Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年12月19日(月)部門C研究会 議事録

2022年12月19日(月)
於:Zoomオンライン会議

 2022年12月19日(月)17時~20時、再生可能エネルギー経済学講座部門Cの研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。今回は、株式会社野村資本市場研究所の江夏あかね様、一般社団法人日本卸電力取引所の国松亮一様よりご報告いただきました。

サステナブルファイナンスの動向
- ESG/SDGs、非財務情報開示に焦点を当てて -

江夏 あかね 様

 本報告は、ESG(環境・社会・ガバナンス)/SDGs(持続可能な開発目標)を軸に、世界並びに日本におけるサステナブルファイナンスや非財務情報開示の動向や課題を論考することが目的であった。

 報告の前半では、SDGsが重要視される背景や資する資金調達・運用状況を中心に紹介し、日本における持続可能な社会を成し遂げるために抱える問題点や解決策に触れた。世界の人口増加や経済成長に伴い、環境・社会問題が顕在化する中で、持続可能な社会の重要性が認識され、実現に向けた様々な取り組みが進められている。国際目標であるSDGsは、国・地方公共団体・政府系機関といった公的主体のみならず、経団連等の産業界等も含めた幅広いステークホルダーが達成に向けて注力している。企業にとっては、SDGsへの取り組みが、新たなビジネス機会の創出等のメリットにつながり得ることも認識されており、大企業を中心に浸透してきた。

 一方、サステナブルファイナンスの代表的な手法であるESG投資は、SDGsと密接に関係している。金融市場において注目が高まるESG投資は、欧米を中心に伸びてきたが、近年は日本を含めたアジア等でも拡大傾向となっている。日本におけるESG投資残高は2022年3月末時点で、約494兆円に達している。さらに、環境・社会課題を解決するためのニーズを満たすため、ESG/SDGsに関連する金融商品の開発も続いている。近年、グリーンボンドやソーシャルボンドに代表されるSDGs債の発行残高が拡大するとともに、発行体セクターも多様化している。最後に、日本における持続可能な社会の実現に向けて、環境、ジェンダー、不平等の是正、持続可能な生産消費形態などの分野における問題点と金融面から取り得る対応策について言及した。

 報告の後半では、非財務情報開示の動向及び今後の論点について提示した。企業価値に占める非財務要素の割合の高まりや、サステナブルファイナンスの進展を通じて、非財務情報開示がますます重要になっている。非財務情報開示は、企業、金融機関、金融商品を対象とするものを中心に、世界で様々な進展が見られている。主な動きは、(1)開示内容の比較可能性を確保すべく、国際的に共通のフレームワークの開発、(2)一部の国・地域で開示を義務化、である。

 持続可能な金融市場の健全な発展を目指すためには、非財務情報開示の充実化が不可欠であることを強調するだけでなく、今後(1)企業価値向上のツールとしての位置づけ、(2)情報の質の確保、(3)インパクトレポーティングを通じたインパクトの創出などが論点だと指摘した。

 最後に、報告の内容を総括した上で、日本におけるサステナブルファイナンスの今後の発展に期待する。

最近の電力卸価格の高騰と電力市場見直しの議論について

国松 亮一 様

 本報告は、最近の電力卸価格の高騰現象に焦点を当てて、日本における電力市場のあり方を議論することが目的とした。

 まず、組織構成、歴史・沿革及び市場種類などの部分から、日本卸電力取引所(JEPX)を紹介した。JEPXとは、電気事業者の21社による社員総会をはじめ、理事会、事務局、市場取引監視委員会、市場取引検証特別委員会、運営委員会などの部門から構成されている。2005年に電力取引(スポット取引、先渡取引)を開始して以来、日本の卸電力取引を受け持っている。電力システム改革の進展に伴って、卸電力取引が総需要に占めるシェアは当初の小さい比率から小売全面自由化開始時点の約2%を渡って最近の30%を超える水準に推移し、電力システムの基幹インフラの一つになりつつある。JEPXでは、主要市場として一日前市場(スポット市場)、その後の調整市場として当日市場(時間前市場)を開設した。その他には、役割が異なる複数の電力取引市場(先渡市場、ベースロード市場、間接送電権市場、掲示板市場、非化石価値市場)も併存している。

 次に、開所以来の取引会員数の推移、取引量並びに取引価格を観測した。取引会員数は年々増加傾向にある。また、スポット市場の取引約定量平均値は、2018年10月に行った連系線の制度改革により大幅に増加している。しかし、東京エリアプライス平均値から見ると、2021年度1月のLNG不足やロシア・ウクライナ戦争などの原因が電気料金の高騰現象を誘発させ、日本の卸電力市場の現行システムに対する懸念を抱かせる。

 そして、各型取引市場の特徴を分析した上で、日本における卸電力市場のあり方について議論した。日本における電力市場設計では、「給電指示型(PJM、規制(指示)による最適化)」と「自由市場型(EPEX、競争による最適化)」の二策が混在している。どちらを志向するか議論し、その策に応じた課題解決を選択すべきと指摘した。続いて、両方に存在する課題とそれに対応する解決策を詳細に述べた。給電指示型に目指すことにより多くの課題を解決でき、カーボンニュートラルの実現、将来に亘る計画の実現に適していると考える。しかし、給電指示型にするにあたって(1)系統運用者(市場運営者)のスキル・システム等運用者リソースの確保、(2)発電の事前提出情報の確認方法、(3)事業全体の流動性は低下する(事業の硬直化)などの課題がある。その一方で、自由市場型にすることにより、小売電気事業者の事業継続性が大きな課題となる。なぜなら、制度が小売電気事業者の責務を増大させ、財務的リスクもより大きくなものとなる。したがって、小売電気事業者の供給力確保義務の履行が鍵となる。

 最後に、日本における卸電力市場のあり方に関する議論動向について提言し、目指すべきは「強制プール型」であることが強調された。

pdf発表資料(国松)(781.64KB)