Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年5月30日(月)部門B研究会 議事録

2022年5月30日
於:Zoom会議室(オンライン)

 5月30日(月)15時45分から20時まで,再生可能エネルギー経済学講座部門B研究会がオンラインで開催されました。

 今回の研究会では,エネルギー戦略研究所の山家公雄先生から特別講演を頂いた後,自然電力株式会社の高尾康太氏と低引稔氏,市民エネルギーちば株式会社の東光弘氏からご発表頂きました。

どうして電力価格が高騰し供給量が増えないのか
旧一電の行動規制か,事後徹底開示義務化か

京都大学大学院経済学研究科特任教授
山家公雄

 本報告では,電力価格が高騰し,供給力が増えない理由について説明する。

 電力価格の高騰の主要因はガス価格上昇である。LNGスポット価格は2021年9月頃から急上昇し,その後平均値で20~40ドル/百万Btuで推移。コロナ禍からの回復過程において多くの資源の需給がひっ迫し,インフレ傾向を示していた。これにウクライナ侵攻の勃発とで,欧州を主に天然ガス価格の上昇が続いている。

 ガス価格上昇が引き金となって限界費用の定義が変更された。旧一電発電は,限界費用にて余剰分を電力スポット市場にオファーする。主要な旧一電発電は、限界費用としてLNG平均価格から追加調達価格(JKM スポット価格)へと変更した。価格シグナルの発出によりオファーし易くなるとの理由であるが、真の要因としてLNGスポット価格の暴騰, 高止まりがある。

 また、余剰電力がきちんとスポット市場にオファーされなくなっている。旧一電発電は買い越し主体に変貌したが、「余剰電力オファーの動揺」といえる。「計画外停止」や意図的な燃料制約による「出力低下」が増大していることが疑われる。

 上述した「限界費用オファールール」が変更された理由について,旧一電の立場から考えてみる。まず発電量電力量の4割がガスであり、LNGスポット価格が暴騰したという事実があり、無理に調達して運用しても逆ザヤになる可能性が高くなる。また、理論的にはスポット市場価格より高コスト設備は発電せず買いに入ることが合理的となる。スポット市場にはインバランス価格の上限という事実上のキャップが存在する。

 また、小売り料金制度も非弾力的な「燃料費調整制度」であり,過去 3 カ月の燃料費の平均価格を2カ月先の料金計算に適用され,基本料金の1 .5培が上限となる。電力相対取引の「お客様」以外に逆ザヤになってまで販売する必要があるのか、と考えるであろう。旧一電の経営も厳しく,2022年3月期で5 社が赤字である。JERA 以外は追加燃料調達は厳しい(買い負ける可能性がある)。

 色々と理由はあるだろうが,結局のところ「 市場支配力の行使 」と「 発電事業非競争 」が大きい要因で有ろう。特に新電力は今回の電力価格高騰で苦境に立たされている。市場支配力の存在や情報の非対称性,不透明な旧一電発電の行為などが理由となり,調達難(市場からも相対でも調達できない),逆鞘などが生じている。これに伴い経営難に陥る新電力が増加し,新規契約の打ち切りが生じているが,旧一電は新規契約に応じないことで電力難民が発生している。

 このような問題に対し解決策はあるのだろうか? 考えられることとして,まずは「中途半端な自由化は最悪」との認識のもと,電力システム改革・ 価格機能の早期貫徹が重要である。次に発電事業,小売り事業それぞれに競争原理を浸透させること。インバランス費用,燃調制度の見直し,また当面は旧一電発電に国内向け供給を優先させる指導および補償が必要と考える。旧一電は「余剰電力の限界費用オファー」を非常に厳格なルールと認識しており、これを撤廃する代わりに「入札価格や発電設備稼働・停止状況の徹底的な開示」が有効かもしれない。

pdf資料(山家)(1.98MB)

パーパスでつながり,共に地域をつくる ~自然電力グループの再エネ電源開発の取り組み~

高尾康太 氏,低引稔 氏(自然電力株式会社)

 本日は,自然電力の取り組みと今後の方向性について発表する。

 まず第一に,当社は理念を大切にしている。“We take action for the blue planet.” 「青い地球を未来につなぐ」。

 我々の事業領域として,企画開発,建設,運営,保守,電力販売,販売サポートなど,これらの循環により自然エネルギー100%の世界を作り上げる。これまでに多種の電源・多様なエリアで事業を進めている。現在,太陽光は約752MW,風力は269MWの開発実績。またエリアは,日本だけでなくフィリピン・ベトナム等,東アジアを中心に世界展開している。当社のロードマップを以下に示す。ステージ1では事業基盤を生み出す,ステージ2では国内において太陽光・風力のリーディングプレイヤーを目指す,ステージ3では次世代エネルギー会社へ,ステージ4では次世代インフラ会社,ステージ5では脱炭素へ向けた社会変革をリードする企業へ。現在はステージ3の段階である。具体的には,徹底的に強みを生かし長期キャッシュフローを生む事業拡大,太陽光・風力を中心に地域社会課題を解決するなど。

 これまでは,化石電源が主流であり,中央管理・一方的な運営がされ,顧客は国(政策)であった。これからのエネルギー会社は,電源は自然エネルギーであり,分散双方向の運営であり,地域/一人一人のユーザーが顧客になる。また消費だけではなく生産を行うプロシューマーも今後増えてくるだろう。このように自然電力は「分散」「調整力」「地域」を基盤に新たなビジネスモデルを構築している。

 当社が進めている長野県小布施町での取組みを紹介したい。小布施町は人口1万人ほど。葛飾北斎も長期滞在していたそうで,様々な取り組みをしている地域である。当社は他企業と協働し,電気水道通信セクターカップリングする実証実験を進めている。また自治体や地域企業との JV の組成を通じて,電源創出を担う地域エネルギー事業の立ち上げを実施。さらに2013年頃より話を進めてきた小布施町における「ながの電力」を2018年に設立し,今後はながの電力で培ったノウハウをもとに地域企業と多地域へ展開する。地域における収益構造に関する考え方は,エネルギーをベースの収益としつつ,長期的には他のインフラ(水道・通信など)にも展開し,「幅の経済」を展開する。

 地域インフラ会社(西鉄)との取組みを紹介する。地域インフラ会社が持つ課題として,過疎化等に伴う本業(旅客関連)の収益性悪化,次世代リーダーの不足,求められる脱炭素(自社+地域)などがある。強みとしては,地域のネットワーク,地域での絶大な信頼,土地建物などのアセットなどがある。九州・福岡を中心に110年以上にわたり事業を展開してきた西鉄と当社とで合同会社(西鉄自然電力合同会社)を設立し,コーポレートPPAの契約を結び,九州エリアにおける脱炭素化や地域レジリエンスに取り組んでいる。将来的な方向性として,まず電源確保をベースとした連携を図り,その先にエネルギーとデジタルテクノロジーを活用したモビリティの実現や,ゼロカーボンの街づくりへと繋げていく予定である。

 次に「1%forCommunityを通じた地域づくり」を説明する。共に地域の未来を描き,アクションを起こす,というコンセプトのもと,売電収入の1%を地域に還元する。再生可能エネルギー100%の世界を作ることと,地域の価値を高めること。これら両者の取組みが,青い地球を未来につなぐことに繋がると考えている。新たな資本循環を通じて目指す地域エコシステムを作る構想を進めている。地域に根付く負のサイクルを新たな資本循環の仕組みによってローカルアントレプレナーの輩出・ネットワーク作りを行い,好循環のサイクルへと転換していく。具体的な取組として,発電所の売電収益の1%相当を,地域産業の振興や地域課題の解決に活用している。地域の取り組みへの寄付や人材育成プログラムの提供・社会的投資を通じてまちづくりに貢献していく。

 最後に熊本県合志市での取り組みを紹介する。地域でチャレンジを起こす人材やプロジェクトが繋がっておらず,リソースが分散しているという課題があった。そこで地域の人材資源を可視化しつなぎ合わせるためのプロジェクトを創出する事で繋がりを作る,また人材とプロジェクトのネットワークを繋ぎ合せながら自律分散的に・面的に成長するエコシステム創出した。 ①配当を原資とする基金を設立し行政(合志市),地域企業とともに地域の農業事業の創出を支援する。②地域の未来を描き実践する人材を応援する体制を確立。③事業を通じて地域を牽引するリーダーが輩出されることを目指し,フィールドワークや講義等を通じてビジネスプランの策定を目指す,等を進めている。

pdf資料(高尾、低引)(6.73MB)

『ソーラーシェアリング』と有機農業の融合による地域再生

東光弘 氏(市民エネルギーちば株式会社/株式会社TERRA)

 千葉県の匝瑳市で太陽光発電と有機農業を合わせたソーラーシェアリング (SS) 事業を中心に進めている。もともと9つのNPOがそれぞれ10万ずつ出資して90万円で始めた。今では資本金5億円超,総投資額12億円まで成長してきた。以下に我々がどのような取組みをしているかをご説明したい。

 慣行農業では大きな環境負荷(炭素排出)となっているため,全圃場で有機JAS栽培を実施している。さらに炭素貯留を進めるため不耕起栽培を本格スタートした。そのことで土中の炭素量が増え,トラクタの燃費節減にも繋がった。植物の葉の葉脈や木の樹冠の構造,土地の水脈構造はフラクタルであり,地域も水脈を意識しながら開発しなければ,生態系の循環による炭素固定は阻害される。SSを進めるプロセスにおいても,自然循環を断絶し破壊してしまう植民地型ソーラー発電に対する反対気運の高まりもあり,山の稜線を壊さないよう配慮することが重要である。

 SSの売電で得た収入は村づくり協議会や環境系NPO法人などに協賛金・工作協力金として分配する。そのような協議会・組織は地域再生の取組みで協力し連携する。このような「シェアとオーガニック」をテーマに連携するシステムのことを『匝瑳システム』と呼んでいる。また,SSで育てられた大麦を使用したクラフトビールや,大豆によるノンカフェインのコーヒーなど,6次産業化も進めている。さらに都市と農村の交流をテーマとしたSS収穫祭も開催している。住居に対しても古民家をリノベーションした民泊(農泊)や日本の伝統的建築技術(板倉つくり)を活用した木造のナチュラルハウス(若者や移住者が多い)またコンテナハウスもつくり,地域おこしのインキュベート拠点として活用されている。

 これからの当社の展開として,企業,行政,学術,省庁との連携を進めて行きたいと考えている。農村部ではさまざまな地域企業と連携し“Tribrid by SS”をキーワードとした地域会社を設立予定である。SS施工者の導入・運営管理DXネットワークシステムが構築されたSSカンパニーズが2021年4月より始動,SSの農家・営農者とRE100を目指す企業のマッチング,SS農家と流通事業者のマッチング,SS農家同士の情報交換を行うDXシステムが構築されたSSファーマーズも2022年より開始され,それらが統合して「ソーラーシェアリング総合研究所」という形で組成中である。また学術との連携では,横浜桐蔭大学で発明され,京都大学発ベンチャー企業でも開発中の新技術である『ペロブスカイト太陽光電池』とSSの融合により1日中変化の少ない発電量を得られ,また航空力学的に考慮した曲線が可能になることで耐風圧 100mを実現するといった構想がある。都市緑化計画も構想しており,【東京オアシス】のブランド名でビルの屋上にSSを組み込むことを想定している。つまり室外機の上にオーガーハングタイプのソーラーシェアリングを設置することで,夏季は室外機の温度抑制が可能となる。

 最後に,SSの拡大には4つの阻害要因がある。1つは法整備の問題で,融資期間が10年と短いのが問題。2つめはスキームの一般化が難しいという問題,3つめは農業の永続性の担保に係る問題,4つめはSSを始めるイニシャルコストが高いという問題。しかしこれらの課題は,省庁との連携,EPC用DXシステム,農家用DXシステム,特許取得し一般に販売できるようにする,など解決に向けて進行中である。

pdf資料(東)(11.94MB)