Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.161 再エネプレミアム制度(FIP)その3
-ドイツを参考にする日本-

2019年12月12日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 現在日本では、FIT見直しの議論が進められている。海外諸国と同様に日本もFIT制度導入に当たりドイツを手本としてきたが、見直しの議論においてもドイツは参考とされている。これまで2回にわたり、再エネFIP制度について、ドイツの経験を踏まえて解説した(「再エネプレミアム制度(FIP)とは何かその1」)(「再エネプレミアム制度(FIP)とは何かその2」)。今回は、ドイツ方式を総括するとともにそれを参考にしているようにみえる日本での議論を紹介し、彼我の比較のポイントを整理する。詳細な解説は次回に行う。

1.ドイツにみる再エネの市場統合方策(総括)

 ドイツは、風力、太陽光を主に再エネが主力電源に向けて拡大していく中で、市場価格機能を維持するべく市場統合(Market-Integration)を進めてきた。その手段としてプレミアム制度(FIP:Feed in Premium)を採用したが、それは直接販売制度と表裏一体である。そして、競争をより促進する目的で入札制度をに導入した。これらは、EUのエネルギ-政策・競争政策とも平仄が合うものではあるが、FITによる再エネ普及先進国として、2050年再エネ電力80%を国家目標として明記しているなかで、再エネ開発意欲に水を差すことのないように、慎重に手順を踏んできた。すなわち2012年に直接販売・FIP(選択)、2014年に同左(強制)、2015年に入札(実証)、2017年に入札(全面)と段階的に市場統合を進めてきた(資料1)。

資料1.ドイツの再エネ支援制度の概要とその推移
資料1.ドイツの再エネ支援制度の概要とその推移
(注) 再エネ比率:総発電量に占める再エネ比率
FIT:Feed in Tariff
FIP:Feed in Premium
DM:Direct Marketing
GC:Gate Close
EEG:Erneuerbare-Energien-Gesetz
  (Renewable Energy Sources Act)
(出所)各種資料を基に筆者作成

2.日本で検討されているFIP案はドイツ型

FIPは完全市場統合に向けた経過措置

 適正利潤を基に販売価格を20年間保証するFIT制度は、投資の予見性を確保し、民間主導による再エネ設備形成の実現に大きな役割を果たした。一方で、需給状況に拘らず稼働が保証されることから本質的に市場機能の阻害要因となり、どこかのステージで廃止され、市場と統合される必要がある。再エネ事業者は、(送配電会社引取りに代わる)相対取引や卸市場への投入による「直接販売」の下では、約定したスケジュールと量に合わせる責任を負う(同時同量義務)。また、市場価格の変動を意識することになり、需給に応じて自ら出力調整を行う。これらの効果により再エネの市場統合は進むことになる。

 しかし、産業として未成熟な段階で導入すると、リスクが強く意識され開発が滞る懸念がある。事業を継続しうる利益を維持しつつも市場を意識する仕組みが、経過措置として必要になる。そこで、事業性が見込める政策(指定)価格と販売(市場)価格との差額を補てんプレミアム制度が考案され、欧州で広く採用されている。再エネ事業者は市場取引に伴う収入と政策的なプレミアム収入とを受け取ることになる。この制度はFIPと称される。

 FIPは、プレミアムが一定水準に固定されて総収入が市場価格に応じて変動する「固定型FIP」と、総収入が指定価格が適用される水準となるようにプレミアムを市場価格に応じて変動させる「変動型FIP」とに分類される(資料2)。欧州では、一般に変動FIPが採用されている。固定FIPは参加者が市場価格を意識して行動するというメリットはあるが、総収入が変動し投資回収の予見性に不安があり「再エネ普及が止まると元も子もなくなる」懸念から敬遠されている。

資料2.FIP(Feed in Premium)類型
資料2.FIP(Feed in Premium)類型
(出所)資源エネルギ-庁

ドイツ型:固定型の要素を含む変動型

 ドイツも変動プレミアムを採用したが、プレミアムの計算方法において固定制を一部取り入れ、価格変化を意識するように工夫している。プレミアム計算において、市場価格を月単位の平均としたが、これは月単位では固定制であることを意味する。平均市場価格の考え方であるが、30分、1時間単位で見ると、価格変動を柔軟に吸収できることから、FITに近い制度となる。期間を長くとるとプレミアムはほぼ固定され、短期的な市場変動の影響を受ける。ドイツは月単位としたが、変動FIPと称しているので、短い期間を採用したとの意識があるのだろう。

 日本では、このドイツ型を参考にするようである。資料3は、第2回再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(10月15日)にて提示されたFIPの概念図であるが、明らかにドイツ型である。ここでは、指定価格は基準価格(FIP価格)、市場価格平均値は参照価格とされている。なお、同図の詳しい解説は次回に行う。

資料3.FIP制度の概要
資料3.FIP制度の概要
(出所)資源エネルギ-庁 再生可能エネルギ-視力電源化制度設計小委員会(10/15/2019)

3.日本とドイツはどう異なるのか

2012年創設のFITにより再エネは着実に普及

 日本が再エネ普及策に本腰を入れたのは3.11東日本大震災後であり、FITは2012年7月に創設された。2010年の発電電力量に占める再エネの割合は9.5%であったが、除く水力は2%に過ぎなかった。2012年度以降、太陽光の導入を主に再エネ比率は着実に上昇し、2018年度は17%まで上昇したが、うち除く水力は9%となっている(資料4)。資料5は、2018年度の発電電力量の構成比であるが、水力8%、太陽光6%、バイオマス2%、風力1%となっている。水力は8%程度で安定的に推移している一方で、太陽光が牽引する形で除く水力が着実に伸びてきてはいる。

資料4.発電電力量に占める再エネ割合の推移(日本、2010~2018)
資料4.発電電力量に占める再エネ割合の推移(日本、2010~2018)
(出典)経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」
(出所)自然エネルギ-財団HP、()は筆者加筆

資料5.2018年度の発電電力量構成比(日本、速報値)
資料5.2018年度の発電電力量構成比(日本、速報値)
(出典)経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」
(出所)自然エネルギ-財団HP

日本・ドイツ比較を概観する

 しかし、ドイツとの比較では、市場統合や入札を導入するほどに成熟しているようには見えない。資料6は、FIT、FIP制度整備に係る情報について、日本とドイツを比較した表である。「買取支援等制度」としてFIT、FIPそして性格は少し異なるが入札を取り上げ、導入時期とFIT導入時を起点とした年数、その時点での再エネ比率(除く水力)をプロットしている。日本のFIPについては、FIT見直し期限後の2021年に導入されるものとしている。

 一見して分かるのは、導入時期の再エネ比率が日本は低いことである。また、FIPより前に入札を導入しており、市場取引の経験を積む前に競争環境の下に置かれている。

資料6.FIT・FIP制度整備に係る日独比較表
資料6.FIT・FIP制度整備に係る日独比較表
(出所)各種資料より筆者作成

 同表では、FIT等の支援策に加えて系統運用・接続、市場整備・革新についても現状を比較している。これらは「電力システム改革」そのものであり、再エネを含む新規参入や新技術推進にとり非常に重要な要素になる。既に多く指摘されているところではあるが、日本はかなり見劣りする。本質的に再エネ普及の環境が未整備であると言わざるを得ない。「市場統合」は、文字通り市場整備・革新とセットであってはじめてその意義が認められると考える。

 今回は、FIP考察シリーズの第3弾であるが、次週は、上記資料6を参考に、より詳しく解説を行い、その目指すべき制度設計について考察する。

キーワード:再エネ市場統合、FIP、ドイツ、卸市場革新