Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.349 検証、電力需給ひっ迫
-主因は中途半端な市場化-

2022年12月8日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:需給ひっ迫、電力価格高騰、規制料金、市場支配力、卸取引市場

 今年度も冬季の逼迫期が近づいてきた。5月の予想では、予備率3%を切る時期も想定されたが、その後発電設備の計画停止時期の変更、経年火力の整備等を織り込んで、5%前後を確保してはいる。しかし、低水準であることは変わりなく、天候や設備の稼働状況等に少しでも変動があると供給力不足に陥る懸念がある。また、電力料金が急騰しており、旧一電は相次いで規制料金を含めて改定する動きを示している。燃料高騰と供給力不足とが相まった動きとみることができる。どうしてこのような状況に陥ってしまったのか、これを考察する。やはり「中途半端な市場化」に行き着く。

1.イントロダクションと要因分類

予備率3%は警戒レベル

 12月から、「無理のない範囲で」ということではあるが、政府より7年振りに節電要請が出ている。最近の報道によると、首都圏の供給に最終責任を負う東電パワーグリッドの岡本副社長は以下の様に説明している(筆者の意訳)「この冬の予備率は3%超を確保しているが、少しの状況変化で供給不足に陥る懸念がある。絆創膏をはった経年火力があり、頼りにしている揚水もポンプアップ用の発電量が少ないと予定した稼働が出来なくなる。そもそも予備率3%は安心できる数字ではない」とメディアに説明している。

 筆者は需給逼迫問題に関して、これまでも本コラムにて何回か取り上げている(「No.334 電力需給ひっ迫の背景を考える」)。供給力(容量、kW)が本当に不足しているのか、何らかの理由で稼働していないだけなのか、まだ確信を持てないでいる。しかし、エリアによっては、また燃料価格の異常高騰という特殊要因の中では、また3%という低い数字が見慣れてきた中では、供給力は不足しつつあるのかもしれない。換言すると、新規投資が不足したのかもしれない。その前提で、要因を考察してみた。色々と考えられるが、一言で総括するとするとやはり「中途半端な市場化」にいきつく。

火力を主に大2、中4、小13の項目に分類

 表は、昨今の需給ひっ迫に関する要因を整理したものである。通説、真説問わずに列挙している。大きく供給(不足)要因と需要(反応)要因とに2分する(黄色)。また、供給不足要因として、火力設備、火力稼働、原子力設備、再エネ設備・稼働に4分類している(青色)。さらに、小項目として13項目を建てている(④⑤⑦は火力建設、火力稼働で重複)。

表 電力需給ひっ迫要因一覧と解説
表 電力需給ひっ迫要因一覧と解説
(出所)筆者

 ここ数年、電力需給見通しは、夏季・冬季ピーク時の予備力は3%確保を巡り汲々としている。設備が不足しているのか、休廃止や燃料不足予想等で設備はあるが稼働可能な容量が不足しているのかの精査が必要であるが、ここでは、設備自体が不足しているとの前提に立つ。なかでも、供給電力量の8割程度を占める火力は、新設が滞る一方で、経年(老朽化)設備の廃止予定量が増え、低い予備率の最大要因となっている。政府も危機感を訴え、新設を促すあるいは経年を維持する特別な方策を検討している。これを「火力設備」に分類する。

 火力設備は、存在はしても稼働しない場合がある。故障・災害等による計画外停止、旧式で柔軟性に欠けたり燃料不足により出力が低下するケースである。これを「火力稼働」に分類する。なお火力建設と火力稼働の要因は重複する項目が多い。

 「原子力」は、当面新設が見込まれない中では、既存設備の再稼働の問題となる。「再エネ」は、容量は増加しているが主力電源として十分か、また天候予測力に欠け利用率が低くならないか、出力抑制を回避できるかという「稼働」も問題となる。需要サイドは節電や出力に合わせた消費ができるかという「需要反応」が論点となる。

 以下、13項目について、解説する。

2.火力設備(kW)は十分か

 まず、火力発電の投資・新設について解説する。

 ①~⑦は火力設備の論点である。①、②は通説である。

①再エネ優先により利用率低下

 旧一般電気事業者(旧一電)や政府が必ず指摘する事項である。幼稚産業論として、新しい技術で多様な価値を持つ再エネは、ある程度軌道に乗るまではFIT等の優遇措置が必要である。燃料を要さない再エネは市場機能の下では財としても流通も優先的に選択される。これはメリットオーダーと称され、この考え方は政府を含めて合理性が認められ、実行に移されつつあるところである。火力の利用率が低下するのは、コストや環境価値等から当然の帰結となる。これは、②の論点と表裏一体である。なお、発電電力量(kWh)は減少しても柔軟性対応により価値は高くなる(④で解説)。

②市場機能懸念:限界費用ルールで固定費回収不足

 これは、旧一電が必ず指摘する事項である。日本では、電源の8割を保有する旧一電の「市場支配力」は、発版一体等により容認されている。一方で、当局の指導により「余剰電力を限界費用により卸取引市場(JEPX、以下卸市場)にオファーする義務」が課されている。限界費用の多くは燃料費となるが、市場価格を形成する設備およびそれに近い設備は固定費の回収が出来ないことから廃止に追い込まれる、という議論である。

 限界費用ルールはミクロ経済学理論の基礎を成しており、否定されるべきものでは全くない。市場価格は、落札されるなかで最もコストの高い設備(限界設備)の限界費用となるが、限界設備は30分毎に需要規模に応じて変化し、市場価格は落札された全電源に適用される(シングルプライスオークション)。常に限界費用以上のコストの設備は競争力がないということであり、限界費用以下の設備は固定費の回収も可能になる。新技術で市場価格以下のコストを実現しようとする新陳代謝インセンティブが働く。

 また、原子力、水力、高効率石炭等のいわゆるベースロード電源は、全費用をカバー出来る可能性が高い。これはWindfall-Profit(棚ぼた利益)と称される。ベースロード電源は旧一電がほぼ独占している。最近世界中で電力価格が高騰しており、再エネを含めて膨大な棚ぼた利益が発生しているが、この還元が議論されている。

 日本では、容量市場が創設されたが、同市場は本来は新陳代謝が目的であるが、厳格な「限界費用ルール」への対応策として「火力の固定費回収システム」の意味合いが強くなっている。これまで2回入札が行われているが、新規設備の落札はない。

 再エネ主力化時代の火力の役割りは柔軟性(フレキシビリティ)や系統安定サービズの提供の役割が大きくなる。運用される市場や時間帯は、前日市場のピーク時辺りや時間前や需給調整市場の高価格帯が主となる。そのためには起動費用、無負荷運転費用、増分費用等火力ユニットの基礎情報(スリーパートオファーTPO)が開示される必要がある。これは、各市場を革新する基礎情報となる。日本の「限界費用ルール」はTPO情報が欠落しているとの指摘がある。

③市場機能懸念:長期指標の欠如

 スポット価格は短期のシグナルであり、長期回収を前提とする設備投資には不適切である、という議論がある。これに関しては、中長期指標となる先物市場価格はスポット価格が基礎となっていること、日本が手本とするPJM容量市場は3年後の取引であること、容量市場がなく短期価格シグナルに委ねるテキサス州では投資が活発であること等の反論がある。2019年夏、2021年2月の価格スパイクを経験したテキサス州では、2019年以降投資意欲が旺盛であり、2023年以降は予備率40%前後で推移する。

④市場機能不備:柔軟性・予備力を評価する手段不足

 ④⑤は②③と裏腹に、市場機能の未整備が火力投資の妨げになっているという説である。筆者はこれは正論だと思っている。火力は、設備の特徴により役割り(価値)は異なり、一括りで議論するのは極めて乱暴である。脱炭素時代、再エネ主力化時代の火力は柔軟性や系統安定サービスの価値が大きくなる。エネルギ-(kWh)は再エネで賄い、再エネの出力変動を柔軟性(ΔkW、kWh)でカバーすることになる。柔軟性は起動停止が速い、出力の範囲が広くかつ速い、超短期調整に優れる等の特徴を有する設備である。

 これは、火力だけでなく揚水、バイオマス、蓄電池、水素、熱、需要等も該当する。揚水・バッテリー等の蓄電設備(ストレージ)は、超短期から長期までをカバーしており、ダックカーブを減じるタイムシフトにも有効である。柔軟性は火力の専売特許ではなく、効果(価値)が同じであれば、低コスト・低排出が優先されることになる。ここ1~2年で米国、欧州、豪州等でバッテリーストレージが商業化しつつある。・

 柔軟性や系統安定性に資する設備・サービスは、稼働時間は短いが価値は大きく、この価値を評価する仕組みが不可欠となる。時間前市場、需給調整市場の革新化ということになるが、日本はまだ整備途上である。基礎データーとなるスリーパートオファーの運用者への開示が急がれる。

⑤市場機能不備:料金・価格に上限

 日本は市場化・自由化されたことになっているが、旧一電小売りは自身で料金を決められない。家庭等低圧需要家には「規制料金」が残っており、値上げには政府による認可が必要となる。規制料金には燃料費を消費者に数カ月遅れで転嫁できる「燃料費調整制度」が適用されるが、上昇率5割の上限があり、それ以上の上昇分は旧一電小売りの負担となる。新電力は、概ね旧一電と類似の料金制度を採用しており、旧一電の一部は自由化料金にも5割上限を適用している。燃料価格暴騰および高水準が続く中で、旧一電全社が上限を超えている。

 規制料金の存在によるのか、自由化料金の値上げも緩慢のようにみえる。規制料金は、11月24日の東北電力、28日の四国電力の値上げ申請を皮切りに、申請が相次ぐ見込みである。旧一電の値上げに時間を要する中で、新電力は値上げが困難となるが、卸市場からの調達が多いことから経営はさらに厳しくなる。

 市場化時代は、卸市場は主たる取引の場となり、スポット価格は価格指標性をもつ。しかし、日本は旧一電の相対取引が主たる市場であり、卸市場は旧一電の余剰分が回る補助的な位置付けにあり、価格変動をより受けやすい。電源の稼働状況等について情報の非対称があり、後述の様に市場支配力が行使されやすい構図にある。また、卸市場も、事実上インバランス単価が上限価格として機能しており、インバランス単価が決定される需給調整市場が整備途上である中で、人為的に低く決められている。

 このように料金、市場価格ともに上限があるなかで燃料費高騰が生じると、赤字に陥ることになる。設備稼働を抑制するという判断も出てくる。赤字が巨額となり、供給事業者の体力がなくなると、安定供給に支障が出ることが懸念される。そもそもこうした構図の中では、稼働だけでなく投資についても抑制効果が働く。

 それにしても、西日本の旧一電間でカルテル行為が表面化したが、規制料金改定申請と軌を一にしており、何とも奇妙である。

⑥電源ミックスの存在

 原則3年毎に更改されるエネルギ-基本計画では、毎回電源ミックスが焦点となる。2050年カ-ボンニュ-トラルの道筋として、主力の再エネはシェアが高くなり原子力は維持されるが、一方で火力の割合は現状より低くなる。火力新増設の判断は難しくなる。特に原子力の目標が非現実的に大きいと見做されており、結果として火力依存は続くが、新設の判断は難しくなる。

 世界的に見て、ミックス目標は見当たらない。CO2削減、再エネ、省エネの目標はあっても、それ以外の動向は市場で決まる、という考えである。火力に関してはカーボンプライシングでの調整にも期待がかかる。日本は再エネ、省エネ、カーボンプライシングの位置付けが弱く、ミックスという計画経済的な数値でカバーしているようにみえる。それも、計画なのか努力目標なのか曖昧である。ミックスは必ずしも予見性効果を発揮していない。

⑦旧一電の認識:発電事業の認識希薄

 自由化時代の電力事業は発電事業、小売り事業ともにスポット価格を指標として、利益極大化を目指すことになる。「発電事業」としては、将来の需給や技術、立地の価値を予想して投資判断を行うことになる。価格変動リスクをヘッジする行為も重要になる。競争力のない設備は廃止し新技術に投資し新陳代謝を活発に行う。また、短期的にはどの場所のどのユニット(技術)をどのように(どの市場で)稼働させるか、の判断を要することになる(後述)。相対契約もリスクヘッジの文脈で導入される。

 日本は、この「発電事業者」としての意識が低いように見える。供給義務は身内等の相対取引先向けであり、価格を予想して設備を有効利用する、新陳代謝を図るという視点に欠けているようだ。「大規模火力」の建設・運用が主で、中小型火力や他技術によるフレキシビリティの整備・利用という発想・戦略が感じられない。8割を有する設備は有効活用されていない、市場支配力の行使に気を取られている等の疑念が生じる。やはり発販一体からの早期脱却が必要と考えられる。カルテルも同根であろう。

3.火力稼働(kWh)は十分か

 次に、火力発電は稼働しているのか、について解説する。当節は、前節とかなりオーバーラップする。重複項目は、むしろ当節の説明により適っている。

⑧市場支配力

 当項目と次項目は、火力発電が十分に稼働しているのかという視点である。⑧は市場支配力が厳然と存在し、容認されていることに起因する論点である。発電設備の8割を占める旧一電は市場支配力がある。これに対しては、余剰電力を卸市場に限界費用でオファーする「限界費用ルール」と電取委等「規制機関の監視」で制御するわけである。市場支配力を行使する代表的な手段は発電設備の停止、出力抑制である。燃料制約による停止・出力抑制は最近の焦点であるが、意図的か否かの判断は難しい。少なくとも、大手と新電力との間に圧倒的な情報格差があることは否めない。カルテル体質があることも露呈した。監視強化と情報開示が基本となる。

④⑤市場機能不備

 「火力設備」でも登場した④柔軟性・予備力を評価する手段不足、⑤料金・価格に上限は、火力設備が十分に稼働しない要因となりうる。むしろ「稼働」との関連性が強いとも言える。再エネ普及には柔軟性の存在が重要な役割を果たすが、柔軟性の価値を評価する市場の整備なしには投資や運転は生じない。前述の様に、柔軟性や短期調整力は火力だけの専売特許ではなく連系線や揚水、バッテリー等のストレージ等も活躍できる。タイムシフトや慣性力を含む多様な機能をもつストレージへの期待は大きい。欧州、米国、豪州等では既に系統に接続する大規模ストレージが商業化しつつあり、再エネの急速な普及を後押ししている。

⑨カロリー貯蔵等不備

 最近の需給ひっ迫の主役は燃料価格高騰による稼働制約といってもいい。特に主力のLNGの国内貯蔵はLNGタンクに限られ、2週間しかもたないとされる。世界では地下ガス貯蔵は約40日分あると試算されている。欧州は2ヶ月といわれる。日本では、国内ガス事業のインフラは都市部に限られ、広域ネットワーク形成や地下貯蔵整備を怠ってきた経緯がある。水素社会をも睨み、広域ガスパイプライン整備とガスTSOの創設を急ぐべきであろう。この論点に関しては内藤克彦京大特任教授が詳しく解説している(「No.343 国産水素の需給バランスシステム」)。

⑦火力稼働:旧一電の認識

 大手電力会社の発電事業に係る認識が旧態然としているのではないか、という論点である。「火力設備」でも指摘したが、「火力稼働」でも同様である。自己取引を主とする相対取引先へのへ供給義務でよしとしていないか、価格を予想して利益極大を考えていないのでは、という疑念である。

3.原子力、再エネ、需要反応

 本節では中項目としての原子力、再エネ、大項目としての需要反応について解説する。

⑩原子力稼働

 需給ひっ迫対策、電力価格高騰への対策として、急遽原子力を活用する方針が打ち出されている。既存設備の着実な再稼働増に加えて、停止期間を除くことで長期間運転を認める、廃炉のリプレースとして新型炉を建設する方向が示された。政府の方針転換が急で議論不十分、という指摘は多い

 原発の活用は安全性確認、地元理解が大前提となり、そのハードルを越えられるかに尽きる。3.11後の一貫した前提ではあるが、安全審査への情報提供不調、故障による停止、地元不信を招くような行為等が続き、再稼働は滞ってきた。なお、原子力再稼働の影響を当面最も受けるのが火力発電である。

⑪再エネ設備・稼働:小さい目標、迷走する政策

 脱炭素時代の供給力確保の王道は再エネ建設を進めることである。大きな目標を掲げて予見性を高めることが肝要となる。世界的には再エネはエネルギ-政策の目的である3E全てを満たすことから、急速に普及が進んできた。特にウクライナ侵攻後は安全保障が前面に出るようになり、燃料高とも相まって、普及に拍車がかかっている。

 日本の2021年暦年の再エネシェアは20.2%と2割を超えたが、EUの同年37%に比べると大きく見劣りする。2022年度の電源新設に占める割合をみると中国で約9割、米国で約8割と予想されている。政権が交代した豪州では、2030年再エネ比率82%を目標に据える。日本は2050年で5割強の想定である。

 日本の2030年度目標は36~38%であるが、推進策が迷走しておりこのままでは届きそうにない。特にFIT、FIPの展開は時期尚早の感が否めない。賦課金低減が最優先になっており、FIT価格低下ありき、入札ありき、市場統合(FIP)導入ありきで、資源価格高騰等の厳しい事業環境が無視されている。事業者泣かせといえる。FIP導入後の太陽光、陸上風力の入札参加はほぼストップしている。切り札として期待の大きい洋上風力は、市場価格で運用するマーチャントプラント建設を強いられており、入札参加者がいるのか混沌としている。

 系統整備・運用の革新は、息の長い課題である。インフラ整備に係るマスタープランの策定、実潮流(フローベース)の系統運用等かなり進展がみられるが、速度を上げる必要がある。最近東西連系線の更なる拡張が盛り込まれたが、逐次投入のようにもみえる。連系線は予備率向上対策でもある。

⑫再エネ設備・稼働:保守的な出力予想

 予備力を予想する際に、再エネの稼働状況をどうみるかで大きな影響を受ける。天候により出力が変化するからである。一般に保守的な想定の下に、低い水準が採用され、結果として上方修正される。太陽光、風力の予測力がかなり低く、これの向上が喫緊の課題である。

⑬需要反応

 「需要反応」は「供給力不足」とならぶ大項目である。ひっ迫するときに需要を減らし、余裕のあるときにシフトできれば、予備率を低コストで引き上げることが出来る。いわゆるデマンドレスポンス(DR)であるが、最近は太陽光普及に由来する「ダックカーブ」対策としてタイムシフトの表現が多用される。信頼性のある指標価格が存在することが前提となるが、ここは大きな課題である。日本では、政府による節電要請がかなり有効である。DRは重要家の協力が不可欠となるが、市場整備途上のなかで確実に実施されるか懸念がある。より確実なのは、火力やストレージの柔軟性利用ということになる。海外を見ても太陽光によるダックカーブが顕著な地域ではストレージの活用が目立つようになってきている。

終わりに

 電力需給ひっ迫と電気料金高騰は、社会的に大きな問題となった。カ-ボンニュ-トラルを急ぐ過程、パンデミックからのリカバリー、ウクライナ侵攻等の大きな背景があり、様々な要因が複雑に絡まっている。しかし、日本独自の要因も大きいと考えられる。料金・価格決定に大きな制約がある、市場支配力が厳然としてある、旧一電はカルテルを行っていた、卸市場が整備途上で指標となる価格の信頼性に問題がある、燃料の殆どを輸入に依存するなかでの火力発電8割依存、貯蔵を含めたガスインフラの未整備等である。こうしたなかで資源価格が暴騰し、システムの脆弱性が露呈した。

 この問題は京大再エネ講座でも何回か取り上げている。また、筆者も複数回当コラムにて取り上げてきたが、今回は、通説を含めて包括的に考察を行った。やはり、結論は中途半端な市場化に行き着く。

以上