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No.233 旧電力会社の動向から読み解く需給逼迫の原因

2020年2月15日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:電力需給逼迫、システム価格高騰、旧一電、TSO間融通、電源停止・出力低下

 今次電力需給逼迫、卸市場価格高値張り付きは、電力料金引き上げ、新電力の経営危機が必至の状況となり、社会問題となっている。既に当コラムでもこれまで4回掲載しており、メディアもTVを含め連日のように取り上げている。1月下旬より漸く沈静化しているが、約1カ月に及ぶ過去に例をみない逼迫と高値張り付きが残した爪痕は大きく、要因検証と対策、制度変更が待たれるところである。今回は、旧電力会社(旧一電)の行動を公表情報から分析してみた。小売りの8割、相対を主に電力取引の7割を占める動向の分析抜きには真相究明は不可能である。

1.旧一電からみる今次需給逼迫動向

 本コラムでは、今次需給逼迫問題に関して、これまで4回掲載した(「No.227 再エネ短観(2021/1)電力市場整備がダブルネガティブ」「No.229 電力市場大混乱を生むハイブリッド規制」「No.231 エネルギーの安定供給に向けた重層的エネルギーインフラの必要性」「No.232 電力価格高騰が問う日本の電力市場の存在意義」)。本コラムでは、旧一電の市場動向に焦点を当てるが、No231の著者である村上正恵氏とのディスカッションに多くの示唆を受けている。

需給実態から乖離するシステム価格!

 まず、卸取引前日市場(スポット市場)の動きを振り返る。図1は、12月15日から2月5日までの30分毎システム価格の推移である。12月15日は、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)が「TSOに対する融通指示」を出した日である。TSO(Transmission System Operator一般送電事業者)間融通の指示発出は、かなり深刻な事態が生じていることを意味する。同日は4回計420万kWの融通が関西に向けて、北海道を除く全TSOより実施された。TSO間融通は終了宣言が出る1月16日までの間に218回出されるが、その第1回目である。振り返れば西日本で1ヶ月にわたり生じた大混乱の始まりであった。混乱は卸市場を経由して全国に伝播する。

図1 スポット市場 システム価格の推移 (2020/12/15~2021/2/5) 30分単位
図1 スポット市場 システム価格の推移 (2020/12/15~2021/2/5) 30分単位
(出所)電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格の動向等について(2/5/2021)

 12月16~18日で価格は50円/kWh前後まで上昇し、12月27日~1月5日は80円を窺う展開となる。この間、24日に市場への売りオファーが激減し、29日には本来出し手である旧電力会社(旧一電:旧一般電気事業者)は買い越しに転じる。1月6日以降は糸が切れたかのように上昇し、6日に100円、15日に最高値となる251円を記録する。17日にはインバランス料金単価上限として200円が設定され、沈静化が図られる。直後に大きく低下するが、直ぐに200ドルに張り付く展開となる。22日に需給曲線の公開とともに沈静化する。この間、16日にTSO融通終了宣言が出され、22日は旧一電の買い越しが終了する。沈静化の原因は需要曲線公開と旧一電買い越し解消とでどちらが有効だったのかの検証が必要である。

 以上がスポット価格の動向であるが、旧一電の動きと価格水準が一致していないことが分る。当初は需給情勢に比べて価格反応が遅れていたが、需給が収まる局面では高値が継続している。

売り手の旧一電が1カ月間買い手に回っていた!

 図2はスポット市場における売買入札量と約定量の推移を示しているが、12月24日から27日にかけて売りオファーが激減した。24日以降は売りと約定が一致し(完売し)、この異常な状況が1月21日迄続いた。売り手である旧一電に異変が起きたことが想定される。

図2 スポット市場の売買入札量・約定量の状況
図2 スポット市場の売買入札量・約定量の状況
(出所)電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格の動向等について(2/5/2021)に加筆

 図3は、旧一電のスポット市場売り入札量の推移である。赤字の下線は旧一電の買い入札を差し引いた「実質売り」であるが、12月29日から1月21日迄マイナス、即ち買い越し基調で推移している。卸市場への出し手である旧一電が買い手に回ったのである。

図3 旧電力会社のスポット市場売り入札量(2020/1~2021/2)
図3 旧電力会社のスポット市場売り入札量(2020/1~2021/2)
(出所)電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格の動向等について(2/5/2021)に加筆

 以下で、旧一電の供給力について、西日本に焦点を当てて見てみる。後述するが、広域機関が指示したTSO間融通は、基本的に中部および東日本から関西を主に西日本に向けて送電されている。

利用できる電源出力は急減していた

 まず、供給量の状況を見てみる。図4は12月1日から2月1日までの「電源の停止・出力低下」量の推移を示している。12月下旬から1月初頭にかけて急増しているが、これは稼働できる電源が実質急減したことを意味する。特にLNG火力が顕著であるが、主たる要因は燃料不足である。そこで、供給不足の最大の要因はLNG燃料不足であると解説される。燃料需要の予測を誤ったことが今回の最大の要因とも指摘されている。

図4 電源の停止・出力低下の状況
図4 電源の停止・出力低下の状況
(出所)電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格の動向等について(2/5/2021)

 しかし、LNG火力は、最近活躍していることは事実だが、調達の柔軟性や長期貯蔵に難のあるLNGに寄せすぎることは賢明ではない。石炭、石油は燃料の制約がより小さく、原発も稼働できれば燃料制約は小さい。今回のLNG制約は、他種電源がより稼動していれば顕在化しなかった可能性がある。

西日本は既に供給力に懸念があった

 表1は、今次需給逼迫・市場混乱の経緯について、供給対策・卸市場の情勢と西日本の供給動向を対比する形でまとめたものである。需給ひっ迫が厳しかったのは西日本である。西日本は原子力発電が再稼働している、石炭を含め比較的老朽化した火力発電設備が多い、冬季ピーク需要の先鋭化が東日本に比べて小さい等の特徴がある。この冬を迎えるに際し、既に厳しい状況にあった。関電は再稼働した原発4基が全て停止していた。四国は2020年1月に伊方3号機が司法判決により停止している。北陸は、2019年以降主力石炭火力設備のトラブルが継続していた。また、渇水の影響で北陸地方の水力発電の出力が低下したが、関電と北陸は影響が大きい。四国と北陸は、既にスポット市場から実質購入を行っていた。

表1 今次需給逼迫・市場混乱の経緯
表1 今次需給逼迫・市場混乱の経緯
(注)赤字は市場動向
(出所)各種情報より筆者作成

12月下旬に主力の原子力、石炭が停止

 前述のように、12月15日に関電を受け手とするTSO融通指示が出され、24日に売りオファーが激減する。この前後で、高浜3号機(原子力)の予定されていた稼働の延期が決まり(高浜4号機トラブルの影響)、電発橘湾1号機(石炭)の計画外停止が発生する。同機105万kWの引き取り先は関電70、四国30、中国30、九州5である。橘湾の影響については、日本卸電力取引所(JEPX)も言及している。29日に、旧一電は買い越しに転じるが、同日に九州松浦火力2号機(石炭)の出力低下が生じている。

旧一電の供給動向で説明可能だがシステム価格の反応は鈍い

 2021年入り後、1月3日に関電の御坊3号機(石油)、姫路第1の既設6号機(LNG)にトラブルが生じる。そして、6日に広域機関が「最大出力運転」を指示し、システム価格は100円となる。7日には電発松島1号機(石炭)が停止し、TSO間融通が20回と二桁に乗る。二桁は13日迄7日連続を記録するが、翌8日には最高の50回、同総出力量が3308万kWとピークを迎える(TSO間融通については表2参照)。さらに8日は、中部・関西連系線運用容量の拡大に踏み切るが、これも13日まで6日連続で実施される。そして15日に今回のシステム価格最高値となる251円を記録する。

 その翌日の16日に、TSO間融通の終結宣言が出され、事態は一気に収束に向かう。17日の関電大飯原発4号機(原子力)の稼働が効いたと考えられ、このタイミングでインバランス料金200円/kWhの上限が導入される。旧一電の市場買い越しは21日にまで続き、解消した22日に電力・ガス取引監視等委員会(電取委)が需給曲線の公開に踏み切り、システム価格も落ち着きを取り戻す。

 このように、電発を含む既存電力会社の供給力、特に石炭と原子力を巡る動向により多くが説明できると考えられる。一方、システム価格には必ずしも敏感に反映していない。価格反応は遅く、増幅して伝播しかつ長引いており、システム価格沈静には当局の情報公開を待つ必要があった。需給実態とシステム価格が乖離していた、システム価格の指標性が弱かったことが分る。

TSO融通指示にみる旧一電個社の逼迫動向

 次に、旧一電の個別の需給ひっ迫度合いを見ていく。表2は、広域機関が一般送配電事業者(TSO:Transmission System Operator)に対する融通指示の実績を示している。今回は12月15日から1月16日の1ヶ月で、18日、計218回発動した。特に1月7日から13日までの7日間は1日2桁を記録している。これほど多く長い期間発動するのは過去に例がない。「総融通量」は、発動した出力を単純に加算したものであり、実態を正確に示したものではないが、傾向は掴めると思われる。

表2 広域機関の一般送配電事業者に対する融通指示実績(12/15~1/16)
表2 広域機関の一般送配電事業者に対する融通指示実績(12/15~1/16)
(注)総融通量は複数回の場合は単純加算
(出所)電力広域的運営推進機関資料に加筆

影響の大きい原発、石炭の停止

 受電エリアは殆どが西日本であり、特に関西に94回と集中し、発動した殆どの日で受電している。中国も42回と多いが8日に集中している。総融通量は36,862万kWで、うち関西が51%を占めている。発動時間を考えると実際の割合はさらに大きいと考えられる。再稼働した原発9機は西日本に集中しているが、再び停止した旧一電は厳しい状況にある。四国は2020年1月から、関電は2020年11月から全機停止となっていた。石炭火力の計画外の停止・出力低下が及ぼす影響も大きい。概して西日本の火力は経過年数が長い。原発も石炭も一機あたりの出力が大きく、停止・出力低下の影響は売りオファーの減少に直に結びつき、システム価格にも影響を及ぼす(反応は緩やかだったが)。もちろんLNG火力への負担は大きくなるが、調達には時間がかかることから「燃料制約」を生むことになる。

原発非稼働で冬季に備えていた東日本が送電した

 一方、東日本と中部は「送電エリア」となった。いずれも原発は再稼働に至っていない。受電は北海道はゼロ、東北は1回(10万kW)と少なく、専ら送電を行った。冬季需要の多いエリアは設備や燃料の準備ができていたのである。やればできると言えるのではないか。東京は4日で計9回の受電となったが、販売シェアが落ちてきている東電小売りの需要予測が甘かったとの指摘がある。しかし後半は大量に送電した。日本最大のLNG保有を誇るJERAが供給する中部は、受電は初期の1回止まりで、西日本の会社として常に出し手として貢献した。

2.まとめと考察

 以上の状況を基に考察してみる。

スポット市場、新電力分析だけでは見え難い真実

 今回のこれまで例を見ない電力市場大混乱は、これまでスポット市場の動向や主たる利用者である新電力の窮状を基に、様々な要因分析が行われてきた。厳寒による需要増、太陽光発電の減少(実際は発電電力量は増加したとのデータがある)、燃料制約によるLNG火力発電の出力低下等により需給が極度に逼迫し、スポット価格は暴騰しそのまま張り付いた。超高値張り付きは、需給状況では説明が難しく、市場設計未整備も大きな原因との指摘も出てきている。市場未整備は筆者も強く思うところである(No.227 No.229)。

ブラックボックスの旧一電相対取引、TSO供給の解明が鍵

 本論では、電力取引の太宗を占める旧一電の動向をみてきたが、ここに焦点を当てるとより明確に需給動向が分る。旧一電は、販売電力量の8割、供給力の8割、電力取引量の7割を占める。発版一体の内部を中心に相対取引を主とし、余剰電力をスポット市場に供給している。スポット市場取引シェアは2016年当時は2%程度に過ぎなかったが、様々な政策措置で直近は4割まで上がってきた(現在は3割程度まで低下)。うち1~2割は旧一電内部取引の一部をスポット市場に通す「グロスビディング」により水増しされている。四国電力や北陸電力のように、主力電源の停止で純粋にスポット市場から調達する場合も出てきている。

 また、TSOが募集し提供する「調整力」もブラックボックスである。落札量の殆どは旧一電の電源であり、市場閉場後の提供も多くは旧一電向けと考えられる。募集される電源ⅠおよびⅠ’は供給量の約1割を占める。TSO間融通も従来の中央給電指令所間の緊急融通と似ている。自由化の中で需給情報を最も把握できる立場にあるのは、系統運用権限を有するTSOと広域機関である。情報開示が求められる。

翻弄されるスポット市場

 いずれにしても、旧一電自体の需給がひっ迫し市場に出す余裕がなくなる場合は、市場は大きな影響を受ける。「小さな池に水の流入を止められて大きいなクジラが入ってきた」ような感じではないか。池の小魚は一溜りもない。これは「市場支配力」そのものであるが、今の日本の現状である(放置されてきた)。旧一電がどの程度余力を持つかの情報と分析が非常に重要になる。今回は、旧一電の内部取引自体がひっ迫し、市場に出ない、逆に市場から調達していた。このような事態を誰が想定しただろうか。出し惜しみがあったのか否かは今後の調査を待つことになるが、218回にも及ぶTSO間融通指令、最大出力維持や連系線運用容量拡大指令の連発、1ヶ月にも及ぶスポット市場からの調達過多等から、戦略的に卸市場へのオファーを絞ったは思えない。なりふり構わず高価格ビッドを出した可能性はあるが、違反行動といえるのだろうか。

石炭のトラブル多発は電源ミックス政策に起因

 では、どうして旧一電とくに西日本は逼迫したのか。表1を改めてみると、原発や石炭火力の計画外の停止や出力低下の影響が大きい。トラブルが多くなっている。長引く原発停止の中で石炭を無理して稼働させてきたため疲労が増している、との指摘がある。筆者は、これは「電源ミックス政策」の失敗とみている。海外を見ても電源ミックスという言葉や目標は見当たらない。電源ミックスはエネルギ-基本計画の焦点となっている。計画であるような目安であるような曖昧な数字ではあるが、重い縛りとなっている。原発は現実の稼働に比べて高い数字である。再エネは様々な課題を並べられ低く抑えられてきた。

 火力は「残差」ではあるが6割を確保し、原発未達の分を取り込んできた。しかし、新規投資に踏み込むのに躊躇し既存設備の利用が増え、酷使する結果となっている。もちろんCO2排出の問題はあるが、排出削減のスケジュール明示等により将来の設備利用は見えてくる。東日本のように冬季ピークに対して備えていれば当面は凌げるだろう。将来ある再エネを、特に太陽光と補完関係にある風力を増やしていれば情勢は大きく変わっていたと考えられる。大規模電源に依存するリスクが顕在化したと言える。表1はそれを物語っている。

旧一電相対取引のインバランス価格はどうなっている

 また、大きな疑問がある。今回、西日本を主に旧一電(の小売り)は、TSO調整力に多くを委ねた。TSO間融通により日本中の調整力に依存した。これはインバランス料金支払いが発生するはずであるが、新電力が直面しているインバランス料金単価と同一なのであろうか。それとも別ルールなのであろうか。仮に低単価だとしら市場を利用する新電力と比較して極めて不公平である。一方、同一だとしたら、例えば関西電力送配電㈱は巨額の利益を得ることになるのだろうか。関西は全国から調整力を受電している。

緊急時で露呈した既存システムの存在感

 東日本大震災から10年、全面小売り自由化から5年経過し、新電力のシエアは2割まで上がり、卸取引市場利用シェアは3割程度前上がった。しかし、7割は旧一電を主とする相対取引が占めており、電源の8割は既存事業者が保有している。厳しい需給ひっ迫が生じたときに調整力を発揮したのは、システムプライスではなく、TSO間融通という形を取った既存システムであった。逼迫が生じそうなときは、燃料を含む既存大規模電源の情報が最も価値があるが、それはTSO調整力の運用とともに、他者にとりブラックボックスである。

 卸市場の価格シグナルは旧一電の見えない動向とTSOの見えない調整システムそして市場の不備により翻弄され、新電力はなす術もなく右往左往した、ということではないか。意図はないとしても、巨大な市場支配力そのものが卸市場を大きく歪めている、ということである。これまでも指摘されてきたが、卸取引市場が主役となるように抜本的な改革が不可欠である。そうでないと、再び混乱が生じる。

 今回は、市場目線ではなく、旧システムの目線で分析してみたが、説得力があるように感じる。市場機能で説明できるような制度を早期に構築する必要がある。