Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.413 ドイツの再給電(リディスパッチ)2.0から見る再エネ電源の調整力の活かし方と課題

2024年3月14日
ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳 西村健佑

 太陽光や風力の変動再エネ電源が増えると系統管理の難易度が高まるというのは誰もが同意するところであろう。しかし対処法になると議論は複雑化する。答えは一つではないからだ。柔軟性の手段を類型化し、コストベネフィットを比較して推奨手段に順位はつけられるが、これは理論の話で、現実にどの手段を取ることが可能かは、取るべきかと乖離することもしばしばあるからだ。

 例えば出力抑制は、社会の便益を考えれば、限度はあるが、比較的低コストで実施できる方法である1。しかし特にFIT導入時に太陽光発電事業に参入して高額の買い取り価格を受け取っている事業者には、高い買い取り価格による利益を見込んで事業を多角化してきたケースもあるだろうし、そうした事例では出力抑制による逸失利益は看過できない問題なのだろう。筆者は、出力抑制を系統柔軟性のイチ手段として明確に位置づけるべきだと思うが、どの程度実施できるかは技術ではなく社会の文脈や空気によって左右されうると考えている。

 日本でも行われる出力抑制だが、FITやFIPを導入しているドイツでも再エネの出力抑制にかかるコストは度々社会問題となる。今回はドイツが進めている再エネも対象としたリディスパッチ2.0という新しい手法を主軸において論じてみたい。ここでは、まず課題について述べ、次にリディスパッチ2.0を説明し、最後に現状をお話し、まとめに入る。

ドイツの課題は北の風力が発電したときの系統混雑

 ドイツでは、特に初期のFITは優先給電、全量買い取りが前提となっており、出力抑制された電力量に応じて補償を受け取れるようになっていた。そのため、事業者から出力抑制を危惧する声は聞かれなかった。出力抑制の補償規定はその後段階的に変更され、今はすべてが補償されるわけではないが、遡及的対応はしていない。

 また、安田らの分析2ではドイツの太陽光発電の出力抑制は近年も低い水準であり、ドイツでは問題になっていない。ドイツのFITやFIPは太陽光発電の支援上限は20MW(初期はもっと小さかった)であり、実際には数MWの小型設備が多い。そのため、特別高圧送電系統を運営し、系統対策の責任を負うTSOにとって、配電系統すなわちDSOに連系している太陽光の出力抑制は他の電源よりも技術的に難しいという理由がある。

 他方で風力はしばしば問題となる。ドイツは電力需要の少ない北に風車が集中しているが、全国に強い送電系統が整備されているわけではない。また、風車は1基で4MW級も存在し、ウィンドパーク単位では数10MWや100MW以上で系統と連係することも多い。そのため、風車が大量に発電すると北ドイツで系統混雑が発生し、最終的には風車に出力抑制がかけられる3

リディスパッチ2.0とそれ以前

 本稿は、ドイツの現状について連邦ネットワーク庁のモニタリングレポート4に多くを依拠するが、そこでは系統混雑対策が必要な理由について以下のように述べている(カッコは筆者)。

 「比較的負荷から離れた(需要地から遠い)風力発電所の拡大、従来型発電所の変化(閉鎖による容量の減少、特に南ドイツの原発の停止)、他国との国際電力取引の枠組み条件の変化が、送電系統拡張の遅れと相まって、送電網の混雑(congestion)を招いている。」

 要は系統対策が必要な理由は再エネだけではないのだが、さりとて北ドイツの風力にはなんらかの対策を求めていくということであろう。
 ドイツ国内で実施されている系統混雑対策は4種類ある5

  • リディスパッチ:TSOとの事前の契約により、調整可能な発電所からの電力供給を削減・増加させ、費用を償還する。
  • 系統予備力:契約上の合意に基づき、予備力として系統混雑解消能力の不足時に能力を供給するための発電所を設置・配備し、その費用を償還する。
  • カウンター取引:物理的な系統混雑を最小化するために、TSOによって起動される2つの入札ゾーン間の越境取引による調整。
  • 出力抑制6:再エネ法に定められる再エネ電源や、コジェネ電源の出力抑制。2021年10月1日をもって、新システム「リディスパッチ2.0」の導入に伴い廃止される。優先給電は、2021年10月1日以降、リディスパッチ指示決定基準において直接的に考慮するものとする。

 筆者で多少の説明を試みるなら、リディスパッチは稼働中の発電所に対して、系統運営者が指示を出す方法で償還はあくまでTSOの指示によって生じるコストが対象である。一方、系統予備力は日常的には停止している電源で、TSOの指示に応じて起動できるように待機している。そのため、待機に伴うコストも支払われる。

 ゾーン越境取引は、ドイツは入札ゾーンが国内に1つのため、国外の電源を調整力として調達することを指す。逆に隣国の系統運営者の求めに応じてドイツ国内の電源を調整することもある。

 以前のリディスパッチ(1.0)では、最初の3つはFIT電源以外、つまり10MW以上の従来電源(化石燃料と原子力)が対象で、4つ目の出力抑制だけはFIT電源のみを対象としたものだった。また、出力抑制はその他の柔軟性をすべて活用した後とする、再エネ優先給の原則があった。実際にはすでに述べた通り、出力抑制は主に風車が対象となっている。

 リディスパッチ2.0では、100kW以上の全ての電源と、DSOによる遠隔操作が可能な100kW以下の電源が対象となる。また、リディスパッチ2.0で対応しきれなかった場合は、緊急手段としてすべての電源が系統混雑対策の対象となる(ただし緊急手段における再エネ優先給電は有効)。リディスパッチ2.0においても再エネ優先給ルールはなくなるわけではないが、出力抑制がかかる頻度はあがると予想されている。

 また、リディスパッチ2.0では、需要家側設備も対象であることが明記された。これは、ヒートポンプ、私的に利用されるEV充電設備、冷却用・電気貯蔵システム(主に蓄電池)、夜間蓄熱ヒーターが対象となることが明記されている。

 リディスパッチ2.0の議論開始当初は再エネ電源の取り扱いが不透明なことが議論されていたが、結果的には需要家側の小型設備も対象となり、議論が混乱したことは否めない。リディスパッチ2.0では、ドイツは送電網を管理するTSO 4社と配電網を管理するDSO 866社すべての系統運営者が対応を迫られる。これまでよりも密で透明性の高い情報交換が求められるのである。

 いずれにしても、リディスパッチ2.0は再エネとともに需要家も系統混雑対策の一部に位置づけられることが明確になった点は、将来のエネルギーシステム、特にセクターカップリングの実現の鍵となると思われる。

2022年のリディスパッチの結果

 以下の表は、過去4年の系統対策の結果である。2022年からは出力抑制という手法がリディスパッチ2.0に置き換わったので、出力抑制分もリディスパッチに吸収されている。しかし、電力量に比べてコストが大幅に上昇しているのは、石炭やガスの価格が高騰したことが原因である。また、給電調整というのは本当に最後の手段で、出力抑制のあとに実施され、これの対象となった電源は給電量の抑制を受けても補償を受け取ることはできない。この給電調整は2022年以降、リディスパッチ2.0導入に伴う報告手順の変更で把握されなくなったと説明されている。

表1 2019―2022年の系統混雑対策の実績
表1 2019―2022年の系統混雑対策の実績
注:2022年の再エネのリディスパッチ(旧出力抑制)のカッコ内の補償額は、本来リディスパッチコストに含まれているが、筆者が抜き出して記載したものである。したがって旧出力抑制を含まない2022年のリディスパッチコストは1,895(百万ユーロ)になる。

表2 2022年のリディスパッチの指示を受けた電源と調整電力量(GWh)
表2 2022年のリディスパッチの指示を受けた電源と調整電力量(GWh)
出力抑制率は、Energy-ChartsのENTSO-Eデータの各電源の発電電力量から計算。

 2022年の系統混雑対策の費用は42億ユーロで、前年の23億ユーロから飛躍的に増大した。理由は、調整電力量の増加と化石燃料の高騰である。

 ENTSO-EをもとにEnergy-Chartsが算出したデータによれば、2022年のドイツの総発電電力量は、482.8TWhなので、下げは発電電力量の3.3%、上げは2.7%相当である。リディスパッチの総コストは28億3700万ユーロなので、1MWあたり5.9ユーロに相当する。

 FIT、FIP電源はリディスパッチ2.0に組み込まれたが、償還額はFITの支援額に基づいて決められるようになっている。最新の再エネ電源であれば、発電にかかる限界費用は他電源より低くなっており、1MWhあたりの補償額で見れば、再エネにリディスパッチの指示を出すほうが従来電源よりもコストメリットが大きいと考えられる。

 発電事業者は出力抑制だろうがリディスパッチ2.0だろうが、補償を受けられることは実質変わらないので、金銭的にはこの変更は大きな問題はない。すべての発電設備、需要家設備が平等に適切に補償される仕組みを作ることが、公平で効率的な系統混雑対策につながるというドイツ政府の意図も感じられる。

 ただし、リディスパッチ2.0では、補償額を請求する必要が生じるため、手続き的には大きな変更が迫られる。また、一般家庭のヒートポンプなどが系統混雑対策の対象となった場合に個人が請求をするのはほぼ不可能である。そこで、VPPやアグリゲーターがTSOやDSOの指示に従って電源を調整し、保証の請求を行うこととなる。BDEWはこうしたサービスを行う事業者のリストを公開しており、そこには著名なバランシンググループ責任事業者の名前が並んでいる7

 いずれにしても、2022年はエネルギー価格が過去にないほど高騰した年で、リディスパッチ2.0の効果を検証できるには、まだ数年の実績を積む必要があるだろう。

リディスパッチ2.0は完全な実施の途上にある

 リディスパッチ2.0開始から1年を経たが(2023年の結果はまだ公開されていない)、関係者の評価は厳しいもので、電事連にあたるBDEWは改善を要求、連邦ネットワーク庁も応じると回答した。そもそもリディスパッチ2.0は2022年は暫定的な過渡的対策としての適用だったが、23年も延長されている。

 現在のリディスパッチ2.0の問題は、多くの事業者やDSOがデジタル化に対応できておらず、リディスパッチのやり取りが一元化されていないこと、バイオガス業界では熱供給も行うコジェネ設備で熱供給義務が十分に考慮されていない、長期にわたって下げの指示が出された際にガスタンクの貯蔵量の限界を超えてしまい、発電もできないままガスを燃焼させなければならないなどの課題が挙がっている8。熱供給義務についてはそれを織り込むことは理論的には可能だが、過渡期で十分に考慮できていないようである。

 それ以外にもTSOがリディスパッチを行うタイミングが早すぎると、バイオガスや蓄電池などの柔軟性の高い電源はせっかくの収益機会を逃すこともあるが、これに対する補償は十分ではない、などの経営的な課題も挙げられている。つまり、リディスパッチの指示が出ると、アンシラリーサービスへの参加など、指示の出た時点から実供給までの間で得られる収益機会を逃してしまうことにもなる。

 これらのことから、過渡期のリディスパッチ2.0はVPPなどのアグリゲーターに莫大な負担と経営の不透明さをおしつけることになっている。

 残念ながら、過渡期のリディスパッチ2.0は制度に未熟な点が多く、現状では小型設備のリディスパッチは実験的に行われているに過ぎないが、問題が山積している状況なようだ。しかし、すでにリディスパッチ3.0の議論は始まっており、関係者は状況改善に希望を見出そうとしている。

ドイツは独自の道を行く?

 興味深いのは、ドイツ自身、リディスパッチ2.0が他国と比較して特異であることを知っているという点だ。エネルギー系の研究所のFfEは、電動モビリティプロジェクトの一環で各国の系統混雑対策とアンシラリーサービス制度を調査し、例えばノーダル制を敷いている国と比較してリディスパッチ2.0は小型設備の導入と制度の移転で独自の道をいっていると結論で述べている9

 しかし、他国の事例は再エネ電源であっても大型のものをアンシラリーサービス供給に使うことを主としており、EVが普及しているノルウェーでも主力は大型水力発電で、EVを系統混雑対策に組み込みたいドイツの参考にはならないとしている。

 それはつまり、100kW以下と言った小型の負荷による系統調整の手法が、当面はドイツだけで採用されることになる可能性があるということだが、将来他国も小型設備の利用を始めれば、ドイツは先行者利益を得られるとまとめている。

 さて、現実はどの方向へ向かうのか? ドイツは現在の混乱を抜け出し、再エネや小型設備の活用を強化できるのか? 鍵を握るのはDSOのデジタル化であるようだ。

(キーワード:出力抑制、リディスパッチ2.0、ドイツ)


1 https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0402.html
2 図3:https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0402.html
3 本稿で述べているのは系統混雑を解消するための対策であり、周波数などのアンシラリーサービスやそのために調達される調整力電源とは別のものなので注意されたい。
4 連邦ネットワーク庁モニタリングレポート2023
https://data.bundesnetzagentur.de/Bundesnetzagentur/SharedDocs/Mediathek/Monitoringberichte/MonitoringberichtEnergie2023.pdf
5 出典は同じく連邦ネットワーク庁モニタリングレポート2023
6 ドイツ語ではEinspeisemanagementで正確に訳せば出力管理となるが、本稿では出力抑制とし、出力抑制とは、FTIまたはFIPの支援を受けている再エネ電源に対してTSOが給電量を直接管理する手法を指す。
7 https://www.bdew.de/media/documents/240208_Dienstleisterliste_Redispatch_2.0.pdf
8 https://www.next-kraftwerke.de/energie-blog/redispatch-2-0-uebergangsloesung
9 https://www.ffe.de/en/publications/congestion-management-redispatch-2-0-in-international-comparison/