Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.168 公平性の観点から発電側課金を考察する(要約版)

No.168 公平性の観点から発電側課金を考察する(要約版)

2020年1月23日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 安田 陽

 「発電側課金」が昨今にわかに注目されています。本稿ではこの発電側課金について海外の動向を紹介し、特に公平性の観点から、日本での導入にあたっての課題を議論します(本稿は「公平性の観点から発電側課金を考察する」(シノドス, 2020年1月23日公開)の要約版です)。

そもそも発電側課金とは何のため?

 託送料金は現在、すべて小売事業者に課され、さらにその内訳は基本料金と従量料金とに分けられています。しかし、図1に見るように実際に送配電設備の投資にかかる固定費と可変費の比率に合致しておらず、このままでは送配電設備の新設・増強や維持・運用に支障を来す可能性があることが指摘されています。そこで経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会の「送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討 ワーキング・グループ」の『中間とりまとめ』において、「系統利用者である発電側に対し、送配電関連費用のうち一部の固定費について新たに負担を求める」ことが提案されました。



図1 送電設備の費用構成と託送料金の構成
(引用: 送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ中間とりまとめ, 2018)

 (EU) の欧州エネルギー規制協力庁 (ACER) では、2014年に公表した見解 (Opinion) でkWベースの発電側課金を提案しています。

 発電側課金には良い点もあります。特に再生可能エネルギーの資源が豊富な地域に再エネ発電所を建設する場合に、その地域に送電線を新設・増強するインセンティブが生まれます。また、kWベースの発電側課金も、同じ電源方式(例えば太陽光同士)であれば、きちんと管理して高い設備利用率を維持している発電所が有利になり、健全な発電所にインセンティブが与えられます。

 一方、このACERの見解に対して、電力事業者の団体であるEurelectricが2016年に発電側課金に反対する声明を出しています。また、欧州風力発電協会(EWEA, 現WindEurope)も同じく2016年に反対声明を出しています。ここで日本の電気事業連合会(電事連)に相当するEurelectricと風力発電の産業団体が似たような声明をほぼ同時期に出すということは興味深い点です。

 さらに、EUの行政機関である欧州委員会では、2017年にACERの見解に対して定量的な影響評価を行ない、発電側課金の導入効果を定量分析しています。この結果、現在国によって発電側課金の有無がバラバラな現状よりも、ACERが提唱するようなkWベースの発電側課金に統一すると、トータルの社会的厚生(主に各地域間の値差の解消よる便益)が若干増える結果となっています。また興味深いことに、発電側課金が全くない状態に比べると、kWベースの発電側課金をした方がむしろ発電事業者も送電事業者も収益が増え(送電線が増強されるためと推測されます)、消費者の負担が増えてしまう結果もみられています。

 この結果から得られる示唆としては、発電側課金が有効か否かはより詳細なシミュレーションをしてみないと分からないということであり、どんぶり勘定の憶測や目先の損得勘定で議論したとしても本質的な問題解決にならない、ということになります。

意外なところでノンファームとの関連

 上記で紹介したとおり、日本での議論も国際的議論に歩調を合わせ、同じ方向に進んでいるという見方ができますが、残念ながら欧州での議論をそのまま日本に適用することはできません。なぜならば、現状の日本には欧州で導入されている「混雑料金」が十分に検討されていないからです。これは実は、「日本版コネクト&マネージ」で脚光を浴びた「ノンファーム」という方法に密に関連します。なぜ、ここで一見全く関係ないように見えるノンファームが突然登場するのでしょうか?

 ノンファームは、日本では送電線の空容量問題を解決するための方策の一つとして認識されていますが、本来は全ての発電事業者が「ファーム firm」と「ノンファームnon-firm」とを自由に選択できる制度です。ファーム契約は送電混雑が発生しても出力抑制されない代わりに、混雑料金が請求されます。ノンファーム契約は送電混雑が発生したら出力抑制される代わりに、混雑料金を支払う必要はありません。混雑料金は発電側課金とは別の制度ですが、本来は両者とも送電線投資の原資となり送電線増強のインセンティブとなります。ファーム/ノンファームは特に米国での呼び方ですが、欧州でも従来型電源と新規電源の公平性は同様で、送配電線の利用は徹底して非差別性が貫かれています(ファーム/ノンファームについては当講座2019年2月21日付コラムを参照のこと)。

 一方日本では、残念ながら電力システム改革の途上にあるせいか、新規事業者はすべて自動的にノンファーム契約とならざるを得ず、一方従来型事業者はすべて自動的にファーム契約になり、しかも送電混雑が発生しても混雑料金も発生しないという結果的に優遇された状態となっています。日本でも地域間連系線では混雑料金に相当するものがあるものの、地内送電線も含め十分制度化されているとはいえません(この問題については当講座2018年9月10日付コラムを参照のこと)。このような差別性が残る状況下で更に発電側課金が課されるとしたら、自動的にノンファームが強制される新規事業者の不公平感は募るばかりです。発電側課金の議論の前に、ファーム/ノンファームの非差別的な選択制や混雑料金の制度化の議論が後回しになっている状況です。

 そのほか、太陽光や風力のような設備利用率が低い新しいタイプの電源が結果的に不利になることも、もう一つの不公平性です。これは適切な(高額の)炭素税により不公平は是正されますが、もし炭素税の議論が進まなければ、それまでに不公平性を解消するための経過的な措置が必要となります。

まとめ:我々は何を議論すべきか?

 そもそも送配電設備など電力インフラへの投資は、「儲けが少なくなるからけしからん」とか「後出しジャンケンだ」という近視眼的な議論ではなく、どれだけ社会コストを減らし社会的便益を増やせるか、という広い視点で考えなければなりません。また、発電側課金の議論は国際的には10年前から始まっており、発電側課金は欧州でも従来型電源にも適用され、日本だけが特殊ではないというグローバルな視点で考える必要があります。目先の損得勘定で議論すると、新規参入者であるはずの再エネ産業自体が、既得権益者として国民から厳しい批判を受けることになりかねません。

 議論すべきは送配電系統の利用の非差別性であり、電源間の公平性であり、社会的便益の最大化であるということを、全ての市場プレーヤーが理解を共有する必要があります。また、定量評価を行って不公平性解消のための経過措置も含めた最適解を探し、目先の損得ではなく社会的便益最大化という観点から透明性の高い制度設計を進める必要があるでしょう。

キーワード:発電側課金、社会的便益、ノンファーム