Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > シンポジウム > 【12月15日(金)開催】再エネ講座シンポジウム2023(於キャンパスプラザ京都4F第3講義室)

第4回 再エネ講座シンポジウム2023
(2023年12月15日(金)開催)

1. 主催

京都大学経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座

2. 開催日時

12月15日(金)
10:00 - 17:00(開場:09:30)

3. 会場

キャンパスプラザ京都4F第3講義室
(京都市下京区西洞院通塩小路下る東塩小路町939)
※対面のみでの開催となり、オンライン中継はございません。

4. プログラム(敬称略)

全体テーマ:『再エネ大量導入に向けた電力市場改革』

09:30 開場
10:00 開会
10:00 - 10:05 開会挨拶(諸富 徹)

午前の部:若手研究者による電力市場研究の(専門家向け)ワークショップ
(10:05 - 11:50)

(各講演者発表25分、個別質疑応答10分)

10:05 - 10:40
馬 騰(京都大学経済学研究科 特定講師)
「太陽光発電出力抑制の解除が時間前取引に与える影響に関する研究」

pdf資料(馬騰)(746.23KB)

10:40 - 11:15
杜 依濛(京都大学経済学研究科 特定講師)
「市場メカニズムの運用によるインバランス低減効果 ‐JPEX市場を対象として‐」

pdf資料(杜)(3.98MB)

11:15 - 11:50
張 砣(京都大学経済学研究科 特定助教)
「2050CN目標達成に向けた再エネ大量導入の電力市場への影響シミュレーション」(仮)

pdf資料(張)(3.47MB)

午後第1部:講演セッション
「エネルギーマネジメントと電力市場統合」
(13:00 - 14:55)

司会:安田 陽(京都大学経済学研究科 特任教授)
(各講演者発表20分、個別質疑応答5分)

13:00 - 13:10
諸富 徹(京都大学経済学研究科 教授)
「エネルギーマネジメントにおける価格メカニズムの重要性」

pdf資料(諸富)(571.94KB)

13:10 - 13:35
岩船 由美子(東京大学生産技術研究所 教授)
「デマンドレスポンスと電力市場」

pdf資料(岩船)(2.3MB)

13:35 - 14:00
三浦 秀一(東北芸術工科大学デザイン工学部 教授)
「住宅における省エネ・再エネ導入とエネルギー需要」

pdf資料(三浦)(1.59MB)

14:00 - 14:25
新貝 英己(東芝ネクストクラフトべルケ株式会社 代表取締役社長)
「再エネの自立化と収益力の向上に向けて(市場活用と相対取引)」

pdf資料(新貝)(1.72MB)

14:25 - 14:55
総合質疑応答

午後第2部:パネルセッション
「日本における同時市場の可能性」
(15:10 - 16:55)

モデレーター:諸富 徹(京都大学経済学研究科 教授)
(各パネラー発表15分、個別質疑応答なし)

15:10 - 15:25
西村 陽(関西電力(株)/大阪大学工学研究科 招へい教授)
「日本の電力市場・制度の弱点と克服策~同時市場/PJMパワープール/分散型電力システム」

pdf資料(西村)(1.98MB)

15:25 - 15:40
安田 陽(京都大学経済学研究科 特任教授)
「意思決定の場としての電力市場~集中型市場と分散型市場~」

pdf資料(安田)(3.41MB)

15:40 - 15:55
國松 亮一(一般社団法人日本卸電力取引所 企画業務部長)
「同時市場の実現方法~同時市場は克服策か~」

pdf資料(國松)(511.51KB)

15:55 - 16:55
パネルディスカッション

16:55 - 17:00
閉会挨拶(諸富 徹)

5. 参加定員

約150名様

6. 参加費

無料
※事前のお申込みが必要です。

7. 参加のお申込みについて

ご参加をご希望される場合は、下部URLよりお申込みいただきますようお願い申し上げます。

▼参加申し込み
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeg19cUaNi4AqKonS3R9DBLj4VS_mIyynT5KIX2azRmmjl8YA/viewform?usp=sf_link

8. 報告資料について

開催1週間前を目途に、講座HPならびに以下リンク先に順次掲載させていただきます。
https://drive.google.com/drive/folders/1ehJCP4Rzb0RXFl8evJBm5XIh-haiCR7w?usp=sharing
なお、登壇者による資料は一部非公開とさせていただいているケースもございます。すべての報告資料が公開されるわけではない点、予めご了承ください。
また、シンポジウム当日は報告資料を配布いたしませんので、必要な方は各自で事前にプリントアウトをお願いいたします。

9. その他、開催進行について

「午前の部」「午後第1部」「午後第2部」それぞれのセッションごとに、会場参加者には受付にて質問用紙を配布しますので、随時ご記入いただき、挙手をお願いします。ネームタグをつけた運営スタッフが講演途中、講演終わりに随時回収し、質疑応答の時間に可能な範囲で各登壇者が回答させていただきます。

ご不明な点につきましては下記までお問合せください。
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京都大学 大学院 経済学研究科
再生可能エネルギー経済学講座
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
E-mail:ree.kyoto.u@gmail.com
電話:075-753-3474
Website:https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/top/
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議事録(午前)

2023年12月15日(金)
於:キャンパスプラザ京都

 2023年12月15日(金)10時〜17時、再生可能エネルギー経済学講座シンポジウム2023が、キャンパスプラザ京都にて開催されました。午前の部は、『若手研究者による電力市場研究の(専門家向け)ワークショップ』というテーマを巡り、京都大学の馬騰先生、杜依濛先生、張砣先生よりご報告いただきました。

太陽光発電出力抑制の解除が時間前取引に与える影響に関する研究

馬 騰 先生

 本講演は実証分析により、日本の九州地域における太陽光発電出力抑制の解除が時間前市場の取引(価格と流動性)に与える影響を解明することを目的とした。

 まず、研究の背景と論点について説明した。日本における再エネ出力抑制が主に東北地方(風力発電)と九州地域(太陽光発電)に発生する。九州電力の太陽光発電出力抑制量データにより、2018年10月に最初の太陽光出力抑制が九州地域に発生し、それから抑制量と発生頻度が多くなっていることが観測された。さらに、2021年4月18日午後2時に太陽光出力抑制量は太陽光発電量に占める割合は最大86%になった。その結果、大量の供給量が棄却されて、発電市場の非効率性などの問題が引き起こした。現在には、発電所の太陽光出力を制御するために、「オフライン制御」と「オンライン制御」の二つの方法がある。現地操作が必要な「オフライン制御」の発電事業者には、実施前日に一般送配電事業者から翌日の指令が出るが、出力抑制機能付きパワーコンディショナがある「オンライン制御」の発電者には当日の需給バランスを踏まえてより効率的な指令(当日2時間前調整が可能)を通達する。しかし、電力需要に対する予測に不確実性が存在するので、オンライン制御発電所に出力抑制前日指示された再エネ電源が当日の指示により、出力抑制が解除され、電力市場へ再び参入する場合もあることが指摘された。そこで、出力抑制の効率化に関する課題は益々重要になっていることを強調した。

 次に、先行研究の内容について議論が行われ、この研究の目的と意義を述べた。Dumlao and Ishiharaの論文では「九州地域の出力抑制の削減については①翌日需給バランス測定ミス、②週末の需要変動、③特定な時間帯(9時-15時)の間に注目すべきである」と指摘された。また、Ichimuraの論文は太陽光出力抑制と揚水発電の関係を検討し、「揚水発電の出力抑制削減効果がある」と提示された。しかし、現在までは解除された太陽光出力抑制が時間前市場に与える影響に関する分析はまだない。本研究を通じて、市場メカニズムによる再エネ出力抑制の削減につながることが期待される。

 また、本研究に使ったモデルとデータベースに言及した。研究に使用された市場情報に関するデータは日本卸電力取引所のホームページから入手し、加えて電力需給に関するデータは大手電力会社のホームページと電力広域的運営推進機関の系統情報サービスシステムから取得したと示した。そのほか、研究に採用される自己回帰分布ラグモデルの設定にも解説した。

 研究分析により、(1)時間前市場において、解除された九州地域の太陽光出力抑制のメリットオーダー効果が観測それたこと、(2)解除された太陽光出力抑制量の増加が時間前市場の流動性を高めていること、(3)電力需要の予測誤差が大きほど、解除された太陽光出力抑制量の増加が時間前市場の流動性に与える影響が高くなること、(4)解除された太陽光出力抑制量が時間前市場の流動性への影響が、解除された抑制量の増加により逓減していたことなどの結果が明らかになった。

 最後に、結論としては、(1)解除された再エネ出力抑制量のメリットオーダー効果を高めるため、再エネのオンライン化が重要であること、(2)市場メカニズム(時間前市場)は電力需要の予測誤差の是正を有効に対応できること、(3)時間前市場の活性化を促進するべきだとまとめて強調した。

市場メカニズムの運用によるインバランス低減効果
- JEPX時間前市場を対象として-

杜 依濛 先生

 本講演の目的は、JEPX時間前市場を対象として、市場メカニズムの運用によるインバランス低減効果を定量的に分析することである。

 前半では、時間前市場の位置づけと取引方法及び日本におけるJEPX時間前市場の利用状況について解説した。

 2016年度からの小売全面自由化後、新たに計画値同時同量制度が導入され、小売事業者と発電事業者は30分単位のコマごとに需要計画と発電計画を作成し、実需給の1時間前までに需給を一致させる運用を行っている。そのため、時間前市場は、スポット市場後、バランシンググループが需給を極力一致させるために最終的な需給調整を行う場として位置づけられている。そのうえ、取引は30分単位の商品毎にザラ場方式で行い、毎日17時から翌日の取引が開始され、各商品について受け渡しの1時間前まで可能となる。

 ドイツEPEX SPOT時間前市場の市場シェアによると、2019年において取引は国内電力消費量の10%を占めている。一方、日本JEPX時間前市場の市場シェアについて、2022年度第4四半期のデータから判断すると、2019年度、2020年度に比べて増加しているが、それでも比較的小さい。しかし、2022年度から新インバランス料金制度が開始することに伴い、インバランス精算でなく、時間前市場でゲートクローズまでの需給調整を行うインセンティブが増やすことが想定される。更に、2022年度4月よりFIP制度が導入されて、再エネ発電事業者も他の発電事業者と同様に、発電する電力量の計画値と実際に発電された実績値を一致させることが求められるため、計画値と実際値の差が発生することを回避するサービスのニーズが高まる。そのゆえ、スポット市場以降の時間帯に市場で売買し、発電計画や調達計画を変更するニーズが拡大することが見込まれる。

 以上より、JEPX時間前市場の運用によるシステムインバランス、そして電力需要・供給のインバランスにもたらす低減効果を明らかにしたい。同時に、連系線混雑が発生する場合、再エネ発電の予測誤差によるインバランスが生じる場合に配慮されるとのこともあった。

 報告の後半では、実証分析で使用されたデータとモデルを説明し、分析結果をまとめて示した。まずは、JEPX時間前市場の利用によるシステムインバランス、そして電力需要と供給インバランスへの低減効果があることが検証された。次に、連系線を利用する余剰電力の時間前市場取引が効率的に利用されていないことを明示した。特に、再エネが多く導入されている地域(東北、四国、中国、九州)においては、エリアを跨いだ時間前市場の利用が比較的に少ない。今後FIP電源の導入増加に伴い、再エネ電源の時間前市場の利用に変化が生じる可能性が高く、出力抑制の緩和にもつながるかもしれないことを示唆した。また、時間前市場取引が主に電力需要のインバランス調整に用いられているが、電力供給(再エネ電力を含め)のインバランス調整にも適用されていることが証明された。最後に、連系線上において系統混雑が発生する場合、現状の「先着優先ルール」の下では、再エネ電源余剰電力の地域間調達ができず、時間前市場取引のインバランス緩和効果がうまく発揮できないことが明らかになった。今後、「再給電方式」への政策改革が新たな変化をもたらすことが期待されると示した。

2050CN目標達成に向けた再エネ大量導入の電力市場への影響シミュレーション

張 砣 先生

 本講演は最適配電モデルを用いて、日本における2050カーボンニュートラル目標達成に向けた再エネ大量導入(電力総需要の増加)が電力市場に与える影響を推測することが目的であった。

 まずは研究の背景と目的を紹介した。2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。IPCCの「Sixth Assessment Report」と電力中央研究所の「脱炭素化のために電化にどう向き合うか」のレポートにより、カーボンニュートラルの目標に伴い、電化率が上昇し、総電力需要量も増加させたことが発見された。「電化」が需要側の直接排出を大幅に抑える有力な手段の一つとして期待されるため、総電力需要予測は2020年の913TWhから2050年の1320TWhまでに上昇することが推測された。その中で、全部門の電力需要量が増えるが、運輸部門の増加が最も顕著であることが注目された。そこで本研究は需要側の増加が電力市場と電力負担に与える影響を明らかにしたいと示した。

 次に、研究に利用する最適配電モデルの理論部分について説明した。このモデルを使用する理由は、様々な制約の下でコストの最小化を達成するためであることが強調された。

 そして、PyPSA-Japan2050に関するシナリオの設定について詳説した。本研究では、電力システムの基礎構造は9つの地域ノード及び10本の地域間送電線から構成されると仮定した。2050年の電力需要量の想定について、全体の電力需要量は増加すると予測されたが、各部門別の電力需要は1日のうちで異なる波動性を持つので、日中の電力需要の変動の影響を考慮する必要がある。また、需要側の波動は供給側の柔軟性に対して挑戦をもたらすと強調した。運輸部門(乗用車)の新規電力需要の算定方法対して、将来的には電気自動車が大きな割合を占めることが予想されたが、車種別の時間変動によって1日のうちに大きな波動があるため、注意しなければならないと強調した。そのほか、発電コストの想定について、発電原価と社会的費用の二つの部分から構成されると提示した。加えて、再エネ発電所の建設費と年間運転維持費の低減設定、化石燃料費の設定、地域間連系線の増加の想定にも言及した。

 最後に、PyPSA-Japan2050によるシミュレーションの分析結果及び得られた示唆について解説した。2023年と比較すると、2050年には確かに電力需要の割合が増加し、二酸化炭素排出量は約66%が減少することが明らかになった。部門別の影響につきまして、三つの電力部門の中で、家庭部門の単価が最も高く、業務部門の単価が最も低いことが明らかになった。また、再エネの導入により、全ての部門の平均単価は下がることになった。しかし、電力市場価格が各電力部門ごとの行動や1日のうちでエネルギーの変動などの要因を受けたより、家庭部門の電気単価は業務部門に比べて約9%程度上昇することになった。続いて、(1)需要側から見ると、異なる産業部門が電力使用タイミングの違いにより、電力コストが変化すること、(2)供給側から見ると、太陽光発電の柔軟性が低いため、電力市場から得られる単位発電収益が低下すること、(3)調整力につきまして、化学エネルギー蓄積市場の拡大、EV及びHVが重要な調整力になることなどの重要な示唆が得られて、様々な調整力メカニズムが大きな可能性を持つことを示した。それに加えて、将来にはこのモデルを利用し、(1)再エネが全社会の異なる産業の総エネルギー負担に与える影響、(2)再エネのシステムLCOE計算に関する研究を行うことができると指摘した。

議事録(午後)

 午後のセッション1では、安田陽特任教授の司会進行のもと、諸富徹教授の基調講演、エネルギーマネジメントと電力市場統合に関する3名の講演者の発表、登壇者全員による総合質問への回答・議論が行われた。

エネルギーマネジメントにおける価格メカニズムの重要性

諸富 徹(京都大学経済学研究科 教授)

 エネルギーマネジメントと電力市場統合という全体テーマのなかで何を扱うか、問題意識を示す。エネルギー基本計画の2030年目標に向け、20年代のうちは特に太陽光を増やさなくてはいけない。その一方で、人手不足やインフレ、円安の影響もありコストが上昇している。そしてFIT価格が下がってくる中で、大規模なメガソーラー事業については、現場から殆ど儲からないという意見もでている。FIT案件も新規認定案件が殆どなくなった。これはFIPに移行したことも原因にある。しかしFIPに対しても、事業者からの価格が不確実なためビジネスモデルを組み難いという声がある。そして出力制御も拡大している状況ではあるが、事業者の方は積極的にはなっていない。逆に需要家としては、脱炭素化に向け企業の再エネへの投資意欲は増えてきている。また他方で、東京都や川崎市等で義務化がすすめられている。

 こうした中で、従来の電力会社まかせ・政策依存型とは異なる、FIT・FIPによらない市場主導型のビジネスモデルが広がりつつある、あるいはそういう条件が整いつつある。わかりやすいものでは、住宅太陽光を屋根に乗せ、その変動を蓄電池やEVで吸収する自己消費型のビジネスモデルが見えてきている。電力料金を払っていた分を、太陽光の自家消費で置き換えることによって、電気代を節約できるというモデルである。経産省では需給調整市場における逆潮流アグリケーションの運用開始を3、4月に始め、ビジネス化するための環境整備もされている。

 また、マーケットとして自家消費を基本としながらも余剰不足分を売り買いしていくには、市場環境整備も大事な部分とされている。技術市場の整備・通信プロトコルの標準化だけでなく、末端でビジネスとして成立しうるのかという課題がある。ただし、未成立というのはチャンスがあるということでもある。電力市場の調整としては、中央給電指令所で管内の電力の需給を全て合わせていくといったところから、電力市場にそれを委ねていくわけだが、そのときに末端まで市場メカニズムを浸透させる必要がある。例えば、時間ごとに電力需給を反映した電力料金となるダイナミックプライシングになれば、ある程度規模が大きい需要家を中心に、電力が不足しているときは価格を見ながら電力需要を抑制したり、活動を電力料金の安い時間帯にシフトさせたりすることでコスト最小化するインセンティブが働くはずである。このように、末端まで電力料金の設定・インセンティブを伝えることができるような電力料金改革を行うことも、これからの環境整備の課題となっていく。

デマンドレスポンスと電力市場

岩船 由美子(東京大学生産技術研究所 教授)

 デマンドレスポンスと電力市場について、将来的にどう低圧リソースを使っていけるかという視点からお話しする。まず、カーボンニュートラルに向け需要家のリソースが果たす役割は非常に大きい。再エネ大量導入に伴い柔軟性を向上させ、また調整力自体をクリーンにしていく必要もある。大規模なDRは、従来の延長で産業のプロセスの自家発などが担い、基本的には下げDRという視点となっている。これに加え、低圧の小規模リソースのDR活用が今後の重要な視点となる。

 我々は小規模リソースDR活用のための価値評価のツールを作っており、エネルギー利用する際の需要家の効用と制御価値の顕在化を目指している。DRの価値は、まず需要家にとっては、電気料金削減や屋根おきPVがあれば自家消費の最大化、環境価値等がある。蓄電機能があれば、レジリエンスも強化される。自分のリソースをアグリゲーターに出すことで対価を獲得できる可能性もある。アグリゲーターや小売にとってのメリットは、スポット市場の調達費用を削減や、時間前市場取引による利益追加やインバランス調整による負担軽減、調整力提供による利益追加、容量負担金の軽減等のマルチな価値がある。系統としては、上げDRによる再エネの抑制量の削減や予測誤差を埋めるために需要側の調整が使える。また、今後末端にPV等が増えていくと、系統制約も多くなっていく。ここでPVが余りそうな時間にエコキュートでお湯沸かしたり、蓄電池に貯めることができれば、系統混雑を回避できる可能性もある。こうしたそれぞれのメリットを活用していくことが、今後再エネを増やしていく上で重要である。

 日本では、21年に需給調整市場が開設された。今のところ、低圧のリソースが需給調整者に参加できないが、今後は機器個別計量が重要になる。機器個別計量が認められれば、EV単体の動きだけでマネタイズできる可能性もある。インバランス回避のために調整力に連動したインバランス価格へ変更されたことによって、価格に基づいたマネタイズは期待できるようになった。また、ウクライナ問題や燃料調達の制約等があれば市場のボラティリティは増加する。さらにこれからはネガティブプライスにより、一層値差がつく可能性もある。

 今は電力市場への参入はまだ認められていないが、今エネ庁の「次世代の分散型電力システムに関する検討会」において、2026年度から低圧リソースの活用をしていく方向になっており、今までの大規模DRを前提としたルールを見直し、まとめたリソースの何割が反応してくれるかというグルーピングの考え方を入れる話や、機器点計量を需要の計量ベースラインに使う話が出ている。

 課題としては、まず数がない。エコキュートが800万台と量は多いが、殆ど制御できないものである。他は定置式の電池が70万台、EVが40万台ぐらい。低圧リソースはkWが小さいので、制御の費用対効果はあまり良くない。また、低圧のリスク制御の方向性には、料金型とインセンティブ型がある。料金型では、アグリゲーターがこれによってマネタイズできないことが課題になる。また、これには柔軟な料金メニューが必要だが、電力会社に強制はできないので、国からもお願いをしている状況。インセンティブ型では、アグリゲーターの取り分をとったうえで需要家にも対価が払えるのかという課題がある。

 我々は経済性評価のツールも扱っている。需給統合型として、日本全国の電力需給シミュレーションモデルの中に、EVやエコキュートも含めた系統全体の需給シミュレーションを行うものと、建物単体やアグリゲーター単体の最適化を行うものを作っている。電力の価格をもとに需要家は自分たちのコストが最小化できるようにPVとエコキュートを動かし、その結果需要の形が変わるということをモデル化した。短期的な取り組みとしては、再エネ抑制回避のため既に入っている800万台のエコキュートをもう少し活用できないかと考えている。

 日本全国のエコキュートの価値評価について、東大の需給シミュレーションモデルを使って、2030年のエネルギー基本計画に基づいた計算もした。電源の運転費用は最適運転によって、エコキュート1台当たり5500円、全体で年間900億円程得をする。ただ小さいリソースを1件ずつ運用するのは難しく、また、これまで主流であった各家のHEMSで制御する方法が今のZEHの議論にも合っていた。しかし、メーカーのクラウド型のリソースにVPPの制御システムがシグナルを送り、まとめて制御する仕組みもできると思う。そちらの方が費用対効果が良い可能性もあり、そういうものもZEHの要件等に認めてほしいとZEH推進協議会も言っている。

 カリフォルニアの仕組みも参考になる。州内の5大電力会社に対して、地域ごとの限界費用を反映し、少なくとも1時間ごとに変化する電力小売り料金の設定を義務付けた。この電気料金をデータベースに登録し、電力会社がDRの機器にシグナルを送って反応してもらう仕組みをつくろうとしている。価格だけでなくGHGもみることが重要である。時間別のCO2排出源単位がみられれば、需要家だけでDRした価値が、CO2削減効果としてもでる。

 大量に再エネが導入され長期的にどうなるかを考えると、殆どの時間で再エネの抑制が発生して、火力が稼働する時間は短くなる。そうなると、DRは系統側の燃料費抑制には貢献せず、エネルギー的なDRの価値は殆どなくなるかもしれない。基本的にDRは再エネ抑制を減らすことに貢献するものとなり、また市場価格連動型の小売料金が安い時間帯にシフトしていくものとして需給計画に織り込まれる。再エネへの誤差対応等、より実取引に近いところでも一定の役割を担っていくのではないかと思う。このためには市場取引における小規模低圧リソースのインセンティブ設計の議論が重要。

 いずれにせよ、安価に遠隔に機器を計量制御できる仕組みは重要で、足元ではエコキュート制御の早期実現を願いたい。

  • DRのインセンティブとして、ネガティブプライス導入に対するお考えをお聞かせください。
     値差がつくほどDR調整の価値は上がるので、需要だけを考えるとネガティブライスは非常に価値がある。ただ、今はFIT等も含め全体を見ると、すぐには入れられないと思う。

住宅における省エネ・再エネ導入とエネルギー需要

三浦 秀一(東北芸術工科大学デザイン工学部 教授)

 ZEHを自分自身で作り、そこで暮らしながらいろんな実験をやっているので、具体的な生活モデルからのデータ分析の話をする。再エネと住宅需給ということで、その電力需要創出のプロセスやポテンシャルは時間単位の需給の話も大きいが、長期的・季節的な需給調整も問題意識として持っている。自邸にはソーラーと薪ストーブがあり、車はPHVに乗っている。家は壁に200ミリの断熱材(通常100ミリ程)、屋根は400ミリ(通常200ミリ)、窓はトリプルガラスにしている。また第一種の熱交換換気をしている。去年から国の断熱性能の基準に上位基準が出てきた。これまでは等級4が省エネルギー法の基準であったが、その上に5~7の等級が加わった。自宅はこの等級6にあたる。立てたときは珍しかったが、10年経って工務店でやられるところもでてきているので、等級6や7をこれからの標準にしてもいいのではないかと考えている。

 断熱性能が良くなると、温度は安定する。例えば一時的にエアコンを消すことも無理はなく、需給に対してより柔軟に応えていくこともできるかと思う。実際のエネルギーの自給は、太陽光発電は4.8kWで、太陽光発電の発電量を全て自給とみなすと作っている量と使っている様がほぼ同じになる。実際に自家消費した部分だけを自給としてみれば59%、もし蓄電池を入れたら78%となる。また、エコキュートの運用についても太陽光発電との組み合わせの中で確認し、エコキュートが昼間に動いて実際に効果を出すことなども確認できた。

 一方EVの方は昼間に車で職場に行くので、日中の蓄電ができない。都市部の方で公共交通を使われる方は家にEVを置いていれば使えるが、車の利用が高い地方だと、家で昼に蓄電できない可能性が高いので、職場等で充電施設を大量作ることが大事だと思う。

 季節的な需要では、日本全体のエネルギー需要を見て夏と冬と両方山があり、石油やガスも含めるとエネルギー需要は冬が特に多い。ただ日本の再エネは太陽光が中心で、冬は水力も落ちてしまう。風力もヨーロッパのようにはまだ伸びていない。当面は冬の再エネの電源開発が課題になる。住宅単位で見ても冬の発電量が落ちる。都道府県別に太陽光発電量を見ると、年間で見ると大きな違いはない。しかし1月をみると、発電量は地域差が出て、雪国では特に低い。

 我が家と同じぐらいの水準で一律日本全体に断熱性能の良い住宅を入れた場合どうなるか計算した。暖房需要は断熱でかなり抑えられるが、給湯は効率を簡単に上げられない。例えば、山形市だと30kW、と他では10kWぐらいあれば、1月でもある程度自給はできるが、それも自宅の屋根だけでは自給できないだろうというところもある。自分の住宅で完全太陽光だけで自給しなきゃいけないっていうことは本来何もないが、太陽光だけではなかなか冬季のエネルギー需要をカバーしにくいだろうということがわかった。レジリエンスを考えても蓄電池でエアコンを回していく場合、そんなに長くは使えない。いずれにしろ冬季用の再エネをどう開拓していくかということも、今後大きな課題になると思う。

  • 太陽熱温水器が日本では欧州程導入されないのはなぜか
     一番大きいのはそれ自体の費用でコストが下がらないこと。
     また、推進する側の問題もある。営業の問題も過去あった。またエコキュートは電力会社がPRしていたが、太陽熱温水器はPRする会社もあまりなかった。

  • 僕電気自動車が雪国に普及する余地について
     外で充電して中で使うときにはEVのパワコンが必要になるがそれが高い。そこを乗り越えたい。使用については、雪国とはいえ日常使いは職場での行き来なので、20~30キロ走れれば問題なく、エアコンを使うから燃費が悪くなることはあるが、問題なくEVで生活していけるという感覚。

再エネの自立化と収益力の向上に向けて(市場活用と相対取引)

新貝 英己(東芝ネクストクラフトべルケ株式会社 代表取締役社長)

 再エネは主要電源化に向けた自立化を目指して段階的にFITが終了、昨年度からFIP制度に切り替わっている。最終的には補助からの完全自立ということで市場統合に向けられた道筋がスタートしている。FIPの仕組みは、基準価格と参照価格(市場の平均価格)の差分が、プレミアムとして発電事業者に支給される制度で、参照価格とプレミアムは1ヶ月更新。安い時間帯に売るとこのプレミアムを足しても、FIPの基準価格に届かない。一方、高い時間帯に売ると、この基準価格を超えていく。安い時間帯に蓄電池で充電し、高い時間帯に放電をすると、トータルの歳入の収益が基準価額を超えていくという発電事業者にとってのチャンスになる。つまり、市場原理で需給調整がおのずと図られる。

 私たちは、2020年にドイツのネクストクラフトベルケとと合弁会社を作って、日本で事業を行っている。ドイツではFIP制度が10年以上も前からスタートし、現在は約15GW以上の再エネを束ねて卸市場や需給調整市場に入れている。やっていることは大きく二つあり、一つは、毎日市場価格や発電量の予測を行い、ときにはリアルタイムのデータを使って実需給断面の五分前まで取引を繰り返している。これにより、インバランスを減らしたり、収益を上げたりする。もう一つはリソースの制御を行っている。そして需給調整市場から収益を上げ、そこで得た利益を、発電事業者とシェアするというビジネスモデルを組み立てている。また、今年からは洋上風力のバランシングも始めている。

 日本でも太陽光だけでなく、将来的には陸上に加え洋上風力もバランシング、アグリゲーションしていきたいと考えている。日本におけるビジネスモデルでは、東芝エネルギーシステムズで発電事業者らとバランシンググループを形成し、計画値同時同量行って、インバランスのリスクを提起していく。また、日本は小売事業家と連携したコーポレートPPAが普及しつつあるので、そのマッチングを行い、全事業者の収益の向上に寄与するサービスを行う。さらに非FITの再エネが増えてくると、その流通も多様化するので、事業者や需要家のニーズも聞きながらいくつかモデルを組んでいる。一つはオンサイトPPA。余剰を積極的に買い取って、市場や相対で売ることを考えている。もう一つは自己託送。これは需要家同士の融通で、計画値同時同量が必要になるので運用の代行をやっている。またオフサイトでは、フィジカルとバーチャルというモデルがある。FIPを活用したフィジカルPPA(疑似FIT)モデルでは、発電事業者から固定価格で20年買い取り、小売りには参照価格連動で販売する。参照価格は市場価格と連動し上下するが、ここに上下限をつけて安定化させたうえで小売事業者に売る。太陽光はこれから値段が下がっていくので、長期間固定価格で買うより参照価格で買っておいた方が、将来は安くなる可能性がある。FIPを活用したバーチャルPPAでは、電気の価値と非化石の価値を切り分けて販売する。電気の価値は私達アグリゲーターで買取りJPEXで売って、手数料を引いて発電事業者に返す。非化石価値は通常のバーチャルPPAだと、市場価格が下がった場合は需要家に負担が生じる。しかし、FIPを活用するとプレミアムが補填をしてくれるので、需要家が負担する必要がない。やり方によっては、非化石価値を固定価格的に扱えるという大きなメリットもあり、少し注目されている。

 市場も含めてビジネスモデルを成立させるために、技術開発にも取り組んでいる。一つは予測の技術で、前日の予測はもちろん、当日の予測にも力を入れている。当日の予測では、衛星画像のデータによる風況観測や発電所の実績データから、短時間先の予測を高度化している。そしてゲートクローズ前はインバランスが出ないよう市場取引で過不足を減らす。ゲートクローズ後は蓄電池を使ってフィードバック制御をかけることでインバランスを減らす。二つ目の技術は蓄電池のマルチユーズで、最近は系統直付けの蓄電所や再エネ発電の併設の蓄電池、需要家サイドの蓄電池が注目されている。マネタイズとしては、長期脱炭素電源オークションや需給調整市場・卸市場でもアービトラージができ、将来的には系統の混雑回避に使えるようになる。勿論、需要家サイドの個別最適化にも蓄電池は非常に良い。三つ目は、市場取引に今AIを使い始めている。試験的ではあるが、スポット市場と時間前市場で売り分けに活用している。また、当日インバランスがでそうになったときの取引のリスク管理にも用いている。

 令和3年度から、いろいろなアグリゲーターと実証もやっている。昨年度の結果から紹介する。発電量の予測については、結論として太陽光の予測誤差は1時間前までではあまり良くならなかった。風力は前日と当日の差もあるが、そもそも予測の精度があまりよくない。インバランスの回避については、クローズ後30分のフィードバック制御で蓄電池を動かすとインバランスを7割以上消すことができ、インバランスを消すのは実需給弾目の直前が効果的であることが改めて確認できた。そして蓄電池によるアービトラージの効果については、再エネの併設の蓄電池によって全アグリゲーターの平均増収率が51%、最大の売り上げが1.5倍程となった。東北エリアや九州エリアで、こうした傾向は強くでた。

 インバランスを抑制するのは、やはり実需給断面の直前が効果的である。では、直前まで待って蓄電池を使えばいいかというと、実は蓄電池の活用としてインバランスの低減より値差を使ったアービトラージの方が儲かるという実態もわかった。インバランスは時間外市場の取引で行った方がよいが、日本の場合1時間前に市場がとじるのでなかなか活用が難しい。

 インバランスは単価が高いとき不足のインバランスを出すと大きな損になるが、実はこのタイミングで余剰をだすと得をしてしまうケースもある。これは一歩間違えるとモラルハザードにつながる。今後の可能性として、こうしたモラルハザードを避けるために制度のペナルティ性を高めるということもある。ただしこれをやるのであれば、セットで時間前取引市場の高度化も求めたい。つまりは実需給断面の直前まで、ドイツみたいに開いてもらいたい。パッケージでこれをやると社会コストも下がるのではとも考えている。

 また、需要家の環境意識がますます高まりそこから質も変わっていくかと思う。夜の再エネをどうするかという価値観も出てくる。すると電源種別の多様化や、蓄電池を使ったタイムシフトが必要になる。出力制御が今後一層増えていく可能性、価格のボラティリティも出てくる可能性もある。

 アグリゲーターとしては、制度上出力制御の信号を受け取ることができるようになれば、再エネ併設の蓄電池や系統直付けの蓄電池を使って、出力制御の回避を行える可能性もある。まずは技術的な課題と送配電事業者からの要件を整理したい。

  • 日本で時間前市場のゲートクローズを変えるうえでのハードルは?
     市場システムの変更だけでも相当なコストがかかるので、費用対便益を求められる。また日本の系統における調整力の持ち方や性能から難しい面もあるのではないか。

総合質疑応答

  • 小売会社でダイナミックプライシングを料金メニューとして作るのは少ない理由
     大手電力は相対取引の割合が多いので、市場の価格自体にあまり反応的ではないこと。また、料金のシステム自体に歴史があり、新しい料金制度を入れるのが大変という話もきく。経過措置のために行えない問題もある。
     2年ぐらい前には電気料金高騰したとき、連動料金を選んでいた人は痛い目にあい、メニューを用意していた新電力も多く撤退した。そういうリスクから需要家から積極的に選ばれないのもあるのではないか。

  • 欧州などにある小売電気事業者がダイナミックプライシング供給義務について
     意味のある義務化にするためには、メーターも含めた対応する機器や通信条件といった基本条件が必要。
     また、カリフォルニアの例では、小売が自由化していないため義務化させやすかったという、日本と異なる背景がある。

  • 当日市場の在り方について
     日本の時間前市場はまだまだ活性化する仕掛けが必要。また、今の日本の政策はインバランスが小さい方がいいという思想でできているが、価格メカニズムを使うという当たり前の思想にしていくことが必要。
     ドイツも段階的に時間前の厚みが増えた結果としてインバランスが減っていく方に向かった経緯もある。いいところは日本にも活かしたい。

  • 日本におけるバイオマスの活用について
     バイオマス発電はイニシャルコストもランニングコストもかかる。事業の成立する価格システム作れるかが課題。また、電気単体のFITだけに頼る形では持続は難しいかもしれない。
     また、日本に多い木質系では簡単に出力を上げ下げできない。小型のガス化という手段等もあるが、現状だとバイオマスを調整力として用いるのはハードルが高い。
     日本では牛糞などでバイオガスをやるのも難しいが、食料残渣などを利用したサステイナブルな仕組みはできるかもしれない。
     発電効率の観点からは、バイオマスはコジェネレーション型で活かすことが重要。その場合、今までの大規模のバイオマス発電よりは小型化した方が廃熱の利用先も確保しやすい。

  • FIPは制度として成功なのか
     日本での普及が進まない理由として、制度が結果として複雑になってしまったことがある。また収益が不安定なために、銀行等も事業にお金を貸しにくくなっているのではないか。発電事業者・新電力からしても、収益が安定しないことからビジネスモデルの構築が難しくなっている。
     アグリゲーターとしては、疑似フィットモデルとしてある程度収益を固定化できるようなモデルを作っている。