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No.226 “その後”: EUグリーンタクソノミーの更なる進化と国際的な動き

2021年1月21日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 加藤修一

“その後”の展開・・・・・
仕組みのイノベーションに向けて

 各国の環境・エネルギー戦略が進むなか、EUは更に野心的な戦略を発表している。2030年の炭素削減55%を確定し「気候法」を始め、指令・関係法の強化を続けている。ここでいう“その後”とは、本コラムNo.177(2020年3月12日)No.188(2020年6月24日) 以降のグリーン金融の状況である。タクソノミー規則の施行後、委任法は、気候変動の緩和・適応の第一委任法を先行させ、残りの4環境目的の第二委任法は策定段階である(表-1)。ESGにおける今後の“SG”に関心が深まるが、タクソノミーの成否次第だ。

表-1 EUタクソノミー規則の委任法などの現況と今後の展開
表-1 EUタクソノミー規則の委任法などの現況と今後の展開

タクソノミーが目指す環境・エネルギー関連の資金調達

 日経新聞の元旦号に今後30年間に「日米欧中 動く8500兆円」とあった。世界4地域のエネルギー・産業・建物等に限った投資必要額である。世界の一部である。それでも膨大である。“カーボンゼロ”の価値が社会に種とまかれ、多様な投資やプロジェクト機会が成長し潮流化するには膨大な資金が絡む。その資金調達には「明確な情報と有用な仕組み」の獲得が求められ、その駆使にある。既に有用な仕組みとして示して来たEUタクソノミーに注目が集まり始め、グリーン投資に有効であり世界標準の青写真として重要な仕組みとの評価もでている。秀逸な研究成果を出し続けるドイツ経済研究所(DIW)は、世界初の単一システムになる可能性があるとまで指摘する。仕組みの獲得と駆使する行動は、国家の戦略的な命題と位置づけるべき重要なものである。それ故に国際社会においてリードすべき(指導的)立場に通じるものでもある。後述するようにEUがいち早く主導したタクソノミーの国際的なプラットフォームの創設は、この流れに組み込まれており、EUの世界戦略の一端であり、その世界は「カーボンゼロ」社会に向けて変貌しつつある。

EUタクソノミーの適用範囲の拡大へ

 この様な変貌は、EUタクソノミーにも新たな動きをもたらしている。規制法であることから導入遅延や激変緩和措置と思いがちであるが、そうではない。タクソノミーの適用範囲の拡大の動きである。新しい動きの背景は野心的な環境・エネルギー戦略やコロナ禍を含めたEU社会のレジリアンスの強化に基づくものであり、そのために生じる膨大な資金調達のためのタクソノミーの強化である。

表-2 タクソノミーの適用範囲の進化
表-2 タクソノミーの適用範囲の進化

 即ち、(1)サスティナビリティにリンクする債券やローンへの適用、(2)公的資金への適用、(3) 研究とイノベーション(R&I)への適用などである(表-2)。特に2番目のR&Iソリューションに注力し、R&I成果の迅速な商業化の迅速化であり、そのための資金調達である。R&Iにも拡大適用して投資可能な(銀行取引可能な)機会を拡大させる狙いといえる。

国会委員会におけるタクソノミー議論 - 提案された“日本版”

 「カーボンゼロ宣言」に後塵を拝していた日本は、「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。宣言以降、環境・エネルギーの質疑は、頻繁である。昨年11月、参議院環境委員会で「EUタクソノミー規則」が取り上げられた。与党の環境部会長であり公認会計士でもあるT議員である。「EUタクソノミー規則」に触れ、革新的イノベーションや社会実装には膨大な資金調達の必要性、更にはグリーンウオッシングの除去の重要性を指摘した。同時にカーボンニュートラルの実現に向けた“仕組みづくり”に言及し日本の遅れを指摘した。以上を踏まえて、政府に「日本版タクソノミー」の策定を提案した。恐らく国会においてEUタクソノミーを取り上げた初めての質疑であり、提案と思う。環境省の答弁は、議事録をみる限り、必ずしも意欲的・開明的ではなかった。環境省は、環境金融を先導して来た歴史があるが、EUタクソノミー規則についての認識が必ずしも十分でない印象を持った。これではT議員の質疑が生きない。環境省の答弁を議事録で確認すると、「EUタクソノミーは、グリーンな事業、経済活動を定義しリスト化するものである・・・・我が国でも、環境省が策定しているグリーンボンドガイドライン、グリーンローンガイドラインにおいては、国際的な水準を踏まえ、グリーンなプロジェクトに該当するもののリストを例示しており、これはEUタクソノミーと同様の機能を持つものと考えております。・・・・こうした取組を通じ、グリーンでないにもかかわらずグリーンを称するいわゆるグリーンウオッシュが生じないような形でESG金融市場の育成、拡大に努めている」(2020.11.19)とある。確かにグリーン・非グリーンをリスト化する部分を含む。しかしガイドラインなどのリスト化をEUのタクソノミーと同じ機能をもつと捉えている。本当にそう思っているならば基本的な認識にズレがある。

EUタクソノミー規則は法的強制力を伴う規制法そのもの

 一般的に「ガイドライン」とは、「指針」や「行動規範」と呼ばれ、自主的(・・・)に(・)遵守(・・)する(・・)もの(・・)である。一方、「EUタクソノミー規則」は、リスト化する方法であるが、ガイドラインではない。27ヶ国の全域にわたって、7つのセクターと67の経済活動、雇用数500以上の企業、EU全体のCO2排出量93%以上に「法の網」をかける。EU指令(Directive)の上位にある規則(Regulation)という法概念である。日本でいう単なる規則ではなく、加盟国に強い包括的な法的拘束力が伴う。この意味で「同様の機能を持つ」との答弁に錯誤がある。グリーンウオッシングの回避については、その方法と検証法についても明確な答弁がなく、「EUタクソノミー規則」に対する認識に疑問を生じる。EUは、かって苦い経験から野心的な仕組みを目指して国際機関などと研究を深め、欧州委員会下のHLEG/ TEGの激論の結果が、「EUタクソノミー規則」である。これは法的強制力を伴う規制法でありEUの”開始影響評価(IIA: inception impact assessment)”注)を通過している。また硬直化を避けるために定期的な更新を含む「技術的スクリーニイング基準」、委任法、そして改正指令で強化された非財務情報開示からなる法制度である。

注)日本のRIA(規制影響評価)に相当。本コラム「今こそ、“規制”影響分析(RIA)の実質的、機敏な展開を!」(2017年11月24日)を参考。

グリーンファイナンス - お金の流れを変える

 小泉環境大臣からは「カーボンニュートラルといっても、お金の流れが変わらないと、世の中、産業構造を含めて、動きません」との答弁があった。正論である。そもそもこれは国際社会の重要なテーマである。EUグリーンファイナンスの目的の一つであり、タクソノミーはその入り口である。今後、国際的調和を通じたこの様な仕組みの適用が期待される。T議員は、日本国内の仕組みの遅れを指摘したが、環境省のタクソノミーに対する認識は不安定だ。経済団体など一部の産業界の動向に逡巡しているのだろうか、と心配の声もある。国際的に通用する新しい枠組みの提案や現行のタクソノミーに対する国内的議論が深まることを期待したい。日本が気候変動について国際的な指導性を発揮するためには、血を流す覚悟の構造改革、特に野心的な枠組み(ソーシャルイノベーション)が欠かせない。国会質疑によりタクソノミーに対する認識が広がり、日本の未来を拓く審議を期待するが、3省庁連携のテーマでもあり予算委員会の議論になることを期待したい。

 通常国会がはじまった。菅総理は施政方針演説において、国内の民間に眠る240兆円の現預金、3千兆円ともいわれる世界の環境投資を呼び込むため、新たな「枠組み」を金融市場に創設する方針を示した。詳細が分からないが、これは、資金調達の投資誘導を促進するEUのタクソノミーに通じる。野心的で世界のグリーン投資家などを「強く引き寄せる魅力ある枠組み」を期待したい。

国際機関などが着目しはじめたタクソノミー

 一方、EUタクソノミーは、野心的で実現が懸念されたが、タクソノミー規則は既に発効し、委任法の発効を年末に控え国際的な関心が深まっている。日本は一般的な意味でのタクソノミーをどの様に捉えているのか。少なくとも①グリーンの定義、②グリーンウオッシングの回避が明示され、法的実効性を備えた柔軟な「日本版タクソノミー」が必要ではないか。与党内において関心が深まり始めている。一方、最近の国際的な動きの一つは、主要国の中央銀行や金融監督当局が創設したNGFS(金融システムグリーン化ネットワーク)において、国際的に共有できるタクソノミーの必要性の認識が深まっていることである。例えば、「NGFS包括報告書」は、政府や議会立案者に対して、特に(1) ロバストで国際的に一貫した気候/環境関連の情報開示の確立、(2)経済活動におけるタクソノミーの開発支援を提言し、2つの報告書では、グリーン/非グリーン/ブラウンの潜在的リスク分析の現状を踏まえ、タクソノミーの適用条件を精査し、金融当局の今後のタクソノミー導入のガイド版の作成に至っている。

表-3 国際標準化機構(ISO)のタクソノミーなどの展開
表-3 国際標準化機構(ISO)のタクソノミーなどの展開

表-4 国際機関などのタクソノミーへの積極的な動き
表-4 国際機関などのタクソノミーへの積極的な動き

 国際標準化機構(ISO)は、欧州委員会の動きに追従するようにタクソノミー等の検討(表-3)を行った。特に「ISO/DSI14030-3:タクソノミー」は、債券/ローンを含めたグリーン指定を取り上げたが、これは例えば、現在工場等に電力供給するローン扱いの太陽光発電施設等を対象外にしているからである。世界銀行は、金融事業に関する新しいガイド版(表-4)を示しグリーンタクソノミー開発のプロセスを示した。新興経済国の規制当局が、自国の金融システムの「グリーン化」のプロセスを支援する内容である。その基本は、グリーンファイナンスの拡大にとって長い間大きな障壁となってきた、グリーンな経済活動と資産の定義づけを明確にしている。環境目標を達成する活動や投資の定義づけが進み、グリーンな優先プロジェクトが明確になった分、資本をより効率的に推進できると指摘している。世界銀行グループは、国家の存立状況の差異に対応したタクソノミー開発に関する原則と方法論を推奨している。OECDは、そのグリーンファイナンスと投資に関するOECDフォーラムを開催しタクソノミーに言及している。IMFは、持続可能な投資に関する標準化と透明性、そして世界中の規制当局が共有できる強力な開示基準の仕組みを示す一方、「投資家が必要とし歓迎し信頼性が高く比較可能で一貫性のある情報を十分提供」すべきことを指摘しているが、同時にタクソノミーとの関連を強調している。

図-1 国際機関等で論議されているタクソノミー
図-1 国際機関等で論議されているタクソノミー

 一方、EU離脱後の英国は、タクソノミーの対応が遅れている。英国の多くのファンドは、欧州における資産運用に関してEUタクソノミーを遵守する必要があり、遅れを懸念している。英国は、EUタクソノミーを基礎として、スタンドアロンのグリーンタクソノミーの実装を考えており、「グリーン産業革命」(図-1)において、グリーンファイナンスの“世界的ハブ”を目指している。

 今後の動向は、各国がタクソノミーの採用に向けて国際レベルでの交渉が継続され、最終的にはグローバルに共有する「持続可能な金融基準」になることが期待される。しかし地球の多様な自然資源や生産工程の相違などがあり、工夫が必要だ。例えばグリーン建造物や林業などは、複数のタクソノミー基準が必要かも知れない。検討課題は多いが、市場が複数のタクソノミー基準を受け入れる意思があるかどうかだ。以上の視点を踏まえるならば、「日本版タクソノミー」の余地は皆無ではない。問題は市場にある。今後、これらの課題は、創設された国際組織等で論議されるようだが、日本の国際的な指導性に注目したい。

急展開するタクソノミーの国際プラットフォームの動き

 以上の様に国際機関が積極的にタクソノミーを取り上げている。特に「持続可能な金融に関する国際プラットフォーム」(以降IPSF)は、多くの国際機関が関与しており、国際的な先進性をリードすることが、期待される。その目的は、グリーン金融に向けた民間資本を拡大する仕組みの普及にある。

表-5 国際的プラットフォーム(IPSF)の拡大
表-5 国際的プラットフォーム(IPSF)の拡大

 IPSFは、グリーン金融に対する詳細な検討、特に経済活動のタクソノミーに関して加盟国間で具体的な比較作業を開始している。例えば、EU・欧州諸国や中国を中心に金融機関の資産のグリーン、ブラウンに応じて資本規制を緩和(強化)できないかの議論が進んでいる。今後、EUやイギリスを中心に定められたタクソノミーやISO基準が、国際的なグリーン判定の基準となる可能性がある。日本に不利な金融規制枠組みが共通化する前に現状を調査し、国内外における議論に反映していく必要がある。既にEUと中国は、広く共通するタクソノミーの仕組み”CGT:Common Ground Taxonomy“の国際化を目指している。これは、経済活動と環境目標との適合性を検討し各国のタクソノミー相互間の共通性を検討し、更に加盟国相互間においてグリーンの定義についての透明性を高めるものである。グリーンウオッシングを排除し国境通過を容易にし、結果としてグリーン投資の大幅な拡大促進が目的である。一方、環境開示とグリーン製品基準に関する作業部会は、国際的な仕組み作りを目指している。  

 IPSFの議論が高まっているが、この創設は、EUが主導しアルゼンチン、カナダ、チリ、中国、インド、ケニア、モロッコの公的機関との合意による。その後、加盟が続くなか日本の動きは不明であったが、「カーボンニュートラル宣言」の1ヶ月後に加盟となった(表-5、水色)。

“ZERO”への熾烈なレース!

 IPSFの議論が高まる中、既に世界の100ヶ国を超える国において“ZEROレース”が始まっている。形を変えた経済戦争であり、熾烈なレースである。旧態依然の仕組みは、通じない。野心的な“仕組みの変革”(ソーシャルイノベーション)が伴わないと、勝ち目はない。EUタクソノミーは、より良きグリーン技術が(当面EU内で)生かされる仕組みである。我が国に潜在するグリーン技術を生かすためにも日本自身も言うなれば、“J-イノベーション”の展開を打ち出し、地経学(geo-economics)の分野で先鋭化する国に併呑されない競争的共存に向かうべきである。日本の指導性に期待したい。

210121京大コラムNo226(加藤)参考資料
210121京大コラムNo226(加藤)参考資料

キーワード: タクソノミー  グリーンウオッシング  委任法  グリーンファイナンス イノベーション