Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.378 英国スコットウィンドの公募海域指定時の戦略アセス -洋上風力のEEZ展開③-

2023年6月14日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 内藤克彦

キ-ワ-ド: 洋上風力発電、海域指定方法、スコットランド

1. 概要

 昨年夏に英国では第一回のスコットウィンドのリ-スラウンドが公募されたが、公募に先立って、公募海域の選定等の作業がスコットランド政府により実施されている。公募海域は領海からEEZにかけての広い海域を対象としており、様々な海域利用セクターが存在しているが、公募海域の絞り込みは、各セクタ-の海域利用を考慮した一種の戦略アセスメント的な手法によりスコットランド政府が実施している。本稿では、その概要について解説する。

2. スコットウィンド公募海域指定の手順

 スコットウィンドの公募海域指定は、以下の手順による。

①AoSスコ-ピングレポ-トの作成

 マリ-ン・スコットランド・サイエンスというスコットランド政府管下の研究機関が、海域利用実績と制約要因の分析(以下「O&C」分析という。)に基づき、Areas of Search (以下「AoS」。)スコ-ピングレポ-トとして公募海域案を2018年に取りまとめた。「O&C」分析では、洋上風力ポテンシャルの高いところを特定するとともに、GISや船舶通航デ-タ等の客観的なデ-タを用いて、海洋利用者への影響を評価する。

②「O&C」WSの開催

 2018年に各種海域利用者全国団体との分野別の一連のWSを開催し、その結果に基づき必要に応じて「AoSスコ-ピングレポ-ト」を修正。

③スクリ-ニング・スコ-ピング手続

 2018年にスコットランド政府は、スクリ-ニング・スコ-ピング手続きを行い、スクリ-ニング・スコ-ピングの手続を通じて風力事業者を含む利害関係者から提出された意見により、公募海域に修正、削除、追加が行われた。スコットランド政府の用いているスクリ-ニングという言葉は、我が国のアセスのスクリ-ニングとは異なり、公募海域案の修正、削除、追加プロセスのことを意味しているようである。

④Plan Options案(DPO)の決定

 国の海洋利用計画委員会と洋上風力プロジェクト委員会の意見を聴取したうえで、スコットランド政府としてPlan Options案として公募海域案を決定。

⑤戦略的環境影響評価等の実施

 Plan Options案に対する戦略的環境影響評価、社会経済的評価の手続きがスコットランド政府により実施された。

⑥公募海域案の決定

 戦略的環境影響評価手続きの結果を反映し、スコットランド政府は公募海域案を決定。

 以上のように、スコットランド政府が中心となって公募海域の決定に当たって、戦略的環境影響評価の手続きを行っている。興味深いことは、スクリ-ニング・スコ-ピング手続に際しての意見聴取では、風力発電事業者からも海域指定の追加等の意見が出されているということである。この手続きにより、図1に示されるようにAoSスコ-ピングレポ-トからDPOの間で公募海域の縮小だけではなく追加が認められる。

図1 AoSスコ-ピングレポ-トにおける海域案とDPO
図1 AoSスコ-ピングレポ-トにおける海域案とDPO

 公募海域決定手続きのフロ-は、図2のとおりである。

図2「Sectoral Marine Plan for Offshore Wind Energy」の策定手順
図2「Sectoral Marine Plan for Offshore Wind Energy」の策定手順

3. AoSの作成

 スコットランド政府の管下にある海域は、図3に示す海域である。英国の場合、領海もEEZも全て国(国王)の管轄下にあり、洋上風力の手続きに自治体は関与しない。また、領海とEEZは特に区別されずに一体的に海域利用されていると見てよい。

図3 スコットランドの管轄海域
図3 スコットランドの管轄海域

 マリ-ン・スコットランド・サイエンスは、(1)風力発電ポテンシャル、(2)自然環境、(3)漁業、(4)海洋レジャ-、(5)軍事、(6)航路、(7)レ-ダ-、(8)海鳥、(9)魚類繁殖の観点から面的・定量的に評価する作業を行っている。

(1)の風力発電ポテンシャル

 風力発電のポテンシャルについては、年平均風速、変電所からの距離、水深等について面的・定量的な評価を行っている。図4は、風速評価の例である。

図4 風速評価レイヤ-         図5 自然保護指定地域
図4 風速評価レイヤ-         図5 自然保護指定地域

(2)の自然環境

 自然環境に関しては、各種の保護区域(図5)を評価の対象としている。

(3)の漁業

 船舶監視システムのデ-タ等を用いることにより、2007年から2011年の漁業活動の実態を定量的に把握し評価している。このデ-タレイヤ-では、実際の漁業船舶活動のデ-タをさらに金額ベ-スのデ-タに換算して評価することも行われている。漁業側の権利主張や申告ではなく、実績で空間的に評価していることが特徴と言えよう。なお、外国漁船のデ-タも船舶監視システムにはあるが、スコットランド政府は外国漁船を除外したデ-タで評価している。

図6 漁業評価レイヤ-
図6 漁業評価レイヤ-

(6)の航路の評価

 航行する船舶については、AIS(船舶情報システム)デ-タにより把握されている。船舶の航行密度を図7の通りとなっている。航路を地図上で機械的に除外するのではなく、実際の利用実績に基づき評価している。

図7 船舶航行密度レイヤ-
図7 船舶航行密度レイヤ-

(8)の海鳥の評価

 海鳥の衝突可能性の評価についても定量的なマッピングが行われている。図8にあるように、衝突の有無ではなく、衝突の可能性の大きさで評価すると、沖合においては衝突の可能性が低い領域がほとんどであることが示されている。

図8 海鳥の衝突可能性レイヤ-
図8 海鳥の衝突可能性レイヤ-

 これらの立地要因と制約要因を重ね合わせ、ポテンシャルが高く、制約の少ない領域を選定し、かつ、既存の洋上風力立地エリアや既存石油・ガス採掘エリア、国際航路を除外して、AoSの海域を選定すると、図9の6海域となる。

図9 選ばれた6海域          図10 詳細調整で絞り込んだAoS海域
図9 選ばれた6海域          図10 詳細調整で絞り込んだAoS海域

 ここからさらに、特に配慮すべき以下の漁業や詳細な航路調整等の作業を行うことでさらに詳細な海域設定を行っている。その結果は、図10の通りとなる。

・ホタテの採取
・カニのトロールとカニ籠漁
・底引き網漁
・遠洋トロール
・ロブスターのエビ籠漁

 以上のようにスコットランド政府主導で、定量的評価に基づき海洋利用の実績評価を行いつつ国レベルの利害関係者団体との意見交換を行い、政府が海洋利用計画を作成したうえで、政府自身が計画策定主体として戦略的アセスメント手続きを実施し、海洋利用の道を開いている。利害関係者との調整も「権利の調整」ではなく、活動の実態の尊重という範囲で行われているように見受けられる。

4. その後の手続き

 決定された海域POは図10のような15に分かれた海域合計12782km2となっている。

図10 公募された海域PO
図10 公募された海域PO

 スコットウィンドの第一回のリ-スラウンドとして、海底の地主権を持つとされるクラウンエステ-トが、これらの海域の中で以下の条件で洋上風力発電の募集を行っている。

①スコットウィンド リースの最初のサイクルで授与されるすべてのオプション契約の総面積は、8,600 km² を超えない。
②スコットウィンド リースの最初のサイクルで各POで授与されるオプション契約の総面積は、各POのエリア内に収まる。
③100MW(段階整備:各段階100MW)以上、各プロジェクト専用海域は860 km²以下、1MW/1 km²以上

 約1.3万km²の内、8600 km²を募集し、17プロジェクト約24GW、7300 km²が採択された。採択された区画は図11の通りとなっている。

図11 第一回スコットウィンドリ-スラウンドで採択されたプロジェクト
図11 第一回スコットウィンドリ-スラウンドで採択されたプロジェクト

 公募された15海域の内14海域で採択プロジェクトがあり、一つの海域で複数のプロジェクトが採択されている海域、海域にまだ余裕のある海域など海域により採択状況に差異が見られる。

 採択されたプロジェクトの一覧は表1のとおりとなっている。495MWから3GWまでの多用な事業主体のプロジェクトが採択されている。なお、EEZを中心とした広い沖合海域の公募であるために浮体式のプロジェクトが15GW(6割以上)を占めている。

表1 スコットウィンドで採択されたプロジェクト
表1 スコットウィンドで採択されたプロジェクト

 採択されたプロジェクトは、直ちに期間10年以内のオプション契約をクラウンエステイトと締結し、このオプション契約が終了する前に、個々のプロジェクトとして必要な諸手続き(各種法令、事業アセス。工事等)を終了し本リ-ス契約をしなければならない。本リ-ス契約をするということは、当然海上使用料を納めなければならないので運開している必要がある。プロジェクトの進捗促進のためにオプション契約には、2つのマイルスト-ンが置かれ、マイルスト-ンが達成されないとオプション契約期間が短縮される。

 我が国の洋上風力海域公募は、1GW未満のプロジェクトがぎりぎり1つ収容できるような小さい海域において、しかも地元の一定程度の合意を前提に地元の熟度の高まった海域から少しずつ行われているが、我が国のこのような「小選挙区選挙型」公募に対して、英国では多くのプロジェクトを収容できる広大な海域を一挙に公募する「全国区選挙型」の公募が行われ、かつ、プロジェクトに必要な諸手続きは採択後の仮契約期間に行えばよいことになっている。英国流の公募の方が多様なプロジェクトが採択されると考えてよかろう。

5. EEZの利用に向けて

 2050年ネットゼロを実現するためには、残されたわずか27年の期間で100GWスケ-ルの大量の再生可能エネルギ-発電を導入する必要がある。しかし、種々の権利が錯綜している我が国において、短期間で100GWスケ-ルの再生可能エネルギ-を導入するのは、容易ではない。英国は、既にEEZに大量の洋上風力発電を立地する方向で走り出しているが、わが国においても国の直接管轄下にあるEEZにおける洋上風力発電推進は、国の主導の下に計画的に行える可能性がある。我が国においては、立地案件には反射的・機械的に自治体を参加させる傾向が強いが、EEZの案件に敢えて自治体を関与させ、手続きを複雑化させ、権利が錯綜している内陸や領海内の煩雑さを持ち込むことは厳禁であろう。

 このためには、英国に見られるように国が策定主体となり、EEZの海洋利用計画を積極的に作成する必要がある。英国に見られるように、このような計画の合意形成に当たっては、戦略的環境影響評価を国が事業主体となって行うことが望まれる。

 この場合に、EEZの環境影響評価の制度を創設することも必要となる。EEZ利用計画の戦略的環境影響評価のみならず、個々の洋上風力事業の実施段階における事業環境影響評価も行う必要があり、自治体関与の無いEEZの環境影響評価の手続きを制度化する必要がある。

(参考)

No.374 排他的経済水域(EEZ)での洋上風力開発における諸課題-洋上風力のEEZ展開①-
No.377 洋上風力発電のEEZへの展開における漁業をめぐる問題-洋上風力のEEZ展開②-