Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.396 中国主導で驚異的に増える太陽光発電 -高まる期待と独占への警戒-

2023年10月5日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:太陽光発電、導入量著増、PVモジュール投資、中国

 太陽光発電は、2019年から2022年の3年間で導入が116%(2.1倍に)増加した。脱炭素やエネルギ-安全保障を背景にリードタイムの短い太陽光に焦点が当たったこともあるが、サプライチェーンでの驚異的な投資、モジュール価格が2021年秋をピークに下落していることが大きい。米国のIRA、欧州のREPowerEU等の推進策の効果もあるが、主役は中国メーカーの超積極的な投資行動による供給過剰が効いている。中国は脱炭素の強力な援軍となる一方で、サプライチェーンの8~9割を占めることへの警戒感も高まる。日本はこの激変するトレンドから蚊帳の外に置かれる懸念がある。今回は、これを解説する。

1.需要サイド:2030年1000GW(1TW)導入が現実に

2019年から2022年に導入量は2.1倍に

 太陽光発電(太陽光)は、世界で大きく増加している。2017年に100GWを超えて暫く漸増で推移したが、2020年以降145GW(2020年、+31%)、175GW(2021年、+21%)、240GW(2022年、 +37%)と著増となった。これはポストパンデミック、ウクライナ侵攻を背景とするインフレのなかで電力価格が上がったこと、太陽光のコスト競争力が上がったことが効いている。エネルギ-安全保障意識を背景に再エネ導入意欲が高まるなかで、短いリートタイムが有利に働いていることも考えられる。

図1.太陽光発電システム年間導入量推移(GW DC)
図1.太陽光発電システム年間導入量推移(GW DC)
(出所)IEA PVPS:Snapshot Global Pv Markets 2023 和訳版(2023/4)

 この傾向は拍車がかかっていく。太陽光生産の8割を担う中国メーカーの信じられないような旺盛な投資意欲により、過剰供給能力が出現し、モジュール価格(パネル価格)が一層低下していくからである。以下、IEA資料を基に解説していく。

中国シェアは年間44%、累計35%

 2022年度の国別導入量を見ると、中国は年間で106GW(合計240GWの44%)、累計で414GW(合計1185GWの35%)を占める。断トツの地位である。日本は、年間で6.5GWと7位で、低下してきている。累計は85GWで3位であるが、導入量は、全体が著増する中で減少しており、順位はさらに下がっていくことになる。

図2.太陽光上位10国導入量(2022年度、年間と累積)
図2.太陽光上位10国導入量(2022年度、年間と累積)
(出所)IEA PVPS:Snapshot Global Pv-Markets 2023 (2023/4)

2030年は1TWは確実、1.5TWを視野に

 図3は、Solar Power Europeによる2030年までの予測である。Low(橙)、Mild(灰、線)、High(青)の3ケースを示しており、Mildを基調としている。2023年はLowが250GW、Mildが280GW、Highが402GWである。2030年はLowが680GW、Mildが1020GW、Highが1544GWであるが、Mildで1TWそしてHighで1.5TWとテラワット時代に突入するとしている。

図3.世界の太陽光発電・将来シナリオ(2022~2030年)
図3.世界の太陽光発電・将来シナリオ(2022~2030年)
(出所)Solar Power Europe

 足元の導入状況を見てみる。BNEF(Bloomberg New Energy Finance)の2023/5公式見通しでは、2023年は344GW(322~380GW)、2030年は675GWとなっているが、同社リードアナリストは2024年は400~450GW、2030年1000GWの可能性に言及していた。同社の8月予想では、2023年を392GWに引上げている。見直しの都度大きく上方修正されており、上記Highの402GWは実現可能と思われる。なお、IEA-NZEシナリオにおける2022-30年の太陽光導入量は462GW/年である。

2.供給サイド:IEA-NZEシナリオを大きく上回る投資計画

2023年第1四半までに能力倍増の投資計画

 次に供給サイドを見ていく。モジュールの生産能力は、2022年末で約600GWであるが、2023年Q1までの計画を含めると倍増している。

 図4は、脱炭素実現のための主要技術(太陽光、バッテリー、風力、ヒートポンプ、水電解)に関する2030年時点の生産能力と、IEAのNZEシナリオにおける同時点の導入量とを対比したものである。縦軸はNZEの2030年導入量を100(緑線)とした場合の各技術の水準を示している。横軸は技術毎の2021年および2022年の生産能力実績、2022/11末時点の計画値、2022/11末から2023/3末まで計画値を並べてある。

図4. 脱炭素核技術に係る計画能力とNZEシナリオ導入量との対比(2030年)
図4. 脱炭素核技術に係る計画能力とNZEシナリオ導入量との対比(2030年)
(出所)IEA:Renewable Energy Market Update (2023/6)

IEA-NZEシナリオ2030年需要値の1.65倍を確保

 太陽光は、計画が全て実現されれば既に165(1.65倍)の能力となっている。2022/11末時点の計画量も大きい(青色)が、驚くべきは2023/3末までの計画量(水色)である。まさに直近4カ月で急増したことが分る。後述するが、その多くは2024年までに運転開始、2025年までに全量運開が予定されている。即ち、ここ数年で能力が激増し、当面は供給過多となり、価格を押し下げることになる。なお、2023年5月に、中国のJinkoSolarは57GW工場の新設を発表しているが、ここには含まれていない。

 他の技術をみてみると、バッテリーと水電解(水素製造)が97、54と高水準となっているが、2022/11末までに決まった投資が多くを占める。バッテリーは太陽光とセットである場合が多いと考えられる。

中国メーカーのモジュールシェアは8~9割

 それでは、誰が投資するのか。圧倒的に中国メーカーである。図5は、IEA直近のレポートであるが、中国メーカーによる太陽光サプライチェーンへの投資動向を示している。PV製品のサプライチェーンは、川上からポリシリコン(Polysilicon)、ウエハ(Wafers)、セル(Cells)、モジュール(Modules)となるが、現状全体的に中国メーカーは約8割を占める。2024年までに追加される設備を考慮すると中国のシェアはさらに拡大する。特に最上流であるポリシリコン、ウエハは95%まで上がることになる。生産能力は、2021年は約300GWであるが、2024年には1000GW前後にまで拡大する。

図5.中国PVメーカーの旺盛な投資意欲
図5.中国PVメーカーの旺盛な投資意欲

中国メーカーが20~30GW事業を競って投資

 図5右の表は、最近発表された20GWを超えるソーラーモジュール関連投資一覧である。13事業(計294GW)のうち12事業を中国メーカーが占め、残り1社はインドである。まず、1ヶ所当たり20~30GWという規模の大きさに驚く。2023年以降運開であり、遅くとも2025年までフル稼働となる。前述の様に、JinkoSolarは、この後57GW工場新設を発表している。

 2023年は「クリーン投資競争元年」とも称され、各国はエネルギ-安全保障や主役となる産業競争力構築に大きく舵を切る。有名な米国のIRA(Inflation Reduction Act)、欧州のREPowerEUおよびNZIA(Net Zero Industry Act)、インドのPLS(Performance Linked Scheme)等である。導入だけでなく製造設備の国内投資にも注力し、数値目標も設定される。安全保障等の観点から関税措置の導入が実施あるいは検討されている。実際、欧米等において太陽光製造設備の計画は動いている。しかし、大規模とされるその規模は1~3GW/所である。如何に中国の規模が大きいかが理解できる。

モジュール価格は再び低下トレンドへ、2030年は現在の1/2も

 モジュール価格は長期低下トレンドのなかにあったが、パンデミックの影響で2020年7月に底を打った。その後2021/11まで上昇した後に低下に転じ、現在はピーク時より1/3低下した水準にある。図6は、欧州のモジュール卸価格の2022/8~2023/8の推移である。2022/10と2023/3に一時的に反転上昇したほかは、一貫して低下している。

図6.PVモジュール価格の推移(欧州 €/W 2022/8~2023/8)
図6.PVモジュール価格の推移(欧州 €/W 2022/8~2023/8)
(出所)pvXchange module price index (€/W 欧州2023/8)

 中国メーカーを主とする大規模投資および供給過剰を背景に、今後も低下が続くという見方が多く、2030年までに現在の1/2になるとの見方もある。Solar Power Europe長期見通しにおけるHighケースを辿りつつある、と解説したが、過剰とも言える供給力とモジュール価格低下が後押ししていることは間違いない。

 それにしても、中国メーカーの強気な投資行動をどう理解したいいいのか。既に世界を席巻している状況のなかで、敢えて競争激化を招く行動を取ろうとするのか。EVも同様で、500社が参入し現在100社まで淘汰されていると言われる。余剰は海外に流れ、EUではEVおよびソーラーモジュールのダンピング調査が入ろうとしている。一つの仮説として「それが中国人の性だから」が当てはまるように思える。同国の積極政策だけでは説明がつかないと思われる。

3.太陽光突出、中国突出の影響をどう考える

火力撤退に拍車、風力や調整力にも影響

 ここで気になるのは、太陽光の突出ともいえる増加の影響である。IEA-NZEシナリオにおける2050年電源構成の姿は、再エネ88%(風力35%、太陽光33%)、原子力8%、水素・CCUS等の汽力4%である。太陽光の増加が著しいことから、火力発電減少の速度が早まる可能性が高い。大枠でも価格の高い原子力が8%を維持できるのか疑問なしとはしない。約9割の再エネのなかで、風力のシェアが低くなる可能性がある。風力と太陽光は再エネの2本柱であるが、構成が変わることになる。

(筆者注)この9月26日にIEAはNZEシナリオの改訂版を公表した。そこでは、再エネ89%(風力31%、太陽光41%)、原子力8%、水素・汽CCUS等汽力3%となっている。


 安価な太陽光が席巻することで、熱需要の電化促進やグリーン水素の前倒し導入も十分考えられる。システム的には、VRE急増に伴い、ストレージを主とする調整力の早期整備が不可欠となるが、前述の様にバッテリー、水電解設備投資計画が活発であることは、ニーズへの対応と考えられる。

各国安全保障、クリーン産業強化との関連

 もう一つ、太陽光突出は事実上中国メーカー突出でもある。中国の旺盛な生産投資、クリーンテク大競争、モジュール価格の低下、短いリードタイム等を背景に、世界の太陽光導入は明らかに新たな段階、エネルギ-の覇権を目指す方向に進んでいく段階に入った。これは脱炭素実現に関しては朗報である。一方、中国内の設備過剰は輸出ドライブとなり世界の海岸倉庫に蓄積されるが、これが欧米印等の安全保障や国産化政策とどのように調整されるのか、という論点がある。

トレンドに乗り遅れる日本

 最後に、日本を考える。日本は、FIT導入当初こそ大規模な認定が生じ年間導入量世界第2位に駆け上がったが、その後急速なFIT価格引き下げを主に認定量が激減し、最近は年間1~2GWの認定に留まる(図7)。

図7.日本の太陽光発電導入量・認定量等の推移
図7.日本の太陽光発電導入量・認定量等の推移
(出所)資エ庁「今後の再生可能エネルギー政策について」(6/21/2023)

 年間導入量は、初期認定在庫を食いつぶす形の漸減傾向を辿り、世界7位まで下がっている。世界動向と際立った対比を示す。国内導入の多寡はペロブスカイト等の新技術の競争とも密接に絡む。脱炭素の実現の主役であり、何らかの手段を講じて国内導入量を増やすことが不可欠である。FIT価格の引き上げ、系統接続対策、出力抑制対策、環境価値の見直し等が考えられるが、これに関しては増川武昭氏が本コラムにて考察している(「No.394 太陽光発電の主力化と2030年導入目標達成に向けた課題について」)。これに関しては、筆者も機会を見て考察してみたい。