Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.213 ドイツにおける容量メカニズムの議論(2)
ドイツの抱える課題と容量市場の相性

2020年10月29日
ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳 西村健佑

キーワード:ミッシングマネー、容量市場、ドイツ

ミッシングマネー問題

 卸市場に代表されるkWhだけを取引するエナジーオンリー市場ではピーク・ミドル電源の投資コストを回収できない問題はミッシングマネー問題と呼ばれる。投資が不足するのだから、これを回収するために導入される容量メカニズムは不足分を補填する追加負担が発生する可能性が非常に高い(追加負担とは必ずしも今と比べての電気代上昇を意味するものではない)。断っておくが安定供給のための必要な負担は追加でも受け入れるべきであり、問題はそれが適切な規模でフェアに分配される仕組みの構築である。ミッシングマネーを解決する方法は様々提案されており、唯一の答えがあるわけではない。理論と各国がおかれた状況に依存するので、日本の方法がドイツでコピーできるわけではないし、その逆もしかりと考える。

 2012年当時のドイツは石炭価格の下落と天然ガス価格の上昇でガス発電の稼働率が壊滅的な状況、再エネの増加によるスポット価格の下落、リーマンショックの影響を引きずる製造業低迷による電力需要の伸び悩み、低価格な排出権などの課題があった。端的に言えば容量過剰で柔軟性の高い新規設備への投資インセンティブが最も不足していた。

 ドイツでは、非柔軟で環境に悪い褐炭・石炭発電の退出1、再エネの市場統合のための卸市場改正が前提としてあった。例えばEWI(Institute of Energy Economics at the University of Cologne)は卸市場の課題として、短期の価格弾力性が低く需要側の対応が不十分なことと卸価格の価格上限の設定がマージナル電源の投資回収が不可能にすることを挙げている2。そこで政府はグリーンブック3の中で、電力市場改革として、これまでに行われてきた卸市場と調整電源市場改正を推進することを前提とし、十分でコスト効率的で環境負荷の少ない容量確保手段を検討した。政府は補完的な容量メカニズムの検討の前提として挙げたのは、需給逼迫時の価格高騰に対して政府が介入しないことを投資家が信用できることだった。これは電源の投資回収は固定費も含めて一般の市場(ここでは卸市場、相対取引、調整電源市場などを指している)の価格高騰や価格スパイクを最大限利用することを示唆している45

 理論的には長期的に市場機能が浸透すればスポット価格が指標性を持つようになり、相対取引もスポット価格に規定されるようになる6。これは、長期的には変動費の低い電源はいずれにしても固定費を相当程度kWh取引で回収できることを意味するだろう。ドイツではこうした理論を踏まえ、容量市場ではグランドファザリングで排出権が無償で与えられた7、総括原価方式で建てられた古い原子力や褐炭発電所ほど、投資の意思決定の時点で考慮されていなかった追加の固定費収入=偶発利益は大きくなることが問題視された8。ちなみに投資時点では容量市場だけでなく卸市場や自由化も考慮されていなかったという指摘はそのとおりだが、それらを踏まえた上での結果と理解している。世界で比較しても、経験的に容量市場はよりコストのかかる仕組みである9

偶発利益と市場の競争環境

 グリーンブックが公表された2014年11月に同じく公表された連邦ネットワーク規制庁と連邦カルテル庁の市場監視報告『Monitoringbericht』に示された再エネ以外の従来電源に占める4大電力のシェアは以下の通りである。

表1 4大電力会社の発電部門におけるシェア
2010年 2013年
発電容量 77% 68%
発電電力量 84% 74%

出典:BNetzA, (2014), „Monitoringbericht“

 連邦カルテル庁は小売部門では家庭部門でのスイッチングが進んでおり、発電部門における大手のシェアの低下による競争が進展しているが、競争の強化は約束されたものではないと述べていた。この市場構造は自由化前の状態を引きずっており、容量市場によって生じる偶発利益は4大電力会社の手により多く残るために、市場競争を強化したい政府はこれを歓迎しなかった。

 ドイツでは、歴史的な背景から大手電力会社は不人気である。特に大手電力会社は電力ユーザーの声を無視してきたという考えが根強い10。ドイツでは1980年代にチェルノブイリ原発事故と気候変動の議論がおこり、再エネへの熱が高まった。しかし当時再エネは値段が高く、大手電力会社は再エネへの投資に消極的だったことも不満の背景にある。

 いずれにせよ、容量市場の高いコスト以外に、1998年の電力市場自由化以前に大手電力会社が造った電源が偶発利益を受け取ることをよく思わない消費者は多いだろう。この点で、ミッシングマネーのフェアな負担が議論された日本とは異なる。

フリーライドとミッシングマネー

 例えば、二人の電力消費者がおり、一人は固定費を含む高い電気代を支払い、もう一人は固定費を含まない安い電気を買っているとする。電力システムは需給一致のために二人分の電源を維持する必要がある。この場合安い電気を買っている人は、高い電気を買っている人の負担に「ただ乗り(フリーライド)」している11。このような事態は、一般に市場が分断された場合に起こる。具体的には、系統が国際連系線でつながっていて一国が容量メカニズムを導入して隣国がしない場合や、部分的自由化により、例えば小売が大口需要家向けに部分的に自由化され、小口消費者は規制料金しか選択できない場合などである。ドイツが容量メカニズムを導入しない場合、隣国の供給力にフリーライドすることは当初からEUで懸念されていた12。一方で単一の小売市場で競争する場合フリーライドは起こりづらいと考えられる。フリーライドが生じていれば一部の小売会社(例えば大手電力会社)は規制によって高値の電力を買わされ、競争上の不利が生じるはずだが、4大電力会社がその他の電力会社のフリーライドを許して高い小売価格を余儀なくされているとは言えなかった13。そのため、ドイツではフリーライドについて議論された形跡があまりない。

ミッシングマネー解決に向けて

 シングルプライスを採用する卸市場取引でもベースロード電源は、特にピーク時間帯は変動費に加えて固定費も回収できる14。一方で、ピーク負荷、特に年に数十・数百時間しか発生しない需給逼迫の時間帯しか稼働しないような電源は固定費回収ができず、新規の投資は起きない。この状態で古い電源が停止、退出すると供給力が不足する。ミッシングマネーの問題は卸市場改革で大幅に緩和されるが、それでも完全に解消されるとは限らない15。これが容量メカニズムを必要とする理由である。

 そこでメカニズムの1つである容量市場を導入する。ベース・ミドル・ピークロード電源の容量価値を等しく評価するモデルではすべての容量が同じ金額を受け取る。これは本来固定費の補填を目的としているが、ベースロード電源は卸市場でも引き続き固定費回収が可能であり、場合によっては短期でも部分的に固定費を二重に回収でき、長期的には導入の目的である固定費補填を上回る分の偶発利益が発生する。これは国民側から見れば不要な追加負担となる(既に述べたとおり、必要な追加負担もある)。

 短期的な二重支払いを回避するには電源ごとに電力引き渡し価格(kWh価格)を変動費と等しくする必要がある。この方法は卸市場ではおそらく不可能だが相対では交渉次第で可能であろう16。しかし市場支配力を持つ発電事業者がその力を行使して価格を釣り上げれば17電源の固定費は変わらないので偶発利益は大きくなる。または、市場支配力を持つ発電事業者と関係の近い小売(例えば内部取引)ほど偶発利益の恩恵を受けやすくなる。ドイツの市場構造は独占時代にできあがっており、自由化後10年以上(当時)たっても根強く残っている(表1)。そのため、市場の競争と効率性を重視するドイツではフリーライドは議論されず、偶発利益が問題とされたのである。

容量市場は失敗のリスクが高い

 容量市場では需要曲線、つまり目標調達量と調達価格が人為的に定められるため、「1つの要素に関する誤りがオークションの結果に重大な影響をもたらし」18、追加コストがふくれあがる仕組みであり、しかも失敗の発生はほぼ不可避である19。需要曲線作成の際にロビー合戦が行われ、容量が必要以上に保守的に設定されるか、技術間で差別的な取り扱いに陥るリスクが高い。実際、英国では発電設備を多く持つ大手電力会社のロビイングによってDR(Demand Response)の導入が阻害され、エネルギー転換が遅れたという研究もある20。欧州司法裁判所も技術間の差別的な取り扱いが存在するとの判断をしており、容量市場の支払停止に至っている(T-793/14)。そして容量市場は失敗に終わっても、一度導入すると廃止することは難しい21

 イギリスの容量市場を用いた国民負担のモデル評価では、やはり追加負担が発生したが、便益については評価が異なり、DECC(Department of Energy and Climate Change)は便益はプラスと評価しているが、Redpointは便益はマイナスと評価している22

 そして追加負担をどこまで認めるかも難しい問題だ。卸市場と容量市場の組み合わせでは、仮に容量市場で減価償却済みの電源などに対して固定費以上をカバーできるほど非常に高い価格がついた場合、卸市場で回収される固定費は全額偶発利益となる23。具体的には発電事業者の収入は卸電源では「卸市場での変動費+卸市場での部分的な固定費+容量市場での全額の固定費」となり、相対電源では「相対取引での変動費+容量市場での全額の固定費」となる。卸電源と相対電源の両方を所有する発電事業者では、卸市場での部分的な固定費の収入増となる。この事業者が政府の要請に応じて偶発利益を相殺しようと考えれば、相対の値引きで対応するのが最も簡単であろう。この場合、卸電源では「変動費+偶発利益+容量市場からの全額の固定費」の収入のままであり、相対では「変動費+容量市場での全額の固定費-卸市場での部分的な固定費」となる24。つまり、偶発利益の付替えによって負担のバランスが容量市場導入前と逆転する。

 これは容量市場が極端に高額になり、短期的な国民負担の増加は許容されず、偶発利益に相当する全額をどこかで値引きして対応するという非常に極端な事例であり、特殊なケースとして私が考えたものである。しかし極端ではなくとも容量市場では偶発利益の発生は不可避であり、その負担の分配は歴史的な市場構造やそれに起因する相対電源へのアクセス状況を鑑みて慎重に取り扱う必要があると言えるのではないか。

 話を戻すと、発電市場で大きなシェアを持ち、内部取引も可能な大手電力会社が偶発利益を受け取ることを嫌がるドイツで、コスト効率が悪く、政策の失敗によるコスト肥大化が不可避な包括的容量市場が好まれなかったことは十分に理解できるだろう。

 次回は、当時のドイツの事情から、戦略的予備力を選択した背景を説明する。


1 ドイツの脱石炭政策はここ数年で前進した感はあるが、脱石炭そのものは従来政治の方向性として認識されていた。脱石炭は90年代より少しずつ進められており、例えば炭鉱の雇用戦略は随分前から脱石炭を見越したものになっていた。
2 EWIはミッシングマネーの課題について、再エネがあってもなくても起こるが再エネは問題を助長すると述べている。
 EWI “UNTERSUCHUNGEN ZU EINEM ZUKUNFTSFAHIGEN STROMMARKTDESIGN“ (2012)
3 第1回参照
4 BMWi “Ein Strommarkt fur die Energiewende (Green book)“ (2014)
5 電力改革研究会 ?ミッシングマネー問題にどう取り組むか(http://ieei.or.jp/author/epii/ )“の連載でも第9回から3回に渡ってドイツを検証しているので参照されたい。第11回の主張の多くはドイツでもなされていた。一方でドイツでは電力市場2.0か容量市場かではなく、その他のオプションも視野に入れつつ、卸市場の最大限活用を前提とした上で戦略的予備力か容量市場かについて議論が行われた点は指摘しておきたい(服部徹 ?容量メカニズムの選択と導入に関する考察 ―不確実性を伴う制度設計への対応策―” (2015年), 電力経済研究 No.61)。
6 http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0204.html
7 ただし2012年当時はすでにグランドファザリングは廃止されていた。
8 Agora Energiewende “Kapazitatsmarkt oder strategische Reserve: Was ist der nachste Schritt?“ (2013)
9 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00005/?P=4
10 不人気の是非はここではおいておく。市場自由化前の大手電力会社の努力を評価する声も存在する。
11 実際は卸市場でも価格高騰時などにマージナル電源以外は固定費を部分的に回収できるため、すべての固定費をただ乗りしているわけではない。
12 フランスは容量市場を導入しており、ドイツはフランスの容量に短期的にフリーライドが可能ではあるが、長期的には投資に有利な容量市場のある国で投資が進み、容量市場のない国では電源投資が行われなくなるので供給力が深刻に脅かされる。そのため、EUでは調和の取れた容量確保メカニズムが不可欠である(例えばMauricio Capeda et. Al “Generation capacity adequacy in interdependent electricity markets” (2011)参照)。また、ドイツは容量過剰が問題となっている一方、容量市場は保護政策に当たるため導入には構造的に容量不足が発生し、市場介入が必要であることを証明する必要があると考えられていた(グリーンブック)。
13 連邦ネットワーク規制庁の『Monitoringbericht 2014』でも、電力メニューのスイッチングは多くの場合、以前の電力会社(主に大手)の安いメニューへの切り替えだったことがわかる。
14 実際には再エネの卸市場での販売によってベースロード電源の採算性も悪化するがここでは一旦おいておく。これについては例えば服部徹(2015年)参照。
15 Newbery “Missing money and missing markets. Reliability, capacity auctions and interconnectors.” (2016), Energy Policy 94, pp.401?410.
16 「ベース電源は長期相対契約(小売部門と発電部門の内部取引を含む)で取引されることがほとんどで、容量市場が導入されれば、小売部門が発電部門に支払っていた相対契約価格が、①小売部門→OCCTO→発電部門のルートで支払われる容量確保契約金と、②同契約金を控除した相対契約価格に二分されるだけです。①と②の総額は、容量市場導入前に小売部門と発電部門の間で授受していた金額と変わりません。」(https://u3i.jp/blog/capacity1/
17 この点はエネ庁でも議論されていた。
18 服部徹(2015年)
19 https://www.bmwi.de/Redaktion/DE/FAQ/Weissbuch/03-faq-weissbuch.html
20 Matthew Lockwool, et.al, (2020), “Incumbent lobbying as a barrier to forward-looking regulation: The case of demand-side response in the GB capacity market for electricity”, Energy Policy, Vol. 140.
21 Andreas Mundt, (2014), “Vorsicht mit Kapazitatsmarkten“, Bundeskartellamt
22 Redpoint, (2013), “Estimating the costs and benefits of the Capacity Market”
23 そのため、PJMなどは容量市場で固定費全額を補完することを避けるように約定価格がNETCONEを下回る水準にあると考えられる(http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0208.html)。
24 理論上は卸市場の価格が下がり価格スパイクも起きないはずだが、英国などの現実は必ずしもそうはなっていないため、ここでは卸市場価格は下がらないと仮定した。