Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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第4回 再エネ講座公開研究会(第1回【部門A】)
『カーボンニュートラルを支える洋上風力発電』

1.主催

京都大学再生可能エネルギー経済学講座

2.開催日時

4月25日(月)17:00~20:00 <オンライン>

3.プログラム

第1部 洋上風力発電の最新情報

(17:00-18:30)

洋上風力の内外の展望(仮)

京都大学特任教授 荒川忠一

pdf資料(荒川)(7.83MB)

洋上風力の技術の進展(仮)

カーボントラスト・ マネージャー  Faizi Freemantle氏 (Carbon Trust)
“Lessons learned from creating an offshore wind industry in Europe.”

pdf資料(Faizi Freemantle)(1.52MB)

第2部 洋上風力発電の大規模普及を目指した地域との連携と社会受容性、政策の在り方

パネル討論を中心に(18:30-20:00) 
パネリストは最初に最大15分意見表明

洋上風力と地域の連携(仮)

長崎大学 研究開発推進機構 機構長特別補佐・森田孝明氏
『大学連携の推進による「海洋再生可能エネルギーと地域振興」への貢献』

pdf資料(森田)(11.91MB)

大規模普及のための社会受容性1(仮)

東邦大学・竹内彩乃氏
「再エネ海域利用法に基づく協議会の議事録分析(仮)」

pdf資料(竹内)(1.19MB)

大規模普及のための社会受容性2(仮)

京都大学・岩田健吾氏
「洋上風力に対する一般市民の選好分析及び経済評価 ―選択型実験を用いて」

pdf資料(岩田)(1.83MB)


モデレータ:京都大学・荒川忠一

※終了時刻は若干前後する場合がございます。

4.議事録

2022年4月25日
於:Zoom会議室(オンライン)

 4月25日(月)17時から20時15分まで、第4回再生可能エネルギー経済学講座公開研究会(第1回【部門A】)「カーボンニュートラルを支える」がオンラインで開催されました。今回の研究会では、第1部「洋上風力発電の最新情報」で、京都大学の荒川忠一先生と英カーボン・トラストのFaizi Freemantle氏から講演を頂き、第2部「洋上風力発電の大規模普及を目指した地域との連携と社会受容性、政策の在り方」では、パネリストの長崎大学の森田孝明氏、東邦大学の竹内彩乃氏、京都大学の岩田健吾氏から意見表明が行われた後、パネル討論が行われました。

第1部「洋上風力発電の最新情報」

洋上風力の内外の展望

荒川忠一

 本講演は、カーボンニュートラルに向けた普及促進において、地域振興が重要課題との視点から、洋上風力の議論をアカデミーの立場から深めていく。世界の風力発電の設備容量の推移を見ると、2021年末で840GWに達する。年間成長率は26%から12%へと小さくなりつつある。洋上風力発電も57GW、全体の7%にまでに成長した。日本は2021年末で4.58GW(世界は837GWで、日本の占める率は0.5%)で、成長はしているものの伸びは小さい。欧州平均で電力比15%(最大のデンマークは44%;英国は22%)に対し、日本はわずか0.7%である。洋上風車は着床式(水深50m程度まで)、浮体式(水深50-200m程度まで)があり、北欧では、浮体式が主流になっている。

 第6次エネルギー基本計画を見ると、再エネは従来の24%から38%に増加した。2030年度の発電電力量・電源構成は、風力が従来目標の1.7%から5%に増加、設備容量で10GWから23GWに増加している(現在はまだ4.4GW)。2050年カーボンニュートラルの実現をするため、政府内で議論が進められ、2050年には発電量の約50-60%を再エネで賄うことが議論されているが、さらに高みを目指し議論が進められるべきで、その中心になるのが洋上風力と考える。日本では、港湾における洋上風力発電の計画が進んでいる。また、再エネ海域利用法により、広大な一般海域の洋上風力発電が進められる。再エネのポテンシャルは、環境省試算によると、日本には電力供給量の最大2倍のポテンシャルが存在すると言われており、風力発電のポテンシャルが最も大きい。

 再エネを欧米並みに増やすためには、洋上風力発電の一層の加速が必須であり、地域との連携、地域振興が重要である。漁業協調、電力の地産地消、地域振興、雇用確保を目指し、地域住民と事業者とのWin-Winの関係を築くことが肝要である。洋上風力の入札制度を改善して地域振興に重点をおき、更に海面利用権の入札を別途行う抜本的改革も視野に入れ、浮体式洋上風力を活用していくことが求められている。

Lessons learned from creating an offshore wind industry in Europe(欧州洋上風力産業の創出からの教訓)

Faizi Freemantle

 本講演では、欧州における洋上風力産業の創出からの教訓について共有する。カーボン・トラストは、20年前に英国政府が設立した非営利団体である。洋上風力の加速化(OWA)プログラムや浮体式洋上風力などに関する世界規模の研究開発プログラム(3社の日本企業(TEPCO、東北電力、九電未来エネルギー)も参加)などに関与している。

 欧州と英国の政府によって洋上風力が好まれる理由は、1)規模(1GW以上の事業が可能)、2)他の再エネより高い設備利用率、3)陸上風力と比べ、ローカルコミュニティの反対が少ないこと(特に英国)、4)沿岸の需要地に近いこと、5)経済性(規模の経済による低コストのポテンシャルと雇用創出などの経済的利益)である。欧州では洋上風力が成功を収めてきた。特に、デンマーク、英国、オランダ、ドイツで成功し、最近、他地域では中国が成功を収めている。欧州での成功は推進政策、公私による研究開発の支援等で、洋上風力は欧州で著しいコスト低減を実現してきた。

 成功の一因は政策で、6つの主要な要素、1)市場の規模・視認性、2)サイト開発、3)グリッドへの接続、4)インセンティブ・メカニズム(FITやCfD)、5)サプライチェーン開発(ローカルコンテンツの推奨等)、6)イノベーションへの支援があった。

 英国の事例を紹介すると、政府は洋上風力産業の成長を支援してきた。2019年には洋上風力部門で、2030年目標を30GWに設定したが、2021年にはネット・ゼロ戦略の一部として40GWに引き上げ、2022年にはエネルギー安全保障戦略の一部として50GWにさらに引き上げた。FITやCfD等の補助金制度を通じた支援を継続し、許認可や規制の明確化も図ってきた。インセンティブ・メカニズムは産業の成熟度、競争力のあるサプライチェーンの発展により、徐々に減らされていった。英国では洋上風力向け入札制度は、9.7GWの風力発電が達成されて後で導入された。

 幅広いR&Dからのイノベーションは、洋上風力発電のコスト低減と開発の加速に寄与してきた。英国では、カーボン・トラスト含め、公的機関も私企業も洋上風力発電のR&Dに支援してきた。OWAは2008年に開始された最大のイノベーションプラットフォームで、サプライチェーンへの基金になっており、市場へのイノベーションを推進する場となっている。OWAは185以上のプロジェクト、105百万ポンド、200以上の関係者が関与する場を創出した。

第2部「洋上風力発電の大規模普及を目指した地域との連携と社会受容性、政策の在り方」

大学連携の推進による「海洋再生可能エネルギーと地域振興」への貢献

森田孝明

 長崎県では、2013年度から海洋エネルギー分野を同県の新たな産業にできないかを検討するため、プレ有識者会議を開始し、2016年には、長崎大学等との連携協定を締結し、長崎大学が海洋未来イノベーション機構を創設した。2019年には、日本財団オーシャンイノベーション人材育成・フィールドセンター(長崎海洋アカデミー)事業を獲得し、2020年には県庁に、長崎オープンイノベーション拠点を設置する等、海洋再生可能エネルギーを進めていく環境整備が進められた。

 再エネ海域利用法の施行が進められ、日本国内で、促進区域と有望区域は計12、一定の準備段階に進んでいる区域まで入れると計22の区域が選定されている(2021年9月時点)。促進区域になるには、都道府県からの情報収集、地元関係者との調整状況について、都道府県が上げる必要がある。

 洋上風力発電の現状と導入拡大に向けた取り組みを見ると、2030年の導入目標の達成には、未稼働分の稼働見込み0.7GW及び再エネ海域利用法に基づく公募(1.7GW;2021年12月24日に決定)を除くと、更に約3GWを開発する必要があり、開発を加速させる必要がある。早期稼働を担保する観点から、公募制度の見直し、日本版セントラル方式の確立など、何れも必要なことと思われるが、後者は初期段階から地方自治体が関与する等が求められている。公募の事業実現性の評価では、知事意見を最大限尊重する項目が含められている。長崎の第一号である五島市沖の案件では、全体理念として、選定事業者は、地元との共存共栄の理念について理解し、地域資源たる風と海を最大限活かした、地方創生にも資する発電事業の実施に努めること、とされている。

 長崎大学も大学が持っている知見で支援し、国際シンポジウム等をやりながら、特に漁業との調整のところでは色々な知見を蓄積する等、貢献しようとしている。また、大学内の海洋未来イノベーション機構では海にまつわる様々な研究(例:水産業とのモデル研究等)を促進して地域に役立てようとしている。また、長崎海洋アカデミーでは社会人育成を、長崎大学では海洋未来科学コースを開講する等、実践的な教育を行っている。洋上風力の推進のため、大学から地域振興への支援が重要だと考える。

再エネ海域利用法に基づく協議会の議事録分析

竹内彩乃

 洋上風力ビジョン(2020)によると、2040年までに4,500万kW達成という目標を掲げているが、これは10MWの風車を4,500基設置に該当する。我が国における洋上風力発電推進の課題は、海洋工事コストが高く、送電網等のインフラやサプライチェーンが不十分、利害関係者との調整が困難、洋上風力に関連する制度整備が不十分、海洋空間計画との整合性がない等が挙げられる。海洋空間計画との整合性を取っていく上でも、今後、地域で議論されている再エネ海域利用法に関する議論を全体としてみていく必要があると考えている。

 再エネ海域利用法に基づく協議会では、「第9条 協議会において協議が調った事項については、協議会の構成員は、その協議の結果を尊重しなければならない」とあり、協議結果が重要だと考える。協議会において出された課題、議論の経緯を分析することで、協議会の果たす役割と課題について考察することができると考える。

 海域利用に関わる会議体について、会議体の目的と参加主体を整理した。協議会議事録から、地域、漁業協調、事業等に関わるワードの出現回数とページあたりの出現回数(割合)を整理した。具体的な議事録分析では、協議構造の可視化を行った。例えば、発言への対応を分析し、協議だけでなく、関係省庁との調整や追加調査が行われて対応されるものもあり、他事例とも共有することで、協議会運営の効率化を図ることができると考える。

 まとめると、五島市では、地域で再エネ、洋上風力を推進するにあたり、地域のメンテナンス産業や漁業協調など、洋上風力だけを目的とした協議体だけではなく、関連産業に関する協議体が設置されたことにより、協議会の段階で漁業、地域活性化という議論というより、別のテーマで話し合いが進められていたというところが、協議会のキーワードから見て取れた。今後、詳細に精査する必要がある。今後、各地域の議事録分析を通じ、効果的な事前調整、協議会で話し合うべきテーマ設定に関する知見を提供できると考えられる。

洋上風力に対する一般市民の選好分析及び経済評価 ―選択型実験を用いてー

岩田健吾

 研究の背景として、今後、日本海域に多くの洋上風力発電が導入されれば、海洋生態系にも何らかの影響が及ぶ可能性があり、洋上風力に対する地域住民の懸念、反対運動も増加する可能性がある。再エネ推進肯定派と再エネ推進懐疑派が存在し、既往研究でも言及があるが、データに基づいた研究は少ない。したがい、本研究の目的は、1)オンライン・アンケート調査・比較分析を行い、「Green v.s. Green議論」の仮説の検証を行い、2)洋上風力発電に対し、どのような要因が満たされれば地域社会に受容されるのかを明らかにすることである。本日はオンライン・アンケート調査により得られたデータを、ロジットモデルを用いて推定し、その結果内容を報告する。

 調査概要は、楽天インサイトにオンライン調査を依頼し、2020年12月22日から23日にかけて実施し、回答数は900サンプル得られ、統計ソフト(Stata16)により推定した。男女や年齢構成においてサンプリングの偏りはないことが確認された。選択型実験を5回繰り返した。調査では、900人のモニターをランダムに3つのグループに分けて情報をそれぞれに提供した。

 混合ロジットモデルで推定した結果、全ての属性において統計的に有意な結果を得られた。その結果、分かったことは、1)国内の一般市民は、洋上風力に対して、景観に関わる距離と気候変動の緩和につながるCO2削減効果に対し、大きく反応し、2)洋上風力の建設により影響を受ける生物種に関しては、相対的にあまり大きな反応を示さず、3)情報提示による影響(選好が有意に異なるかどうか)は確認されなかった。

 これらを踏まえた政策や産業への含意は、景観を考慮すべき、風力発電の推進による外部便益である気候変動の緩和に貢献することを強調すべきということが国民の社会的受容性に大きく影響するということである。今後の研究では、関係地域(壱岐市など)の市民に対する選好分析を行い、一般市民との比較・仮説検証を行う予定である。

5.参加定員

約300名様
※セミナーの録画および録音等はご遠慮いただいております。

6.参加費

無料
※事前のお申込みが必要です。

7.参加のお申込みについて

8.セミナー使用システムについて

ZOOMウェビナーを使用してのオンラインシンポジウムとなります。
主催者側からお送りするURLにアクセスいただくことでご参加いただけます。
※通信料はご参加者さまご負担となりますので、Wi-Fi環境下でのご参加をおすすめします。

9.その他・開催進行について

ご質問は、ZOOMの「Q&A」を使って受け付けますので、「Q&A」に質問事項をご記入ください。可能な限り、回答させていただきます。


※報告資料について
開催当日の9:00以降に講座HPならびに以下リンク先に順次掲載させていただきます。
https://drive.google.com/drive/folders/1SzvRZGifE29pe8TzF8xMPc8gX6Lcr2by?usp=sharing
なお、登壇者による資料は一部非公開とさせていただいているケースもございます。すべての報告資料が公開されるわけではない点、予めご了承ください。

ご不明な点につきましては下記までお問合せください。
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京都大学大学院 経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座
E-mail:ree.kyoto.u@gmail.com
HP: http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/top/
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-3474
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