Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学公式サイト

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

TOP > コラム一覧 > No.323 洋上風力入札基準見直し② 価格総括なしの見直しで増す不透明感

No.323 洋上風力入札基準見直し②
 価格総括なしの見直しで増す不透明感

2022年6月30日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、事業者選定基準、事業実現性評価、FIP

 洋上風力入札選定基準の見直しが経産省資エ庁・国交省港湾局の合同委員会において進んでいる。5月23日の第12回部会にて見直し原案が提示され、5月30日の第13回部会では日本風力発電協会(風力協会)および第一ラウンド入札代表事業者へのヒアリングが実施された。筆者は、6月10日付のコラムにて、見直し案の概要と考え方について解説した。その後、6月23日の第14回部会にて、修正案が提示されたが、委員長(座長)一任が了承されたことから、同案を基礎としてパブリックコメントにかけられる運びとなる。今回は、同案の紹介とその評価、そして見直し過程全体を通して感じる違和感とその背景について考察する。

1.政府見直し案を評価する
 -配点は微調整、価格は不透明感増-

 経産省と港湾局は、合同会議において洋上風力選定基準見直し案を2回にわたり提示した(5月23日第12回、6月23日第14回)。5/23提示の1次案に関しては前回解説したところである(「No.320 洋上風力選定基準見直し① ポイントは黎明期の確実性と多様性」)。政府1次案は、価格評価と定性評価(事業実現性評価)がそれぞれ満点で120点、定性評価は事業実施能力で80点、地元関連で40点と骨格は第1ラウンドと同じである。事業実施能力については組替えを行った(図参照)。

図.事業実現性の評価方法案
図.事業実現性の評価方法案
(出所)経産省・国交省「再エネ海域利用法に基づく事業者選定の評価の考え方等について」(2022/5/23)

 本節では、委員長(座長)一任となった6/23の2次案をも踏まえて、解説・評価を行う。表1は、縦軸に評価項目、横軸に5/23と6/23にて提示された政府案の推移、そして筆者評価(コメント)、5/30の風力協会意見、第1ラウンドの基準を配している。各項目の配点をみると、2次案は1次案と同一であり、解釈や補足説明で委員や事業者との合意に迫ろうとしている。

表1 洋上風力選定基準、政府案の推移と考え方
表1 洋上風力選定基準、政府案の推移と考え方

(出所)筆者 赤字は筆者が特にポイントと考える項目

価格と定性は厳格に1:1

 価格評価と定性評価は、それぞれ最高点が満点となり、1:1は確保される。その点に関しては事業者の意見が最低限受け入れられたこととなり、評価できる。風力協会の「迅速性40点込みで120点の提案」は不採用である。筆者は、後述のように1:1そのものが、黎明期において不透明な価格評価を重視するものとして反対である。

FIP制度を前提とする価格評価は不透明

 価格は、旧第2ラウンドの八峰町・能代市沖以外はFIP制度を前提としている。入札の対象はFIP基準価格となるが、基準価格は「LCOE+適性利潤」が基礎とされる一方で、発電事業者は市場や相対販売を選択できる。政府は「最高評価点価格」という概念を導入し、この価格以下での入札は全て満点になるとしている。最高評価点価格は調達価格等算定委員会での審議対象となるが、2次案にて「入札最低価格」ではないことが明らかになった。最高評価点価格はどのような水準となるのか、事前に公開されるのかは不明である。事業者にとり、入札対象となる基準価格をどう想定するか非常に悩ましい所となる。

迅速性は20点確保も骨抜きの懸念

 今回は、配点見直しは事業実施能力80点に集中したが、2次案の配点は1次案と全く変わらなかった。目玉である「迅速性」は配点が大きすぎる、価格低下効果を弱める等の反対意見も出たが、20点は維持された。しかし、運開基準時点の設定や事業計画実現性による掛け目設定により、迅速性効果はかなりマイルドになった。骨抜きにされたといっても過言ではない。

実績無視は変わらず

 事業計画の基盤面、実行面は1次案と変わらず、過去の実績は略々無視されたままである。基盤面では、第1ランドで30点が配された「実績」は、「実施体制」と合わせて10点である。実行面ではO&Mは5点のままである(建設は15点)。「安定供給」はサプライチェーンが独立・明示されたことは評価できるが、サプライチェーンの評価基準は曖昧である。応募事業者の功績か、メーカー・サプライヤー・組み立て事業者・自治体の意欲か等である。

知事評価は事後公表

 「地域関連」の40点、その10点毎の内訳も不変であるが、最大重視される知事評価は事後公表されることとなった。一歩前進であるが、事業者からは市町村や漁協等からの直接聞き取りの提案が出ていた。

選定事業者制約は導入されるが効果は不透明

 選定事業者の制約については、競争環境整備に反するとの反対意見もあったが、リスク軽減や多様性寄与という肯定的な意見が多く、導入はされる。一方で、個々の占用指針で判断、1者合計で1/2超で判断等は不透明感が否めない。

2.政府見直し案は、骨格(大枠)不変という点で不合格

 前節では、今次見直し案について、1次案と2次案の比較を含め、配点を主に評価した。本節では「導入直後の見直し」という極めて異例といえる措置の背景に立ち返り、考察してみる。

第1ラウンドの問題点

 今次選定基準見直しの論点と評価について、改めて整理する。表1は、第1ラウンド入札の問題点と今次見直しに係る筆者の評価である。問題点については、これまでも繰り返し解説しているところである。基本は、入札価格で決まり、事業実施能力や地域調整・貢献の定性評価は略々無視されたことである。太平洋・日本海双方を含む3海域の1グループ総取りについては、類を見ないリスク軽視であり、サプライチェーン構築に必要な事業者や技術の多様性も阻害する。

表2 選定基準見直しの論点と評価
表2 選定基準見直しの論点と評価
(出所)筆者

問題の本質:黎明期の入札、応札価格の評価

 こうした不手際ともいえる評価が行われた背景を考えてみる。評価基準が本来あるべき基本思想に沿っていなかったのである。まず、現状は洋上風力事業や風車メーカーが存在しない「黎明期」で、事業とは無縁の国が初期開発を行う「セントラル方式」に時間を要することである。このような状況下では、国内陸上風力および海外洋上風力の実績を有する民間事業者に頼ることになる。電源開発は8~9割が地元調整で決まる。地元の信頼を迅速に得るには、事業全体に関するノウハウが不可欠となる。事業実現性評価は、実績と地元調整能力にフォーカスすることが正しい。評価項目を細切れにすると、全体図が見え難く恣意性(審査員の思惑)が入り易くなる。

 もう一つ、重要なポイントは、第一ラウンドの落札価格にかかる解釈がきちんとされていないことである。関係者は一様にその安さに驚いた。一方で、結果発表直後よりアマゾン等が高く購入するので事業として問題ないとの噂が流れ、複数のメディアが「低価格入札の仕組み」として取り上げる(最近も)。暫くして政府はFIT制度に基づく入札であることを、三菱Gは加えて欧州ノウハウの活用を強調するようになる。

 FIT制度以外何物でもないとすると落札価格は「LCOE+適性利潤」となる。落札価格の一つである12円/kWhはIRRゼロの欧州水準に相当するが、これは事業現場となる日本ではありえない、と本コラムで解説した(「No.289 検証洋上風力入札④ 12円はIRRゼロ前提の欧州コスト」「No.292 検証洋上風力入札⑤ 資本費(建設費)は現実的か」)。政府は一貫して落札価格の低さを入札の成果として強調する。少なくとも筆者から見て、この「低すぎる応札価格問題」はきちん総括されていない。

矮小化された論点

 黎明期事業の入札であることの軽視、価格評価の未総括を背景に、見直し議論のポイントは「迅速性」「選定事業者の制約」「第三者委員の公開」に矮小化された。「迅速性」は黎明期入札への配慮、「選定事業者の制約」は価格評価等入札ルール遵守へ配慮、「第3者委員の公開」は事業や本質を理解する委員の能力と、それぞれ重要ではある。しかし、問題の本質との関連は直接的ではなく、合同会議等で実のある議論になり難い。

 政府が行う入札で三菱商事が提示する低い価格については、事情が分かる関係者以外は、反対しにくい。一般論としては入札による低価格は望ましいことである。事情を理解する関係者も当事者としてモノを言いにくい。合同会議でも、複数の委員が価格評価の配点維持を支持し、選定事業者への差別的は扱いや迅速性重視については反対した。自民党の再エネ議連も価格については触れずに「早期運開の評価」と「情報公開」に焦点を当てる。

 以上の経緯から、今次見直し案は、配点の骨格が殆ど変わっていない。その時点ですでに不合格となる。風力協会は、価格評価は迅速性40点を含めて120点、地元関連評価は60点等骨格変更に係る提案を行っているが2次案には反映されていない。

最後に 一歩前進もすっきりしない議論 第1ラウンドが総括されていないツケ

 洋上風力選定基準見直しは、不思議な議論である。第1ラウンドで問題になったのは、実績ゼロの国家的な事業でありながら、価格評価で決まり一社が総取りしたことである。選定された事業者以外は誰もが驚愕する低価格で決まったが、政府は価格評価を一貫して支持している。それではどうして基準を見直すのだろうか。ウクライナ侵攻によりエネルギ-安全保障の意義が大きくなり、洋上風力の早期導入が最重要課題となり、早期運開をより評価する必要が出てきたからという建付けではある。1者独占は宜しくないのではとの雰囲気もあった。しかし、ウクライナ侵攻より前に資源価格は高騰していたし、低価格志向が不変であるならば技術やサプライチェーンが整うまで待つ選択肢も排除できない。

 政府委員会やメディアでは賛否両論が渦巻く。価格低下、競争環境整備は一般論としては誰も反対できない。しかし、驚愕の低価格が原因で紛糾しているのは事実であり、入札価格とは別の(高い)買取価格の存在も消えない。あの入札価格とは何だったのか、FIT制度下の公平な競争だったのか、三菱商事の価格で事業ができるかの審査が実施されていないとの声もある。審査委員はどう評価したのかの総括が未済である。情報開示は今に至るまでほとんどない。いずれにせよ、この論点を頬かむりのままでは、真の見直しは出来ないのではないか。