Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.350 再生可能エネルギー設備の建設促進に関する近年のドイツ法制の一局面
―改正法の内容とその意味―

専修大学法学部教授 髙橋寿一

キーワード:土地利用計画、陸上風力法、風力区域、市民発電所

1.はじめに

 1年ほど前、筆者は、本コラムにおいて再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)設備の建設に関わるドイツ法の構造を紹介・検討し、わが国で昨年成立した地球温暖化対策推進法改正法(以下、「温対法」)との比較・検討を行い、わが国で今後温対法が具体的に運用されるに際して留保すべき事項を検討した1

 その後、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻もあって、従来型のエネルギー供給システムからの転換がより一層急迫を要することがEUではとりわけ強く意識され、ドイツにおいては、再エネ設備のより迅速な建設を促進するべく、四本の一括法が2022年7月20日付で同時に成立した。具体的には、(イ)土地利用規制改正を中心とする「陸上風力設備の拡大を促進・迅速化するための法律」(陸上風力法(WaLG))2、(ロ)再生可能エネルギー法(以下、“EEG”)改正を中心とする「再生可能エネルギーの迅速な拡大を即時に実施し電力分野における更なる措置を実施するための法律」3、(ハ)連邦自然保護法改正を中心とする「連邦自然保護法第四次改正法」4、および(ニ)洋上風力発電法を中心とする「洋上風力法および関連規定の第二次改正法」5である6

 本稿は、これら一連の立法のうち、上記(イ)の陸上風力法および(ロ)のEEG改正法の一部を中心に紹介・検討したい。土地利用計画法制は、(イ)によって従来の原則を大きく変更している。本稿は、今後のわが国においても紹介・参照されることも多いと思われるこの領域の今次の改正法について、正確な理解を期すために下記の点を中心として論じたい7。すなわち、第一に、この変更がドイツの土地利用計画法制においてどのような意味を持つのかを中心に検討し(下記3)、第二に、今回の変更を上記(ロ)のEEG改正法と関連付けて検討することによって、その意味をより構造的に理解することを目的としている(下記4)8

2.州ごとの数値目標の設定

 ドイツにおける2030年時点での再エネ比率の目標値は、従来は電力総消費量の65%であったが、今回のEEG改正法では80%に引き上げられ、2040年にはほぼ全量を再エネで賄うこととされた(2021年時点では42%)。ところが、再エネ発電に関しては州ごとの格差も非常に大きく、消極的な州も未だにある。そこで今回の制度改革において、ドイツ政府は、1で前述した(イ)の一括法(陸上風力法)の中で、陸上風力発電設備の建設を促進するために、「陸上風力発電設備の用地需要を確定するための法律」(風力用地需要法(WinBG))(以下、「用地需要法」)を新たに制定し9、陸上風力発電設備建設のために具体的な数値目標を伴った区域設定をすべての州に義務づけた(用地需要法3条および別表1)。

 連邦政府はこれまでも、陸上風力発電設備建設のための区域の数値目標を連邦全土の総面積の2%と設定し、州毎にこの数値を達成するように求めてきた。しかし、北部の州では積極的に目標達成に動いたのに対して、南部の州(バイエルン、バーデン・ヴュルテンベルク)や東部のザクセン州等では、設備の建設が中々進まなかった10。そこで、連邦政府は各州間の調整を図るべく「連邦・州協働委員会」を設置して、各州の地勢や風況などを勘案した上で州毎の達成目標を数値化した。その結果、すべての州において、2032年12月末日までに州総面積の1.8-2.2%11を「風力区域」として指定することが制度上義務づけられた(用地需要法3条1項)。なお、本法別表1においては、2027年12月末日までに達成されるべき数値も中間目標値として定められている。

3.目標値達成のための新たな土地利用規制手法の導入

 それでは、中間および最終目標値を達成するためにどのような土地利用規制手法が用意されているのであろうか。以下、分説する。

(1)「風力区域」(Windenergiegebiet)の指定

 用地需要法では、「風力区域」という聞き慣れない名称が用いられているが、その中身は、優先区域およびそれに類する国土整備計画法上の区域ならびに建設法典におけるFプランおよびBプラン上の建設区域(集中地区、特別地区などとも称される)を指す(同2条1号a))(以下、「優先区域等」)12。以前から風力発電設備のための区域設定に際しては優先区域等が利用されていたが、用地需要法は従来の扱いを基本的には踏襲している。

 したがって、指定主体についても従来と同様に、州国土整備計画の策定主体である州、州行政管区(地方組合、地方計画組合など州によって名称は様々であるが、以下「行政管区等」)ないしはFプラン・Bプランの策定主体である市町村である。その際、各州は、州内の各行政管区等や各市町村が策定した風力区域の合計面積が別表1に定める当該州の最終目標値に合致するように調整をすることが求められる(同3条2項)。

(2)風力区域内での設備建設

 次に、風力区域内での建設行為についてである。従来の優先区域等の内部では、風力発電設備は特例建築物とされていたので(建設法典35条1項)、連邦イミッシオン防止法や州建築秩序法の要件を満たせば、建設が可能であった13。その際これらの要件を満たすことは決して困難ではなく、建設は比較的容易である。この制度は、風力区域においてもそのまま継承される。したがって、風力区域として指定されれば、区域内での風力発電設備の建設が基本的には円滑に進むことになる。

(3)風力区域の外側エリアにおける設備建設の許容性

 それでは、風力区域の外側エリアにおける設備建設についてはどうか。

 従来は、優先区域等に指定されれば優先区域等の外側での設備建設はほぼ不可能であった(建設法典35条3項3文)。この規定によって、一方では、(イ)優先区域等内で再エネ発電設備(風力発電設備)の建設を促進し、他方で、(ロ)優先区域等外での環境・景観保全を図ろうとしたのである14

 ところが、この規定(およびそれをめぐる判例法理(注14参照))に対しては、とりわけ近年、〈優先区域等の指定が容易ではなく、区域外での風力発電設備の建設が進まない〉という批判が発電事業者や一部の法学者を中心になされてきた15。連邦政府は、1で述べた背景もあったため、結局この批判を受け容れ、この規定を風力発電設備の建設については適用しないこととした(建設法典改正法249条1項)。これは従来の原則を大きく変更することを意味する。35条3項3文を適用しないこととすれば、風力区域の外側の区域においても風力発電設備は、上記(2)で述べた特例建築物となり、ドイツ全土にわたって設備が濫立するおそれが生じるからである。

 もっとも、建設法典改正法は、この規定に関して一定の経過措置を設けている。すなわち、改正法施行後1年経過時点(2024年2月1日)までに優先区域等が定められている場合には従来の規定(建設法典35条3項3文)は有効であって、中間目標値の達成期限である2027年12月末日までは効力を有する旨が定められた(同245e条1項)。このような経過措置を設けたのは、上記の新規定(249条1項)によって風力区域外に設備が濫立することを連邦政府が懸念したからに他ならない。換言すれば、州や市町村は、2024年2月1日時点で管轄区域内に何らかの優先区域等があれば16、2027年12月末日まで-すなわち中間目標値の達成期限が到来するまで-は35条3項3文が適用されるので、その時点までに別表1で義務づけられた中間目標値を達成するに足るだけの風力区域を指定しておけばよいということになる17

 それでは、2028年1月1日以降はどうなるのであろうか。以下に二つの基本原則を示す。

 第一に、この時点までに中間目標値を満たす区域指定が終わっていない場合には、建設法典35条3項3文はもはや適用されない。したがって、区域外でも風力発電設備には35条1項が適用され特例建築物となるため、州や市町村にとって、風力発電が濫立するリスクに曝されることになる。その影響を多少なりとも軽減するためには、州や市町村は、目標値の最終達成期限である2032年12月末日までに義務づけられた量を含む区域指定を済ませなければならない。その時点までに区域指定を無事に済ませた場合については以下の第二で触れる。ともあれ、この場合には経過措置終了後の2028年1月から2032年12月末日までは、濫開発のリスクを州・自治体は引き受けなければならない18

 第二に、2027年12月末日までに中間目標値を満たす区域指定を終えた場合にはどうなるか。この場合には、2028年1月1日以降は建設法典35条3項3文が適用されなくなる点では上記第一の場合と同様であるが、その代わりに同法35条2項が適用される(建設法典改正法249条2項)。35条2項は、風力発電設備を特例建築物として建設を容易に認めた同条1項に対して、〈外部地域での建築案が公益を侵害する場合にはこの建築案を許可しない〉という規定である。「公益」の具体例は同条3項1文に詳細に掲げられ、かつこれらは例示列挙と解されているため19、条文に書かれていない公益への侵害の有無も厳格に判断される。この規定と従来の35条3項3文が適用された場合との相違は、後者では優先区域等の外側での建築はほぼ不可能となるのに対して、前者では、公益侵害がないかどうかを個々の案件ごとに審査する。したがって、前者の方が建設の可能性が生じてくるのだが、注意すべきは、この規制緩和によっても、建設が地域の環境・景観に与える影響など諸々の公益との抵触の有無が慎重に判断されるので決して濫開発には繋がらない、という点である20。かくして、中間目標値を達成した州・市町村は、それ以降は35条2項の規制によって、風力発電設備に対する適切な立地コントロール手法を引き続き確保することができる21

(4)風力区域の設定について—計画間調整―

 ところで、風力区域を設定する場合、他の土地利用との調整はどのように行われるのであろうか。従来、優先区域等を設定するに際しては、他のレヴェルの土地利用計画との間で慎重かつ綿密な計画間調整が行われていた。たとえば、州政府が州発展計画において、ある地域を農業優先区域や景観保全区域として指定していた場合において、州行政管区等がその地域を対象として、広域地方計画の中で風力発電設備のための優先区域として指定しようとするときは、当該行政管区等が州政府と協議をして、上位計画である州発展計画の変更手続を経た上で広域地方計画において風力発電設備のための優先区域が指定されることがある。また、行政管区等がその一部の地域を対象として、広域地方計画において風力発電設備のための優先区域として指定しようとする場合において、市町村がすでにFプラン上で当該地域をたとえば環境保全のための区域として指定していたときは、当該の行政管区等と市町村が協議をした上で、Fプラン上での上記指定の変更手続を経ることになる。すなわち、風力発電設備の優先区域の指定が、異なるレヴェルでの既存の土地利用計画上の指定と矛盾・抵触する場合には、土地利用計画相互間での垂直的(および必要に応じて水平的)利用調整が必ず実施される。利用調整の結果、再エネのための優先区域の指定が実現しないことももちろん多々ある。

 これに対して、今回の建設法典改正法は、目標値を達成するまでの間は、風力区域の指定に際しては、他の土地利用計画の指定には拘束されない旨が定められた(建設法典改正法249条5項)22。この規定は期限付きとはいえ従来の原則の大転換である。風力区域の指定に際して従来の土地利用の状況や異なるレヴェルの土地利用計画上の指定に拘束されないということは、ドイツの伝統的な計画体系を根本から覆すものであり、筆者はこの規定を見て驚愕した。この懸念はドイツの環境法研究者からも出されている23。もっとも、クメント教授によれば、今回の改正でも計画策定に際して異なるレヴェルの計画上の指定を全く無視することを決して許容するものではなく、異なるレヴェルの計画上の指定をも当該計画策定の際の比較衡量過程に入れなければならない、と解する。そして、本改正の重点はむしろ、衡量の結果、たとえば上位計画上の指定と実質的に乖離することになったとしても、正式な変更手続きを経る必要はないとすることによって、計画変更のための手続に要していた時間を短縮することにあると解している24。この見解によれば、原則的転換と思われたこの規定も、実質的内容的には大幅な変更を意図したものではなく、主として手続に要する時間を短縮するための改正であるということになろう25

4.新たな土地利用規制手法とEEG改正法

(1)陸上風力法の影響

 他にも言及が必要な規定もあるのだが、改正法の骨格とその意味は取り敢えず以上の通りである。土地利用規制に関する今回の改正法において注目すべき最大のポイントは、上述の分析から明らかな通り、中間ないし最終目標値を達成しない限り、当該州ないし市町村は風力発電設備が濫立するリスクに曝され続けられる、という点である。このことは美しい国土景観を、体系的で詳細な国土・土地利用計画体系によって維持・保存・形成してきたドイツの州や市町村、さらには住民・市民にとっては耐えがたい苦痛をもたらすであろう。陸上風力法が、州や市町村に対して大きなプレッシャーとなり、風力区域の設置を進めざるを得なくなることは間違いない。

(2)EEG改正法との関連

 したがって、区域指定の拡大に伴って地域住民や市民とのフリクションが発生することは容易に想像できる。仮に期限までに指定が完了したとしても、区域外での濫開発は回避できるが、区域内ではその指定に伴い地域住民との間に摩擦・軋轢が生じるであろう。ましてや、3(4)で述べたように、区域指定に際して他のレヴェルでの土地利用計画上の指定には拘束されないとすれば、この問題が各地で顕在化するおそれは少なくない。この点について、ドイツ政府はどのように考えているのであろうか。これについては、区域内でも市町村がBプランを策定することで立地をコントロールすることが考えられるが26、今回の一連の立法措置の一つであるEEG改正法(1(ロ)参照)27の内容は興味深い。その中で本稿の論旨との関係で注目すべきは、EEG改正法の重点項目の中に、(i)再エネ発電設備の建設に際しての市町村の財政的関与の強化、および(ii)小規模ないし市民発電所の拡充・促進が掲げられている点である。詳細は別稿に譲るが、(i)の点については、2021年のEEG改正で新設された制度が今回の改正法で強化され、(イ)1MWを超える陸上風力発電および太陽光発電(野立て)の設備建設に際して、発電事業者が1kWhあたり0.2セントを立地自治体や周囲の自治体に寄付することができるようになったこと2829、および(ロ)その際に特に野立て太陽光発電設備の建設に際しては市町村が予め自然保護の見地から一定の整備基準の達成を事業者に求めることができるようになったことが大きい(EEG6条1~4項)。また、(ii)については、小規模発電所(陸上風力および太陽光とも1MW以下)および市民発電所(陸上風力は18MW以下、太陽光は6MW以下)については、これまで参加を義務づけられてきたFIPの入札手続から除外され、FITの適用を再び受けることができるようになったことが注目される(同22条および22b条)。(i)については、大規模再エネ設備の設置に際して自治体や地域住民の受容可能性を向上させることが意図されている。また、(ii)については小規模および市民発電所の事業者を、入札に伴って不可避的に生じる発電事業の予測可能性の不安定性から解放し、FITの適用の下で安定的な事業運営を保障することによって、担い手の多様性(Akteursvielfalt)を確保し、地域住民の受容可能性を高めることが目的である。その含意は、これらの事業者とりわけ市民発電所は、単に利潤の獲得のみを目的とするのではなく、事業体の構成員やそれを超えた地域社会に対して環境的・経済的ないしは社会共同的利益をもたらすことをも目的としている場合が多いため、地域住民にとってはむしろ望ましい存在であるからである30。また、これによってエネルギーの地方分散が促進され、自然災害などの非常事態に対するレジリエンスも向上する。EEG改正法の以上の特徴は、前述した陸上風力法における土地利用規制の緩和といわばコインの表裏の関係となっていることに注意されたい。すなわち、風力区域の指定拡大に伴い生じることが予想される地域とのフリクションは、EEG改正法のこれらの規定によって、一定程度緩和されることが予定・想定されているのである。

5.おわりに

 ドイツは、国際的にも評価の高い体系的かつ厳格な土地利用計画法制に依拠しつつ、再エネ発電比率を世界の中でもトップクラスに引き上げてきた。今回の改正法は、エネルギー情勢の逼迫化・脱炭素社会の早急な実現の必要性を背景に、土地利用規制を緩和してでもより一層のアクセルを踏まざるを得ないという彼の国の切迫した状況を端的に示すものである。しかし、それと表裏を合わせるべく、再エネ拡大のために地域の受容性の向上や市民発電所の一層の優遇措置が講じられていることも興味深い。とりわけ市民発電所については、わが国では政策上その意義が全く無視されてきたが、ドイツでは、「担い手の多様性の確保」がEEG制定当初からの目的とされており、今回の改正法においても、地域社会におけるその意義の大きさに改めて焦点が当てられていることには注意をしたい。

 筆者は別稿において、〈「エネルギー転換」は、エネルギーの生産・輸送・利用・消費の全ての過程に関わる構造変動なのであって、社会の在り方自体を転換する試みなのであるから、すべての社会構成員がこの過程に関わることが-場合によっては一定の負荷を公平に背負うことも含めて―必要である〉と述べたことがあるが31、このことが改めて想起される。

1 高橋寿一「ポジティブ・ゾーニングに関する一考察」京都大学再生可能エネルギー講座コラム279号(2021年12月9日)参照。
2 Gesetz zur Erhohung und Beschleunigung des Ausbaus von Windenergieanlage an Land (Wind-an-Land-Gesetz-WaLG) vom 20. Juli 2022(BGBl. S. 1353)
3 Gesetz zur Sofortmasnahmen fur einen beschleunigten Ausbaus der erneuerbaren Energien und weiteren Masnahmen im Stromsektor vom 20. Juli 2022(BGBl. S. 1237)
4 Viertes Gesetz zur Anderung des Bundesnaturschutzgesetzes vom 20. Juli 2022(BGBl. S. 1362)
5 Zweites Gesetz zur Anderung des Windenergie-auf-See-Gesetzes und anderer Vorschriften vom 20. Juli 2022(BGBl. S. 1325)
6 その概要につき、一柳絵美「ドイツ 自然エネルギー拡大加速に向け法律一式を採決」自然エネルギー財団HP(2022年8月2日)参照。
7 なお、本欄では紙幅の限界があるため、今次の改正法の詳細に関する検討は別稿で公表する予定である。
8 なお、今回の改正法に対する法学研究者の反応はドイツにおいてもまだ少ない。本稿は管見の限りでの資料を前提としていることを予めお断りしておきたい。
9 Gesetz zur Festlegung von Flachenbedarfen fur Windenergieanlagen an Land (Windenergieflachenbedarfsgesetz-WindBG). なお、(イ)の一括法の中で本稿との関連で重要な今一つの法律は、3で述べる建設法典改正法(Anderung des Baugesetzbuchs)である(施行日は双方とも2023年2月1日)。
10 この点に関しては、ヘッセン州(ドイツの中央部)の北ヘッセン行政管区とバーデン・ビュルテンベルク州のハイデルベルク市との風力発電設備用地の確保に関する姿勢の違いについて検討したことがある(高橋寿一「風力発電設備の立地選定」楜澤能生/佐藤岩夫/高橋寿一/高村学人編『現代都市法の課題と展望』(日本評論社、2018年)141頁以下参照)。そこでは、前者では域内総面積のほぼ2%について設備用地の区域設定がなされたのに対して、後者では域内総面積の僅かに0.44%であった。
11 ただし、ベルリン、ハンブルク、ブレーメンの都市州については、適地が少ないため0.5%である。
12 これらの用語の内容は、高橋・前掲(注1)2参照。
13 高橋・前掲(注1)2参照。
14 ここでは連邦行政裁判所の判例法が極めて大きな役割を果たした。そこでは、設置を禁止・抑制する二種類の区域(harte Tabuzoneとweiche Tabuzone)が設けられ、それらを控除した後に優先区域等を指定して行く方法が生み出された。ただ、実際には指定に慎重な市町村も多かった。詳細は、高橋寿一『再生可能エネルギーと国土利用』(勁草書房、2016年)163頁以下参照。
15 法学サイドからの批判として、たとえば、Sachverstandigenrat fur Umweltfragen, Klimaschutz braucht Ruckenwind, 2022, S. 46ff.
16 ドイツでは、大半の場合にはすでに指定されている。
17 このような時間的猶予を与える経過措置の導入は、事業者側からは批判されている。Vgl. Bundesverband Windenergie, BWE-Stellungnahme zum Entwurf eines Gesetzes zur Erhohung und Beschleunigung von Windenergieanlagen an Land (Wind-an-Land-Gesetz-WaLG) vom 10. 6. 2022, S. 3.
18 この場合、特例建築が可能となるのは風力区域の設定主体が管轄するエリア全域となる。管轄エリア外にはこの効果は及ばない。したがって、特例建築のリスクを最小限度に抑制するためには、州にとっては行政管区等が計画主体となること、市町村にとっては本来市町村全域を対象とするFプランを市町村域の一部に限定して策定すること(建設法典5条2b項)の方が、州や市町村にとっては濫立のリスクを最小限に抑制することが可能となる。
19 ドイツの通説である。たとえば、 Battis, Ulrich/Krautzberger, Michael/ Lohr, Rolf-Peter, Baugesetzbuch, 12. Aufl., 2014, Rdn. 72 zu §35.
20 Kment, Martin, Eine neue Ara beim Ausbau von Windenergieanlagen, NVwZ 2022, S. 1153(1157). 発電事業者の業界団体である連邦風力連合(前注17)も、本文の認識を前提としてこの改正点には賛意を表明している。
21 もっとも、中間目標値は達成したが最終目標値は達成できなかった場合には、2033年1月1日以降は、35条1項が適用されてしまう。
22 したがって、目標値が達成されれば、その後の陸上風力設備の設置については、従来の計画間調整手法に服することとなる。
23 たとえば、ドイツのある著名な計画法・環境法学者は、筆者への私信の中で、この規定について「目標値の達成のために、計画法の本質的構成要素が犠牲に供された」と評している。
24 Kment, Beschleunigung des Ausbaus von Windenergieanlagen an Land, Thesenpapier von 45. Umweltrechtliche Fachtagung vom 10. bis 12. November 2022, S. 15.
25 もっとも、ドイツの計画法制では、既存の計画を変更するためには法定の手続きを履践することが不可欠であり(たとえば国土整備計画につき国土整備法6条)、議会の承認を要する場合もある(たとえばFプランにつき建設法典6条6項)。建設法典改正法のこの規定によってそのプロセスが省かれるということになれば、今後は争いの舞台が、事前の手続きではなく、当該計画で行われた衡量が実質的にも手続的にも適正であったか否か、という衡量手続の瑕疵の有無をめぐる司法審査の場面に移行することになる。この意味では、現実に問題となりうる局面は、通常の場合よりも増加するであろうことが予想される。
26 高橋・前掲(注1)3参照。
27 なお、本法は2022年7月28日よりすでに施行されている。
28 EEG改正法によれば、この規定は1MW以下の小規模事業者には適用されない。本文後述の(ii)の特例措置と併せて小規模事業者を優遇する意図が看取できる。
29 なお、この規定は事業者への義務づけ規定ではない。その意味では限界があるのだが、メクレンブルク・フォアポンメルン州では2016年にすでに事業者に義務づける法律を制定している(本法につき、高橋寿一「陸上風力発電設備の建設と市民参加」専修法学論集134号(2018年)70頁以下参照)。本法は、連邦憲法裁判所でも合憲判断が出されており(BVerfG, Beschluss v. 23. 3. 2022, ZUR 2022, S. 412ff.)、今後は各州とも義務づける方向で動き始めることも予想される。
30 Bundestagsdrucksache(BT-Drs.), 20/1630, S. 179.
31 高橋寿一「風は誰のものか?」横浜法学28巻3号(2020年)177頁。