Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年7月4日(月)部門C研究会 議事録

2022年07月04日(月)
於:Zoomオンライン会議

 2022年07月04日(月)15時45分~20時、再生可能エネルギー経済学講座部門Cの研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。今回は、京都大学の安田陽先生、大阪ガス株式会社の桒原洋介様、テクノバ株式会社の丸田昭輝様よりご報告いただきました。

国際機関専門家会合の現場から
- 国際エネルギー機関 風力発電技術協力プログラム(IEA TCP Wind)の事例を中心に –

安田 陽 先生

 本講演は、若手研究者に向けて国際エネルギー機関(IEA)の風力発電技術協力プログラム(TCP Wind)に関する内容と知識を紹介することを目的とした。

 講演の前半にまずは国際エネルギー機関の定義、加盟国、目的、日常活動と組織構成について説明した。燃料資源を外国に依存する日本に対して、IEAの緊急時対応システムによりエネルギー安全を保障できることは極めて重要だと強調した。また、日本がエネルギー政策に関する知見を得て、意見交換を行う場でもある。実施される国別詳細審査等を通じて、IEAが行う政策提言は日本のエネルギー政策にとって有益なインプットとなり得るでしょう。次に、IEA TCP Windの定義、目的、加盟国の取組実績、国内体制について解明した。プログラムの全20タスクの中で、日本は8つのタスクに参加していることが示された。

 講演の後半にIEA Windのタスク25について詳しく述べた。まずはその目的、活動経緯、構成を解説した。そして、タスク25の専門家会合の現場写真を利用して若手研究者に会議の魅力を伝えた。続いて、タスク25の研究成果と日本からタスク25への貢献に言及した。

 講演の最後に、ある分野における日本と世界の乖離を認識するために重要な「橋渡し」として、国際機関専門家会合への参加の重要性が強調されて終わりとした。

Daigasグループの脱炭素に向けた取組み
- 合成メタンの社会実装に向けて –

桒原 洋介 様

 本報告は、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという日本政府の目標に沿って、Daigasグループの脱炭素化(特に合成メタンの社会実装)に向けた取組みを紹介することが目的であった。

 まずはDaigasグループの事業概要、イノベーションの歴史、カーボンニュートラルのビジョン及びエネルギービジネスのデザインについて説明した。Daigasグループは、再生可能エネルギーや水素を利用したメタネーションを軸とした都市ガス原料の脱炭素化や、再生可能エネルギー導入を軸とした電源の脱炭素化により、「2050年カーボンニュートラル実現」という目標を挑戦し、革新的なエネルギー・サービスカンパニーとして、持続可能な社会の実現に向けたソリューションを提供することが示された。

 次に、ガス事業においてメタネーションによってカーボンニュートラルを目指す理由(合成メタンが提供する価値)について詳しく解説された。合成メタンの社会実装は、熱需要の脱炭素化や、既存インフラの活用による追加的な社会コストの低減だけでなく、エネルギー調達の多様化によるエネルギーセキュリティの向上にも貢献できる。さらに、海外への合成メタン市場の拡大により、グリーン成長戦略に位置付けられる次世代熱エネルギー産業の実現に取り組む。

 そして、産業技術環境局・資源エネルギー庁による「グリーンエネルギー戦略 中間整理」を参考した上で、GX(合成メタン)を達成するための現状・課題、取組みの方向性について議論した。

 最後に、2030年メタネーション実用化に向けた挑戦も言及した。Daigasグループは2030年時点で合成メタン1%導入に挑戦するために、①メタネーション技術の実用化、②国内外の事業者との連携、③製造・調達・利用のインセンティブの確立という三つの問題点を解決するつもりである。①について、従来技術のサバティエ反応メタネーションの大規模化に加え、革新技術のバイオメタネーションの実用化とSOECメタネーションの技術開発に着手する必要がある。②について、国内のコンビナート・大規模需要家(鉄鋼・化学・セメント等)だけでなく海外サプライチェーン構築も有力な選択肢であるため、国内外の事業者と連携しながら、複数の事業可能性調査(FS)を実施する必要がある。③について、民間事業者による取組みだけでなく、政府による強力な政策支援も不可欠と考えられる。一方で、合成メタンの製造コスト回収の予見可能性向上、調達する際のLNGとの値差補填の仕組み、利用者がCO2削減価値を享受できるルール整備などの課題について政府と協議していく必要がある。

pdf資料(桒原洋介)(8.49MB)

欧州がリードする脱炭素化とデファクト化戦略:水素を例に

丸田 昭輝 様

 本報告は、水素を例として欧州主導の脱炭素化戦略及びデファクト化戦略を考察することが目的とした。

 報告の前半に主に欧州タクソノミーと欧州改定再エネ指令(RED Ⅱ)の委任法令の定義、関連知識を紹介した上で、それぞれの政策に従った水素製造におけるCO2排出量の基準が提示された。2016年に採用されたCertifHy基準によると水蒸気改質法(SMR)より60%以上の温室効果ガス(GHG)を削減したものをプレミアム水素と定義した。そして、2021年4月に採択された欧州タクソノミーの強い影響を受け、CertifHy基準の強化が求められて、タクソノミー基準(新基準)について持続可能な水素はSMRより73.4%を削減する(3kg-CO2/kg-H2)ことに設定した。また、2022年6月に発表されたRED Ⅱの2つの委任法令を通じて、グリーン水素(RFNBO)のグリーン性問題を議論するだけでなく、CertiHy基準も書き換わる予定がある(3.4kg-CO2/kg-H2に)。

 報告の後半に欧州産業戦略、欧州標準化戦略、欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)及びElectrolyser Partnershipに焦点を当て、欧州における水素の重要性が高まっていることを明らかにした。その同時に、欧州が水素のデファクト化に関心を寄せていることも示された。現在では、水素は欧州産業戦略の6つの重要な要素の1つであり、欧州標準化戦略の5つの緊急課題の1つでもある。欧州の主要セクター(鉄鋼、化学、大型輸送等)が脱炭素化のためにRFNBOの大量かつ安定的な供給が求められる。そのため、欧州は水素経済の輸入依存度を最小限に抑える必要がある。したがって、欧州がグローバル競争が激化する状況の中に、積極的に標準化を促進している。それに加えて、IPCEIを通じて、水素プロジェクトは欧州各国からの資金調達が可能となる。また、Electrolyser Partnershipの設置により、水電解措置製造のサブライチェン構築と原材料確保を同時に実施できる。

 最後に、報告の内容を総括した後で、日本における水素エネルギーの今後の方向性について議論した。

pdf資料(丸田昭輝)(5.7MB)