Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.330 洋上入札評価見直し④:日本版FIP適用で価格競争激化

No.330 洋上入札評価見直し④:日本版FIP適用で価格競争激化

2022年8月8日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、FIP、最高評価点価格、パブリックコメント

 一般海域における洋上風力発電入札のラウンド2(R2)からは、再エネの市場統合を目指すFIP(Feed in Premium)制度導入が予定されている。発電事業者は直接的に市場価格で販売することになるが「効率的に供給される場合に要すると認められる費用」はプレミアムにて補填される。ラウンド1(R1)はFIT制度の下で調達価格水準を競ったが、R2は、FIP制度の下での基準価格を競うことになる。R2の価格評価に係る案では、「市場価格を十分下回る最高評価点価格を定め、その価格以下の入札価格は満点とする」とされている。これは、市場価格がかなり低いとき以外はプレミアムが生じない、基本的に市場価格でしか販売できないということを意味する。価格評価で決まったとされるR1であるが、R2は一足飛びに事実上市場価格での勝負となる。採算を確信して札を入れる事業者は存在するのだろうか。今回はFIP入札案を考察する。

1.価格評価を巡る議論 FITからFIPへ

R1は価格評価で決まり審査ルール見直しへ

 ラウンド1(R1)はFIT制度の下での入札で、価格はFIT価格(調達価格)の水準で競った。FIT価格は「再エネ電気の供給が効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用(LCOE)に適正利潤(IRR10%)を乗せた価格」が基礎となるが、調達価格等算定委員会は、最高価格上限額として29円/kWhを提示した。3区域を全て落札した三菱商事グループ(三菱G)は11.99円、13.26円、16.49円という圧倒的な低水準を提示した。政府は低価格が実現でき成功だったとするが、事業者サイドからは採算は非常に厳しいという認識が一般的である。いずれにしても、事実上価格点評価で決まった訳であり、三菱Gの運開時期が先行グループより2~4年遅かったこと、地元の評判が必ずしもよくないこと、一つのグループおよび一つの技術が独占することのリスクが認識されたこと等により、R2の選定基準が見直されることとなった。現在(7/14~8/13)、政府案はパブリックコメント実施中である(一般海域における占用公募制度の運用指針(改訂案)」に関する意見募集について)。

見直しの焦点:迅速性、選定事業者制約等

 見直しのポイントは、運転開始時期(迅速性)、1つのグループに集中しない選定事業者の制約、第3者審査員名の公表等である。委員会等の議論の中で、見直し案では競争環境が悪化する、価格低下の妨げになる等の意見が少なからず出された。議論は主に事業実現性評価(定性評価)に集中し、価格評価に関しては、FIP制度の複雑さもありあまり議論になっていない。FIP制度が日本版にアレンジされていることもあり、一層分り難くなっている。しかし、1/2を占める価格評価は制度設計次第では決定的な落札要因、将来の事業制約要因となる。

 実際、政府案では、事実上市場価格での販売になる仕組みが織り込まれており、プレミアムは少額で見た目の国民負担は小さくなる一方で、事業者は未回収リスク・価格変動リスクに晒され、小売り電気料金に転嫁される可能性が高い。以下で、解説する。

 なお、FITとFIPの相違、現時点でFIPを洋上風力に適用することの電力システムに係る問題点について、三宅成也氏の「No.329 洋上風力発電の公募入札におけるFIP制度適用の課題と提言」に分り易く解説されている。

2.ラウンド2評価の主役“FIP” 見過ごされる最大の変更点

 R2では、FIP(Feed in Premium)制度導入が予定されている。

 R1で採用されたFIT(Feed in Tariff)では、効率的に運用される場合の長期平均費用(LCOE)に適正利潤を乗せた水準(FIT価格、調達価格)が設定され、調達期間(20年)中は固定価格が保証される。送電会社に買取義務があり、発電事業者は同時同量の責任を免れる。黎明期の促進策であり、世界中で再エネ普及に大きな効果を上げてきている。

FIPはFITの次のステップとして競争電源に適用

 普及しコストが低下していく段階の次のステップとして、発電事業者が自ら販売し(Direct-Marketing)、同時同量の責めを負うことで、市場価格に応じた発電を行うことを誘導する制度が導入される(市場統合)。しかし、まだ未成熟の段階であり、市場統合を急ぎすぎて投資が止まれば「元も子もなくなる」。そこで市場価格が下がるときに利益を補てんをする(プレミアムを付与する)。これがFIP制度である。制度導入の前提として、ある程度普及しコストが低下している、同時同量(インバランス調整)が可能となるシステムが整備されていることが挙げられる。後者は時間前市場、需給調整市場が整備されていること、再エネインバランスを調整する事業者(アグリゲーター)が存在していることである。再エネ普及が先行する欧州では、慎重に手順を踏み、市場統合に成功しつつある。

 日本も、再エネ普及策として、FITに次いでFIPを、特にドイツを参考に制度設計を行ってきた。普及が進みコスト低下が進でいる太陽光、陸上風力を「競争電源」としてFIPを導入する方針を打ち出し、2022年度より部分的に始まっている。

「黎明期」の洋上風力に適用する怪

 洋上風力は、まだ実績がなく手探りの状況であるが、2022年2月に開催された調達価格等算定委員会にて、「R1の低価格実現で、競争環境が期待できることが証明された」との認識の下、2024年度からのFIP導入が決められた。2022年度の入札から適用されることとなり、R2はFIP前提の選定ルール案となっている(除く旧R2から延期となった八峰・能代)。前述のように、本コラムにてシリーズで解説してきたように、R1の落札価格結果をもって、競争環境整備されていると判断するのは大いに疑問がある。実績が皆無、サプライチェーン構築はこれから、セントラル方式採用に向けて勉強を始めたところ等である。R1落札価格評価に関しては、関連事業者から疑問の声が上がっている。何よりも政府は「黎明期」と明記している。

「市場価格を十分下回る最高評価点価格」の意味

 R1はFIT制度の下で調達価格水準を競ったが、R2は、FIP制度の下での基準価格を競うことになる。基準価格は「市場価格+プレミアム(補助金)」である。プレミアムは基準価格と市場価格の差となるが、市場価格として基本的に1カ月の平均市場価格(参照価格)が採用され、その間はプレミアムは固定される。R2の価格評価に係る案では、「市場価格を十分下回る最高評価点価格を定め、その価格以下の入札価格は満点とする」とされている。これは、市場価格がかなり低いとき以外はプレミアムが生じない、基本的に市場価格でしか販売できないということを意味する。価格評価で決まったとされるR1であるが、R2は一足飛びに事実上「市場価格での勝負」となる。以下、敷衍する。

少額のプレミアムで価格変動リスクに晒される、小売り料金へ転嫁

 基準価格の最高評価点価格は「市場価格を十分に下回る」水準とされている。この文章は、6月23日提示された政府2次案にて突如登場した(挿入された)。筆者は1次案の時点では、基準価格として、太陽光等と同様にLCOE+適性利潤を基礎とするFIT価格を想定・期待していた(「No.320 洋上風力入札基準見直し① ポイントは黎明期の確実性と多様性」)。

 この文章が追加された結果、最高評価点価格はかなり低い水準になることが予想される。仮に8円/kWhとすると、価格評価点120点を獲得したい者Aは8円で入札する。Aが定性評価との合計点で最高価格を獲得し落札した場合、(平均市場価格は8円よりも高いだろうから)概ね市場価格での販売となる(市場価格しか受け取れない)。定性評価がどの程度獲得できるかは不透明であることから、8円入札に集中する可能性が高い。

 結局、落札者の収入は市場価格次第となるが、これは博打のようなものである。その意味で、事実上価格で決まったR1よりも厳しい価格競争システムということもできる。プレミアムは8円を下回るときにしか発生しないので、その意味では国民負担は抑えられる。しかし、事業者は大きなリスクを抱える市場価格が高騰する場合は、事業者は利益を確保できるが、需要家の電気料金は上がることとなり、低価格実現は保証されない

準備不足で見切り発車:市場未整備、アグリゲーター不在

 また、FIP制度は同時同量の責めを負うが、ドイツ等と異なり、需給調整を円滑に行う環境整備はこれからである。電力卸取引市場は、特に2020年12月以降、限界費用ルール変更を含め、市場参加者の想定を大きく超えてイレギュラーな動きを見せており、信頼性を失っている状況にある。時間前市場、需給調整市場も整備途上にあり、軌道に乗る時期が見通せない状況にある。同時同量サービスを提供するアグリゲーターは、制度創設後日が浅く、経験を積み始めたところである。市場が未整備ななかでは、アグリゲーターの育成に時間を要すると考えるのが自然であろう。

 洋上風力のような大規模量を扱うアグリゲーターはまだ存在しない(太陽光等の中小規模でもほとんど実績がない)。強いてあげれば旧一電事業者となるが、同事業者が入札に参加する場合、自ずとアドバンテージが付与されることになり、公平性という点で大きな問題となる。

最後に 実現性のある価格評価を

現状は厳しい状況

 洋上風力は、まだ実績がなく、サプライチェーンの整備もこれからである「黎明期」にある。今回の見直しでは選定事業者に制約を設ける案となっているが、まだ黎明期であることを理由としている。わが国で突出して導入が進んでいる太陽光発電でも、漸くFIPが導入されたが、FIP基準価格は、FIT価格と同一水準でのスタートとなっている。それでも、最初の入札件数は市場価格が高い中でも少数に留まっている。

 港湾を利用する洋上風力は、複数の案件が動いているが、LCOEを基礎とするFIT制度においても採算性確保に大変苦労しているという話を聞く。秋田港・能代港、石狩湾新港、鹿島港、響灘港にて調達価格36円/kWhの下で建設が行われているが、前提となるコストを上回っている、工期が遅れている模様である。R1選定事業者の応札価は驚きの低価格であったが、これでは採算が厳しいという業界筋の話を多く聞く。港湾事業よりもリスクが格段に高い一般海域においては、なおさら違和感を感じる。

現実に即してFITかFIT価格踏襲のFIPを

 失敗が許されない、2040年の30~45GW実現に向けて弾みをつけなければならない「黎明期」は、まさにFIT制度で臨むべきである。どうしてもFIP制度が適用されるのであれば、最高評価点価格は、他の実績ある太陽光等がFIT価格水準でスタートしていることに習い、FIT制度に準ずる「LCOE+適正利潤」を基に算定すべきである。

 政府案では価格競争が起きにくいという意見も多いが、その心配は全く不要である。実績がないままに一気に市場リスクに晒され、事業遂行能力に拘らずリスクに耐えられる事業者が選定されることになる。ラウンド1の結果、洋上風力事業に係る不透明性が蔓延した。R2では、FIP採用により何も変わらない、かえって増幅する観がある。