Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.335 我が国における原子力発電設備廃止措置の在り方
−米国の経験から何を学ぶべきか−

2022年9月15日
京都大学大学院 総合生存学館 教授
一般社団法人カーボンニュートラル推進協議会 理事 長山浩章

 本稿は一般社団法人カーボンニュートラル推進協議会に9月13日にUPされた論考(https://carbon-neutral.or.jp/topics/column/570.html)に加筆を行ったものである。

当論考は力作にて、本コラムでは冒頭と末尾を掲載し、
全体は末尾のPDFにて紹介する(編集)

キーワード:廃止措置、原子力発電、倒産隔離

 2022年7月27日(第1回)及び8月31日(第2回)の経済産業省資源エネルギー庁の廃炉等円滑化ワーキンググループ(以下WG)で、廃炉費用の外部化について新たな方向性が打ち出された。廃炉等円滑化WGの設置については、2022年6月30日の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会において発表された。この背景には、1)電力システム改革により競争が進展した環境下においても、原子力の諸課題に対応できるよう、事業環境の在り方を検討していく必要があり、第6次エネルギー基本計画においても、「バックエン ドも含めた安定的な事業環境の確立に向けて、必要な対応に取り組む」こととされている。2)バックエンドの中でも、とりわけ廃炉については、2020年代半ば以降、国内の原子炉の廃止措置プロセスが本格化することも踏まえ、廃止措置を着実に実施していくための課題と対応策について、 引き続き整理を進める必要があること。3)以上を踏まえ、通常炉の廃止措置を効率的かつ円滑に実施し、完遂するための課題を更に整理し、課題解決に必要な事業体制や資金確保の在り方等を検討する必要があることとされ、原子力小委員会の下に設置された。本WGは第3回(日程は2022年9月15日現在未公表)で中間整理をまとめる予定とされている。

 世間の関心は高レベル放射性廃棄物の地層処分の最終処分場として北海道寿都町が国の文献調査の対象地の1つになったことや、福島第一原子力発電所の廃炉にあるが、もう1つの重要な問題は日本の通常の原発の廃止措置のあり方にある。特に今回、廃止措置費用については方向性が定まったが、廃止措置の必須要件である低レベル放射性廃棄物1の処分場の問題は依然、緊急の課題として残っている。

 通常炉の廃止措置を迅速に進めることは、現在岸田政権が進めようとしている次世代革新炉の設置を迅速に進める上でも重要な取り組みとなる。

 現在日本では高レベル放射性廃棄物の最終処分にかかわる処分費用は電力会社が原子力環境整備促進・資金管理センターに拠出し、原子力発電環境整備機構(NUMO)が取り崩す仕組みであり、使用済燃料の再処理費用も、電力会社が使用済燃料再処理機構(NuRO)に拠出金を支払い、日本原燃がそれを取り崩す仕組みとなっている。しかし、廃炉措置費用に関しては原子力発電施設解体引当金として電力会社社内に積み立てるのみで、倒産隔離されていなかった。現在、議論がすすめられるWGでは、積立金でなく拠出金方式で、倒産隔離と、「着実かつ効率的な廃止措置の実現」を達成しようとしている。

 本稿では米国の例を参考にしつつ、我が国における廃止措置の在り方について考察する。世界で廃止措置が終了した原子炉は15基あり、そのうち米国が12基である2。日本も英国も終了した実績はない。尚、廃止措置とは「発電を終えた原子力発電所から施設を解体するなどして放射性物質を取り除くこと」(電気事業連合3)であり、原子炉に関しては一般的に廃炉と呼ばれる。本稿の廃止措置は通常炉を対象とし、福島第一原子力発電所の廃炉は対象としていない。また、放射性廃棄物は低レベル放射性廃棄物を議論対象としている。

1.我が国において新たに打ち出された廃止措置の方向性

 基本的な方向性として、概要(抜粋)は以下のようである(全体像は図1)4

  • 個別の原子炉の廃止措置については、国内のサイト・炉ごとの多様性も踏まえ、原子炉等規制法に基づき、原子炉設置者が責任をもってこれを行う体制を維持する。
  • 一方で、国全体での着実かつ効率的な廃止措置を実現するためには、共通する知見・ノウハウを蓄積した上で、我が国の廃止措置全体を総合的にマネジメント(蓄積した知見・ノウハウに基づく事業者に対する指導・助言等)し、計画的・効率的な廃止措置を実現し、安全かつ効率的な廃止措置に向けた研究開発、地域理解の増進を行う。
  • さらには廃止措置に必要な資金の確保及び支弁等の事業を実施するための民間認可法人を設置する。
  • 原子力事業者5は、同法人の運営に必要な資金を拠出金として納付する。但し、原子力事業者が認可法人に納付する拠出金は、事業者の経営悪化のリスク等も踏まえつつ、各社の経営状況等にも一定の配慮をする。
  • 廃止措置に必要な資金を確実に確保するため、各原子力事業者が個別に内部引き当てを行う現行制度を改め、新たな認可法人が必要な資金を確保・管理・支弁する仕組みとするため、これまでの内部引き当て分は新たな認可法人に移管することになる。新たな認可法人への拠出金は、我が国全体の廃止措置に必要な資金に加えて、共通する課題(研究開発等)に対応するための費用も含めて支払うことを義務付けることとなる。

図 1 原子力事業者と新たな主体の役割分担
図 1 原子力事業者と新たな主体の役割分担
出所:資源エネルギー庁(2022年8月31日)「円滑かつ着実な廃止措置の実現に向けた政策の方向性」、廃炉等円滑化ワーキンググループ、第2回 資料5 スライド20-21を統合

  • 認可法人が安定的に十分な資金を確保するためには、競争環境下において、万が一、原子力事業者が破綻した場合においても、納付された資金が確実に確保されている仕組みとする必要があり、仮に事業者が破綻したとしても債権回収の対象とならないよう、単なる外部積立ではなく、拠出金制度とする。
  • 新規認可法人自らが資金調達や資金運用を行うことも可能とし、新規認可法人もしくは原子力事業者が予見しがたい事由により、事業の継続が困難な状況に陥った場合においても、我が国における廃止措置を着実に進めるためには、このような場合には、国が必要な措置を講じるようにする。

以下、「2.まとめ」まで省略。
論考全体は、末尾のPDFにてご参照頂きたい(編集)

2.まとめ

 米国と日本の廃止措置の違いをまとめると表9のようになる。廃止措置完了実績のある米国との最大の違いは、
1)廃止措置実施主体のあり方:今後は米国のような廃止措置専門会社によるスピーディな廃炉の展開もあり得る。
2)解体計画:なるべく廃棄物を最少にするマネジメントも重要である(米国において処分場が十分なかったときの主な対応)。
3)プロジェクト管理:米国との比較では、日本においては(通常の建設現場で行われているような)早めの納期を設定し、細かいコスト管理、下請管理、それに合わせた成果・人事評価をとり入れていく必要があるようである。また、可能な限り安価で簡単な技術装置に置き換えていく。
4)処分場の有無:廃止措置の段取りなどの作業効率は処分場の存在により大きく左右されることになる。
5)廃止措置に関心を持つ住民への丁寧な説明:国の方針と合わせた早期廃炉のメリットを説明するなど、廃止措置に積極的な自治体へのより強いインセンティブの付与などである。

表 9 日米における廃止措置の現状比較
表 9 日米における廃止措置の現状比較
出所:各種資料より、京都大学長山作成

 廃止措置の事業は、新認可法人から設置許可者に委託することになる。この場合、現行の法規制では電気事業者自らによって廃止措置を行うことになるが、米国の例でみたモデル2、3、4のいずれも現行規制では対応が難しく、迅速な廃止措置のためには今後の法律・規制の変更が求められる(図10)。

図 10 新規認可法人における廃止措置義務の全体像
図 10 新規認可法人における廃止措置義務の全体像
出所:資源エネルギー庁(2022年7月27日)「円滑かつ着実な廃止措置の実現に向けた政策の方向性」、廃炉等円滑化ワーキンググループ、第1回 資料5 を参考に作成

 また、新認可法人の役割分担や業務内容については、既存の使用済燃料再処理機構(NuRO)と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の前例を参考に、法律、政令、省令、新機構の定款、新機構の業務方法書等の階層構造を理解しつつ、国との役割分担を考えて議論されるべきであろう(表10)。

表 10 使用済燃料再処理機構(NuRO)と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)
表 10 使用済燃料再処理機構(NuRO)と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)

謝辞

 本研究は、(公益財団法人)トラスト未来フォーラム財団の研究支援を得ている。この場を借りてお礼申し上げる。


1 放射性廃棄物の区分と発生
 高レベル放射性廃棄物以外の放射性廃棄物を「低レベル放射性廃棄物」と呼ぶ。低レベル放射性廃棄物は、発生場所や放射能レベルによってさらにいくつかの区分に分けることができる。原子力発電の運転に伴い発生する放射性廃棄物を区分別にまとめると次の表のようになる。
 なお、低レベル放射性廃棄物については、発生社責任の原則の下、原子力事業者等が処分場所の確保などの取組を進めることを基本としている。



出所:資源エネルギー庁「放射性廃棄物について>低レベル放射性廃棄物」、https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/gaiyo/gaiyo01.html(2022年9月11日閲覧)


2 NEAのWilliam D Magwoodによると「世界中で閉鎖された約160基の原子炉のうち、完全に廃止され、グリーンフィールドの状態に戻されたのは15基だけ」であり、そのうち「2012年以降、米国では12基の原子炉が永久に閉鎖されており、最新のものは2021年4月30日のインディアンポイント3である」となっている。
出所:American Nuclear Society (Oct 2016) “Nuclear News: Applying lessons learned and remote-operated systems to D&D”, https://www.ans.org/pubs/magazines/download/article-1035/ および Congressional Research Service (June 10, 2021) “U.S. Nuclear Plant Shutdowns, State Interventions, and Policy Concerns”, https://crsreports.congress.gov/product/pdf/R/R46820/3

3 電気事業連合会「原子力発電所の廃止措置-原子力発電について」、https://www.fepc.or.jp/nuclear/haishisochi/index.html (2022年9月11日閲覧)

4 資源エネルギー庁 廃炉等円滑化ワーキンググループ 第1回、https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/hairo_wg/001.html
および、第2回、https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/hairo_wg/002.html

5 原子力事業者は令和三年五月二十日施行の原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)の第二条で定義されている。概要は、放射性物質の使用・貯蔵事業、再処理事業、廃棄事業、核燃料の加工、原子力炉の運転などの事業を営む許可を受けた者。


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