Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.165 FIT見直しで小水力・バイオマス投資消滅の危機、「地域活用電源」という混乱

2019年12月26日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 12月12日の再エネ主力電源化制度検討小委員会において、中間取りまとめ案が提示された。主役はFIT制度見直しの方向を決めるものであるが、混乱している。電源種毎にその特徴に応じてきめ細かく詳細設計を行うとしているが、大局観に乏しく、また多くの穴があるようにみえる。前回は、FIPシリーズの第5回目としてFIPに移行する「競争電源」に焦点を当てたが(「再エネプレミアム制度(FIP) その5-政府FIP案解説、「地域活用電源FIT」という制約-」)、今回は、FITが継続する「地域活用電源」に焦点を当てるとともに、電源評価の著しい混乱や支援制度打ち切り懸念について解説する。

1.FIT継続は「地域活用要件」クリアが前提

 FIT見直し案によると、小規模以外の太陽光および風力はコスト低下、競争力確保を見込みうる「競争電源」として、FITからFIPに移行し市場統合が促される。市場取引に時間を要する小規模太陽光、普及に至っていない小規模の水力・地熱やバイオマスについては、地域活用されていることを要件を付してFITを継続する。

【要件は地産地消価値と防災価値】

 資料1は、「地域活用電源FIT」政府案の概要を整理したものである。新たなFIT制度に認定されるためには、地域で活用されることを担保する一定の要件を満たす必要がある。再エネ資源がその地域賦存のものであること(インプット要件)、電源の価値として地産地消とレジリエンス(防災)の価値を具現できていること(アウトプット要件)である。インプットは、地熱と水力は地域賦存が既に明確であるとする(これは厳密には微妙であり、小規模太陽光については言及がない)。バイオマスは、一定規模以上の設備は、域外や海外からの調達が必要になるが、これを除外するか否かは、内外無差別のWTOルールもあり、引き続き検討事項となっている。地域に限定することを明確に整理することは容易でない。

資料1.地域活用電源に係る制度設計案(整理表)
資料1.地域活用電源に係る制度設計案(整理表)
(出所)再エネ主力電源化制度検討小委員会資料を基に筆者作成

 アウトプット要件であるが、電力の物理的特性や価値をどう考えるかに関わる基本的な問題を孕み、簡単に整理できるものではない。これについては、後述する。

【自家消費型は低圧太陽光を狙い撃ち】

 以上が地域活用電源の要件であるが、これはさらに「自家消費型」と「地域消費型」に2分される。前者は、需給一体型、いわゆるプロシュ-マ-を前提としている。オンサイト電源、自営線等で連系されたオフサイト電源であるが、一定規模以上の自家消費、災害時の自立運転できることが要件である。小規模太陽光がこれに分類され、なかでも10~50kWの低圧電源は、屋根置きがイメージされているが、高いハードルである。2020年度より先行実施されるが、事業者は「2020年以降は、年間150万kW 程度の市場が消滅する」と危機感を募らせる。報告では、当領域は故意の分割や地域との軋轢も多く早急な対応が必要、との記述がある。

 50kW以上については引き続き検討と先送りしている。入札制度が2020年からも100kWまで下がる予定であり、競争電源との線引きの議論もあるのだろう。この自家消費型は太陽光に限定しているが、バイオマス、バイナリー発電もホテル旅館等へのオンサイト設置もありうる。厳密な整理よりも低圧太陽光狙い撃ちの分類と言えよう。

【地域消費型は小水力と地熱、バイオマス】

「地域消費型」は、地域一体型との用語も出てくるが、何らかの形で地産地消していること、そして災害時に地域で利用できることが要件である。地産地消は曖昧な表現であるが、担保として自治体出資エネルギ-会社が取り扱うことが候補として挙がっている。レジリエンスは地域防災計画等に位置付けられていることがイメージされている。この領域に該当する電源は、小規模の水力、地熱そしてバイオマスである。

 地域利用電源は地産地消、防災に係る一定の要件を満たせば、晴れてFIT認定となるが、その要件はまだ不明であるが、電力の性質からして高いハードルになる懸念がある。そもそもこの2項目で評価する(アウトプット要件)という方法論は妥当なのであろうか。以下で、考察する。

2.一部の電力価値で電源を峻別することは妥当か

 FIT見直しの議論から感じることは、非常に分り難いということである。再エネの技術(電源種)に応じてきめ細かくルールメークをしているとしているが、キチンとした整理になっているのかは疑問がある。以下では、電力の価値に焦点を当てて競争電源および地域利用電源について考察していく。

 資料2は、電力が持つ価値と再エネ電源をマトリクスにしたものである。再エネ電源は、FIPが適用される「競争電源」とFITが継続適用される「地域活用電源」そしてどちらに属するのか不明な電源に分けている。委員会が各電源を評価する際に重視している項目は〇とした。環境はFIPは認められる方向で〇とした。FITは現状×である。オンサイト太陽光は自家消費と余剰買電とをそれぞれ評価した。

資料2.FIT見直しの議論が前提とする再エネ電力価値一覧表
資料2.FIT見直しの議論が前提とする再エネ電力価値一覧表
(注)〇:委員会評価 ×:委員会非評価 未定・不透明の()は筆者の想定
(出所)筆者作成

【電力価値は多様】

 電力が有する価値は多様である。通常利用する「エネルギ-」はkWhで示され電力市場としては卸取引所取引になる。実需給時に向けた「調整用」として出力をキープしている設備の価値はΔkWであり、主に送電会社が運用する需給調整市場が担う。CO2を排出しないとの「環境」価値もある。中長期に確保するべき「予備力」の価値はkWで、日本では容量市場が担うことになっている。ここまでは、主要な発電設備の価値であり、日本ではその価値毎に市場を創設することとされている。この是非については議論があるが、ここでは触れない(「日本は価値の数だけ電力市場を作るのか」)。これらは、最近政府が好んで使用しているところである。

 その他に、議論としてはあるが定量化が難しく、世界的に市場設計がなされていない価値として「国産」、その派生としての「地域消費」、そして停電時等の「防災」価値がある。「分散型」電源としての電力ネットワーク(系統)への影響としては送電ロスの減少、電力供給効果がある。国産価値としては、連系線新設の判断として実施する費用便益分析のなかで、環境とならび主要な便益に位置付けられている。具体的には輸入燃料削減効果である。「防災」は緊急時に暴騰する卸価格がイメージできる。予備力として待機している容量価格がイメージできる。

 分散型電力供給効果としては、従来の考え方は「逆潮流」と称され宜しくないイメージで語られているが、これは再エネ主力化小委員会においても変わりはない。自家消費の効果の一つとして強調される。しかし、屋根置き太陽光等が普及している米国のNY州やCA州では、余剰電力販売は貴重な供給力と位置づけ、その立地により配電整備負担を軽減できるとして誘導する方策を検討している。テキサス州都であるオースチン市では、このオンサイト太陽光発電が持つ多様な価値を反映した小売り価値を実施している(「太陽光発電の価値は市場価格の2倍超 2019年問題の考え方」)。

 このように、再エネ電力には多様な効果があり、それ故に再エネ推進が政策となっているのである。しかし、価値として大きいのはエネルギ-であり環境、需給調整、予備力がそれに続く。

【競争電源には地域消費、防災価値がある】

 以上の認識の下に、まずは競争電源について考察する。FIP扱いとなる「競争電源」は直接市場販売が義務付けられ(kWh価値)、また環境価値を持つ方向である。ΔkWは既存電源の役割とのニュアンスが出ているが再エネはこの価値も持つ。しかし、地域消費や防災の価値はないのだろうか。直接販売先が地域新電力となることも十分ありうるし、既存電力会社でも地域企業向けの販売を優先することもありうる。競争電源は環境価値を持つ方向であり、立地地域は地域の魅力を高めるために、FIP電源を取り込もうとする動きは間違いなく出てくる。例えば洋上風力の入札条件としてある程度の地域販売が織り込まれる可能性はある。防災も同様であり、地域貢献の有力な手段になる。

【水力、バイオマスに全国から期待される環境、調整力】

 一方、FITが適用される地域利用電源は、認定条件として地域消費、防災対応が設定される。これらの価値が重要であることを否定するつもりは毛頭ないが、まだ定性的な概念であり、エネルギ-価値等に付加される段階だと考えられる。後述の様に、厳格な条件が課されれば、戸惑うだろうし多額の追加コストがかかる懸念がある。

 地域利用電源には小水力、バイオマスが入るが、流れ込み式小水力はCO2フリーで比較的安定した電源として、全国的から多少高くても購入したい電気として人気が出る可能性がある。東北の自治体と首都圏の自治体の連携がその可能性を示す。貯水式やバイオマスは調整力としても期待できる。当日卸市場や需給調整市場で運用できる可能性が高い。

 FIPでは、市場価格が高いときに多く発電し、低いときは少なくするインセンティブが働くが、調整力のある電源はその運用に適している。ドイツでFIP導入時に「フレキシビリティプレミアム」を用意し、特にバイオマスコジェネに貯湯設備を敷設しやすいようにした。これはバリバリのkWhあるいはΔkW価値である。「地域消費型」には、適当なプレミアムを用意してあげれば、むしろFIP制度に適する面がある。小規模あるいは成熟していない電源は、FITかFIP(環境価値等を活用できる)を選択できるような設計とすべきである。CO2ゼロの調整力という大きな価値を活かさない手はない。

【地産地消、防災が条件として厳しい理由】

 さて、地産地消、防災がFIT認定の条件になるが、自営線、蓄電池、制御設備等の多額の追加投資も必要となる。系統を利用する場合は、距離に拘らず多額の全体コストを託送料金として負担することになる。地域自立型の議論は、以前よりあったが、実証事業に留まっているのはこうした事情による。地域振興や防災も考えると地域にとり魅力的ではあるが、将来の方向として地道に技術革新や制度整備を進めていくことであった。それが再エネ主力化支援制度の前提条件となるのは、非常に唐突感がある。

【全体最適の考えはなくなったのか】

地産地消の議論になると必ず出てきたのが「全体最適」という考え方である。電気工学的には、電力は常に需給 を一致させる必要があるが、一方で需給に応じて常に流れは変わり続ける。全国津々浦にネットワークが張り巡らされ、光速で動く電力は、需給調整はこの大きなネットワークを活かすのが効率的である、というものである。3.11大震災以降、大規模・一方通行・長距離流通の課題が指摘され、再エネ普及とも相まって分散型システム構築の重要性も喧伝されるようになった。しかし、これは従来ネットワークや運用との併用であり、「いいところ取り」を目指すものと理解している。筆者は、「全体最適」という用語は、理解はするものの、分散型や地域事業潰しの切り札として使われている感があり、あまり好きではなかった。

 しかしながら、物理的・技術的な真実を内包しており、ここまで180度転換の議論になるとは思ってもみなかった。これを克服する技術革命は出てきたのだろうか。エネルギ-当局、電気工学の専門者、電力事業関連者は本心はどうなのであろうか。自治体は、地産地消や防災を担保する仕組みや計画をつくれと言われても、困惑するのではないか。その追加コストを地域は負担できるのか、事業者負担とする場合地域資源を活かそうとする民間投資は出てくるのだろうか。

【一部の価値で政策を仕切る大胆さ】

 以上、電力の価値と再エネ電源について考察してきたが、政府の議論を鑑みる、太陽光・風力の「競争型」はkWhと環境、小型太陽光の「自家消費型」とバイオマス、小水力、小規模地熱の「地域消費型」は地産地消と防災とに価値を限定し、狭くとらえているように思われる(資料2)。FIT卒業の目安となる再エネ普及率や成熟化度合が判断の基本となるが、電源が有する価値に着目し市場取引に適しているか否かも評価軸になる。

 前述のように、バイオガスや水力は、適切なプレミアムの下では、FIPの下でより活躍できる可能性もある。環境価値があれば多少高くても購入するという需要家は全国に存在する。再エネが地区に少ない都市のグローバル企業や自治体こそ再エネを多く必要としている。この購買力が地方の再エネ資源開発を促進するという発想も重要だと考える。

【CO2フリー調整力が支援措置から外れる懸念も】

 また、競争電力なのか地域活用電力なのか分らないものもある。資料2の下段のほうに「未定・不透明」と分類しているものだ。再エネ電源はFIPかFITがどちらかに分類されるとの前提では、中規模水力、大中規模地熱、大規模バイオマスは「競争電源」になるものと思われる。一方で水力と地熱は開発リスクが大きく、普及が遅れている。小型風力は規模からして「地域利用電源」であろうが、現在のFIT価格では成り立たない。

 「非認定地域利用電源」とは、地産地消や防災の要件を満たさないとして、FIT認定が下りない場合に生じうる。これはFIPで対応ということになるのであろう。顔ぶれを見ると、調整力も期待できることから、市場統合の推進役を担っていくことになる。あり得ないと思われるが、FITもFIPも適応しないとなれば、開発不可能となり、貴重なゼロエミッション調整力という価値を失うことになる。

【原点に戻り、再整理が必要】

 以上から分かるように、競争電源、地域利用電源という区分は、価値を狭く捉えており、これが原因で至る所で矛盾が生じ、混乱と不安を招いている。再エネ主力電源化の途は、支援制度という最も重要な政策領域で迷路に入った観がある。賦課金削減や太陽光対策が思考の多くを占め、再エネ主力化という大義を失念しているとさえ思われる。原点に戻って、普及・成熟しつつある電源はFIPに、そうでない電源はFIT継続でというシンプルな方向でいいではないか。具体的には、太陽光はFIP(小規模太陽光は、アグリゲーターが育つまでは、移行期間としてFIT選択可能)、それ以外はFIT継続、普及はまだでもFIPの方がフィットするのであてばその選択も可能、ということでどうだろうか。

キーワード:再エネプレミアム、FIP、競争電源、地域活用電源