Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年09月26日(月)部門C研究会 議事録

2022年09月26日(月)
於:Zoomオンライン会議

 2022年09月26日(月)16時〜20時、再生可能エネルギー経済学講座部門Cの研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。今回は、京都大学の竹内敬二先生、東京財団政策研究所の杉本康太様、長崎大学の昔宣希先生よりご報告いただきました。

ウクライナ戦争で後退する核の状況〜原発、核軍縮、不拡散

竹内 敬二 先生

 本講演は、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、核情勢への懸念を表明し、日本の立場からどのように考え、対応すべきかを述べることを目的とした。

 まずは、サポリージャ原発関連のニュースを参考に、2022年には核戦争のリスクが大きくなった年であることに注意喚起した。なぜなら、原発は戦争の帰趨を決める戦略目標になりつつあるからである。サポリージャ原発が戦争に巻き込まれて制圧され、同原発の危険性を「人質」にしている。その状態が続けば、何か大きな悲劇が起こる可能性があると示唆された。続いて、今回の経験から得られた教訓を、国際機関の弱さ、地政学と原発リスクなどの観点からまとめて、今後に原発の利用について慎重に考える必要があることを強調した。

 次に、核軍縮と核不拡散の現状について詳説した。長崎大学が推定した「世界の核弾頭数の推移(国別)」というデータグラフを使って、「冷戦後続いた減少が終わり、増加に転じる」という結論を出した。米国やロシアが核兵器の近代化を進めて、核不拡散条約(NPT)における中国の存在が大きくなるため、核軍縮が難しくなると指摘した。それに、今年8月に開催されたNPTの再検討会議が、ウクライナ情勢をめぐり対立が続いていて、交渉に決裂したことを提示した。また、核がNPT下でも9カ国への拡散に至ったことを述べて、現在の核拡散問題に対する最大の懸念はイラン核合意の再合意であることにも言及した。

 そして、ウクライナ戦争が変えたものについて総括した。(1)地域限定で核を使う現実性が増している(2)核を持つ国にとって、先に非核化する動機が消え、「核を持っていてよかった」という思考が広がる(3)原発と核兵器の境目が曖昧になって、戦争地域に近い場所の原発が戦争に巻き込まれるリスクがあるなどの点が明らかになった。

 最後に、日本の立場から何を考えるべきかを提案して終わりとした。

pdf発表資料(竹内)(1.01MB)

連系線の制度改革の経済効果:間接オークションの実証分析

杉本 康太 様

 本報告は、実証分析の手法を用いて、先着優先ルールから間接オークションへの連系線の制度改革による経済効果を研究することが目的であった。

 まずは研究のモチベーションを紹介した。日本は震災後に様々な電力システム改革を実施してきたけど、その改革の効果を事後的に検証した研究は少ないと示された。このような理由を背景として、2018年10月1日から導入された間接オークション制度が本研究の研究ターゲットとなった。電力システム改革による連系線の効率的な活用は、(1)広域メリットオーダーを実現すること、(2)北海道や九州に偏在する再エネ電気を需要地に輸送すること、(3)新規参入者と既存事業者の公平な競争環境整備などの点にとって重要であると強調した。

 次に、電力市場設計における様々な管理手法を説明して、先行研究の欠如を示した。連系線の管理方法には、直接オークション、間接オークション、先着優先、比例按分からなるゾーンプライシングと地点別限界価格制からなるノーダルプライシングが含まれる。ところで、先行研究により日本における先着優先ルールから間接オークションに移行した場合の経済効果に関する研究はまだない。そこで、本研究では北本線(Hokkaido-Honshu line)とFC線(Frequency Converter)に着目し、制度変更に伴う経済効果について考察することを表明した。

 そして、本来の先着優先ルールと新たに用いる間接オークション制度の枠組みの違いを比較して、加えて計量的な分析を行うことで、制度変更に伴う経済効果が推定した。先着優先ルールの下では、空き容量は、先着順で予約された容量と、前日市場+時間前市場で配分可能な容量で構成される。しかしながら、既存事業者が空押さえ(前日市場のゲートクローズまでに大量に予約を入れ、約定後に不要な予約量をキャンセルすること)を通じて、戦略的に市場分断を引き起すとともに、連系線の非効率的な利用を招くことができる。その代わり、間接オークション制度の導入により、貿易効果とボリューム効果(前日市場への入札量増加効果)という2つの経済効果をもたらした。貿易効果については、前日市場での貿易(エリアを越えた電気の輸出入)量の増加は、輸入エリアと輸出エリア間のエリアプライスの差を減少させた。その一方で、ボリューム効果については、輸出エリアの売り入札量増加により輸出エリアの市場価格を低下させ、輸入エリアの買い入札量増加により輸入エリアの市場価格を増加させた。その結果、エリア間のエリアプライスの差を増加させた。さらに、計量モデルの推定に基づき、「貿易効果とボリューム効果がお互に打ち消し合っている」という結論が明らかにした。

 最後に、厚生分析を行う上で、(1)間接オークションの利用には、貿易効果だけではなく、入札量追加効果にもある。(2)間接オークションの発電費用の削減効果は実施から5ヶ月間で、北本線で13.8億円、FC線で35.6億円である。年間換算では合計118.6億円である。(3)間接オークションの利用には、連系線の増強と違って投資費用はほぼないため、費用対効果は高いなどの結論をつけた。

pdf発表資料(杉本)(1.93MB)

Carbon market linkage of China, Japan and Korea and its decarbonization impact on economy and environment: E3ME application case study

昔 宣希 先生

 本報告は、E3ME(Energy-Environment-Economy Macro Econometrics)モデルを用いて、日本、中国、韓国の炭素市場リンクによる脱炭素化が3カ国の経済と環境に与える影響を推定することが目的とした。

 まず、研究対象となる日中韓の炭素市場について、基本情報とその発展過程を解説した。3カ国が、最新の国別約束(Nationally Determined Contributions: NDCs)に対してより野心的な計画を策定するだけでなく、G20のネットゼロ戦略(G20 net zero targets)にも積極的に取り組んでいたことが示された。中国では、2030年までに炭素排出量のピークアウトを達成して、2060年までにカーボンニュートラルを実現することを約束した。そのため、2013年に地域炭素排出量取引制度のパイロットを導入し、長年の経験を活かして、2021年に全国統一炭素排出量取引メカニズムを確立した。日本では、2030年に温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減して、2050年に完全なカーボンニュートラルを実現することを目標に定めて、2010から2011年にかけて地域レベルの炭素排出量取引市場(東京都・埼玉県)が始まった。また、韓国では、2030年に温室効果ガス排出量を2018年比で40%削減して、2050年に完全なカーボンニュートラルを実現することを目標に決定して、2015年から国家炭素排出市場が創設された。

 次に、パリ協定文書に見られる共同炭素市場創設の根拠を詳しく説明した。

 統一された炭素市場は、国際協力を促進して、各国の環境目標の達成を促すとともに、炭素リーケージという問題を回避できる可能性があることが確かめられた。ところが、先行研究を参考すると、現在まで共同炭素市場に関するものの多くは、欧州連合排出量取引制度に関連したものであることが明らかにした。したがって、日中韓の共同炭素市場構築への期待が示された。

 そして、研究で使用するE3MEモデルの基本構造、方法論、政策シナリオ、CGEモデルとの比較について解説した。E3MEモデルは、炭素税や炭素価格によるコストの上昇の下で、経済主体が低炭素の技術革新や関連投資を行う際の経済への影響をよく反映できる特徴を持つと示された。したがって、本研究では日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の2020年版OUTLOOK2021のレファレンスケースをベーズラインシナリオとして設定し、比較対象となる(1)各国独自の炭素市場と(2)3カ国共同炭素市場という2つの政策シナリオを提案して、日中韓の共同炭素市場が2030年と2050年の排出削減目標を達成するための経済・環境影響と、各国独自の炭素市場の実施に伴う経済・環境影響の差異を比較検討した。また、CGEモデルとの差異に言及して、主に(1)モデリングアプローチ、(2)経済背景、(3)行動関係の扱いという3つのところに異なることが指摘された。

 最後に、モデルの推定結果により、2つの政策シナリオが経済・環境への影響の差異について詳説した。結論として、各国独自の炭素市場の実施に比べて、(1)共同炭素市場実施後の日本と韓国での炭素価格は、各国独自の炭素市場で支払うはずの価格のほぼ半分であること(2)共同炭素市場の実施により、日本と韓国のGDPへの影響は小さく、中国は恩恵を受けていること(3)日本と中国については、各国独自の炭素市場と共同炭素市場が雇用に与える影響はほとんど差はない。韓国の場合は、各国独自の炭素市場は国内雇用に有利に働いていること(4)各国は、共同市場を通じて消費者や企業のコストを最小化する政策目的が達成できるが、各国の市場に潜在する低炭素化のメリットが見落とされる恐れがあること(5)共同炭素市場を通じて他国から炭素許可証を取得することは、各国が炭素税やカーボンプライングによる収入を失わさせる結果になりかねないこと(6)共同炭素市場の実施が、3カ国の化石燃料関連産業に悪影響を与えることが確認された。

 その他にも、報告の内容を総括した後で、いくつかの今後の研究課題が挙げられた。

pdf発表資料(昔)(4.15MB)