Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.162 再エネプレミアム制度(FIP)その4 -日本は再エネ拡大のためにFIPとどう向かい合うか-

No.162 再エネプレミアム制度(FIP) その4
-日本は再エネ拡大のためにFIPとどう向かい合うか-

2019年12月19日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 現在日本では、FIT見直しの議論が進められている。これまで3回にわたり、再エネFIP制度について、ドイツの経験を踏まえて解説してきた。第1、2回はドイツの10年間に及ぶ移行期の経験を解説し、第3回は日本の検討状況とドイツとの比較をサーベイした(「再エネプレミアム制度(FIP)とは何かその3」)。この第3回掲載時である12月12日に、再エネ主力電源化制度改革小委員会の中間取りまとめ(案)が提示され、FIPの方向性が示されている。今回は、日独の比較をより詳しく解説し、日本の現状を踏まえたあるべき制度設計について考察する。なお、政府案に関する考察は、やはり本日付けで掲載している(「再エネプレミアム制度(FIP)その5 -政府FIP案解説、「地域活用電源FIT」という虚構-」)。

1.日本で検討されるFIP:固定型、変動型の中間

 資料1は、第2回再エネ主力電源化小委員会(10月15日)にて提示されたFIP制度の概要を示す図である。FIP適用の下では、再エネ事業者は市場価格にて販売するが、適正利潤が見込まれる政策価格と市場価格の差(プレミアム)を補填する仕組みを用意する。すなわち、再エネ事業者の収入は、販売価格とプレミアム価格により確保される。この図では、政策価格は「基準価格(FIP価格)」、市場に販売される価格は「参照価格」となっている。

資料1.FIP制度の概要
資料1.FIP制度の概要
(出所)資源エネルギ-庁 再生可能エネルギ-視力電源化制度設計小委員会(10/15/2019)

 参照価格は、時々刻々変動する市場価格に係るある一定期間の平均値であり、この期間のプレミアム水準はこの参照価格と基準価格の差として固定される。即ちそのプレミアム水準は当該期間の市場価格に上乗せされることから、長期的に想定した基準価格を上回ることもあるし下回ることもある。即ち再エネ事業者の受け取る収入が市場に応じて変動することを意味する。長期的には各期間の参照価格は基準価格に収斂すると考えられる。しかし、この図から分かるように、一定期間の平均値を参考価格とすると常に変動にさらされる。数年間基準価格を下回り続けることもありうる。もちろん、期間を30分と市場取引単位とすれば常に基準価格を確保できる純粋「変動型FIP」となる。逆に期間を1年等に長くとると事業者から価格変動にさらされる「固定型FIP」のように見えるであろう。

 市場統合の視点からは固定型が望ましいが、再エネ事業者や投資家がリスクを意識して開発に二の足を踏むようでは目標未達となる。従って、この期間をどう設定するかが肝になる。ドイツはこれを1カ月とした。固定型を一部取り入れ、価格変化を意識するように工夫したということであろう。この図から、日本はドイツを参考にしていると言えよう。筆者は、この期間は再エネの成熟度を勘案して設定すべきと考える。市場取引経験のない事業者にとり、1カ月の変動リスクプレッシャーは大きいと考えられる。再エネ普及率を物差しとすると、ドイツよりも短くすべきである。

2.ドイツと比較したときの日本の特徴

 ドイツとの比較では、市場統合や入札を導入するほどに成熟しているようには見えない。資料2は、FIT、FIP制度整備に係る情報について、日本とドイツを比較した表である。

資料2.FIT・FIP制度整備に係る日独比較表
資料2.FIT・FIP制度整備に係る日独比較表
(出所)各種資料より筆者作成

 「買取支援等制度」として「FIT」、「FIP」そして性格は少し異なるが「入札」を取り上げ、導入時期とFIT導入時を起点とした年数「経過年」、その時点での「再エネ比率」(除く水力)をプロットしている。日本のFIPについては、FIT見直し期限後の2021年に導入されるものとしている。また、FIT等の支援策に加えて系統運用・接続、市場整備・革新について現状を比較している。これは「電力システム改革」そのものであり、再エネを含む新規参入や新技術推進にとり非常に重要な要素になる。

 一見して気が付くのは、導入時期の再エネ比率が日本はかなり低いことである。また、FIPより前に入札を導入しており、市場取引の経験を積む前に競争環境の下に置かれている。以下で、4項目にわたり日本の特徴を解説する。

(1).再エネの成熟度合に大きな差

 FIT創設はドイツは2000年であり、日本は13年遅れの2012年である。日本は2004年にRPS(Renewables Portfolio Standard)を創設したが、これは「再エネを普及させない」制度とも言われ、実際にあまり開発が進まなかった。FIT創設時の再エネ率は3%に過ぎない(除く水力)。ドイツで市場統合策としてFIPが導入されたのは、FIT導入13年後の2012年であり、FITとの選択制とされた。この年の再エネ比率は20%である。日本はまさに現在議論中であるが、FIT見直し期限翌年である2021年のFIP導入が予想される。この時点はFIT導入後9年目であるが、再エネ比率はドイツよりも大きく見劣りする。直近の2018年は9%であり、基本計画が目標とする2030年で13~15%である。

 なお、ドイツでは適用範囲は100kW以上と小規模事業も対象としており、市場統合が重視されていることが分る。これは小規模事業を集約するシステムが整備され、集約サービスを本業とする「ダイレクトマーケッター」(再エネアグリゲーター)が活躍しうる環境にあることが背景にある。日本はこの点においても大きく見劣りする。発電バランシンググループの幹事会社がこれと似てい入るが、あくまで発電事業者の代表であり、専業とは異なる。日本では法的な位置づけもまだされていない。

(2).入札制度の早期導入

 異彩を放つのが入札制度である。ドイツ等欧州では、入札はFIP等市場統合措置の後に導入されるが、日本ではFIT導入後比較的短期間で、そしてFIPのかなり前に導入されている。ドイツでは、2015年に土地置き太陽光に実証的に導入され、2017年に原則となった。それぞれ16年、18年目で再エネ比率は23%、30%である。日本は、2017年に2000kW以上の太陽光に適用されたが、5年目で8%である。これを皮切りに、2018年には輸入バイオマス(1万kW以上の一般材および液体燃料)、2019年には太陽光の適用規模が500kW以上に引き下げられた。太陽光は、2020年にも100kW以上に引き下げられる方向が示されている。太陽光入札については、既にドイツと遜色のないレベルと言える。

【入札の狙いはコスト削減と量的コントロール、FIT制度は変質】

 太陽光と輸入バイオマスはFIT認定量が爆発的に急増し、FIT賦課金の額も急増したことへの対応と考えられる。文字通り想定外の出来事であった(ドイツ等の経験があったのだが、政府の対応は遅れた)。特に太陽光はバブルとも言われ「国民負担」増大の主要因となった。競争政策というよりも国民負担を抑えるために緊急的に入札制度を導入した面がある。入札制度は競争により価格低下の効果も期待できるが、実施に際して枠を設けることから量的なコントロールが可能となる。この時点で、量的制約は存在しないが、買取価格水準を変えることで数量を誘導する、コスト低下に見合う形でFIT価格を迅速に引き下げる、というFITの本質が大きく変わったことになる。

 なお、入札制度は、ある程度普及しサプライチェーンが整っている、事業者のリスクを軽減する措置とセットになっている等の状況下にて効果が生じる、との指摘がある。

【煽りを受ける風力発電】

 日本の風力は、世界の常識から大きく外れて、導入が進んでいない。節目節目で普及を妨げるようなルール設定があったからだ。直近ではFIT導入時に環境アセスが法的に課され、普及促進期間とされた当初3年間はアセスへの注力を余儀なくされ、FIT認定を取得できなかった。4年経過後に漸く認定案件が出始めるが、その時は送電線容量が不足していた。そして「競争電源」という括りの中で、入札の対象になろうとしている。

 沖合に展開する洋上風力は、多くの新技術を要し、実績はなくサプライチェーンも新たに構築しなければならない。一般海域での洋上風力は「洋上新法」にて入札による事業者選定となっている。洋上の買取価格は精査の結果36円に設定されているが、この水準では賦課金負担が大きくなるとして、入札ありきとなった。風力の関係者からは「太陽光バブルの巻き添えとなった」との恨み節も聞こえる。

(3).市場統合に向けての準備不足

【系統運用・接続に課題】

 このシリーズで繰り返し述べてきたように、FIP導入の狙いは再エネ電源の市場統合である。再エネの成熟化・主力化に合わせて、市場メカニズムと親和的になっていく必要がある。その前提として、市場が整備されていること、インフラである送電線運用が中立あるいは再エネフレンドリーになっていることが挙げられる。

 系統運用・接続については、ドイツは(再エネ)優先接続・給電ルールがあり、増強および負担義務は送電会社にある(一般負担)。日本では先着優先の考え方が残っており、優先給電も原子力等ベース電源なるものに劣後する。また、送配電増強義務はなく特定負担が残っている。このように系統運用・接続の現行ルールは遅れてきた再エネ開発にとり大きな制約となっている。

【当日市場革新はこれから】

 直接販売・FIP制度の下では、再エネ事業者自身で販売し、需給管理を行うことになるが、その際に肝となるのが自ら取引に参加できる卸取引市場の整備・革新である。まずは、卸取引の基礎となる前日市場の流動性や厚みを増すことである。前日市場取引のシェアは電力需要の3割適度まで上がってきているが、この努力は多とするが、政策的要因があり少数事業者による市場支配力の懸念が残るとの指摘がある。そして前日市場で約定される時間帯毎の販売量(スケジュール)を調整する当日市場の整備が極めて重要になる。当日取引の活性化・革新が不可欠となる。日本ではこれがまだ不十分だ。

 ドイツでは当日市場取引の活性化・革新を、再エネ市場統合に合わせる形で着実に進めてきた。天候に左右される再エネは、取引期間が短くなるほどに、また市場終了時間が実需給に近づくほどに予想が外れなくなる。当日市場は、30分商品に加えて15分商品がある。15分商品には小規模参加者向けの入札も整備されている。市場終了時間(Gate-Close)は、実需給時の30分前までと近くなったが、送電会社TSO受取で5分前も開発された。北欧の電力取引所ノルドプールがドイツ市場用に開発したTSO受取は1秒前である。ここまでくるとGate-Close後の調整用に募集する送電会社の需給調整市場との差が小さくなっている。日本では送電会社が運用予備力を集める需給調整市場は2021年に創設される。ここでは、再エネは応募しにくい設計となる見込みであり、調整力のある既存設備に有利である。

 十分な再エネ等分散資源の普及、系統運用、市場取引の整備なしには、FIP実働のカギを握る存在であるダイレクトマーケッター(再エネアグリゲーター)が活躍するのは難しい。

【再エネ・ダイレクトマーケッターの登場もこれから】

 このように、「再エネの市場統合」と「市場取引の革新」は同時に相乗効果のある形で実行に移される必要がある。これにより再エネ事業者や小売事業者の取引をまとめるダイレクトマーケッター(アグリゲーター)が成長し、天候予想や需給調整のノウハウを磨くようになる。現実にドイツではVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)等の新規ビジネスが発達してきている。このようなサービスプロバイダーは、最近日本にも進出しつつある。

 日本は、電力取引市場はまだ整備途上であり、かなり見劣りする。再エネの集約についても、FIT電源については送電会社に買取義務があり、発電予想からインバランス調整まで責任を負っている状況の中で、再エネ取りまとめを行う事業者はまだ育っていない。環境整備を急ぐべきというしかない。

(4).政府による量的調整手段は是か非か

再エネ普及の制約として、送電線容量不足と卸取引市場の整備不足があるが、加えて「政府の意思」が挙げられる。政府の意思はもちろん最大の推進力になりうるものでもあるが、期待できるのか心もとない。早期に導入した再エネ入札制により太陽光は量的コントロール下に置かれつつある。奇跡的に導入が進まない風力は、太陽光と似ているという理由でこのコントロール下に入ろうとしている。FIP移行により市場統合を進める、すなわち市場メカニズムにより再エネ自身で量的調整が行うのが正当な手順であるが、その前に政府の意思による量的調整が導入されていると言える。加えて太陽光対策で垣間見える遡及的とも言えるルール変更は、投融資機関のやる気を削ぐ懸念がある(No158「国内洋上風力発電市場及び事業者に対して金融投資家は何ができるのか?」)。

 繰り返しになるが、再エネ市場統合スケジュールの基本は、再エネの成熟度合にある。ドイツとの比較で分かるように、少なくとも太陽光以外は成熟しているとは言えない。ドイツの場合は、入札導入時は再エネ比率が2~3割になっていた、2050年8割を目指す長期目標が法定されている、計画を大きく超える普及で賦課金負担が重くなり送電線整備が追い付かなくなったこと等から、上振れリスクを調整する必要があった。そしてEU競争総局からの指令に従う必要があったが、これは文字通りEU全体として競争的な制度であるべきという趣旨であった。

3.現状総括とFIP創設への提案

 以上、資料2に基づいて、ドイツと比較する形で日本の現状をみてきた。それに基づき以下のように整理し、また提言する。

・日本は、太陽光以外は、成熟しつつあるとは言えない。太陽光以外の市場統合は時期尚早であり、FIPの導入は慎重に検討されるべきである。
・FIP導入が既定路線となっている場合は、投資予見性確保の観点から、然るべき手順を踏むべきである。
・適正利潤の確保が比較的容易な「変動型」とする。固定型の要素を入れるにしても、市場価格平均値(参照価格)の基礎となる期間は短くする。ドイツは1カ月であるが、ドイツとの再エネ普及度の差を期間設定に反映する。
・市場取引コストをカバーする「マネジメントプレミアム」、価格変動による調整を支援する「フレキシビリティプレミアム」を導入する。
・市場取引が未整備の状況下での「再エネ市場統合」は、本質的に矛盾を孕んでいる。両者の進行は整合性を確認しながら進める。
・前項とほぼ同義になるが、市場統合を円滑に進めるためにはダイレクトマーケッターの育成が不可欠であり、この成長に合わせてFIPを拡大する工夫を施す。
・市場統合を進めようとする一方で、量的に政府がコントロールできる入札制が先行導入され、競争電源には原則適用されようとしている。この方針を改めて、「市場統合の成果を確認しつつ入札制度へ移行」とすべき。そのために工程表を作成する。
・入札制度普及が既定路線だとしたら、「再エネ主力化」のための確実な手段として運用すべき。そのためには、ドイツ等EU諸国や米国の先進州のように明確で大規模な目標を設定し、量的な予見性を示すべき。
・以上のように、再エネ電源の市場統合は普及状況・成熟度、取引市場の整備状況、ダイレクトマーケッター(アグリゲーター)の成長度合い、系統計画等と整合性を取りながら進めるべき大きな課題である。国が本気で再エネ主力化を推進するのであれば、第6次エネルギ-基本計画の議論の中で位置づけられることが本来望ましい。

終わりに

 再エネは国産・地域産エネルギ-である、CO2を出さない、民間投資の活用により最も安い電源になる等の便益があり、世界で政策的に推進されてきた。新しい技術で幼稚産業であり、FIT等の支援で開発に専念する環境を整えることで予想を超える成長を見てきた。市場シェアが高まり成熟化するにつれて、需給状況に合わせて発電を調整する等の市場統合が求められるようになる。この手段として直接販売・FIPが導入されてきている。

 日本では、再エネは成熟化しつつあるのか、そもそも統合するはずの市場は整備されているのか、需給調整の担い手であるダイレクトマーケッターは存在するのか、入札制の先行整備により官の統制に向かってはいないか、遡及的な制度改正実施により市場資金供給者である投融資家に警戒されていないか等の疑問・論点が山積しているように思える。

 FIT見直しの政府案提示は、年内にもなされる。冒頭に記したように12月12日に最初の案が委員会に・提示された。FIPは風力を含む「競争電源」に導入され、FIP価格は入札で決まる方向が示された。FIP価格、参照価格等の主要な設計案についての提示がないままに方向性が決まりつつある。これらは、基本的に調達価格等算定委員会の議論に委ねられる。次回は、この政府案を解説する。

(キーワード) 再エネ市場統合、FIP、ドイツ、入札制、卸市場革新