Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > 公開研究会 > 第7回 再エネ講座公開研究会『【科学研究費基盤A成果報告会】再生可能エネルギー市場統合へ向けた電力システム設計(代表:諸富徹)』

第7回 再エネ講座公開研究会
『【科学研究費基盤A成果報告会】再生可能エネルギー市場統合へ向けた電力システム設計(代表:諸富徹)』

※画面切り替えが上手くいかず、報告資料が適切に表示されていない時間帯があります。本ページで公開している報告資料を参照しながらご視聴ください。

1.主催

京都大学再生可能エネルギー経済学講座

2.開催日時

4月24日(月)17:00~20:00 <オンライン>
事前予約が必要です。後記のURLからお申込みください。

3.プログラム

17:00-17:05 挨拶:諸富 徹(京都大学)
17:05-17:20 講演:東愛子(尚絅学院大学) 「未定」
17:20-17:35 講演:中山琢夫(千葉商科大学)「再生可能エネルギーの市場統合デザイン」
17:35-17:50 講演:杉本康太(横浜国立大学)「間接オークションの経済効果:日本のエビデンス」
17:50-18:05 講演:張砣(京都大学)「電力小売全面自由化が小売価格に与える影響に関する実証研究(仮)」
18:05-18:15 モデレーター:諸富徹(京都大学)による質問
18:15-18:30 質問に対する応答、報告をめぐる質疑応答
18:30-18:35 休憩
18:35-18:50 講演:小宮山涼一先生(東京大学)「需給両面から考える脱炭素電源ベストミックス」
18:50-19:05 講演:安田陽先生(京都大学)「欧州電力価格の計量経済分析 ~根拠に基づく政策決定(EBPM)のために~(仮)」
19:05-19:20 講演:馬騰先生(京都大学)「太陽光発電の出力抑制と時間前取引」
19:20-19:35 講演:杜依濛先生(京都大学)「ドイツにおける再エネの出力抑制問題について(仮)」
19:35-19:45 モデレーター:諸富徹(京都大学)による質問
19:45-20:00 質問に対する応答、報告をめぐる質疑応答
 ※終了時刻は若干前後する場合がございます。

pdfドイツにおける石炭フェーズアウト政策(電力部門の低炭素化)(東)(1.58MB)

pdf再生可能エネルギーの市場統合デザイン(中山)(1.3MB)

pdf間接オークションの経済効果:日本のエビデンス(杉本)(1.94MB)

pdf電力小売全面自由化が小売価格に与える影響に関する実証研究(張)(1.31MB)

pdf需給両面から考える脱炭素電源ベストミックス(小宮山)(3.54MB)

pdf欧州連係線の計量経済分析~根拠に基づく政策決定(EBPM)のために~(安田)(7.29MB)

pdf太陽光発電の出⼒抑制と時間前取引(馬)(871.92KB)

pdf広域需給調整の導入と再エネの出力抑制の低減について(杜)(3.82MB)

4.参加定員

約300名様
※セミナーの録画および録音等はご遠慮いただいております。

5.参加費

無料
※事前のお申込みが必要です。

6.参加のお申込みについて

※ご参加をご希望される場合は、下部URLよりお申込みいただきますようお願い申し上げます。
▼参加申し込み
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_gKazWhDvTWufPn_L4zZw4w

7.セミナー使用システムについて

ZOOMウェビナーを使用してのオンラインシンポジウムとなります。
主催者側からお送りするURLにアクセスいただくことでご参加いただけます。
※通信料はご参加者さまご負担となりますので、Wi-Fi環境下でのご参加をおすすめします。

8.その他・開催進行について

ご質問は、ZOOMの「Q&A」を使って受け付けますので、「Q&A」に質問事項をご記入ください。可能な限り、回答させていただきます。


開催当日の9:00以降に講座HPならびに以下リンク先に順次掲載させていただきます。
https://drive.google.com/drive/folders/1zd7vmJvd6C7Hgphv2M6kUwwUs373hM2x?usp=sharing
なお、登壇者による資料は一部非公開とさせていただいているケースもございます。すべての報告資料が公開されるわけではない点、予めご了承ください。

※本研究会は録画され、公開研究会終了後に再エネ講座HPでの公開を予定しております。
  
ご不明な点につきましては下記までお問合せください。
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京都大学大学院 経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座
E-mail:ree.kyoto.u@gmail.com
HP: http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/top/
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-3474
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議事録

 4月24日(月)に、再エネ講座公開研究会【科学研究費基盤A成果報告会】がオンラインで開催されました。

 電力市場と再エネの導入に関わる問題というのをテーマ化している公開研究会。科学研究費の助成を受けてから丁度1年経ち、今回の研究会では我々がどんな研究をしていて初年度を経てどのような成果があったか一般に向けお伝えし、またディスカッションしました。

1.ドイツにおける石炭フェーズアウト政策(電力部門の低炭素化)

東愛子(尚絅学院大学)

 日本の電力部門の低炭素化を考える上で、気候変動政策とエネルギー政策をどのように融合していくか考えていかなければいけない。今回は、2038年までの石炭火力のフェーズアウトが決まっているドイツの政策について報告する。

 現在ドイツは2019年に策定されたClimate Action Actのもとで動いており、セクターごとに明確な削減目標が課せられている。ドイツは2020年には2007年に計画された「2020年までに 90年比で40%を削減する」という目標を達成している。今後は「2030年にCO₂排出量を90年比の36%まで下げ、2040年には90年比で13%まで下げる」という数値目標を持っている。この目標をもととして、エネルギーセクターには2020年の2億8000万トンの排出量を2030年までに1億800万トンまで削減する目標が課せられている。

 日本の温対法におけるセクターごとの削減目標をみると、エネルギー転換部門の目標は間接排出ベースで示されており、CO2の直接排出量とその2030年までの削減目標などには明確な数字がみられない。電力分野の排出源単位低減のため再エネの拡大と原子力の適切な利用等によって火力発電の依存度を低減することが掲載されているほか、小売電気事業者にはエネルギー高度化法の下で供給するエネルギーの44%を非化石にすることが義務化され、これらを以て再エネ等の普及拡大を図っているという状況。

 今ドイツがどういう政策を進めつつあるか、五月には現地調査を予定している。今回は文献から調査した結果を示す。ドイツにとって褐炭石炭は大きな基幹産業でもあるが、それをどう削減していくのか。まず1つは、直接的に石炭火力を禁止する鞭的な政策がある。二つ目は、ドイツの石炭の CHP プラントの燃料転換をボーナスを与えて促す飴的な政策がある。それから三点目、 EU-ETSの炭素価格付けのもとで燃料転換を促す政策もある。この3つの政策をうまく絡めて石炭のフェーズアウトを目指していることが見て取れる。

 石炭火力の削減に関してはKVBG(Coal Power Generation Reduction and Termination Law:石炭火力発電削減法)という法律がある。ドイツでは2016年から褐炭火力は市場より取り置きされ、2020年以降順次閉鎖もされている。それ以外の褐炭に関してどうするか、2018年には石炭委員会が立ち上がり、その資金メカニズムや影響を受ける地域の産業構造転についての政策提言が行われ、それを反映する形でこの法律ができている。KVBGの下で褐炭火力を2038年までどの発電所をいつ閉鎖するかということは法律に明示され、その他の褐炭ではない石炭火力に関しては、自主的な削減を進めるオークションが入っている。石炭に関してはオークションで削減をすることを受け自主的に削減を決めている発電所もある。

 ドイツの電力低炭素化政策の日本と全く異なるところは、目標年と目標量が法律に明記されていることで、それを達成するために「燃料転換をしたら財政的支援」という飴と、「転換しないならば法律で決められた年限で強制的に閉鎖」という鞭を組み合わせることで確実にその量をコントロールするよう法律が規定されている。

 今回の現地調査では、炭素の価格付けが長年 EU-ETSで行われている中で、今回のような強制的な石炭フェードアウトがなぜ必要となったのか、そのETSの制度設計上の課題があったかが、今回の調査のポイントとなる。またそうした中でEU-ETSの許可量をどのようにEU 全体でコントロールしていくのかも調査していきたい。

2.再生可能エネルギーの市場統合デザイン

中山琢夫(千葉商科大学)

 日本でも市場統合プロセスについて話をする。現状はFIPもはいり市場統合へ向けたステップアップの段階と言え、PPAも急成長している。またDRも注目され始め、特に自給だけではなく市場に出していくことが求められる時代がきている。

 まず、FITからはじまる市場統合について考える。FITのルーツは第一次オイルショック時のアメリカのPURPA(Public Utility Regulatory Policies Act)という説が一番妥当と考えられる。それがヨーロッパに渡り発展していく。そして、世界中が真似したドイツの200年のEEG(Erneuabare Energien Gesetz:再生可能エネルギー法)でFITが本格的に導入され、インセンティブである価格付けがされた。

 福島原発の事故が起こった後、日本でもFITの導入がなされた。ただ、再エネの比率が2割超えるようになり、再エネも直接卸売市場に出していく市場統合のプロセスが必要になってきた。また、従来型電源と同じルールで市場参加させることを目指すならば、スポット市場の価格シグナルに応じて発電か売電かを決めるためのスキルアップも必要となる。

 市場の役割分担について、Europex(ヨーロッパの市場運営者のコンソーシアム)は、前日のスポット市場が一番重要とみている。スポット市場価格から様々な指標価格が決まる。また、リアルタイムに近い取引が可能になれば再エネにとっては有利であり、増加していく再エネ市場取引に重要な役割を担うと言われている。中長期については、先物・先渡市場で値段を決め、先に調達しておくべきとし、これはスポット市場に対しての影響だけではなくて、 PPAの構築もサポートする役割があるとしている。

 FIPになると、発電事業者が受け取るのは売電収入とプレミアムの2つとなる。電力市場価格が時間帯によって変動することも考慮し、市場価格が低いときに十分な投資リターンが得られるようなプレミアム設計が必要である。また一方で市場価格が高い場合に不当なまでに儲かり過ぎないような制度設計も必要である。また、このFIP制度を円滑に実施されるための条件も、所有権分離と考えられている。つまり、公平に系統アクセスできることが一層厳密に保障されなければいけない。また、スポット市場は様々な価格シグナルを作る重要な市場であり、大部分がここで取引される必要がある。日本でも去年4月からFIPしか認められない電源が急速に増えてきている。

 またプレミアムについては、基準価格から市場価格から参照価格を差し引いた額が支払われる。この参照価格の算出方法は発電事業者の利益や銀行や投資家の投資判断にも関わり、極めて重要である。参照価格の出し方は前年度に強く依存した形になっているが、それでJPEXの取引が歪まないかの疑問も残る。

 また、環境価値の扱いが日本の特色となりつつある。FITのときは原則国民負担で、発電事業者に帰属しなかった。FIPになり発電事業者に帰属するようになると、その分参照価格と足し合わせて賦課金から除いているので、発電事業者が使って取引できるシステムになっている。

 近年ではコーポレートPPAがアジア太平洋でも伸びてきている。去年ぐらいから日本でもオンサイトもオフサイトも増え、バーチャルPPAも出てきている。日本の特色としては、PPAはオフサイトであればFIPのプレミアムをもらうことが可能となっている。

 また分散型電源も注目されている。実は既に日本は2018年のときにグリッドパリティがおきている。DERの市場統合については、50kW未満をどうするかが課題である。地域活動電源として活用してもいいが、市場に出していき価値を高めていくことも重要かと思う。そのためにはDERと配電システムを見える化していくことがまず重要。さらに系統連系について逆潮も認めていくなどして、DRなどで市場に出せなかったものも市場取引ができるようにし、報酬を保障していくことも重要とみている。

 需要側も重視した市場統合プロセスが、今後5年10年で起こってくるとみている。

3.間接オークションの経済効果:日本のエビデンス

杉本康太(横浜国立大学)

 日本は震災後いろんな政策を導入してきたが、その効果を事後的に行った研究はあまりない。本当に成功だった政策を明らかにしようとする中で着目したのが、連携線の利用ルールである関節オークション制度である。この制度で経済的に最も影響が大きい効果は、日本全体で安い電源から動かしていき最小費用で電気を作らせるというものであるが、他にも安定供給の実現や、発電と小売の新規参入者と既存事業者間の公平な競争にも一役買っている。

 間接オークションの前の仕組み、先着優先ルールでは、連系線の空き容量について、既存の事業者が前日市場の前に連系線を予約することができた。そして残った分が連日市場と時間前市場で配分される。どのような運用がされていたか調べると、 北本連系線に関しては予約の段階で前日市場が始まる前の段階で殆どが予約されていたことがわかった。7日前で見ても殆ど100%が 事前予約され、2日前になっても8割ぐらい予約され、エネルギー市場で使うことのできる空き容量があまり残っていなかった。関門連系線も同様で、予約率は1週間前時点でも100%近い状態、それが2日前になってもあまり変わらないという状況であった。前日市場で使える容量が少ないと市場分断が発生し、輸入エリアと輸出エリアができる。輸入エリアではエリアプライスが高くなり、逆に輸出エリアでは安くなる。興味深いのは、前日10時から前日17時までの間にある程度の予約量がキャンセルされていたということである。その理由の一つには、戦略的にこの市場分断を起こすことで輸入エリアでエネルギーを高く売って儲けるかたちで市場支配力の行使を狙っていた可能性がある。では、こうした問題のあるルールが間接オークションに置き換わったことで、どういう経済効果があったのか。

 関節オークションとなり、以前は認められていた予約が完全にできなくなると、全ての連携線の空き容量が前日市場で配分される。この本質は、空き容量は事前に先に配るのではなく、エネルギー市場でエネルギーと一緒に間接的に配分されるということ。これによる経済効果を、2つの効果に分けて考えた。1つは貿易効果である。間接オークションで電力市場でのエリアを超えた電気の取引量の増加が輸入エリアと輸出エリア間の前日市場の価格の差を減少させる。つまりは、メリットオーダーがより日本全体で実現するということ。例えば、東北から安い電気を北海道に送ることができ、二つのエリア間の市場価格の差は縮まる。

 もう1つはボリューム効果である。これは連系線が事前に予約することができなくなり、事前に予約されていた分が前日市場に入札料として流れ込んでくることによる効果。これにより輸出エリアと輸入エリアの間の市場価格の差が先ほどとは逆に広がってしまう可能性がある。連携性を流れる電気の量を取引種別に集計すると、関節オークションが導入される前は殆どが相対契約で電気を流すために使われていた。この分が前日市場で使われるようになるが、連携線を流れる電気の量に注目すると関節オークション前後でそこまで変わっていなかった。これが意味するのは、かつて相対契約で電力市場に入札してなかった分が入札されるようになったということ。間接オークション後に売り・買いの入札料が大幅に増えていることも確認できる。相対契約の話で説明すると、 間接オークション導入前は ある事業者が東北から北海道に向けて電気を送る相対契約を持っていたが、間接オークション導入後は同様の契約で東北の事業者が北海道に電気を送るためには必ず前日市場で入札しなければならなくなった。東北では売り入札量が増え、そして北海道では買い入札量が増える。厳密には売り入札と買い入札の量だけじゃなく価格による部分もあるが、輸出エリアでは価格が下がる可能性があり、輸入エリアでは上がる可能性がある。これらを踏まえた上で間接オークションの経済効果を定義し、推計を行った。

 推計の結果としては、北本で40億円、関門で63億円と求まった。これらの合計を年間に換算すると、206億円となる。間接オプションは連結線投資などに比べて導入に当たり費用が殆どかからないという特徴があるので、費用対効果で考えても経済効果は定量的に見て大きいといえる。

 また、先着優先から間接オークションになり増えた経済厚生はどこへ帰着するのかを考えると、生産者が卸売市場で安くエネルギーを調達することができたということは、生産者の費用が下がっている。まずそこで、生産者に利益が生まれる。最終消費者に利益が行くためには、それが小売価格に反映されることが必要である。しかし、現状卸売価格の変化がどれぐらい小売価格の変化に影響を与えるか、データがなくてわかっていない。できれば、今後はそれも明らかにしていきたい。

4.電力小売全面自由化が小売価格に与える影響に関する実証研究

張砣(京都大学)

 電力小売市場の完全自由化の影響に関する発表をする。日本では2016年4月には電力小売市場の全面自由化が成立した。それから6年近くたったが、小売電気料金への影響に関する厳密な実証研究はない。

 今回の私のリサーチクエスチョンは、完全自由化政策が家庭向けの小売価格にどのように影響し、他の市場での自由化政策と同様の影響をおよぼしたかということである。自由化から6年たって、小規模な新規事業者の数は明確に増加し、小規模な新規小売事業の市場シェアも、2016年4月から2022年8月にかけて着実に増加した。市場シェアの増加に伴い、家族の小売価格への影響はどのようにあらわれたのか。

 この自由化政策の影響を研究するために、計量経済学モデルを構築した。電力の小売価格のコスト構造は4つの部分に分割した。1つは卸売価格である。卸売価格は小売価格の最大の部分で、総小売価格の61%近くを占める。もう一つは送電コストである。ここではOCCTOが公開しているデータを用いた。また、労働のコストも非常に重要であり、再エネのプロモーション追加料金や他の多くの運用コストが含まれる。その他、再エネ賦課金を考慮した。そして、説明変数としての新しい小売業者の地域ごとの市場シェアは、非常に明確な群間異質性を見せた。たとえば新規小売のシェアは東京で最も高く、北陸は最も低い。

 モデルでは家庭の電力料金御平均単価電力を被説明変数とし、新規小売事業者のシェアを自由化の指標として用いている。また、卸売電力価格、雇用コスト、送電コストなどに加え、地域固定効果と月次固定効果も制御している。疑似相関を回避するために時間の制御を行ったほか、誤差行の異質性の考慮のためのGLS推定法も行った。

 新規小売事業者の増加で小売価格は下がる。しかし一方で、小売価格の上昇がより多くの小売企業を市場に参入させ、そのシェアを増加させるという経路もある。このような逆因果関係に対処するために、操作変数を設けた分析も行った。移住者数は通常、電気料金に影響しないが、新しい小規模小売業者のシェアに大きく影響していることがわかった。まず、住民は転居のプロセス中は電力小売業者の変更に関連する切り替えコストが低くなるため、その際に契約した電力小売業者を切り替える可能性が高くなる。また、小売電気事業者が引越し手続き中に市場や販売促進活動を行うことが多い。人々が3月に家を引っ越した後、電力契約の変更に積極的になる傾向が見られた。したがって、移住者数を操作変数として使用した。

 固定効果パネルモデルでは、毎月の時間的影響を制御した分析とすることで、新規小売事業者のシェアは、小売電気価格へのマイナスの影響が予測された。具体的には小規模小売業者が100%に達する場合、小売価格は平均で3.4円/kWh近く下がる。また、卸売価格は小売市場価格に正の影響をもつことも示された。再エネでは風力発電は小売価格を低く抑える影響があることがわかった。しかし、太陽光発電は小売価格に正の影響を持つことが示された。その理由は、世帯の需要のピークは早朝と午後の早い時間にあるが、太陽光発電のピーク出力は常に正午付近にあることによる需給のミスマッチが考えられる。GLSパネル回帰による分析も行った結果、同様に負の影響が示された。 また、固定効果パネルモデルより優れた推定値が期待出来る操作変数法による分析では、影響は同じように負であるが、固定効果パネルモデルの場合よりも少し小さい値である3.0円/kWhを示した。

 結果をまとめる。2016年4月と2022年10月の六年半のデータを使用した結果から、自由化が小売価格を低下させたことが明らかになった。例えば、東京を例にとると、新規小売事業者が販売する電力の割合が2016年から2022年で0から36%近くに増加し、1.2円/kWh小売価格が削減された。しかし、市場浸透率は全国平均では約20%である一方、北陸地域のシェアは7%しかない。どのようにして家庭の参加率を上げ競争性を高めていくかは、今後の重要な論点となるだろう。

モデレーター:諸富徹先生(京都大学)による質問①

 三つの市場分析はいずれも自由化政策による電力価格効果、エネ導入・系統の効率的運用へのポジティブな展望を示した。一方で、こういったことが電力会社の独占力の行使等の反応をよぶことも考えられ、それを踏まえた競争政策というのは、今後一大論点になっていく。そして、短期的な価格低下と中長期的な電力のキャパシティへの投資という問題の両立も課題となる。この点について議論したい。

 また東先生のおっしゃったドイツについて、原発と石炭をフェーズアウトし固定電源を自ら閉めていく移行期はどう進めていくのか。

中山先生:

 ドイツなどヨーロッパは自由化の動きを10年以上経験し、再エネ電力価格も安くなった。特に太陽光や風力の発電事業者は市場競争力が高く収益も伸びている。また、電源が変わるに伴って送配電事業も変わる必要がでてくるが、ヨーロッパのTSOなどには悲壮な様子もなく、今後の新しい仕事ができているよう。

杉本先生:

 カルテルに関しては、日本の法的分離が弱かった。ヨーロッパの経緯を見ても法的分離を強化した経緯があり、人と情報とお金の独立性を保つ規制が重要。
 電源への投資に関しては、容量に対しては容量市場が収入を出す市場としてあり、その後の運転に関しては電力市場が最適に決めていくという、二つの異なる性質を持ったハイブリッドな市場が整備されていくのが、今後日本も含めて行われていくところかと思う。

張先生:

 自由化政策は殆どの場合小売価格の価格を低下させるが、市場浸透率には大きな違いがある。これは日本特有の問題ではないので、英国政府が自由化をどのように推進しているから学んだり、ノルウェーがなぜ自由化や小売市場の迅速な改善をできないのか分析したりすることなども非常に有意義だと思う。

東先生:

 安定供給という点で、ドイツでも2014年あたりに容量メカニズムを入れるかの議論があった。公の文書には残されていないが、現地の雰囲気も含めて調査していきたい。また、イギリスも容量メカニズムを入れ、かつ石炭のフェーズアウトを決めており、そちらも調査したいと考えている。

5.需給両面から考える脱炭素電源ベストミックス

小宮山涼一先生(東京大学)

 需給両面から考える脱炭素電源ベストミックスに関するモデル分析について報告する。まず背景として、電力システムについては様々な課題があるが、再エネの普及拡大と同時に、電力の安定供給も考えなければいけない。近年、大地震や台風等の自然災害で需給逼迫のリスクが高まることが多発している。

 エネルギーシステム全体の持続可能性を高める中では部門横断的な視点から電力システムの役割を考えていくことが重要で、「電力安定供給の強化」、「レジリエンス強化」、「脱炭素技術の活用」、「電力システム運用の高度化」の4点が大事という認識が国内外にある。

 また、分散型エネルギー資源(DER)を活用し再エネを効果的に運用していくために、需給両面で安定供給対策を強化していくことも重要である。例えば九州エリアの昨年初夏の電源運用を見ると、我が国でも再エネ比率の高いところではかなり出力抑制がされはじめている。調整力の確保、送電容量の最大限活用、電力貯蔵機能の拡充、電力需要の柔軟性向上を進めていきながらエネ電力を最大限有効的に活用する取り組みを考える必要がある。そうした中で、各種対策の費用対効果等を客観的に評価できるツールを利用しながら電力系統の将来デザイン考えることが一層重要になっている。

 また脱炭素考える際に政策的な補助も必要だ。日本だと今年度予定されている長期脱炭素電源オークションがある。kW価値に対する収入が原則20年間得られる仕組みで、可変費を超過する他市場収益を還付させることで予見可能性とコストの抑制を図っている。再エネの他に水素アンモニア等も対象となり、今年度は400万kWの募集が計画されている。

 続いてモデル分析について報告する。最適化型電力需給モデルで、電力系統全体のベストミックスを分析した。脱炭素実現に向け費用対効果を考えた上で電源と発電、送電網、電力貯蔵、投資運用を、現状日本の電力系統383地点、送電線475本で年間通じて最適化するモデルを構築した。モデルの特徴として、年間8,760時間、電力系統のネットワークと様々な脱炭素電源を考慮に入れ、それぞれの競争条件をインプットした上でベストミックスを求めている。また電力部門のみならず非電力部門の脱炭素化も重視し、燃料の製造技術、例えばメタネーションや電解水素、脱炭素プロセス技術(高温熱貯蔵やダイレクトキャプチャー)なども明示的に考慮している。

 分析事例として日本全国最適化した上で北海道の結果を取り出すと、変動電源が大量導入した際は、系統事故時のレジリエンスを確保する上では一定程度慣性力の確保が大事になるという分析結果が得られた。現状大体75%ぐらいが閾値になっている。

 また、特に自然変動電源では季節間の変動への対処も長期的に計画する必要がある。そのためエネルギー貯蔵技術の実装も重視して、様々な貯蔵技術を入れた分析を進めている。

 この科研費プロジェクトでは、特に電力需要の柔軟性をモデル化した上で再エネを効果的に導入できないかも現在分析している。DERと、電気自動車やヒートポンプ給湯器、自家発電などの需要側資源(DR)の活用によって調整力を確保し、効果的に再エネの普及拡大と電力コスト抑制が図れないか。調整力を確保する上では、送電線の増強や調整機能の優れた電源(例えばクリーンな火力系の電源)を確保することも考えられるが、それらはコストが大きいので、既に投資されているDRの利活用を重要な点と認識している。

 2050年5月、日本全体で脱炭素化した場合の需給バランスの1分析事例を示す。風力・太陽光が系統で存在感を高めた場合は需要創出をする上げDRと、逆に無光・無風期間で再エネが足りない場合は電力需要入りの低下させる下げDRが経済合理性がある重要なオプションという結果を得た。

 コスト抑制についてもシミュレーションを行った結果、DRを利活用することで集中型の大規模設備への投資を抑制でき、電力のシステムの総コストも10%近く抑制できるのではないかということで、長期的にも需要側の資源の活用が大事という示唆を得ている。

 今後もモデルを拡張しながら、電力脱炭素化の具体的な将来像の分析を引き続き進めていく。

6.欧州連系線の計量経済分析 ~根拠に基づく政策決定(EBPM)のために~

安田陽先生(京都大学)

 本日の発表は、当初の案内では欧州の電力価格の計量経済分析を予定していたが、連携線に関しての分析に急遽差し替えた。発表の10日前(2023年4月14日)、西村経済産業大臣の記者会見でドイツの脱原発完了を受け「ドイツは電気が足りなくなったときフランスから電力を買うことができる。」という旨の発言があった。今までにも「ドイツは再エネをやっているから電気が足りていない。フランスは原発で電気が余っていて、ドイツはフランスからの輸入によって何とかなっている。」といった噂レベルの言説がSNSなどでも流れている。大臣の発言では「また、その反対もあるわけです」と言っており、一応弁明の担保は取れているが、多くの人の誤解を誘発しやすい構造となっている。今回はファクトとしてどうなっているのかを示していく。

 ドイツの2022年に登録されている設備容量は223.7GWで、年間最大需要の約2.8倍の容量がある。これらの大半は再エネなので全てが100%動くわけではないが、欧州は冬が需要量のピークとなり寒い日は大抵風が吹いているため、風力がアデカシーに貢献できるということが過去の研究で示されている。実際に2022年2月に最大の電力需要を迎えた時間帯でさえも、電力は輸出超過になっていた。

 さらに詳しく統計データを見る。ドイツは2021年の夏はフランスから輸入していた。ところが2022年に入って純輸出が増え、フランスから見ると一方的にドイツから輸入する状態が続いている。ドイツおよびフランスの国全体の月ごとの輸出入の電力量を見ると、ドイツは国全体では夏期に輸入超過となっているが、これは電気が足りないとうよりガス火力などの限界費用が高い電源が欧州全体の市場で競り負け、他国の安い電源が入ってきたことを意味している。しかし2022年になってからは、ドイツは輸出超過ばかりで輸入超過となった月がない。年全体でも輸出超過である。逆にフランスは2022年には輸入超過に転落している。こういった事実が日本ではなかなか報道されずに、ドイツはフランスの原発に頼っているという噂レベルの話が多く流れている。

 ドイツからフランスへの輸出が生じている原因を考えていく。まず一つは、フランスにおいて2022年の夏に非常に多くの原発でのトラブル・停止が相次いだ。もう一つは、ドイツにおいて2021年から2022年にウクライナ危機もあってか風力と太陽光の再エネ導入が加速し、結果的に発電電力量が増えた。そして風力発電と太陽光発電は春夏でそれぞれ相殺し変動を抑えていることもわかっている。

 先ほど述べたように、2021年と2022年に着目すると、フランスはこれまで輸出超過だったのが突然輸入に陥った。一方でドイツは輸出が増え、ドイツからフランスへの連系線でも一方的にドイツの輸出超過が一層増えている。今回はこのフランスとドイツの連系線がどう使われ、なぜそうなっているのか要因分析を行っていく。ただこの段階では仮説に過ぎず、これだけで要因を断定することはできないので、計量経済分析を行う。特に疫学や経済学のように、社会全体で発生しているものは再現実験が極めて困難である。ランダム化試験がうまくできない場合、既に手元にあるデータを使った回帰分析を行うことが、エビデンスレベルは一番低いものの最もよく使われている方法である。分析の理論としては基本的には回帰分析、数学的には最小二乗法が用いられる。これはランダムに並んでいるように見える各点から一番距離の近い線を探索していく最適化問題になる。今回のモデルは説明変数が11個あるので、12次元空間で11次元平面の最適化を行うことになる。

 また回帰分析によって、相関関係はわかるが、因果関係はわからない。そのため回帰分析で因果関係を表すには、交絡性を考慮する必要がある。今回のモデルでは、交絡因子Xは説明変数Zを介して被説明変数Yに影響しているというモデルを考えた。このモデルが妥当であれば、因果関係が推論できる。

 今回はドイツとフランス間の輸入電力を説明するため、輸入電力量を被説明変数とした。それはドイツとフランスのスポット価格の格差で決まり、またフランスが純輸出しているか、ドイツが全国全体で輸出輸入しているかに相関するのではないかという仮説を立てた。そしてフランスの輸出に関しては、フランス国内の原子力、あるいは太陽光、風力、あるいは需要全体などに関係するのではないかという仮説を立て、2段階の推論とした。ドイツも同様に想定した。今回はENTSO-E: Transparency Platformおよび EPEXから得た時間ごとのデータで回帰分析を行った。

 分析結果としてはP値と偏回帰係数に着目する。まずP値は統計的に有意かどうかを見せるもので、この値が非常に小さければ統計的に有意であり、大きければ有意とは言えない。これについては殆どの説明変数が統計的に有意という結果が得られた。次に偏回帰係数をみると、これは相関グラフの傾きに相当する。例えば、フランスの原子力について偏回帰係数が0.886となった。そしてフランスの原子力の発電電力量は2021年から2020年にかけて-9.302 TWh減少した。このフランスの原子力は、フランスの純輸出を説明するための操作変数であるから、2021年から2022年にかけてのフランスの純輸出への変異影響度は偏回帰係数と変位の積で得ることができる。さらに最終的にフランス全体の純輸出は仏原子力からの影響を受けるというモデルであるため、これを考慮することで、原子力が動かなかったことによってドイツからフランスへの輸出電力量に与える影響度は114%であったということがわかる。

 以上をまとめると、つぎのようになる。フランスからドイツではなくドイツからフランスへ電力の輸出がされており、2021年から2022年にかけてそれが増加した。その因果推論を行うために2段階最小二乗法を用いた影響度の定量評価を実施した。結果的にフランスの原子力の出力低下の影響が非常に大きく、風力発電が与える影響は非常にわずかだということがわかった。一方、需要については2021年よりも減っており、その分マイナス側に貢献したと考えられる。

 最後に、副題であるEBPM (Evidence-Based Policy Making)について述べる。我々研究者が実証分析・計量経済分析をするときには、かなりの時間と手間がかかる。しかしそういった解析結果が出る前に、想像や何となくの期待を込めて断定調で語らないようにしていただきたい。科学的な方法は少し時間がかかるが、こうした地道な取り組みを積み上げた上で政策も決まっていけばよいと考えている。

7.太陽光発電の出力抑制と時間前取引

講演:馬騰先生(京都大学)

 今日は太陽光発電の出力抑制と、時間前取引に関する研究を報告する。まず背景と論点から紹介する。日本の再エネ出力抑制は主に東北地方との九州地方に発生している。東北地方には主に風力の出力制御がよく発生しているが、九州地方の出力制御はほとんど太陽光のものである。2018年の10月に最初の太陽光出力抑制が九州地域に発生して以降、出⼒抑制の抑制量と発⽣頻度は増加している。出力を制御の発生については、季節的な特徴も見られ、冬と春には多く発生している。

 先行研究を紹介する。まずDumlao and Ishihara(2025)は九州地域の出力を抑制削減要因について研究した。彼らは出力抑制を削減について、翌日需給バランスの測定ミスや、週末の需要変動、特定な時間帯への注目の必要性などを指摘している。また、Ichimura(2020)は揚水力発電点の応用が太陽光の出力抑制を削減できることを指摘している。しかし、今までの研究では、市場メカニズムによる抑制量の削減を検討するものはまだ見られなかった。

 本研究の目的は、九州地域の太陽光出力抑制が時間前市場価格に与える影響を明らかにすることである。また、太陽光発電の出力抑制が関門連携線によって電力調達されたぶんが中国地方の時間前市場価格に与える影響も明らかにする。

 まず、九州地域の太陽光発電の出力制御が同地域の時間前市場に与える影響を分析した。

 その後、九州地方の太陽光発電の出力抑制が関門連系線により中国地方の時間前市場に与える影響も分析した。研究手法として、本研究では線形動学モデルを採用した。このモデルでの価格は、主に九州地方のうち時間前市場の取引価格である。Curtailmentitは、九州地方の太陽光発電の出力抑制の速報値とし、コントロール変数にはスポット価格と時間前市場の取引量、供給力に関する予想電力の割合、関門連系線による電力輸送量などを使った。時間効果の変数もモデルの中に含まれている。

 今回の分析では2018年から2021年度の太陽光発電出力抑制が発生した日の朝8時から夜6時まで、サンプル数4070のデータを用いた。市場情報に関するデータは、JPEXのホームページから取得した。電力供給と需要に関するデータは、大手電力会社のホームページと、電力広域的運営推進機関の系統情報サービスシステムから取得した。

 分析結果を示す。Curtailmentitは統計的に有意となっており、九州地方の太陽光出力抑制が1%増加すると、九州地方の時間前市場価格が約0.04%低下することがわかった。また、Spot Priceitも統計的に有意となり、時間前市場価格とスポット価格の連動性が示された。そしてTrading Volume itも統計的に有意となり、時間前市場の取引量の増加によって市場価格は低下することがわかった。Transmissionitも統計的に有意となり、関門連系線による中国地域への送電により、時間前市場価格が低下することがわかった。

 抑制された太陽光発電による中国地方の時間前市場への影響分析も行った。ここでは2段階の線形動学モデルを使った。第1段階では九州地方の太陽光の抑制量と関門連携線による電力調達への影響を明らかにし、第2段階ではこの影響が中国地方の時間前市場価格に与える影響を分析した。

 まず第1段目の結果としては、太陽光出力の抑制量が1%増加すると、中国地方での調達が0.007%増加することが示された。第2段階目の結果としては、太陽光出力の関門連系線経由の調達量が1%増加すると、中国地方の時間前市場価格が約0.009%低下することが示された。

 本研究の結論は二つある。一つ目は、九州地域の太陽光出力抑制の解除が、時間前市場価格を減額する効果を与えることがわかった。これは当日調整の重要性を示している。また九州地域の太陽光出力抑制の解除分が地域外で取引することが可能になると、連系線を利用した再エネの他の地域での調達により出力抑制の削減につながると考えられる。

8.広域需給調整の導入と再エネの出力抑制の低減について

講演:杜依濛先生(京都大学)

 広域需給調整のもたらす再エネの出力抑制への効果について紹介する。まず再エネの出力抑制の状況を確認する。日本の国内では2018年以降九州エリアだけで出力抑制が行われてきた。2021年度の九州エリアの年間の出力抑制率は約5.2%にも達し、今後もこの出力抑制率は高まる可能性がある。また、2022年からは九州エリア以外のエリアにおいても再エネの出力抑制が初めて行われ、これから全国範囲に広がる恐れもある。

 再エネの導入が進んでいるドイツでも、再エネの出力抑制は行われるが、日本で言うFITに相当するもので再エネ事業者の収入は補償され、投資リスクも比較的に低い。一方で日本には補償の出力抑制というルールがあり一般消費者への負担が少ない反面、抑制が行われる場合は発電事業者が売電からの収益が得られない。これは再エネ事業者にとっての投資リスクを高め、これからの再エネ導入拡大を図るなかでも課題となっている。

 再エネ出力抑制を低減するための施策は様々あり、日本ではまず優先給電ルールが挙げられる。供給力が需要を上回る場合は、優先給電ルールに従い調整しやすい電源から順に出力抑制が行われる。また、出力抑制の指令を受けた後の発電事業者の対応で、再エネ発電所は大きくオンラインとオフラインの二種類に分けられる。出力抑制発生の見込みがある場合、オフラインの発電所であれば出力抑制の前日に現場に向かい、手動で出力抑制予定の登録、停止や復帰の操作を行う。一方、オンライン発電所であれば、遠隔から出力制御を行うことが可能で、より高い精度での出力抑制が可能である。全発電所のオンライン化には大きなメリットがあるが、コストも高く時間もかかる。そこで2022年から導入されたのが、オンライン代理抑制制度である。この制度ではオンライン発電事業者がオフライン発電事業者の代わりに出力抑制に対応する。オフライン発電所2ヶ月後に代理として出力抑制を実施したオンライン事業者に対価を支払う。

 次に、広域需給調整システムを紹介する。電力の余剰が発生するエリアからインバランスが発生するエリアへの送電によってより効率的な需給調整を行うという考えで2020年から導入され、その後全国9エリア範囲内での運用が始められた。このシステムには二つのステップがある。まずインバランスネッティングというプロセスで各エリアの余剰インバランスと不足インバランスを相殺する。次の段階として、調整電源について、広域的なメリットオーダーに基づいた調整を行う。

 今回は、こうしたシステムで再エネの出力抑制低減にどれだけ貢献できるのか実証的な分析を行った。再エネの出力抑制量が需給のインバランスに逆の因果関係を持つ場合を考慮し、動学パネルモデルを使用した。分析対象としては、再エネの出力抑制が行われているエリアのみに着目し、2020年度の一時間あたりのデータを使用した。

 まず太陽光の出力抑制についての分析からは、揚水発電による電力貯蔵と連系線を通じたエリア外への電力輸送が、出力抑制の低減に大きく貢献できることがわかった。広域需給調整についての分析としては、インバランスネッティングの実施によって、余剰が発生するエリアから不足エリアへの送電により、太陽光の出力抑制の削減ができたと結論づけた。広域的な調整力運用もエリア内の調整力運用も太陽光の出力抑制の低減に貢献できるが、大きさを比べると、連系線の制約もあってエリア内の調整力がより多く運用されるので、出力抑制の低減にもより効果的という結果になった。

 風力の出力抑制については、揚水発電と、連系線を利用した電力輸送、そしてインバランスネッティングの実施によって、抑制量を抑えられると結論づけた。ただし、調整力運用の視点からみれば、エリア内の調整力運用はそのエリア内で発生した風力の出力抑制の低減には貢献できるが、広域的な調整力の運用による効果が見られなかった。この結果は、風力発電による余剰インバランスが発生する際、主に余剰が発生するエリア内での下げ調整を行うことで、出力抑制量を抑えられることを示している。また、風力の出力抑制が頻発する東日本エリアでは、広域的な調整運用がまだ効果的ではないということでもある。

 結論をまとめる。まず広域需給調整の導入は、需給調整の費用削減を目的としたが、今回の研究で再エネの出力抑制の低減にも貢献できることがわかった。太陽光と風力の出力抑制を別個にとらえ、太陽光設備の導入が進んでいる西日本エリアと風力の導入が進んでいる東日本エリアを分けた広域的な調整力機能の検討ができた。結果として、西日本ではより広域的な需給調整が行われることがわかり、一方で東日本で風力の導入を進める場合、調整力の広域的な運用も課題となることがわかった。また、出力抑制を削減するには揚水発電を始めた蓄電システムの運用拡大が極めて重要とわかった。出力抑制を減らす主な手法としては電力需要が大きい地域への送電となっているので、電力需要地と再エネ発電所が設置されている地域の連系線増強の効果が期待される。

モデレーター:諸富徹先生(京都大学)による質問②

 再エネが導入されていく中で、出力抑制が増えていく。これをどう減らしながら再エネを大量導入していくか。連係線への投資、あるいは東西の変換の増強といった、ハードへの投資は必要。他方で制度の変更にやれることがまだまだあるのではないか。

杜先生:

 連系線の空き容量を用いた広域的な送電がうまく機能すれば費用面でも好意的なものになる。

小宮山先生:

 DRを効率的に進めるにはエンドユーザー側で既に投資がなされている分散型資源・余力をうまく制御し、系統への投資を抑制するのが重要な方向性。
 またDRを推進するには、経済的なインセンティブを確保する制度設計が大事。卸料金と小売料金の連動は重要視している。