Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.269 国内産業化のカギを握る風車メーカー選定

2021年9月30日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力、再エネ海域利用法、事業者選考、風車の大型化

 9月13日に、政府より海洋再エネ法に基づく洋上風力促進区域に係る候補地が発表された。今年度はラウンド3となるが、促進区域に1区域、有望区域に4区域が追加され、準備区域を含め累計で22の区域が採択されたことになる。先行促進区域の事業者選定プロセスも進んでおり、五島市が戸田建設グループに決まったが銚子と秋田2区域では、5月に応募が締め切られ、年内にも決定となる。グリーン成長戦略の筆頭に位置する洋上風力であるが、産業としてテイクオフできるかのカギを握る一大イベントであり、選考失敗は許されない。洋上風力シリーズ2回目となる今回はこれを考察する。

1.カ-ボンニュ-トラル・グリーン成長を牽引する洋上風力ビジョン

 前回(「No.268 洋上風力R3/高まる促進区域への期待」)に続き、重要局面に差し掛かっている洋上風力を取り上げる。本コラムは今回で269回目となるが、記念すべき第1回は、2016年10月に洋上風力に劇的なコスト低下を実現した欧州を紹介し、第2回でオランダのボルセラ事業を解説した(「洋上風力のコストが大幅低下(その2)-10ユーロセント/kWh割れが現実に-」)。北海に面する国としては遅れたオランダが、周到な準備を経て打ち出した事業であるが、国が事業環境整備を行い事業者は純粋に価格競争に専念できる「セントラル方式」が一般化する嚆矢となった。また、先行する英国、デンマーク、ドイツに一気に追いつく快挙となり、洋上風力はやり方次第でどこでも低コスト事業を生み出せるとの確信を与えた。コラムでは「フロックなのか、転換の嚆矢なのか」との表現で締めたが、フロックではなかった。その後洋上風力がエネルギ-を主導する金字塔となる事業であった(図1)。

図1.欧州での洋上風力平均コストの推移と最近の入札価格動向
図1.欧州での洋上風力平均コストの推移と最近の入札価格動向
(出所)IEA、Offshore Wind Outlook 2019 に加筆(赤枠)

時代を転換する洋上風力ビジョン

 筆者が次にコラムで洋上風力を取り上げたのは、梶山大臣が2020年7月に発表したエネルギ-政策と産業政策との両睨みを目指す「洋上風力官民協議会」設置についてである(「No.197 梶山経産大臣発言の衝撃と意義 -エネルギ-革新に託す産業政策-」)。産業育成を強く意識した姿勢は、長年停滞してきた日本の産業政策復活を感じるものであった。その後、2020年12月に官民協議会は「第一次洋上風力ビジョン」を発表し、直後に取り纏められた「グリーン成長戦略」の筆頭に位置付けられた。14におよぶ領域のなかでは具体性が際立ち、けん引役として期待されていることが理解できた。

 ビジョンのポイントは、大規模な数値目標とそれを実現する過程で可能となる国産化とコスト削減である。2020年代は年間1GW(100万kW)の開発を進め2030年時点で10GWとなる。次第に加速し2040年断面では30~45GWの導入量となり、国内調達比率は6割となる。この間、2030~35年で発電コスト8~9円/kWhを実現する。大規模開発、コスト低下、国産化推進の3本柱で産業化が実現するとともにCNに大きく寄与するというシナリオである(図2)。

図2.洋上風力主力電源化に向けた道筋(洋上ビジョン)
図2.洋上風力主力電源化に向けた道筋(洋上ビジョン)
(出所)「洋上風力の主力電源化を目指して」JWPA 第2回官民協議会資料(12/15/2020)

事業者選択は産業テイクオフに大きな影響

 大規模な数値目標がなく、普及の制度設計もなく、膨大な潜在量にも拘らず国内市場が小規模にとどまり国内風車メーカーは撤退を余儀なくされた。こうした状況下でのスタートであるが、官民挙げた不退転の決意での取り組みであり、再エネ海域利用法に沿ってここまではある程度順調に来ている。5つの促進区域、7つの有望区域を含む22区域が採択されており、多くの事業者が参画を検討し、毎日のように技術開発や外資との提携等の記事が躍る。

 しかし、ここまでは助走段階であり、成功の可否は具体化への最終ステップと言える事業者選定によると言っても過言ではない。選定に係るガイドラインが制定されており経済性・事業性、国策との整合性、地域貢献等が点数化されている。最初が肝心である。透明性のある選定は当然であるが、事業運営はもちろん経済性や前回考察した地域貢献に加えて、国産化を促し国内サプライチエーンの確立に寄与し「産業化」を実現する可能性の高い事業者を選択することがポイントとなる。

2.ビジョン実現のカギを握る風車選択 旬の風車はどれか

洋上風力は風車の大型化と共に急拡大

 洋上風力が急激に普及した最大の要因はコスト低下であり、それは風車の大型化、事業の大規模化が支えてきた。風車の出力は風速の3乗に比例し、上空ほど風が強くなり羽根が長くなるほどに利用率も高くなるからである。2020年時点では、平均で発電所規模約700MW、単機出力で8MWに至っている(図3)。日本の促進区域の考え方は30~40万kWであるが、コスト低下を促すために2倍程度に引き上げる必要がある。

図3. 洋上風力、平均発電所規模・風車単機出力の推移
図3. 洋上風力、平均発電所規模・風車単機出力の推移
(出所)ETIP-WIND、Wind-Europe “Getting fit for 55 and set for 2050”(2021/6)

 洋上風力のコスト低下の実現は風車の大型化と共に推移してきた。図4は、最初のボーナス社製450kWが稼働した1991年から現在に至るまでの風車の出力と直径の推移である。6MW、8MW、9.5MWを経過して、現在は11-13MWの時代であり、今後15-17MWを睨む展開である(型式証明はこれから)。

図4.洋上風車直径・出力の推移・見通し
図4.洋上風車直径・出力の推移・見通し
(注)商業運転時期ベース
(出所)世界風力エネルギ-協会(GWEC):Global Offshore Wind Report 2021(2021/9)

 2010年代に入り洋上風力のコスト低下に拍車がかかってきたが、6MWまで大型した後、2016年頃から8MWの世界に入る。前述のボルセラ1、2事業はシーメンスガメサ製の8MWを採用している。同時期にMHIべスタスが8MWをプラットフォームとする機種を開発するが(羽根長80m、直径164m、頂上の高さ187m)、これは9.5MWにも適用され、同社はシェアを伸ばしていく。洋上風力用風車メーカーはシーメンスガメサの1強とも言える状況であったが、MHIべスタスが大型化を実現しシェアを拡大し2強の様相を呈してきていた。いよいよ10MW時代到来の期待が高まっていた(図5)。

GEは12~14MWで衝撃参入

 洋上で出遅れていたGEであるが、10MWを飛び越して一気に12MWのハリアデX(Haliade-X)を開発し2018年3月に発表する。羽根長107m、直径220m、頂上の高さ260mという大きさが話題になった(エッフェル塔324m)。同社の従来最大機種は6MWであり、洋上は殆ど実績がなかったことから業界には「お手並み拝見」の雰囲気があった。2019年11月よりオランダのロッテルダム市にて試作機(プロトタイプ)を設置し1年間の運転に入る。2019年10月には英国の3.6GW事業ドッガーバンクへの採用が内定し、関係者をあっと言わせる(図1)。

 ドッガーバンクは北海の中心にある浅瀬で英国東岸より130kmに位置する。事業性を確保が課題となるが、事業者であるエクイノールとSSE-RenewablesのJVはGEの12MWをその回答として選択し、落札の大きな要因となった。ドッガーバンクはABCの3フェーズからなるが、それぞれ1.2GWで計3.6GWの大規模事業である(図1ではCはTeesideA)。これだけで英国電力需要の5%を賄える規模である。12月にはタイム誌に「2019年の最も重要な発明品」の一つに選ばれる。2020年6月には認証機関より「型式証明」の発行を受ける。同年9月には13MW仕様も可能ということが分り、ABの使用機種は13MWへランクアップし、さらなるコスト低下が可能となった。2020年12月には14MWも可能と発表され、フェーズCに採用される予定である(図5)。

図5.メーカー別洋上風力技術の推移(MW/機 除く中国)
図5.メーカー別洋上風力技術の推移(MW/機 除く中国)
(出所)GWEC:Global Offshore Wind Report 2021(2021/9)

 このように、ハリアデXは、最初に技術が確認された10MW超の機種であり、既に世界で約5GWの受注を確保している(2020/9時点)。ドッガーバンク3.6GW、残りは米国である。ドッガーバンクは2020年に建設が開始されており、2023年より設置が始まり、2026年度に完成する。ABフェーズでは190ユニットが設置される。

巻き返しを急ぐシーメンスガメサ、べスタス

 このように遅れてきたGEが10MW超で大きく先行する状況となっているが、洋上風力をリードしてきたシーメンスガメサ、べスタスも手を拱いてはいない。シーメンスガメサは、2019年1月に10MW機種の開発、同年下期に11MWとしての販売を発表する。2020年5月には14MW機種“SG14-222DD”を開発していること、15MWまで拡大可能であることを発表。2021年2月に、年内に試作機を開発し24年の商業化を目指すことを発表。8月には英国ハル工場 を1.86億ポンドかけて増強すると発表した。北海のSofia事業向けに14MW機種100機を受注しており、2025年開始予定の据え付けに間に合わせる必要がある(図1)。

 べスタスは2021年2月に、15MWの“V236-15.0MW”の開発を発表する。同社は、2020年12月に洋上風車開発・製造会社であるMHIべスタスの三菱重工株を取得し子会社化している。試作機は2022年開発、連続運転(販売)は2024年を予定している。

 洋上風車は、シーメンスガメサの8MWに対抗してべスタスが8~9.5MWを世に出しシーメンスガメサの牙城に迫った。出遅れていたGEは一気に12~14MWを開発し商業化を実現し10MW超時代を切り開いた。これに刺激を受けてシーメンスガメサ、べスタスが14~15MWの開発に着手したという構図である(図5)。GEはその後15MWも可能としている。現状では、プラットフォームである12MWの開発を完了し、型式認証を得て、その派生で13~14MWに対応するGEが先行している。生産設備規模についても、今後GEは大きく拡大する(図6)。

図6.ナセル生産設備規模の現状と見通し(メ-カ-別、GW)
図6.ナセル生産設備規模の現状と見通し(メ-カ-別、GW)
(出所)Wind-Europe “Wind energy and economic recovery in Europe”(2020/10)

3.事業者選考とメーカー選択

国内での提携・工場建設状況

 このように、大型機種開発でGEが先行している現状であるが、第1ラウンドの事業者選考が行われている日本国内での準備状況はどうであろうか。これもGEが先行していると言える。GEと東芝エネルギ-システムズは2021年の5月11日に提携を発表した。ハリアデXの機器類が収納されているナセル工場を東芝京浜事業所に建設する。国内サプライチェーンを確立するべく、東芝関連だけでなく、幅広く部品開発を募集するとしている。2021年4月には、クラスTの認証を取得している。クラスTとは国際電気標準会議(IEC)が2019年に新設した台風クラスの風条件への耐性を証明するものである。閾値である10分間平均風速の最大値が57m/s、3分間平均の79.8m/sにも耐えることが確認された。標準の12MWを前提とする仕様になると思われるが、地形や気象状況によっては13、14MW仕様になる可能性もある。

 他の2社であるが、べスタスは商業設備では現在最大の9.5MWの機種を有し、これはクラスTの認証を取得済みである。15MWを発表しているが、試作機の製作はこれからである。型式認証を得るには試作機を1年程度運転し各種のデータを得たのちに判定される。三菱重工との合弁は解消しており、国内の提携先は不明である。9月14日の地方紙に「長崎県内の造船所にナセル工場を建設か」との報道が出ている。

 シーメンスガメサは10~11MWの機種を有し、クラスTの認証を取得済みである。また14、15MWの機種を発表しており、英国事業の受注を獲得しているようであるが、試作機製作は年内としている。国内提携先や工場建設の情報はまだ表に出ていない。

許されない完成遅延と運転トラブル

 以上から、年内に公表される予定の第1ラウンド選定事業者は、技術プルーブンな風車の規模、国内事業者との提携等から、現実的な判断としてGE・東芝グループの12MW風車を採用している可能性が高いと考えられる。ゼロからのサプライチェーン構築となる日本では、最初の事業の失敗は許されないし、2040年国内調達比率6割を目指すために国内メーカーがある程度組み込まれている必要がある(2040年は目標時期としては悠長であり前倒しが必要と考えられる)。規模の経済を考えれば当面は同一仕様であることが望ましい。また、2030年再エネ36~38%を実現するためにもインタイムの竣工と順調な稼働が不可欠となる。

 9月7日公表GWECの“Global Offshore Wind Report 2021”では日本特集が組まれており、世界的な洋上風力プレーヤーが提携する日本企業も紹介されている。オーステッド(デンマーク)と日本風力開発・ユーラス、オーステッドと東京電力、エクイノール(ノルウェー)とJERA・J-Power、RWE(ドイツ)と九電みらい、イベルドローラ(スペイン)とコスモエコパワー等である。これらの事業者はどの風車を選択するのであろうか、歴史的瞬間が迫っている。