠い現状である。しかし,この資源を効果的に活用できれば膨大な経済的価値が生まれる。バイオマス発電・熱源の活用における最大の課題は,燃料調達の解決である。バイオマス発電にかかるコストを高くしている要因は,主に燃料となる資源の購入費用,資源を木材チップにする費用,燃料の運搬費用である。また,伐倒による重大事故が頻繁に発生しており,伐木作業中の死亡災害が全体の7割を占めることからも,林業による労働災害は大変問題である。 

 このような諸課題に対する解決策として,森林管理と経済性を合わせた燃料調達技術である革新的な林業システムを提案する。それは「電動化リング間伐」及び「ドライストックシステム」である。これら新技術によって低コストを実現している。「電動化リング間伐」(リング間伐)は,ガソリンから電力へのシフトにより,雇用の確保,安全性の向上,収益の安定,脱炭素への寄与を実現している。従来のチェーンソーはガソリンを燃料として稼働しているが,リング間伐では,電動のチェーンソーを使用する。これにより,就業経験の浅い若年層でも短期間のスキル習得が可能であり,木を切り倒さないので,従来の方法と比較して圧倒的に安全であり,作業の効率化により一日あたりの作業量を増加することが可能で,電力で稼働するためCO2排出削減に寄与する,といったことが実現できる。また,リング間伐は,水分を多く含んだ重い生木を移動させないことや,ガソリンを使わず電動で施業するため危険を伴う伐倒をしないのが特徴的である。加えて,巻き枯らし間伐(ドライストック)を施すことで伐倒作業を省略し軽量化・効率化を実現し,短期養成による技術者の増加に寄与している。安全・効率的なリング間伐により,10年延長された森林間伐特措法に大きく貢献し,また熟練度の低い労働者の就業を可能とし,雇用の確保と共に,運搬作業等の作業コスト低減を実現している。

 次にご紹介する取組みは,デジタルトランスメーションの導入である。森林資源をデータ化することに伴い,将来的にデータを活用したビジネス展開が期待できる。具体的には,林分診断システムを用いて樹種界や林相の区分を行う。このことにより,等高線と林相の区分から林班境界の特定も可能になる。また将来的には,カーボンクレジットのモニタリングや申請,データ管理,オフセット企業様とのマッチング ,木材マテリアルの安定供給の実施を検討している。DX化による森林管理戦略の簡素化,森林資産価値の見える化,また将来的に空中輸送の開始も視野に,木質資源の安定的・低コスト化が実現すれば,木材・バイオマス燃料・バイオプラスティックへの活用へと展開していけるだろう。

 最後に,シュタットベルケとWEB3の親和性についても言及したい。ブロックチェーン技術によって,情報開示の透明性,資金流域管理の合理性,情報・課題解決・提案等の共有拡大,デジタルコミュニティーの価値向上などが期待される。具体的には,Web3・ DAO ・NFT・ DeFi 等のブロックチェーン技術を活用し,脱炭素化にも貢献する。シュタットベルケとWeb3概念のもと,雇用を創出し発電・熱源バイオプラスティック ・木材合板等な経済活動を形成する。

pdf発表資料(定山)(5.2MB)