Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > 研究会情報 > 2021年4月26日(月)の部門A研究会 議事録

2021年4月26日(月)の部門A研究会 議事録

2021年4月26日
於:Zoom会議室(オンライン)

 4月26日(月)16時から20時まで、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会がオンラインで開催されました。今回の研究会では京都大学の山家公雄先生から特別講演を頂いた後、研究会では、資源エコノミストの飯沼芳樹氏、ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳の西村健佑氏からご発表頂きました。

容量市場について -日本の制度を主に-

山家公雄先生

 今回は日本の容量市場制度について報告する。容量市場は中長期の供給力確保策で、卸取引市場を補完する仕組みだが、日本では議論不足のうちに容量市場が選択され、限界費用が高止まるなどの問題が発生した。海外事例を参考に、日本は容量市場の需要曲線(2020年度)を設定したが、上限価格(14,137円/kW)が指標価格(9,425円/kW)の1.5倍と急勾配である。

 第1回(2020年度)の入札結果は上限価格に張り付き、容量市場の経験上異例で、落札率は97.5%と供給力不足が露呈した。異常高値の理由として、需要側は想定需要が過大で、需要カーブの形状が挙げられ、供給側はオファー量が不足、供給条件の問題、規制当局の監視力不足が挙げられる。種類別応札・落札状況をみると、応札したものは殆ど落札しており、発電方式別の落札容量比率をみると、従来型電源が殆どで再エネは極僅かである。供給オファーは過少、発電設備が埋没した可能性あり、期待容量と応札容量の差は約2,000万kWだった。

 日本版容量市場の特徴は、例をみない高額約定(=上限価格)で、供給不足が主因(落札率ほぼ100%)と考えられる。情報開示不足(事業者、件名、容量は非公開)、究明不徹底の問題もあった。既存設備固定費の補完が目的に見え、新規応札は皆無だったと思われる。日本は根強い設備所有、相対取引志向から抜け出せていないと言える。根本原因として構造・システム改革の遅れ、市場支配力の存在が挙げられる。

 米国PJMの容量市場と比較すると似て非なるものと言える。PJMでは約定価格水準は4,000円/kW・年前後で、指標価格の4割程度である。36,000MWのクリーンエネルギー(8割はガス)が追加され、ほぼ同量の石炭が廃止され、新規設備が電力価格40%低下の牽引力となった。

 現在日本で議論されている容量市場の見直しの議論は根本的解決策に程遠く小手先の対処療法に見える。供給力として最大需要の113%相当の設備容量(kW)確保は堅持し、価格決定手法の抜本的な見直しとして、オークションの2段階化や小売事業者の激変緩和、入札価格の事前監視制の導入等が検討されている。

pdf資料(4.34MB)

米国容量市場の現状と課題 ―PJMを中心として―

飯沼芳樹氏

 米国には7つのISO/RTOが存在する。ISO/RTOは市場運営とグリッド運営を行う中立的な組織である。7つの組織はエネルギー市場、リアルタイム市場、アンシラリー市場から成り立つ。

 PJMとは米国最大のISO/RTOで、中国の国家電網を除けば世界最大のグリッドオペレーターで、最も歴史が古く、タイトなパワープールが前身である。自由化以前から広域運営と市場運営の経験を有する。サービス地域(人口6,500万、最大需要は1億6,500万kW、発電設備は1.8億kW)は自由化地域となっている。PJMの発電設備構成はガス、石炭、原子力の順で、石炭と原子力の比率が減少しており、ガス火力や再エネが伸びている。

 PJM容量市場はパワープール時代から実質的な容量市場が存在し、自由化後分散型容量市場が導入され、2007年からは集中型容量市場に移行した。容量市場の目的は、kWの価格シグナルを通じて信頼度維持のための容量を確保するもので、具体的には新規投資を誘引し非経済的設備の退出を促す価格シグナルである。過剰設備と供給力不足を料金に反映していく。容量はPJMが必要とする際に必ずkWを提供するとのリソース側のコミットメントで、kW供給有無に係わらず報酬が得られ、エナジーについては実際の発電電力量で、市場への参加によるkWh収入である。PJMでいう容量資源は、DR、送電線強化、エネルギー効率、発電設備から成る。アデカシー要件は、想定最大需要と信頼度基準(10年に1回のイベントを超えない)を満たすリソースの確保を目指すものとなっている。

 来月主オークションの入札が行われる予定で、入札前に需要曲線を決めるパラメーターが発表されている。これまで実施されたBase Residual Auction(BRA)は供給曲線と交わる右側で決定された。PJMの入札は3年先で、ガスタービンを前提としている。PJMの卸電力の構成(2020年)はエナジー価格、容量価格、送電、その他となっているが、2018年以降、卸電力価格、エナジー価格が減少傾向にある一方、再エネの増加や災害への強靭性強化により送電価格が上昇する見込みである。容量価格は指標価格の約半分の価格で推移し、その理由はコンバインドサイクルが多いためである。約定量の9割以上が発電設備容量で、DRは5%から9%の間で推移、kWとしては1000万kW以上である。来月実施される主オークションで使われる目標予備率は14%台に低めている。

 自由化後の信頼度維持のための容量確保には成功しているが、これが容量市場のためなのか、他の要因によるものなのかは明らかではない。需要側のリソースであるDR、エネルギー効率が低コストの電源として市場化されたのは評価できる。最近のテキサスのイベントが示唆する問題や新技術・システムの導入を考えると、信頼度を維持しつつ市場をどのように運営するかは更に難題である。停電で100名以上が死亡し、気候変動による異常気象を考えると、過去のデータに基づく基準作りでいいのか、洋上風力、DER等が導入されていく中でこれまでのシステム運用のルールでいいのかどうか、新たに検討すべき事項がある。

pdf資料(1.38MB)

ドイツにおける容量メカニズムの議論

西村健佑氏

 2000年以降、風力と太陽光が伸びてきた一方、安定電源は減少していない。ピーク需要は85-90GWくらいで、ドイツは従来電源だけで充分にピーク需要を賄える。ピーク需要の倍くらいの再エネ電源も所持する。ドイツが目指す電源ミックスは、2020年時点で、従来型電源が60%、再エネが40%、2050年には、従来型電源が20%、再エネが80%で、再エネは今後5倍(110GWから400GW以上)にする必要がある。安定供給のための課題は、過酷シナリオにおける残余需要を賄う柔軟性の高い電源が必要である。

 ドイツは容量メカニズムの選択肢のうち、容量が余っていることなどから、戦略的予備力を選択した。服部(2015年)の整理では、まず戦略的予備力の導入を検討すべきと分析しているが、ドイツもこれに従ったことと言える。ドイツが定義した発展した電力市場とは、取引価格に上限、下限がない、取引単位がより小さくリアルタイムに近いスポット市場を実現させる、市場からの価格シグナルを通じて市場参加者が適切な投資判断を行うことができるというものである。ドイツが容量市場をやめた理由は、コストの効率化やDRへの投資を考えてのことである。

 ドイツは、包括的容量市場の欠点として、政府によって容量が過大に見積もられる可能性が高いこと、偶発利益の不均等に配分されること、電源間の区分がないことなどを挙げている。

 上記を踏まえ、ドイル政府は戦略的予備力を採用した。戦略的予備力となった電源は普段は停止、売電は禁止され、TSOから稼働指示が出た場合のみ稼働する。供給した電力量と停止中の維持コスト(託送費の一部;消費者が負担)が支払われる。使われなければ、無駄なコストが発生するデメリットがあると言える。

 2012年当時の状況は、石炭価格が下落し、天然ガス価格が上昇し、柔軟性電源投資が不足していた。リーマンショック後の電源需要が伸び悩み、排出権取引価格が低調していた。当時の課題は、褐炭、石炭の退出促進、再エネの市場統合のための改正の必要性、卸価格の上限設定でマージナル電源の投資意欲を減退させることだった。発電市場が寡占から弱い競争状態にあり、容量市場の偶発利益で大手電力の支配力が強まる可能性があった。

 ドイツが容量市場を諦めた別の理由は、2012年2月の需給のひっ迫、需要の読み間違いや再エネの発電量が少なかったことが挙げられ、kWだけを確保してエネルギー転換には不十分で、市場がシグナルを適切に送り市場参加者が適切に対応することが必要だった。これを踏まえ、容量メカニズムより先に卸市場改革に着手すべきと考えた。

 ドイツの戦略的予備力は、契約期間は2年、継続参加も可能で、終了後は一般市場に参加も可能である。需給調整市場には制限がある。市場条件はシングルプライスとなる。これまでに入札は1回しか行われておらず、募集に対し、応札量が少なかった。

 EUの文脈では容量市場が容認される傾向がある。英国やフランスが導入している。ただし、EUでは、容量市場は自国産業への補助金と考えられており、自国電源を国際競争から守ることが進んでしまう。ドイツでも分散型容量市場について検討されていくと思われるが、再エネの成長鈍化、天然ガスへの逆風などの懸念はある。

pdf資料(2.15MB)