Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.272 第6次エネ基考察④ 「輸入水素を火力発電設備に投入」の是非

2021年10月28日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:エネルギ-基本計画、電源ミックス、水素、アンモニア、CCUS

 10月22日に第6次エネ基が閣議決定された。英国グラスゴー市で開催されるCOP26直前のタイミングでの持ち回り決定である。2050年CN、2030年の46%削減(対2013年度比、さらに50%の高みを目指す)はコミット済みであり、焦点である2030年の電源ミックスは再エネ4割弱となった。しかし、問題は2050年CN達成時のミックスであり再エネは5割強に過ぎない。今回はIEAが想定する世界のミックスと比較することで、日本の特異性に接近する。

1.エネ基にみる電源ミックス 2030年はまだしも2050年は疑問

 10月22日に第6次エネ基が閣議決定された。10/31~11/12の日程で英国グラスゴー市にて開催されるCOP26に辛うじて間に合った。焦点である2030年電源ミックスの取り纏めに時間を要したからである。自民党総裁選でも原子力を巡り多少議論になったが、素案に変更はなかった。岸田総理もCOP26に出席する予定である。

2030年 脱炭素6割・うち再エネ4割弱

 2030年度の電源構成であるが、最優先で最大限導入の再エネが36~38%、原子力が20~22%、水素・アンモニアが1%、LNG20%、石炭19%、石油等2%である(図1)。非化石約6割、化石が約4割と一応バランスはとれている。政府は46%削減ありきで再エネの積み上げに苦労したとしているが、筆者は新増設を明記しない原子力の実現の方がハードルが高いと思っている。仮に1割程度に留まるとしたら、再エネ5割が実現しないと46%にはならない。政府も風力について環境アセス期間短縮・上限引き上げ、洋上へのセントラル方式導入等の措置を講ずる。太陽光はオフサイトPPAの柔軟対応、住宅新築への設置促進、市町村による再エネ促進区域の導入等にて後押しをする(「No.257 第6次エネ基考察➀ 電源ミックス」)。

図1 2030年、2050年電源構成の見通し(日本)
図1 2030年、2050年電源構成の見通し(日本)

2050年 CNだが再エネ5割強と低い

 一方で、参考値ではあるが、2050年の数値は、再エネ50~60%、原子力/化石CCUSで30~40%、水素/アンモニアで10%とCN実現の体裁を取り繕う(図1)。これが導かれた試算をみると再エネ比率は50%台前半に留まる。原子力を世界並み(後述8%)の10%とすると、化石CCUSが20~30%となり、水素/アンモニア10%を加えると火力発電設備利用は30~40%となる。これをどう考えるか。直感的には再エネが低く、火力設備利用が高い。2030年で再エネは4~5割となるあろうなかで20年も経過して5割強は低すぎる。また、CCUSは実現可能か、ゼロカーボンと成りうるのか、貴重な水素を非効率に燃焼させる発電用に大量投入していいのか等の疑念が生じる。以下で、IEAの2050年ゼロカーボンシナリオのポイントを解説する。

2.IEAの2050年CNシナリオ 再エネ9割

電源ミックス 再エネ88・原子力8・水素等4

 図2は、2021年5月に国際エネルギ-機関(IEA)が試算・公表した2050年ゼロカーボン実現に向けたシナリオNZE(Net Zero Energy)である。電源別構成比の推移を見ると(左図)、再エネは現状(2020年)29%であるが、2030年61%、2050年88%と急上昇する。2030年は脱炭素電源で75%を占めるが、2050年でゼロカーボンとなるための経路として設定される。2050年は再エネで約9割だが風力と太陽光で約7割を占める(それぞれ35%、33%)。原子力は8%と一定の比率を維持するが、水素・アンモニア(Hydrogen-based)と化石CCUSはそれぞれ2%に留まる。

図2 世界発電電力量の推移(電源種別、NZEケース)
図2 世界発電電力量の推移(電源種別、NZEケース)
(出所)IEA “Net Zero by 2050”(2021/5)を加工

電力需要2倍増でシェア5割に 電化と水素製造が牽引

 図2の右図は発電電力量の推移である。太陽光、風力が突出しているが、水力、その他再エネも着実に増加する。再エネ電力は2030年に3倍、2050年に8倍になる。また電力需要は最終需要での増加(電化率上昇)と水素製造用需要増を主に急増する。トータルでは2030年に5割増、2050年には2倍増となり最終消費に占める割合も2050年には49%に上昇する。水素事業用は発電電力量の約2割を占め、現在の中国・米国の需要量を上回る水準となる。

日本の特異性 水素・CCUS発電で4割

 日本の2050年の姿について、再エネが小さく、火力発電設備利用が高いという直感は、IEAの数字により裏付けられる。日本は水素/アンモニアで10%でありIEAの2%と比べて異常に大きい。水素由来燃料を発電用設備が大量に消費する構図となる。効率3~4割の設備への大量投入となる。CCUS発電の20~30%に関しては天文学的な数字のように見える。大量に排出されるCO2を回収して貯蔵ないし利用することになるが、貯蔵場所を確保できるか、CO2は水素と合成されて燃料・材となるが水素をどのように調達しどこで利用するのかいう疑問が生じる。そもそも脱炭素あるいは持続可能といえるのか、化石燃料発電がこれだけ存在感を示すことはありうるのか。COP26でも「化石賞」の対象とならないか不安である。

3.日本のCNに向けた道筋と水素戦略の是非

電力から熱等への道筋は諒 電気脱炭素選択肢に懸念

 ここで、日本の脱炭素の考え方を改めて確認する。図3は、グリーン成長戦略にて登場するもので、脱炭素の道筋を示している。電力と非電力に分けて、技術的・経済的に容易な電力の脱炭素を先行する。非電力部門のエネルギ-消費徹底的に電化を進めるが、電化しきれない熱・燃料等では、水素・水素由来燃料・バイオ燃料を利用して脱炭素化する。高温熱、化学品等の材、鉄還元等の工業プロセス、長距離輸送手段等は水素に頼らざるを得ないが、水素以外で生産できる電気は極力水素投入を控えるべきである。水素由来燃料はCO2と合成して作るが、ここで火力発電で発生するCO2の一部が利用される。IEAのNZEシナリオでは、エネルギ-最終需要に占める水素の割合は2割にも上る。

図3 2050年カ-ボンニュ-トラルの実現
図3 2050年カ-ボンニュ-トラルの実現
(出所)2050年カ-ボンニュ-トラルに伴うグリーン成長戦略(2021/6/18)

 脱炭素を電力から熱等へ進めるという考え方は、合理的・常識的であるが、再エネ電力、グリーン水素以外の「選択肢追及」が強調されている。この図でも電力の脱炭素は再エネをはじめ各種技術が列記されている(他の資料には再エネ50~60等の「参考値」も記載されている)。

 このように、CN実現には膨大な水素が必要となるが、日本はどのように調達し、どこに利用するのであろうか。以下で解説するが、結論は「海外から調達し発電が消費を牽引する」のである。

海外水素を調達し発電設備で燃やす

 図4は、水素政策に係る中間整理から抜粋したものであり、エネ基にも織り込まれている。水素需要量は2025年頃に約200万トン、2030年ごろに最大300万トン、2050年頃に約2000万トンであり、供給の主役は「輸入水素」である。水素は化石資源の分解および水分解(電気分解)により作られるが、国内では再エネは量的限界があるとされ、国産の扱いは小さい。再エネ電力比率が低いのはこの影響も大きい。需要先拡大の道筋をみると、発電の位置づけが高いことが分る。前述のようにIEA見通しとの比較ではその違いは歴然としている。

図4 日本の水素需給に係る考え方
図4 日本の水素需給に係る考え方
(出所)資エ庁「今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理案」(2021/3/22)を抜粋加工

海外は国内生産に軸足

 海外はCNの主役である水素についてどのように考えているのであろうか。図5は、IEAがAPS (Announced Pledges Scenario)ケースとして整理した主要国(地域)の方針である。左(緑)は需要量で右(橙)は自国生産量である。日本と韓国を除き、明らかに国内で生産(自給)しようとしている。IEAのNZEシナリオでは、2050年の発電電力量に占める水素製造用は約2割にも上る。

図5 主要国(地域)の低炭素水素の需要・自給方針(APSケース)
図5 主要国(地域)の低炭素水素の需要・自給方針(APSケース)
(注)APS:Announced Pledges Scenario ―2050年シナリオおよび(改訂)NDC (Nationally Determined Contributions)を表明した国々の目標値を織り込んだケース。
(出所)IEA ““Word Energy Outlook 2021”(2021/10)

水素戦略に疑念 洋上風力資源はエネルギ-需要の10倍

 それでは、政府が説明しているように、日本は再エネ資源が乏しいのであろうか。日本再エネ資源は豊富である。風力に適する長い海岸線、落差のある豊富な水力、火山国で世界ビッグ3の地熱賦存量、膨大な森林資源等を挙げることが出来る。著名な環境学者であるエイモリーロビンズ氏は「日本の再エネ資源量はドイツの11倍」と指摘している。図6は、IEAが試算した国(地域)毎の洋上風力の潜在量と2018年のエネルギ-需要量である。日本はエネルギ-需要量の約 10倍もの潜在量を誇るのである。

図6 洋上風力の潜在量と2018年需要量
図6 洋上風力の潜在量と2018年需要量
(出所)IEA ”Offshore Wind Outlook 2019”

 CNの時代は水素社会の時代でもあるが、再エネ電気由来(水分解)のグリーン水素が、脱炭素の面でもコストの面でも主流になるとみられている。これまでの化石資源が再エネ電力とグリーン水素に代わることになり、再エネ資源が豊富な地域が地政学的に重要になる。一方で、化石資源に比べて水素はエネルギ-密度が小さく、輸送コストが嵩む。国内再エネ資源の利用を優先するのが国益に適うと考えられる。もちろん超えるべきハードルは低くないが、強い意志を持ち国力を集中すれば道は開かれると考える。世界的には決して特別のことではない。

 今回は、閣議決定された第6次エネ基について、電源ミックスの考え方やCNの主役である水素戦略の是非について、IEAのゼロカーボンシナリオ(NZE)をベンチマークとして、考察した。IEAと日本のシナリオには大きな差異があるが、詰まるところ水素製造を含めて再エネ最優先の本気度、CN実現への本気度の差を映じていると思われる。次回は、IEAとくにEUが、再エネとグリーン水素を中核に据える理由について解説する。