Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.357 都市部にはCfDが似合う②
再エネ100%で料金も低下

2023年2月20日
京都大学大学院 経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:都市部100%再エネ、オーストラリア、CfD、電気料金低下

 前回は、豪州の首都特別区(ACT)が2020年までに再エネ100%を実現したこと、その手段としてCfD(Contract for Difference)を導入し奏功したこと、そして市場価格が高騰する中で基準(FIT)価格と市場価格の差額が還元され電気料金の安定化に寄与したこと、を解説した。再エネ100%は10万以上の都市では8番目であり、欧州以外では初の快挙である。今回は、ACTのCfD制度と小売り電気料金の関係、料金低下により豪州内では最も低い水準を享受していることについて解説する。

 なお、本論は3回シリーズとするが、それに伴い、前回のタイトルは「No.355 都市部にはCfDが似合う① 豪州首都が再エネ100%実現」に変更する。

1.CfD効果

2020年再エネ100%を前倒しで達成

 豪州の首都キャンベラを擁する首都特別区(ACT:Australia Capital Territory)は、再エネ100%を目指して独自の制度を創設し、公約である2020年度前に100%を実現している(「No.355 都市部にはCfDが似合う① 豪州首都が再エネ100%実現」)。2016年度に、それまでの2025年100%目標の前倒しにコミットしたのであるが、当時の連邦政府副首相から「非現実的で正気とは思えない」と一蹴された経緯がある。2020年度の電力需要量を想定し、それに見合う再エネ電力をCfD(Contract for Difference)方式にて入札を行い、2019年10月に前倒しで達成した。区域内の太陽光発電4カ所、州外の風力発電7カ所の合計出力約64万kWが落札された。正確には、落札電源は需要の3/4をカバーしており、残りは屋根置き太陽光5%および連邦制度のRPS義務量約2割である。なお、ACT内の人口は約43万人である。

 このCfD制度は、発電費用と適正利潤をカバーする基準価格(FIT価格)を、20年間固定で支払うものであり、発電事業者がエリア内卸市場に販売するスポット価格とFIT価格との差額が補填あるいは払い戻しされる。再エネ事業者は、費用回収の見通しが可能となり投資誘因が働く、消費者は(ACT政府を介して)価格高騰の影響を防御できるメリットがある。この制度は機能(奏功)し、風力立地点となったSouth-Australia州、Victoria州、New- South-West州および複数の自治体が導入している。

 落札電源は全国の導入量の多くを占めた(2015年度約5割、2016年度約3割)。2015年度は連邦政府が再エネ導入目標量の引き下げを決めたときであり、再エネ投資意欲が減退していた。なお、前述のACT政府を揶揄した元連邦副首相に対して、ACT環境エネルギ-大臣は「落札した風力の一つは副首相の地元に立地している」と返している。

再エネは増え、価格変動は吸収

 図1は、落札電源が稼働し始めた2014年度Q1から直近の2022年度Q2までのFIT電源発電電力量とFIT価格と市場価格の差額(プレミアム)の推移を示している。2029年度Q3(10月1日)に最後の電源が運開し100%に到達している。差額は2019、2020年度にプラスに振れるが、コロナ禍の需要減の影響もあり卸価格が下がった時期である。2021年度後半から卸価格は上昇し、2022年度Q1、Q2は多額の払い戻しが生じていることが分る(それぞれ58百万ドル、32百万ドル)。

図1.ACT、FIT(CfD)発電量と純差額の推移(2014/Q1~2022/Q2)
図1.ACT、FIT(CfD)発電量と純差額の推移(2014/Q1~2022/Q2)
(出所)ACT-Government

 この差額は、ACT内の電気料金に反映される。2022年度は、差額還元の影響を受けて、料金は1.25%下がる見通しとなっている(実質ベース、インフレ織り込みの名目ベースでは4.93%下落)。以下で解説する。

2.「電気料金」は低下

 豪州の電力制度は基本的に自由化されている。全国大の卸取引市場(NEM)が存在し、発電・小売り事業の参入は可能であり、料金は自由に選択できる。一方で、州政府の権限は強く、連邦制度の枠組みのなかで、独自の制度設計が認められている。ACTでは、8割のシェアをもつActewAGL が設定する規制料金を選択できる。同社は、旧電力・ガス会社であるAGL-EnergyとACT政府系事業者とが折半出資する事業者である。ACTの規制当局であるICRC (The Independent Competition and Regulatory Commission 独立競争規制委員会) が規制料金(ActewAGL の運転費用・マージン)を査定し、年1回公表している。

電気料金コスト内訳け:調達4割弱、送配電5割弱、小売り14%

 表1は、2022年6月に公表された(直近の)2021年度の小口需要家向け電気料金見通しおよび2022年の想定値である。小売り事業に係るコストは、①電力購入費用、②ネットワーク費用、③小売り事業費用に分類される。①は全体の38%を占めるが、卸市場からの購入30%、National-Green-Scheme 6.6%となっている。後者は連邦大の再エネ普及スキームであり、小売り事業者は毎年一定割合の再エネ証書調達を義務付けられる(いわゆるRPS制度)。2000年に成立した再エネ法により規定され、2001年度から2030年度まで毎年一定量の証書を購入する。再エネ義務量は次第に増えていくが、2022年度以降は毎年33TWhで推移していく(2015年度改正で41TWhから33TWhへ引き下げられた)。2022年度は需要量の約19%となる。この量と市場で決まる証書価格を小売り事業者は負担することになる。

 新規再エネ設備は、異なるスキームで支援されることになるが、前の保守連立政権では纏まらず、州が先行する形となっていた。ACTのCfDはそのフロントランナーである。追加される再エネ投資をFIT価格で支える一方、同設備から生じる環境価値はACT政府に帰属する。

表1.豪州首都地区(ACT)電気料金想定(小口需要家用、2022年度)
表1.豪州首都地区(ACT)電気料金想定(小口需要家用、2022年度)
(出所)ICRC(The Independent Competition and Regulatory Commission)
“Retail electricity price recalibration 2022–23”(2022/6) に加筆

 ②ネットワーク費用であるが、送配電の利用料金が32%を占める。そして16.3%を占めるACT-Govt-SchemeがCfDの差額に該当するものである。差額はACT政府が1/2所有する配電事業者Evoenergyが系統を通じて仲介(再エネ事業者より購入しActewAGLへ販売)するが、需給調整費用も含まれていると考えられる。

 ③小売り事業費用は8.7%であるが、5.7%の運転費用のほか省エネ支援、事業者スイッチ、スマートメーター等の費用で構成される。以上の全費用の約5%相当分が小売りマージンとなる。殆どは規制費用で外部的に決まるが、③とマージンは規制当局の査定対象となる。

料金低下要因:市場調達費用増をCfD調整費用減が上回る

 さて、2021年度と22年との比較であるが、ポイントは赤枠で囲っている卸市場からの購入費用とCfD差額(プレミアム)で、両者は基本的に逆相関の関係にある。図1で示されたように、2021年度後半から2022年度前半にかけて、ガス・石炭価格の暴騰を受けて電力市場価格は高騰した。3割を占める市場購入費用が年間でMWh当たり10.07ドル増加する一方で、16%を占めるCFD差額が11.37ドル減少する。費用全体で1.25%減少するのであるが(最下段、名目では4.93%減小)、寄与度は前者は+3.58%で、後者は▲4.04%である。後者の効果がより大きいことが料金引き下げの主要因となる。市場高騰の余韻が残る中でのコスト削減そして小売り料金引き下げは、大きな効果と言える。燃料費の影響を受けない再エネ100%は、環境だけではなく、経済的にも安定をもたらしメリットが大きいことを示したといえる。

豪州で最も低い料金に

 図2は、2022年6月1日時点での、州別電気料金の比較である。年間6500kWhを消費する前提での2022年度想定料金である。黄色の棒は自由料金、灰色の棒が規制料金で、水平の点線がACTの規制料金であり、点は中央値である。規制料金、自由料金ともに、ACTが最も低いことが分る。なお、水力が殆どのタスマニア州(TAS)はもっと低いが、最新情報未公表のため図には出ていない。

図2.豪州の州別電気料金の比較(6500kWh/年使用、2022/6/1時点)
図2.豪州の州別電気料金の比較(6500kWh/年使用、2022/6/1時点)
(出所)表1と同一

終わりに

 今回は、前回に続いて、豪州首都特別区(ACT)の再エネ支援策CfDについて、電気料金との関連性に焦点を当てて、解説した。電力小売り費用に占める電力調達費用(電気代)の割合はRPS費用を含めて4割弱を占める。燃料ゼロの再エネが100%を占める中では、乱高下する燃料価格をスムージングする効果は大きい。また、現状では再エネ100%のACTが他州よりも低料金となっている。落札電源が立地する他州もACTモデルを導入している。都市が相対で再エネ事業者とCfD取引を行うことは、非常に魅力的に映る。ACTは2045年カ-ボンニュ-トラルにコミットしている。次回は、電力に次ぐ脱炭素対策とバッテリーの役割りについて解説する。

 以上