Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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第3回 再エネ講座シンポジウム2022
(2022年12月9日開催)

開会の挨拶
開会の挨拶

若手研究者による電力市場研究の(専門家向け)ワークショップ
若手研究者による電力市場研究の(専門家向け)ワークショップ

第1部 『 カーボンプライシングのあり方:その経済・産業影響の分析を踏まえて考える』
第1部 『 カーボンプライシングのあり方:その経済・産業影響の分析を踏まえて考える』

第2部『エネルギー高騰・電力需給ひっ迫下の電力システムのあり方を考える』
第2部『エネルギー高騰・電力需給ひっ迫下の電力システムのあり方を考える』

1.主催

京都大学経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座

2.開催日時

12月9日(金)9:30~17:40 <会場・オンライン>

3.会場

一橋大学一橋講堂(中会議室1~4)
(Zoomウェビナーによるオンライン同時開催)
〒101-8439 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2 学術総合センター内
https://www.hit-u.ac.jp/hall/accessjp.html

4.プログラム

本シンポジウムはウクライナ危機後、エネルギー価格高騰や電力需給ひっ迫の中でエネルギー政策をどうかじ取りすべきか、参加者の皆様とともに考えたいと思います。午前中は本テーマに関して若手研究者が最先端の実証研究の結果を報告、議論します。午後のシンポ第1部では、脱炭素化に向けてカーボンプライシングをどう導入すべきか、2人の有識者が経済・産業影響についての分析結果を踏まえ、提言を行います。第2部では、岸田政権が原発新増設・再稼働を打ち出す中、電力需給ひっ迫・価格高騰の問題にどう立ち向かい、中長期的に脱炭素化への道筋をつけるか、3人の有識者が討論いたします。

2022年12月9日(金)9:30~12:00
若手研究者による電力市場研究の(専門家向け)ワークショップ(司会:安田 陽)

開催時間/演題/登壇者(敬称略)

9:30~9:35
開会の挨拶
諸富 徹:京都大学大学院経済学研究科 教授

9:35~10:10
「連系線の制度改革の経済効果:間接オークションの実証分析」
(25分講演/10分質疑応答)
杉本 康太:東京財団政策研究所 博士研究員

pdf資料(杉本)(1.42MB)

10:10~10:45
「電力市場価格高騰の原因と価格高騰時の再エネの役割」
(25分講演/10分質疑応答)
馬 騰:京都大学大学院経済学研究科 特定講師

(5分休憩)

10:50~11:25
「欧州電力市場の価格高騰要因と価格高騰時の再エネの役割~ドイツ市場を対象として~」
(25分講演/10分質疑応答)
杜 依濛:京都大学大学院経済学研究科 特定講師

11:25~12:00
“Electricity System Flexibility in the High LNG Price Era in Japan: A Simulation Analysis”
(25分講演/10分質疑応答)
張 砣:京都大学大学院経済学研究科 特定助教

(60分休憩)

第1部 2022年12月9日(金)13:00~15:05
『カーボンプライシングのあり方:その経済・産業影響の分析を踏まえて考える』

開催時間/演題/登壇者(敬称略)

13:00~13:05
第1部 シンポジウム開会挨拶・趣旨説明
諸富 徹:京都大学大学院経済学研究科 教授

13:05~13:35
「脱炭素社会とカーボンプライシング」
有村 俊秀:早稲田大学政治経済学術院 教授

pdf資料(有村)(2.18MB)

13:35~14:05
「日本の2050年カーボンニュートラルに向けた脱炭素政策設計と経済・産業影響分析:大規模グローバルマクロ計量経済モデルを用いた分析」
李 秀澈:名城大学経済学部教授

pdf資料(李)(3.56MB)

14:05~14:35
共通質問
諸富 徹

14:35~15:05
パネルディスカッション
司会:諸富 徹

(15分休憩)

15:20~15:30
スポンサー企業代表挨拶
須藤 豊:エネルギー戦略研究所 社長

第2部 2022年12月9日(金)15:30~17:30
『エネルギー価格高騰・電力需給ひっ迫下の電力システムのあり方を考える』

開催時間/演題/登壇者(敬称略)

15:30~15:35
第2部 趣旨説明
安田 陽:京都大学大学院経済学研究科 特任教授

15:35~15:45
「原子力政策の再検証:寿命撤廃、再稼働加速、新・増設等は妥当か」
鈴木 達治郎:長崎大学核兵器廃絶研究センター 副センター長・教授

pdf資料(鈴木)(1.16MB)

15:45~15:55
「エネルギー危機とカーボンニュートラル」
橘川 武郎:国際大学副学長・大学院国際経営学研究科 教授

pdf資料(橘川)(165.86KB)

15:55~16:05
「エネルギー価格高騰・電力需給ひっ迫への短期的/中長期的戦略」
諸富 徹:京都大学大学院経済学研究科 教授

pdf資料(諸富)(1.06MB)

16:05~17:10
意見交換・討論
司会:安田 陽

17:10~17:30
フロア討論
司会:安田 陽

17:30~17:40
閉会の挨拶
山家 公雄:京都大学大学院経済学研究科 特任教授

5.参加定員

約300名様(会場参加は先着100名)
※セミナーの録画および録音等はご遠慮いただいております。

6.参加費

無料
※事前のお申込みが必要です。

7.参加のお申込みについて

ご参加をご希望される場合は、下部URLよりお申込みいただきますようお願い申し上げます。

▼対面参加希望はこちら
※会場参加の方はお名刺をご用意ください。
https://forms.gle/eZTjLJJbnGmMH93j7

▼オンライン参加希望はこちら
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_AnVhaXYqTvKSIUQg50-Vqw

8.シンポジウム使用システムについて(オンライン参加)

Zoomウェビナーを併用してのオンラインシンポジウムとなります。
事前にご登録やPCにシステムをダウンロードしてない場合でも、主催者側からお送りするURLにアクセスいただくことでご参加いただけます。
※スマートフォン・タブレットからはアプリをダウンロードしていただく必要がございます。
※通信料はご参加者さまご負担となりますので、Wi-Fi環境下でのご参加をおすすめします。

9.報告資料について

開催1週間前を目途に、本ページ、ならびに以下リンク先に順次掲載させていただきます。
https://drive.google.com/drive/folders/1TuphTxr7-Y7Nzb1Sh0LvrCwnulDxsE7h?usp=sharing
なお、登壇者による資料は一部非公開となる場合があり、すべての報告資料が公開されるわけではない点、予めご了承ください。
※本シンポジウム(第1部、第2部)は録画され、シンポジウム終了後に再エネ講座HPでの公開を予定しております。

10.その他・開催進行について

若手研究者によるワークショップ

講演時間は、各講師の講演25分と質問 10分、合計35分を予定しています。
オンライン参加者のご質問はZoomの「Q&A」を使って受け付けますので、「Q&A」に質問事項をご記入ください。
会場参加者には受付にて質問用紙を配布しますので随時ご記入いただき、挙手をお願いします。ネームタグをつけた運営スタッフが講演途中、講演終わりに随時回収し、質問時間10分内で各講師が回答させて頂きます。

第1部

講演時間は、各講師30分の講演後に「共通質問・回答」、「パネルディスカッション」の時間を各30分設けています。
オンライン参加者のご質問はZoomの「Q&A」を使って受け付けますので、「Q&A」に質問事項をご記入ください。
会場参加者には受付にて質問用紙を配布しますので、ご記入の上、共通質問(14:05-14:35)の間に挙手をして、お近くの運営スタッフにお手渡しください。
ディスカッションの時間枠で可能な限り、回答、議論させて頂きます。

第2部

オンライン参加者のご質問は、Zoomの「Q&A」を使って受け付けますので、「Q&A」に質問事項をご記入ください。
会場参加者には受付にて質問用紙を配布しますので、「意見交換・討論」中の16:30から17:00までに挙手をして、お近くの運営スタッフにお手渡しください。
フロア討論の時間枠で可能な限り、回答させていただきます。

ご不明な点につきましては下記までお問合せください。
++++++++++++++++++++++++++++++++
再エネ講座シンポジウム2022事務局
E-mail:ree.kyoto.u@gmail.com
HP: http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/top/
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
京都大学大学院 経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座
TEL:075-753-3474
++++++++++++++++++++++++++++++++


議事録(第1部)

2022年12月09日(金)
於:一橋講堂

 2022年12月09日(金)9時30分〜17時40分、再生可能エネルギー経済学講座シンポジウム2022が、一橋講堂にて開催されました。第1部は、『カーボンプライシングのあり方:その経済・産業影響の分析を踏まえて考える』というテーマを巡り、早稲田大学の有村俊秀先生、名城大学の李秀澈先生よりご報告いただきました。

脱炭素社会とカーボンプライシング

有村 俊秀 先生

 本講演は、脱炭素化に関する基礎知識を紹介し、脱炭素社会に向けた世界の取り組みを参考にしながら日本におけるカーボンプライシング(CP)導入の論点と今後の方向性について議論することが目的であった。

 まず、カーボンニュートラルとCPの概念と仕組みをそれぞれ説明した。カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」と示した。菅内閣総理大臣は2020年10月に、国内の温室効果ガスの排出2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。また、CPとは、「炭素税、国内排出量取引、クレジット取引、国際機関による市場メカニズム、インターナル・CPなどの方法を通じて炭素に価格を付け、市場メカニズムにより効率的に排出量を削減することができる政策手段である」と意味した。CPの実施により、①省エネルギーの促進、②燃料転換の促進、③再生可能エネルギーの促進、④イノベーションの促進などのメリットがあるとも説明した。

 次に、世界で進められているCPの2つの代表的なアプローチとした炭素税と排出量取引制度の発展現状を紹介し、日本における実施状況や今後の展開について論じた。炭素税とは、化石燃料に税金をかけて、化石燃料やそれを利用した製品の製造・使用の価格を引き上げることで需要を抑制し、排出量を抑える手段である。1990年から北欧のフィンランドに始まり、現在まで新興国を含め、多くの国や地域に積極的に導入されている。日本においては2012年から炭素税として「地球温暖化対策税(温対税)」を導入したが、現在の税率が石油石炭税の上乗せ部分として1トン(CO2)当たり289円で課税され、世界各国と比較すると非常に低く、今後再検討される可能性が有り得ると指摘した。そして、排出量取引とは、国や企業ごとに定めた温室効果ガスの排出枠を取引し、温室効果ガスを削減する同時に、効率的に社会の費用を最小化できる手段である。2005年に欧州連合から開始し、現在まで多くの国や地域に導入されている。続いて、日本で既に実施されている東京・埼玉排出量取引制度の差異、取引状況及び削減効果について説明した。その後、北東アジアに位置する日中韓のカーボン市場リンクの可能性も示唆した。

 そして、日本においてCP導入の諸論点について深めて議論した。論点の一つとしては、産業の国際競争力問題と炭素リーケージ問題である。排出枠の無償配分や国境炭素調整措置などの方法が問題を解決できると論証した。論点のもう一つとしては、税収の使い方である。税収を補助金として使うことで、排出量の大幅削減に役に立つと図解した。さらに、炭素税収を法人税の減税分として使うと、企業投資をアップさせ、GDPアップという二つ目の配当を得ることができると強調した。

 最後に、日本におけるCPの方向性について、最新の動向を共有した。経団連が当初の反対から一転、「カーボンニュートラル行動計画」の着実な実施や「グリーントランスフォーメーション(GX)」の推進を行うとともに、「キャップ&トレード型排出量取引制度」を現在から検討するべきように意見表明されたことを紹介した。現在の論点として、主に①GXリーグとクレジット市場の整備、②GX移行債について紹介された。

日本の2050年カーボンニュートラルに向けた脱炭素政策設計と経済・産業影響分析:大規模グローバルマクロ計量経済モデルを用いた分析

李 秀澈 先生

 本講演は、日本の2050年カーボンニュートラル達成のための脱炭素制度設計を紹介し、E3ME(Energy-Environment-Economy Macro Econometrics)モデルの推定による日本の経済及び産業に与える影響について解説することが目的とした。

 まず、研究の概要と分析ツールを詳しく説明した。日本政府は、低・脱炭素社会の実現に向け、2030年、2050年のそれぞれの時点における電源構成と削減目標を提示した。本研究が制定した4つの指標を達成する脱炭素パッケージを設定し、E3MEというグローバル・マクロ計量モデルを用いて、2050年までの電源構成・マクロ経済の変化、産業別のCO2排出量・生産の変化などのものを推定した。分析ツールとして、石炭火力・原子力ともに政府の2030年電源計画(第6次エネルギー基本計画)および2050年電源計画検討案(2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略)の目標を設定することをシナリオⅠとし、石炭火力・原子力ともに早期停止(2040年にフェーズアウト)を設定することをシナリオⅡとした。

 次に、研究で使っているE3MEモデルの歴史沿革、基本構造、メカニズムおよびCGEモデルとの差異に言及した。

 そして、カーボンニュートラルに向けた脱炭素政策シナリオの設定を詳述し、二酸化炭素排出経路のデモンストレーションを行った。本研究が日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の2021年版OUTLOOK2022のレファレンスケースをベーズラインシナリオとして設定し、原発の特殊性を考慮し、比較対象となる政策シナリオⅠ(原発あり、IEEJOUTLOOKの原発容量推移、石炭火力2040年フェーズアウトの容量推移)と政策シナリオⅡ(原発2040年フェーズアウトの容量推移、石炭火力2040年フェーズアウトの容量推移)の2つのケースと比較検討した。また、カーボンプライシング、規制、補助金などの脱炭素パッケージもモデルに追加して考慮しなければならないと指摘された。排出量経路から見ると、政策シナリオⅡは、ベーズラインシナリオと政策シナリオⅠに比べて、排出量の削減効果が優れることが明らかになった。

 最後に、モデルの推定結果により、異なるシナリオによる2050年カーボンニュートラルの実現が日本の電源構成、マクロ経済および産業生産に与える影響に結論をつけた。結論として、ベーズラインシナリオと比較し、政策シナリオⅠと政策シナリオⅡのいずれの政策パッケージでもカーボンニュートラルの達成と経済成長の両立にとって可能だと確認された。その主な理由は、(1)発電部門の再生可能エネルギーの投資拡大とともに経済各部門で多様な低・脱炭素投資需要の拡大が、雇用の増加、民間消費需要の増加、ひいてはGDPの増加につながる。(2)化石エネルギー輸入の大幅な縮小による貿易バランスの向上がGDPの増加につながる。(3)エネルギー集約産業で生産が減少する。(4)その他の産業で脱炭素投資需要と民間消費需要の底堅さにより生産が増加する。ことが明らかにした。

 その他にも、講演の内容を総括した後で、(1)多様な低・脱炭素技術革新スピードの設定、(2)原子力発電コスト、(3)産業構造の転換の問題などの今後の研究課題が挙げられた。

議事録(第2部)

2022年12月9日
於:一橋大学一橋講堂(Zoomウェビナーによるオンライン同時開催)

15時30分~17時30分まで、第2部「エネルギー価格高騰・電力需給ひっ迫下の電力システムのあり方を考える」 について、長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長の鈴木達治郎教授、国際大学副学長・大学院国際経営学研究科の橘川武郎教授、京都大学大学院経済学研究科の諸富徹教授から各々10分の論点整理を頂いた後、京都大学の安田陽先生の司会により、3人の先生方のパネルディスカッションが行われ、その後、フロア討論が行われました。

原子力政策の再検証:寿命撤廃、再稼働加速、新・増設等は妥当か

鈴木達治郎

 私からは原子力回帰政策が妥当かという論点を整理する。経産省の寿命規制廃止の議論はどこから出てきたのか、不明である。「原発最大限活用」の前提となる経済性のデータも不透明で、電力不足への貢献も不透明である。もともと、「40年の寿命」の設定は、脱原発政策を進める目的に沿うものであり、規制上の必要性が出たものではない。経産省の「運転期間の在り方」(案)は、科学的根拠も薄弱である。原子炉の寿命を科学的に一律に決めることは難しい。寿命規制を廃止したからと言って、即「規制緩和」や「リスク拡大」に繋がる訳ではない。

 経産省の次世代革新炉の定義は不透明である。実際に需要があるのは大型軽水炉だが、非従来型炉の研究開発は区別すべきである。本来新設しようとしている大型軽水炉と研究開発は異なる。研究開発はやってみないと分からないため、実証する必要があり、メーカが自らこういう設計ができたと国に持ってくるものである。日本の場合、経産省が両方とも支援しようとしている。

 電力からの要請は、国の支援が不可欠とあり、新しい国策民営に向け、国による一貫した中長期的な原子力政策の制度措置だが、ここにフロントからバックまでの事業環境整備についてまで国が支援してほしいとある。ここの議論をきちんと行う必要がある。

 電力会社のトランジションのイメージは、需要が大幅増となっており、原発依存度は低減し、再エネ・CCSに期待となっている。

 福島事故の教訓から学んでいるのかが第一の関心事である。エネルギー基本計画(2021)には、可能な限り原発依存度を低減すると書いてあるが、現実の政策と矛盾している。長期エネルギー政策は、市場自由化に伴い、プランB、多様・多重な選択肢を用意すべきと考える。

 今後の進め方として、原発への依存度低減の明確な政策が必要であり、原発促進の法制度(交付金制度、研究開発支援など)の根本的な見直しが必要で、移行期の政策が必要である。信頼回復のために、客観的なデータ提供、検証を行う独立した第三者機関が必要である。

エネルギー危機とカーボンニュートラル

橘川武郎

 4つの論点について説明したい。まず、1)原子力政策は転換したか。岸田政権が政策転換したかは判断するのは、時期尚早である。次世代開発と延長論の話が同時に始まり、現在は延長論が先行しており、事実上、次世代開発が遠のいたと思っている。次世代を開発することの方が重要と考えるが、現状はそうではない。原子力発電所原子炉の現況を見ると、現在10基が稼働しているが、許可獲得済みだが未稼働の7基の状況を見ると、うち5基を稼働させるには厳しい状況である。したがい、電力危機に対応するのは、火力(石炭)ということになりそうである。

 第2の論点は石炭火力について言及する。愛知、島根、兵庫、神奈川の各県で計5基の超超臨界圧(USC)が次々と建設され、各々が最終局面を迎えている。ここで重要なポイントは、日独の石炭火力の割合が現時点で同じ29%だが、ドイツはCOPでもG7でも石炭を廃止する正義の味方と見られ、日本は常に悪玉となっている。その理由は、ドイツはいつ止めるかを明言しており、日本はいつ石炭火力をやめるのかを明示していない点だと思う。私は日本は2040年に石炭火力を止め、25年以降はUSCも作らないと宣言しても問題ないと考える。

 第3の論点は、水素・アンモニア・合成メタンの課題について触れる。アンモニアについては調達の壁があり、技術的課題としてはNOX対策やハーバー・ボッシュ法などの問題がある。水素は、端的に言うと、大口需要がない。メタンについては、都市ガス業界では、メタネーションが間に合わない可能性がある。

 最後の論点として、2030年・2050年の電源構成について触れたい。政府案について、2030年の再エネは、着手が遅かったから、36-38%は難しく、30%位くらいに留まると考えられ、原子力の20-22%も15%に留まるのではないかと考える。2050年の方は政府案に近いが、政府案のCCUS火力と原子力30-40%は、CCUS火力が20-30%、原子力が多くて10%と考える。

エネルギー価格高騰・電力需給ひっ迫への短期的/中長期的戦略

諸富徹

 私の方からは経済面、コストの観点から問題を提起したい。原発の問題が議論される背景には、エネルギー価格高騰と電力需給ひっ迫の話がある。電気不足、首都圏における停電の懸念がある状況下、供給力をどうするかという議論がある。しかし、実際には2007年をピークに電力消費量は減少に転じている。背景には、工場等の東南アジアへの移転などがある。さらに人口減少が加速していくため、この減少トレンドは続くのではないか。今後、EV等の電化が行われてくるが、これを再び右肩上がりに上昇させるほどの電力需要が起こり得るのか。熱使用に対し、メタネーションが成功し、ガス会社が影響力を行使するようになれば、それほど大きな電化が起きるのか。

 電力発電量は、12%程度、減少傾向にある。かつては地域独占、総括原価方式で、過剰設備だったが、電力自由化により、設備投資の抑制が行われ、効率化により、設備が適正水準に低下するプロセスが始まった。さらに、世界的な再エネへの主力転換が行われる交代期が重なり、需要が減少していく中で、再エネという新しい、低コストの電源が入ってきたことで、限界費用の高い火力発電所が競争にさらされた。電力会社としてはこれを廃止せざるを得ないプロセスが始まったといえる。電源構成のグラフを見ると、再エネの増え方と石油火力の減り方が相殺されているように見える。石油火力が撤退されることで適正価格が回復される。

 供給予備率という数字で見ると、2000年代、平均して20%超であり、他の産業では見られない割合である。2011年前後で、予備率は平均10%前後に大きく低下した。事故や地震によっては3%くらい低下する。稀頻度リスクに対し、供給力を積み上げることが正しい解なのか。

 再エネが既に最安の電源であることは明らかであり、化石燃料価格の高騰が継続する中、再エネ投資が一層加速し、再エネ比率が増え、GDP増加に寄与することが多くの研究で確認されている。市場メカニズムの調整を受け、化石燃料から再エネへの転換が図られていく。IEAは再エネ、省エネ、原発を含む非化石電源への投資を推奨している。色々な電力需要が出てくるに際し、マイクログリッド化していき、デマンド側でマネージしていくことが求められていくと考えられる。


 その後、安田陽先生がモデレーターとなり、上述3名の先生方からの論点のまとめが次のように提示された。鈴木先生からの論点は、原子力政策の再検証、次世代革新炉の定義が不透明、電力からの要請(自由化市場では原発維持は難しい)、福島事故の教訓から学んでいるか。橘川先生からの論点は、原子力政策は転換したか、石炭火力をどうするか、水素・アンモニア・合成メタンの課題はなにか、2030年・2050年の電源構成はどうなるか。諸富先生からの論点は、日本の電力供給力は不足しているのか、適正な電力供給能力の水準とは何か、主要電源の歴史的な交代期、稀頻度リスクへの対策、国民経済的に再エネが最も有利。パネルディスカッションでは、原子力政策、電力自由化、再エネ政策、電力の安定供給、水素・火力政策の論点に整理して、先生方にご議論いただいた。