Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.155 再エネプレミアム制度(FIP)その2
ドイツ10年間の経験に学ぶ②:強制「直接販売」と入札

2019年11月21日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 前回は、ドイツのポストFITの第一弾といえる2012年改正再エネ法(EEG2012)について、FITとの選択制度として導入された直接販売・FIPを紹介した(再エネプレミアム制度(FIP)その1ドイツ10年間の経験学ぶ①:再エネの成熟化と「直接販売」の導入)。主力である風力の多くが直接販売・FIPを選択するなど、再エネの市場統合(Market-Integration)に大きく寄与した。

 今回は、前回に引き続きドイツの再エネ市場統合の経緯について解説する。2014年改正にてFIPは強制制度となり、指定価格の決定に競争入札が導入され、事実上FIT見直しに向けた措置は完了する。資料1は、ドイツにおける再エネ支援制度の概要と経緯について、普及状況も含めて示したものである。本論はこれの2012年以降の解説である。

資料1.ドイツの再エネ支援制度の概要とその推移
資料1.ドイツの再エネ支援制度の概要とその推移
(注)再エネ比率:総発電量に占める再エネ比率
FIT:Feed in Tariff、FIP:Feed in Premium、DM:Direct Marketing、GC:Gate Close
EEG:Erneuerbare Energien Gesetz(Renewable Energy Sources Act)
(出所)筆者作成

1.ドイツの2012年改正:直接販売制(選択FIP)の導入

 前回の復讐となるが、ドイツは再エネの市場統合を目指して、2012年改正再エネ法にて、FITとの選択制ではあるが、直接販売・FIPを導入する(資料2)。2014年改正にて強制FIPに移行することになるが、そのときには主力の風力は約8割がFIPを選択しており、FITからFIPへは円滑に移行したといえる。FIPは、再エネ事業者が市場に直接販売するが、事業継続が見込める利益水準を維持しうるkWh当り価格(指定価格)と市場価格の差額(プレミアム)を補填することで、投資環境を維持しようとするものである。再エネ事業者の収入は、市場への販売収入と政策支援であるプレミアム収入の2本立てとなる。

資料2.ドイツの2012・2014EEGスキーム
資料2.ドイツの2012・2014EEGスキーム
(筆者注)・2012EEG:モデル1(FIP)とモデル2(FIT)は選択制
     ・2014EEG:モデル1(FIP)は強制、モデル2(FIT)は小規模(100kW未満)
(出所)Becker Büttner Held

【FIPの類型:固定型と変動型】

 FIPは、プレミアムが一定水準に固定されて総収入が市場価格に応じて変動する「固定型FIP」と、総収入が指定価格適用水準を確保できるようにプレミアムを市場価格に応じて変動させる「変動型FIP」とに分類される。固定型FIPの変動リスクを緩和するために上限と下限を設定する方式もある(資料3)。欧州では、一般に変動型FIPが採用されている。固定型FIPは参加者が市場価格を意識して行動するというメリットはあるが、総収入が変動し投資回収の予見性に不安があり「再エネ普及が止まると元も子もなくなる」懸念から敬遠されている。

資料3.FIP(Feed in Premium)類型
資料3.FIP(Feed in Premium)類型
(出所)資源エネルギ-庁

【ドイツ型:収入予見性を維持しつつ市場価格を意識させる仕組み】

 ドイツも変動型プレミアムを採用したが、プレミアムの計算方法において固定型を一部取り入れ、価格変化を意識するように工夫している。プレミアム計算において、市場価格を月単位の加重平均としたが、これは月単位では固定型であることを意味する。FIT価格を超えて売れることもあろうし、価格が下がってもプレミアム分は確保できる。市場統合の狙いである価格に応じて販売量を調整する誘因が働く。柔軟運転が可能なバイオマスや貯水式水力のような再エネは、FITよりも高い利潤を享受できる可能性が高まるし、それは市場に柔軟性を供給することに寄与する。

 平均市場価格の考え方であるが、30分、1時間単位とすると、価格変動を柔軟に吸収できることから、FITに近い制度となる。期間を長くとるとプレミアムはほぼ固定され、短期的な市場変動の影響を受ける。ドイツは月単位としたが、変動FIPと称しているので、短い期間を採用したとの意識があるのだろう(筆者には固定要素が強く見えるが)。なお、日本では、このドイツ型を参考にするようである。

【各種プレミアムを考案:円滑な移行への工夫】

 しかし、FIPはFITに比べると投資回収の予見性は下がり、その分コストは増える。取引費用、天候・需要を予想する費用、インバランスペナルティ等が追加で発生する。そこで、市場プレミアム(FIP)に加えて、取引・予測等にかかる費用の一部をカバーする「マネジメントプレミアム」、価格変動に応じた運用を促す「フレキシビリティ・プレミアム」を合わせて導入した。マネジメントプレミアムは、風力・太陽光は1kW当り1.2セント、バイオマス・水力は0.3セントとされた。

【ダイレクトマーケッターの登場】

 個々の再エネ事業者が、自ら取引を行いリスクを管理することは容易ではない。個別設備をまとめて運用・管理する事業者に委託すれば、スケールメリットにて手数料を払ってもマネジメントプレミアム内で対応できる可能性が高くなる。このサービスプロバイダーは「再エネアグリゲーター」、「ダイレクトマーケッター」と称されるが、風力設備を主に活躍し、短期間で事業者集中が進んだ。このダイレクトマーケッターの活躍と、経過措置ともいえる複数のプレミアムの存在により、特に風力は予想以上にプレミアム制度への転換が進んだ。資料4は、ドイツのスマートグリッド実証事業である「E-Energy」6事業の一つであるRegModHartz事業におけるシュミレーションである。2008年の数字を使用している。FIP制度下におけるダイレクトマーケッター、風力発電事業者の収支構造が分る。

資料4.風力発電ダイレクトマーケッターの収支計算
(2008年実績を基にFIP制度適用、ハルツ地方)

資料4.風力発電ダイレクトマーケッターの収支計算<br>(2008年実績を基にFIP制度適用、ハルツ地方)
(出所)ReGMoDHarz事業報告書(2013年)より作成

 自ら調整力をもつ(Dispatchable)バイオマス発電や貯水式水力にとっては、プレミアム制度は制度の趣旨に見合う活動が可能となる。価格が高いときに多く発電し、低いときに少なくすることが可能になる。特に熱も併給するバイオマスは、余剰の熱を貯めるタンク等の投資も併せて行うことにより、高い調整力を発揮することになる。ダイレクトマーケッターとして著名なネクストクラフトベルケ社のVPP(Virtual Power Plant)は、バイオマス発電設備を集約・利用して成功した商業モデルである。

 一方で、天候に左右される風力、太陽光は、この機能はあまり期待できない。燃料費ゼロなのでプレミアムを含めて少しでも値段が付く限りは、稼働する方が合理的になる。もちろん定期点検、メンテナンスの実施を、低価格の時期に誘導する効果は期待できる。また、蓄電池を利用できる場合は、市場投入を比較的柔軟にできる。実際に、ゾンネン社に代表される太陽光と蓄電池を組み合わせたビジネスモデルが活躍している。

 いずれにしても同時同量遵守、インバランス回避の制約があるので、天候予測、自ら参加できる当日市場、インバランス価格の基礎となるバランシング市場等を意識した行動になる。ダイレクトマーケッターのスキルが試される場でもある。

2.ドイツの2014年(2017年)改正:直接販売の義務化と入札制の導入

【義務となった直接販売制度】

 2014年改正は市場移行への集大成ともいえる内容である。直接販売(プレミアム)制度は、2014年8月以降選択制から強制に移行した。小規模設備は適用除外とされ、当初は500kW未満、2016年1月からは100kWに引き下げられた(資料1、資料2)。すなわち現状は、100kW以上は直接販売制(FIP)であり、100kW未満と既存事業はFITとなっている。FIPではFIT価格に代わる指定価格(レファレンスプライス)が再エネ種毎に定められるが、立地や設備仕様等によりバリエーションが設けられる。この時点では、風力の8割はFIPに移行しており殆ど影響はないとされた。また、指定価格は長期的に引き下げられることとなり、再エネ種毎に数字が設定された。

 なお、2014年改正に合わせる形で、当日市場の変革が実施された。2014年12月に小口取引も容易になる入札制15分商品が導入され、2015年7月に市場閉場時間が実供給時間30分前に短縮された(資料1)。

【マイナス価格時のプレミアム制約とマネジメントプレミアムの廃止】

 市場統合を促す機能も追加された。供給過剰時には価格はマイナスになるが、再エネが普及するとこの頻度が増えることになる。(もっともマイナス価格には、調整力に乏しい褐炭火力が政治的に一定のシェアを維持していたことの影響も大きい。)マイナス価格が6時間以上継続する場合のプレミアムはゼロとなり、風力・太陽光も自主的に出力抑制する誘因が働くこととなった。これは下限キャップの導入ともいえる。

 一方で、支援措置は縮小された。同時同量対策に要する費用が小さくなったとの認識の下で、取引や天候予想等にかかるコストを補填するマネジメントプレミアムは廃止された。国産バイオマス資源利用が一巡したこと、サステナブル運営の視点から、バイオマスは適用枠が縮小された。なお、FIT以外の優先接続・給電等主要な支援措置は、卒FIT事業を含めて、(現在も)不変である。

【年間設置量目標と再エネコリドー】

 当改正のもう一つのポイントは、年間導入量に関して目標値が設定されたことである。長期的な節目の目標値は既に設定されているが、空白となっていた中間目標が幅をもって導入された。電力消費に対する再エネ割合は2020年35%、30年50%、2040年65%、2050年80%と定められていたが、新たに2025年40~50%、2035年55~60%と幅をもった目標が挿入された。これは「再エネコリドー」「拡大コリドー」と称されるが、想定を上回る普及が続き、賦課金増大やインフラ整備が間に合わない事態が現実化したことから、幅を設けることで調整することとしたのである。

 これは太陽光、風力に導入された年間導入目標に幅(枠)を設けたことと符合する。FIT価格の変更幅と頻度を、普及進捗状況に応じて柔軟に変える「ブリージングキャップ制度」が導入された。太陽光は毎月、風力は四半期ごとに見直す。普及状況を判断する基礎として年間導入目標を設定するが、これに一定の幅を設ける。太陽光と風力は240~260万kWとされ、中心値の250万kWが目安となった。風力は、少ないとの批判が起こり更新投資(リパワー)を含めることで280万kWに引き上げられた。バイオマスは15万kWである。この枠の導入は入札制度創設とも平仄が取れる。

 なお、ブリージングキャップ制度は、2012年改正において太陽光には先行的に導入されていた。日本も、FIT導入後太陽光の爆発的普及を見ることになるが、ドイツでは既に2011~2012年において様々な沈静化策が講じられていたのである。

【入札制の導入:太陽光で試行し2017年に本格導入】

 最後にそして最大の改革になるが、競争環境整備の目的で、入札制度が導入された。土地置き太陽光発電に先行的、試行的に実施するが、2017年度全面導入のスケジュールも盛り込まれた(資料1)。FIPも大きな変革であったが、販売価格目安として指定価格が設定されており、収益の予見性はかなり担保されていた。入札制は、20年間固定される販売価格そのものを競うものであり、競争者にとり事業を確保するためコスト面で無理を強いられることも考えられる。手続き等にコスト、時間を要する。保証金(手付金)支払いや落札後実施しない場合のペナルティが課される。取引実績(レコード)や財務状況・融資証明等調達能力を示す必要がある。また、一般に価格競争ではスケールメリットが働くとされ、小規模事業者には不利になる。

【入札制導入の背景にEU競争総局と大手エネルギ-事業者の思惑】

 入札制導入の背景としては、再エネ普及、再エネコストの低下、賦課金の累増とそれに伴う料金高騰、市場革新の進展等があるが、EU競争総局(DG-Competition)が勧告を出した影響が大きい。EU当局は、ドイツがエネルギ-多消費型産業に対してFIT賦課金を免除していることを問題視していた。また、EU政府に対して、既存の大手エネルギ-会社の働きかけがあったとの指摘もある。入札制は量的コントロールがしやすく、参加者にとりコストがかかるようになり、大規模事業者に有利に働くことになる。ドイツでは、産業優遇縮小策については、複雑な適用除外や条件設定にて、その効果は曖昧となったとの指摘がある。一方で、入札制度導入については着実に実施してきた。再エネ市場統合には、FIP導入はいずれ通る道程といえるが、価格入札は政策で決める指定価格との優劣については多くの議論があった。

 太陽光の試行については、2015年から2016年にかけて4回実施された。着実に落札価格が下がりその効果は確認できたとされ、予定通り2017年より全面的に実施された。入札導入には枠設定が必要になる。2017年と18年の2年間について種類ごとの年間導入量が設定され、太陽光は60万kW、風力は280万kW、バイオマスは15万kWとなった。年間3回程度実施するとして、17~18年の2年間については、種類ごとにスケジュールと募集量が公表された。入札に際してはFIP指定価格(750kW未満)やFIT価格(100kW未満)も参考値とされる。価格決定は個々の落札価格がそのまま適用される(pay as bid)。洋上風力は、2014年に決められた導入目標量はそのままだが、入札は前倒しとなった。

 入札制度実施後の再エネ導入量についてみてみると、太陽光、風力は、入札価格は下がって来ている。一方で、落札量は減少傾向にある。特に小規模事業者の量は顕著に減ってきている。

最後に:ドイツは成熟化に合わせ市場統合の手順を踏んできた

 2回にわたりFITからFIPへの移行、入札制の導入に関して、2009年から2017年におよぶドイツの経験を解説した。風力、太陽光は成熟段階に入り、バイオマスは国内資源をほぼ利用しつくす状況の中で、2012年に直接販売・FIP(選択)、2014年に同左(強制)、2015年に入札(実証)、2017年に入札(全面)と段階的に市場統合が進められてきた。総発電電力量に占める再エネのシェアは、23%(2012年)、26%(14)、29%(15)、33%(17)と主力化の途を着実に辿ってきた。伝統的な再エネである水力は約3%であり風力、太陽光、バイオマスを主とする新しい再エネが殆どである。

 忘れてならないのは、FITと両輪となる再エネ推進策である優先接続、優先給電等は、現在まで一貫して存続していることである。また、卸取引市場の整備・革新は、再エネ普及に合わせて、直接販売をサポートする形で整備されてきている。買取支援、系統運用、市場運用が三位一体となって普及が実現し、国家目標を上回るペースで導入されてきた。そのなかで、「元も子もなくなる」ことのないように、段階を踏んで市場との統合を進めてきている。

 次回は、日本のFIT見直し、FIP導入に係る議論と背景そしてドイツとの相違を解説し、再エネ拡大と市場統合の両立が可能となる施策について考察する。

(参考文献)

・「ドイツの市場プレミアムはどう機能するのか」 西村健 佑 2019年10月 京大コラムNo.148
・「ドイツの再生可能エネルギ-推進策の現状と方向」 山家公雄 2017年2月 京都大学学術出版会「再生可能エネルギ-政策の国際比較 第2章」 
・「ドイツエネルギ-変革の真実」 山家公雄 2015年12月 エネルギ-フォーラム

(キーワード) ドイツ、FIP、プレミアム制度、入札、ダイレクトマーケッター