Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.205 容量市場入札② どうしてあり得ない高価格になったのか

2020年10月1日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:容量市場 市場支配力 広域機関 監視等委員会

 2020年度実施容量市場入札結果が9月14日に発表された。約定価格の14,217円/kWは上限価格で、固定費回収が可能となる単価の1.5倍の水準である。これが落札した全電源に適用され、4年後の2024年度に1兆6千億円もの総支払額が発生する衝撃の結果となった。その殆どは小売り事業者が負担する。過大需要見込み、過小供給オファー、入札価格過大見積もりはなかったのだろうか。今回は、前回に続きこのテーマを取り上げる。

始めに

 9月14日に電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)より容量市場入札結果が発表になり、同日に電力ガス市場監視等委員会(以下、監視等委員会)より監視の中間報告があった。17日には資源エネルギ-庁の制度検討作業部会にて報告された。そして28日は政府と広域機関の共同開催による「容量市場の在り方等に関する検討会」が開催され、来年度に向けた見直しの議論が始まった。今回は、この28日の資料を基に、改めて入札結果を振り返り、世界でも例を見ない高価格にとなった原因を考える。前回「No.204 容量市場入札① 1万4千円/kWになってしまった容量市場価格」(http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0204.html)の論考も参照されたい。

1.2020年度実施容量市場入札を振り返る

広域機関が決めた発電可能量(予備力)にかかる需要曲線

 図1は、2020年度実施(2024年度適用)容量市場入札にかかる需要曲線と供給曲線である。容量市場は、4年後に必要となる発電可能容量(デマンドレスポンスを含む)を広域機関が試算し、当容量に係る「需要曲線」を決める(赤線)。曲線は、新設のコンバインドサイクルガス火力発電が要する固定費が回収できる価格水準9,425円/kWを「指標価格(Net-CONE: Cost of New Entry)」とし、対応する容量を「目標調達量」1億7,747 万kWとする。この点を起点に下に凸の曲線を描くが(急勾配で直線のようにみえるが)、「上限価格」は指標価格の約1.5倍となる14,138円/kWとする(対応する容量は1億7,653万kW)。調達量にはFIT電源は含まれるが、既に固定費は回収されているとして、入札対象からは外されている。FIT電源は、実際の利用率を勘案した容量が試算されており、今回は1,179万kWとされた。

図1.2020年度実施 容量市場入札の需要・供給曲線
図1.2020年度実施 容量市場入札の需要・供給曲線
(出所)第27回 容量市場の在り方等に関する検討会資料(9/28/2020)に加筆

発電事業者のオファーを積み上げる供給曲線

 一方、発電事業者は、事前に公表された需要曲線を睨んで応札するが、入札価格の低い順に積み上げると右肩上がりの供給曲線となる(青線)。調達量1億5000万KW程度まではゼロ円で、以降急激に高くなる(立ち上がる)。需要曲線との交点が約定価格・数量となるが、今回はちょうど上限価格と一致し14,137円/kWとなった。約定総容量とFIT電源等の期待容量を合わせた調達量は1億7,948万kWとなった。

 これは目標調達量である1億7,747万kWを少し上回る(価格が高いにもかかわらず)。約定価格で入札した設備が複数あり、そのすべてが落札されたからである。均衡点よりも約300万kW増加し、「逆転現象」が生じることとなった。この同一価格全量落札処理は、入札規律を緩めかねないとして、見直しの対象となっている。

 発電方式別の応札容量をみると火力3/4、水力2割、原子力4.2%、再エネは0.2%である(図2)。落札率は97%となった。

図2 発電方式別の応札容量比率
図2 発電方式別の応札容量比率
(出所)広域機関「容量市場メインオークション約定結果資料」(9/14/2020)を加工

2.高価格約定となった理由を考える①:需給要因

政府、広域機関も想定外だった高い約定価格

 約定価格となった14,137円は、政府・広域機関を含めて予想を超えた高い水準であったようだ。固定費回収価格の5割増しであり、これがすべての落札電源に適用される。お手本とした米国PJMでは4000円前後で推移しているが、これは指標価格の1/3以下である。どうしてあり得ない価格になってしまったのか。「市場」価格は需要曲線と供給曲線の交点で決まるが、需要が大きく、供給が小さいと約定価格は上がるが、それを許すような設計だったのか、以下で検証してみる。

需要見込みは過大ではなかったか

 まず、需要であるが、「目標調達量」は広域機関が前提を積み上げて策定した。表1はその解説である。4年後のピーク時需要量として、最大需要上位3日(H3)の平均値をとる。そのうえで、気象変動、天変地異等の気頻度リスク、メンテナンス等による稼働停止等のリスクを考慮して、それでも供給可能となる容量を算出する。全体で予備率はH3需要量の112.6%とされた。この考え方が妥当なのかどうかがまず問われる。リスクを保守的に大きく見積もっていれば、想定需要は過大になる。H3の需要量は1億5000~6000万kWであり、12.6%は1900~2000万kWとなる。

表1 発電可能容量・目標調達量の考え方
表1 発電可能容量・目標調達量の考え方
(出所)第27回 容量市場の在り方等に関する検討会資料(9/28/2020)に加筆

 入札結果発表後の委員会でも議論になっているのは、「稀頻度リスク」である。想定外の地震、台風、強雨等により設備がダウンするリスクであるが、市場参加者が容量市場でカバーすべき容量なのかどうか。北海道ブラックアウト発生後、レジリエンスの視点が浮上する中で、急遽容量市場で確保すべきものとなった。これを容量市場の外で、一般送配電事業者が確保すべきではないかという議論である。

 また、気温変動、メンテナンス等による計画停止、需要変動等によるリスクについては、最大需要が発生するような場合は、事前の逼迫状況、市場価格水準の予想に基づき、市場参加者は準備すると考えられる。発電設備所有者は十分に稼働できる状態に、小売り(需要サイド)は需要を削減できるように予め備えるのではないか。自由化に伴う市場機能である。容量市場が存在せず、5分間隔で取引が行われるリアルタイム市場を利用して容量調整を行うテキサス州では、その価格シグナルにより市場参加者の自主的な調整行為を促している。同州のISOであるERCOTは、翌年のピーク時に焦点を当てて複数回予備力水準や市場価格水準を公表している。2018年、2019年に経験した低い予備率の状況において、市場参加者が「賢い」行為をとったことが確認されている。

2000万kWのオファー縮減は出し惜しみではないか

 次に供給であるが、オファーされる量が多いほど価格低下圧力が働く。米国PJMでは、発電可能なリソースは容量市場にオファーする義務(マストオファー・リクワイアメント)がある。日本では厳格なルールはない。図3は、今回入札に関する登録時の期待容量と実際の応札容量の差を比較したものである。応札容量縮減量535万kW、応札取り止め量1,467万kWで合計2,002万kWが減少した。特に、火力・原子力等の安定電源において多く生じた。応札価格14,000円以上の応札容量は929万kWあったが、2000万kWがオファーに加わっていれば、落札不可になっていた可能性がある。PJMルールであれば、需給環境は大きく変わっていたことが想定される。

図3 期待容量と応札容量の差異約2000万kWの内訳
図3 期待容量と応札容量の差異約2000万kWの内訳
(出所)第27回 容量市場の在り方等に関する検討会資料(9/28/2020)を一部加工

 なお、重要カーブの勾配が急で、直線のようになっている。上限価格と指標価格とそれぞれ対応する調達量の差は94万kWしかない。即ち94万kWオファーが減ると価格は50%上昇する。これは見直されるべきではないか。

2.高価格約定となった理由を考える②:市場支配力要因

入札ガイドラインの盲点

 市場支配力のある事業者の入札行為の監視は非常に重要である。オファーの出し惜しみ、入札価格のつり上げ等の行為が懸念されるからである。PJMの発電可能容量オファー義務もこうした行為を防ぐ意味が大きい。市場支配力行使防止に目を光らせているのが監視等委員会であるが、政府と共に入札ガイドラインを整備し、市場支配力行使を牽制してはいる。

 ガイドラインには、「維持管理コスト」と称する固定費の範囲が明記されており(表2)、不自然にコストを膨らませることはできないが、コストの範囲が曖昧なところもあり、想定外の解釈で織り込まれる(膨らむ)懸念がある。監視員会の中間評価でも、その懸念が示された。直ちに黒とは断言できないが、精査する必要があるようだ。

表2. 維持管理コストの算定項目例
表2. 維持管理コストの算定項目例
(出所)電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会 第三次中間とりまとめ(2020/5)

経過措置の盲点:石油火力が約定決定設備となった可能性

 応札価格14,000円以上の応札容量は929万kWであり、石油64%、LNG31%と併せて95%を占めた。石油火力発電は1979年以降新設禁止となっており、現存する発電設備は50年以上経過している。償却終了しているにも拘らず高い応札価格となったのは、メンテナンスコストだけでは説明がつかない。今回は2010年以前に稼働開始した設備は、償却が進んでいることから、約定価格から一定率を割り引くが、回収不十分となる懸念があるとして、その逆数をかけての入札が認められた。

 2024年度の割引率は42%であり、その後10年かけて引き下げられる。今回、逆数入札は約定価格を大幅に引き上げる役割を果たした。経過措置とそのリカバー策という特殊条件が影響した訳であり、監視委員会は、今回の結果を受けて見直し可能性について指摘している。委員会でも議論の対象となった。

 監視等委員会の「監視」は、入札手続き中に行うか、事後的に行うかで議論があった。事後的なチェックでも抑止力がはたらくとの理由で、事前チェックは見送られた。これは間違っていたのではないか。

終わりに

 今回は、直近の広域機関等の資料を基に、容量市場入札結果を改めて確認し、高値約定となった要因を考察した。監視等委員会の精査はこれからだが、新電力や消費者組織は「受け入れ難い、どうしてこの水準になったのか」との声を上げる。卸市場取引を主とする新電力にとり死活問題となる。今回入札自体の見直しを求める声も上がっている。価格スパイクは需要過多、供給過小、市場支配力行使が基本要素である。少なくともどれかに該当するから「2024年の通年スパイク」が生じた。本論では、その可能性を検証した。

 電力需要は減っていく、再エネはこれから急速に増加していくとの見通しが強くある中で、容量不足で価格スパイクが起こることは不自然だという素朴な疑問がある。既に、政府等で見直しの議論が始まり、検討すべき論点も挙がってきている。5年間で細部にわたり制度を詰めてきた結果であり、どこか本質的な問題があると考えられる。前回は海外との比較でポイントを解説したが、引き続き考察していく。